「タイムカードを打刻した後も残業を強いられている。せめて残業代くらいはほしい……。
でもタイムカードを打刻してしまっているから、その後の分の残業代請求は無理かな」
実は、 タイムカード打刻後のサービス残業代も請求することができます。
タイムカード打刻後のサービス残業代請求で重要なのは、実際の労働時間を示す客観的な証拠です。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- サービス残業が違法な理由
- タイムカード打刻後にサービス残業をさせられるケース
- タイムカード打刻後のサービス残業代請求で知っておくべきこと
- タイムカード打刻後のサービス残業代請求を弁護士に依頼するメリット
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
サービス残業は違法!その理由と科せられる制裁
「サービス残業」とは、その名の通りサービスで行われる、会社が残業代を支払ってくれない残業のことです。
サービス残業は、労働基準法のルールに違反して違法です。
サービス残業を強いると、会社に対して刑事罰が科せられることもあります。
(1)サービス残業が違法となる理由
労働基準法37条1項により、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えた残業(時間外労働)をした場合には、会社は必ず残業代(割増賃金)を支払わなければなりません。
サービス残業は、このルールに違反しているため、違法となります。
(2)サービス残業に対する制裁
会社が労働基準法のルールに違反して残業代を支払わない場合には、会社に対して6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることがあります(労働基準法119条1号)。
また、労働基準監督署に相談・申告するなどして、労働基準監督署がサービス残業の事実を知ると、会社に対して調査が入ったり是正勧告が出されることもあります。
さらに、後で詳しくご説明するように、 会社がサービス残業によって支払っていない残業代について、労働者は未払い残業代請求をすることができます。
タイムカード打刻前後にサービス残業させられるケース
タイムカードの打刻前後にサービス残業をさせられるケースには、次のようなものがあります。
- タイムカード打刻後の残業を指示される
- タイムカード打刻前に掃除・朝礼・着替えをさせられる
これらについてご説明します。
(1)タイムカード打刻後の残業を指示される
典型的な例が、タイムカード打刻後も引き続き残業するように指示されるケースです。
形式的には定時を超えて残業することを禁止として、定時に打刻することを強制するケースもあります。
このケースでは、残業の禁止は形式的なものであり、実質的には定時を超えて引き続き残業をさせるため、結果としてサービス残業になります。
形式的とはいえ会社は残業を禁止していたから、定時にタイムカードを打刻した後の分の残業代を請求することはできないのかな?
形式的には残業を禁止していても、会社が労働者の残業を知って黙認していた場合には、会社が暗黙のうちに残業の指示を出していたと認められて残業代請求できることがあります。
(2)タイムカード打刻前に掃除・朝礼・着替えをさせられる
タイムカード打刻前(始業前)に掃除・朝礼・着替えをさせるケースがあります。
始業前の掃除なども、「業務の一環」として行っていた場合には、労働時間とみなされる場合があります。
また、朝礼については、会社が労働者の参加を義務としている場合には、基本的には労働時間とみなされます。
着替えは、飲食店やホテル、病院など、会社全体で制服が統一されており、指定の制服で業務することが義務とされている場合には、労働時間とみなされる場合があります。
これらの掃除・朝礼・着替えをタイムカード打刻前に行っている場合には、気づかないうちにサービス残業をしている可能性があります。
うちの会社は、労働時間が30分単位・端数切捨てで計算されるけど、掃除や着替えは10分くらいで終わってしまうから、結局残業代は発生しないかな。
労働時間は1分単位で計算しなければならないため、その場合でも残業代は発生します。
少しの時間でも毎日積み重なればそれなりのものになりますよ。
労働時間が1分単位で計算されることについて、詳しくはこちらをご覧ください。
タイムカード打刻後のサービス残業代請求で知っておくべきこと
ここまで、タイムカード打刻後のサービス残業が違法だということをご説明してきました。
しかし、労働者にとって一番大切なのは違法かどうかよりも「残業代請求ができるのかどうか」ですよね。
タイムカード打刻後のサービス残業代請求で知っておくべきことには、次のものがあります。
- タイムカード打刻後のサービス残業代請求はできる
- 実際の労働時間を示す客観的な証拠が重要
これらについてご説明します。
(1)タイムカード打刻後のサービス残業代請求はできる
タイムカードが打刻されている以上は、その後のサービス残業分の残業代請求はできないんじゃないの……?
諦めないでください!
タイムカードの記載にかかわらず、残業代を請求することはできます!
