株式会社でも民法?

※法人のお客様の新規ご相談は現在受付けておりません。予めご了承ください。

株式会社でも民法?

 「うちは株式会社なんだから一番関係が深い法律は会社法」そう思ってはいませんか?
確かに,株式会社は,会社法の適用を受けます。しかし,会社法が主に規定しているのは,会社の存否,株式,機関に関する規定が大半です。これは,会社法が所有と経営が分離した大企業を想定しているからです。しかし,中小企業やベンチャー企業は,事業規模も大きくなく,所有と経営が分離していないため,そもそも所有者と経営者の利害を調整する必要はありません。もちろん中小企業・ベンチャー企業でも関係が深い規定もありますが,例えば,計算書類は税理士さんに依頼してしまう場合が多いでしょうし,資金調達も金融機関からの間接金融が中心です。会社法は,中小企業やベンチャー企業が日々の業務の中で発生する問題とは実はそれほど関係が深い訳ではないのです。中小企業やベンチャー企業で法律問題が発生するのは,会社内部の関係よりも主に顧客,仕入先,融資先,従業員のような外部との関係です。外部との関係を一般的に規定しているのは会社法ではなく民法なのです。

ページトップへ

目に見えない権利だからトラブルの元になりやすい

 しかも,トラブルの多くは民法に定められた債権という権利についての争いです。債権とは契約(約束)によって発生する特定の人に対する請求権をいい,売掛債権,手形債権,貸付債権,労働債権,保証債権など実に多くの債権が会社の事業活動によって日々発生しています。契約は契約書を作成しなくても成立しますので,債権は口頭の契約でも発生します。実際に多くの会社が契約書を作成せずに日々の取引を行っていたりします。しかし,これは非常に危険です。なぜなら,厄介なことにこの債権という権利は目には見えません。そのため,債権の存否・内容を巡って後日当事者間で争いが起こるケースがとても多いのです。実際訴訟の大半は,債権の存否・内容が争いとなるケースなのです。

ページトップへ

債権について起こったトラブル事例

 板金業を営む中堅企業 A社は,複数の大企業を相手に安定した受注をもらっていたため,この不況においても業績は堅調でした。A社では,これまでの板金のノウハウにICチップの新規技術を併せて新しい自社製品の開発を計画していましたが,検討の結果,ICチップ技術は,高度に専門化しているため,A社単独で製品を開発するのは困難であり,そのような技術を持った会社と共同で開発すべきだとの結論に至りました。

 早速A社は,コンサルタントを依頼し,ICチップについて高い技術を有するC社を紹介してもらいました。両社で商談を重ねた結果,共同で新規製品の開発を行うこととなりました。その際の契約内容は,「製品の開発費用は各々半分ずつ負担し,完成した製品の販売益も半分とする」というものでした。両社は,これまでお互い知らない会社だったので簡単な契約書を作成しました。

 ところが,製品開発が開始してから約2年がたった頃, B社はA社に対して「現在当社の業績が悪化しているため,新規開発にこれ以上の費用をかけることができない。製品が完成したときの販売益は,半分ではなく当社がこれまで投資した開発費用の割合で構わないから,今後の開発費用はすべて御社で負担して欲しい」と言ってきたのです。A社としては,製品が完成するまでには1年以上かかることが予想されたため,B社の突然の申し入れには到底納得できませんでしたが,ここで止めてしまっては今までの開発費用がすべて無駄になると思い,仕方なくB社の依頼を受け入れ,残りは自社で開発しました。

 約1年後製品は無事完成し,多額の費用をかけて開発したこともあって,製品の販売は好調でした。ところが,その後B社から意外な請求を受けたのです。「この製品は,共同開発したのだから,販売益の3分の1ではなく,半分が当社のものである。このとおり契約書もある。差額の1億円を至急支払って欲しい。」・・・そうです。A社はB社の申し入れによる新たな条件変更の契約書を作成していなかったため,当初の契約書を持っていたB社は,これを悪用して半分の取り分をA社に請求してきたのです。

 B社はその後訴訟を起こしてA社に1億円の請求をしてきました。A社はなんとかB社の申し入れにより取り分が変更されたことを裁判で証明しようとしましたが,こちらの契約書はなく,むしろB社の主張を裏付ける契約書が存在するため,訴訟ではA社が圧倒的に不利な状況でした。結局,A社は相当不利な条件でB社と和解せざるを得ませんでした。

 しかし紛争はそれだけでは終わりませんでした。販売益の計算方法が明確でなかったために,その算出方法を巡って再度B社と争いになったのです。しかも,製品の開発に携わっていたB社の従業員CがD社に転職し,D社が類似の製品を発売してしまったのです。D社とは現在交渉中ですが,B社はこの問題について一切責任を負わないといっています。紛争は長期化の様相を見せています。

 このケースでは,変更後の契約書を作成していれば,A社は勝訴できました。また,計算方法をしっかり定めていれば,算出方法について争いも生じなかったはずですし,従業員への守秘義務をB社に負担させておけば,Cの行為についてもB社に責任追及が可能でした。そもそも,どちらかが開発費用を払えなくなった場合の条件を決めておけば(例えば,他方がこれまでの開発経費を負担することで,一切の権利を取得するなど),紛争は起こらなかったのです。

ページトップへ

契約書の作成は目に見えない権利を明らかにする唯一の方法

 債権を目に見える状態にする唯一の方法は,債権の内容を文書にすることです。誰が,誰に対して,いつ,何処で,どのような請求を,どのような条件によって,行うことができるのかを文書によって明らかにしておくのです。この文書が契約書です。

 契約書を作成していなければ,債権の内容がどのようなものであるかを確認することができず,下手をすれば,債権が発生していること自体を否定されかねません。訴訟になった場合,債権の存在・内容を請求する側が証明する必要があり,これができなければ敗訴となります。事業活動で日々発生する債権を契約書によって明確にしておくことは,会社の利益を守るために非常に重要なことなのです。また,契約の内容を事前に詰めることにより,グレーゾーンが無くなり,これによって今後の紛争が未然に防止できるという機能も非常に大きいものです。

ページトップへ