建設現場で働いていた労働者らがアスベスト(石綿)を吸い込んだことにより中皮腫や肺がんになったとして国やメーカーに対して損害賠償を求め訴訟(京都訴訟)が行われていましたが、2021年1月28日、最高裁判所への上告が退けられ、国とメーカーの賠償責任を認めた高等裁判所の判決が確定しました。
これまでは国に対して賠償責任を認めた判決は1件ありましたが、市場シェアを理由としてメーカーの賠償責任も認める判決が確定したのは初めてです。
京都訴訟の判決について弁護士が解説します。
京都訴訟の内容
京都訴訟では、建設現場で働いていた元労働者らや遺族27人が、建設現場で使われていた建材のアスベスト(石綿)を吸い込んで、中皮腫や肺がんなどの病気になったとして国と建材メーカーに損害賠償を求めていました。
2審の大阪高等裁判所が2018年8月31日、国や建材メーカーがアスベスト(石綿)被害を防ぐための対策を怠ったとして、
- 国に約1億8800万円の賠償
- メーカー10社に約1億1300万円の賠償
を命じる判断をしました。
参考:大阪高等裁判所判決平成30年8月31日|裁判所 – Courts in Japan
メーカーの賠償責任については、一定以上の市場シェアを占めていたことを理由の一つとしています。
これに対して、元労働者らと遺族と国、建材メーカーのそれぞれが、最高裁判所に上告しましたが、2018年1月28日、屋外労働者に関わる部分を除いて、上告を退ける決定がなされました。
これにより、2審の大阪高等判断の判断が確定しました。
市場シェアを理由として建材メーカーに賠償責任があるとする判断が確定するのは初めてです。
また、国の賠償責任を認める判断は、2020年12月の東京訴訟にて出ており、国の賠償責任が最高裁で確定するのは2件目です。
ただし、屋外労働者に関わる部分については審理が続行されることとなったため、屋外労働者については、最高裁判所の判断によっては、2審の判断が覆る可能性も残されています。
今後の最高裁判所の判断が待たれるところです。
参考:建設アスベスト 京都訴訟 国とメーカーの賠償責任 確定 最高裁|NHK
第2審でメーカーの損害賠償責任が認められた理由は?
今回の最高裁判所の決定では、建材メーカーの賠償責任を認める理由は明らかにされていませんが、二審の大阪高等裁判所の判決理由について見てみましょう。
二審大阪高裁では、建材メーカーの賠償責任を認める理由について以下のことを指摘しています。
- 建材のメーカーの警告表示義務違反
- 被災者の就労現場に建材が到達したとする相当程度以上の可能性があった
これらの義務違反の内、2について詳しく見てみましょう。
被災者の就労現場に建材が現実的に到達することまでは不要
二審大阪高裁では、アスベスト(石綿)を含む建材が、当該被災した労働者の建設現場に到達した「相当程度以上の可能性」があれば、メーカーの賠償責任が認められるとしています。
これを踏まえ、二審では、各建材市場で20%以上ないし25%程度のシェアを持つメーカー10社の賠償責任が認められました。
この二審の判断で注目すべきは、当該メーカーが製造・販売したアスベスト(石綿)を含む建材が、建設現場に現実的に到達したことや、その建設現場で扱ったアスベスト(石綿)を含む建材を製造・販売した可能性のあるメーカーが、当該メーカーの他には存在しないことまでは必要とされていない点です。
建設現場の労働者は、どこのメーカーのどの建材が現場にあるのかまでは把握していないことが多いです。
そのため、アスベスト(石綿)を含む建材が、建設現場に現実的に到達したことや他のメーカーが存在しないことまで立証しなければならないとすると、立証不十分により、メーカーの賠償責任が否定されやすくなってしまいます。
実際に、個々のアスベスト(石綿)含有建材が現場に到達したことを立証できず、メーカーの賠償責任が否定された判決は多く存在しています。
しかし、上記二審のように、建設現場にアスベスト(石綿)を含む建材が到達した「相当程度以上の可能性」を立証すれば足るということになると、一定以上の市場シェアを持つメーカーの賠償責任は認められやすくなります。
アスベスト(石綿)を含む建材を商品の一部として扱っているメーカーの市場シェアが高ければ高いほど、個別の建設現場でもアスベスト(石綿)を含む建材が使われている確率が高まるからです。
個々のアスベスト(石綿)含有建材が現場に到達したことを立証することに比べれば、メーカーの市場シェアを立証することの方が負担が軽いと言えます。
このように二審の判決は、労働者の立証の負担を軽減している点で注目されます。
参考:大阪高等裁判所判決平成30年8月31日|裁判所 – Courts in Japan
他のアスベスト(石綿)訴訟を通して、最高裁が具体的判断を示す可能性あり
今回の京都訴訟の上告を退ける決定においては、国やメーカーの責任に対する、最高裁判所の見解は明らかにされていません。
もっとも、第1小法廷には京都訴訟のほか、東京訴訟、横浜訴訟、大阪訴訟の4件の訴訟が係属中です。
これらの訴訟を通して、国やメーカーに対する賠償責任について、最高裁判所の具体的な見解が示される可能性があります。
【まとめ】今後の裁判への影響が注目される京都訴訟判決
市場シェアを理由の一つとして、建材メーカーの賠償責任を認める判決が初めて確定しました。
労働者の立証の負担の軽減につながる判決の確定であり、今後の裁判への影響が注目されます。