タイムカードは、たしかにいつからいつまで働いていたのか、残業時間はどれくらいであったかを示す重要なものです。
タイムカードが打刻されていれば、その後のサービス残業の残業代を請求することは、タイムカードが正確に打刻されている場合と比べて難しくなることは事実です。
しかし、タイムカードの記載は絶対というわけではありません。
他の証拠によって実際の労働時間を証明することができれば、残業代を請求することは可能です。
(2)実際の労働時間を証明する客観的な証拠が重要
実際の労働時間を証明するためには、客観的な証拠が重要です。
タイムカード以外にも、労働時間を証明するための客観的な証拠はあります。
具体的には、次のようなものです。
- オフィスビルへの入退館記録
- 業務用パソコンのログイン・ログアウト記録
- 業務上のメールの送信時刻
- シフト表
- 出退勤時刻を正確に記録したメモやLINEなどのメッセージ
- スマートフォンのGPS機能付き打刻アプリ
(2-1)オフィスビルへの入退館記録
通常は、仕事を始める少し前に会社のオフィスに入り、仕事が終わればすぐにオフィスから出ます。
このため、会社のオフィスへの入退館記録が分かれば、いつ働いていたのかを推測することができます。
もしも、毎日決まった時刻に打刻しているのにオフィスからの退館がそれより何時間も後だという退館記録があれば、実は退館記録の時刻ごろまで残業していたのではないかと推測できます。
(2-2)業務用パソコンのログイン・ログアウト記録
ログイン・ログアウト記録を見れば、会社のパソコンをいつからいつまで使っていたのかが分かります。
通常は、仕事を始める時に業務用パソコンにログインし、仕事が終わればログアウトします。
このため、タイムカードの打刻よりも後にログアウト記録があれば、実はログアウト記録の時刻ごろまで残業していたのではないかと推測できます。
(2-3)業務上のメールの送信時刻
業務上のメールの送信時刻を見れば、少なくともその時間に業務をしていたことが分かります。
もしもタイムカード打刻後に業務上のメールの送信時刻があれば、少なくともその時刻までは残業をしていたのではないかと推測できます。
(2-4)シフト表
シフト制で働いている方の場合には、シフト表もひとつの有効な証拠です。
通常は、実際の労働時間に合わせてシフト表が作られるものです。
もしもシフト表の労働時間とタイムカードの打刻が大きくずれていれば、シフト表のほうが労働時間として正しいのではないかと推測することができます。
(2-5)出退勤時刻を正確に記録したメモやLINEなどのメッセージ
出退勤時刻を正確に記録したメモや「いま退勤した」などの記載があるLINEなどのメッセージも、証拠とすることができます。
特に、毎日欠かさず正確に記録していたりほかの証拠と矛盾しない内容のメモなどであれば、実際にその時間に働いていたと推測されやすくなります。
もっとも、これらは他の客観的な証拠と比べて「信用できない」と判断されやすいことが弱点です。
他の客観的な証拠と組み合わせたときには、信用性が増して有効になりやすいです。
(2-6)スマートフォンのGPS機能付き打刻アプリ
スマートフォンのGPS機能付き打刻アプリも、活用できる有効な証拠のひとつです。
GPSでいつ会社にいたのかを客観的に記録することができるため、その時間まで会社にいて残業していたと推測することができます。
スマートフォンのGPS機能付き打刻アプリは、他の証拠と組み合わせて使うことで他の証拠の信用性を高めることができ、有効です。
タイムカード打刻後のサービス残業代請求は弁護士への相談がおすすめ
タイムカード打刻後のサービス残業代請求は、自分ですることもできます。
しかし、タイムカードという有力な証拠を他の証拠でくつがえす必要があることから、単に残業代を請求するのよりも難しいという側面もあります。
このため、できればこのような問題を取り扱っている弁護士に相談・依頼することがおすすめです。
タイムカード打刻後のサービス残業代請求を弁護士に相談・依頼するメリットには、次のようなものがあります。
- 証拠についてアドバイスしてくれたり開示請求をしてくれる
- 残業代計算や会社との交渉を代わりに行ってくれる
- 裁判にも対応してくれる
(1)証拠についてアドバイスしてくれたり開示請求をしてくれる
タイムカードの打刻があるため、それよりも後に残業をしていたということを証明するためには、先ほどご説明したような客観的な証拠を集めることがなにより重要です。
弁護士に相談・依頼すれば、どのような証拠が有効かをアドバイスしてくれます。
また、有効な証拠には、労働者の手元にはなく会社にしかないというものも少なくありません。
会社にしかない証拠については、弁護士が会社に対して開示請求をすることで、会社が任意に開示してくれるということも多くあります。
(2)残業代計算や会社との交渉を代わりに行ってくれる
残業代を請求するためには正確な残業代計算を行う必要があります。
残業代計算は複雑なため、自分で行うのは大変です。
弁護士に相談・依頼すれば、複雑な残業代計算を代わりに行ってくれます。
また、弁護士は会社との交渉を代わりに行ってくれます。
ご自身で会社と直接交渉するとなると、ストレスが大きいものです。
弁護士が代わりに交渉を行ってくれることで、このストレスを軽減することができます。
(3)裁判にも対応してくれる
タイムカードという客観的な証拠がある以上、タイムカード打刻後にサービス残業をしていたと主張して残業代を請求しても、会社はすんなりと応じてくれない可能性があります。
このような場合、労働審判や訴訟といった裁判手続きによって残業代を請求するという方法を取る必要が出てくることもあります。
労働審判や訴訟は、ご自身で行うことも可能です。
しかし、裁判を得意とする弁護士に任せることで、裁判手続きに対応する負担が軽減されます。
【まとめ】タイムカード打刻後のサービス残業代は他の客観的な証拠により請求できる
この記事のまとめは次のとおりです。
- 「サービス残業」とは、その名の通りサービスで行われる、会社が残業代を支払ってくれない残業のこと。
サービス残業は労働基準法に違反して違法であり、会社に対して刑事罰が科されることもある。 - タイムカードの打刻前後にサービス残業をさせられるケースには、タイムカード打刻後の残業を指示されるケースや、タイムカード打刻前に掃除・朝礼・着替えをさせられるケースなどがある。
- タイムカード打刻後のサービス残業代請求はできるが、実際の労働時間を証明する客観的な証拠が重要。
- タイムカード打刻後のサービス残業代請求は、タイムカードの記載を他の証拠でくつがえす必要があるため、このような問題を取り扱っている弁護士への相談がおすすめ。
タイムカード打刻後にサービス残業を強いられるのは、納得できないものですよね。
残業をしたのだからその分残業代をもらうのは当然のことです。
もしかすると、残業代をもらえるはずと分かっていても、タイムカードの打刻があるからと諦めていたかもしれません。
しかし、他の証拠をうまく使うことで、残業代請求が可能です。
このことが分かれば、残業代請求への希望が持てますよね。
未払い残業代を取り戻す方法について、詳しくはこちらをご覧ください。