「残業代が未払いかもしれない。自分の場合には、残業代を回収できるのだろうか?」
実は、未払い残業代を回収しやすい条件があります。
残業代を回収しやすい条件には、実際に働いた時間が分かる証拠がある場合など、いくつかのものがあります。
このことを知っていると、自分の場合に未払い残業代を回収できる見込みがあるのかどうかを判断することができます。
この記事を読んでわかること
- 残業代の未払いに関する事例
- 未払い残業代を回収しやすい条件
- 未払い残業代を弁護士が解決した事例
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
残業代の未払いに関する事例
まずは、残業代の未払いに関する次の事例をご紹介します。
- 割増賃金に関する労働基準法違反の事例
- 未払い残業代が実際に支払われた状況
ご自身の場合も、これらの事例に当てはまりはしないか、チェックしてみましょう。
(1)割増賃金(残業代)に関する労働基準法違反の事例
法定労働時間を超えて労働(残業)をさせたのに、労働基準法に定められた割増賃金(時間外労働・深夜労働・休日労働に対する残業代)を支払わないことは、労働基準法37条に違反し、刑事罰の対象となります。
そのため、割増賃金(残業代)を支払わないと、労働基準監督署に摘発されて「送検」されることがあります。
送検とは、起訴・不起訴の処分を決定するために検察官に事件が送られることです。
起訴されれば、刑事裁判にかけられ、刑事罰が科せられることもあります。
ここで、割増賃金の未払いにより、労働基準監督署に摘発され、送検された事例を一部ご紹介します。
企業・事業場の所在地 | 公表日 | 事案の概要 |
---|---|---|
埼玉県朝霞市 | 2021年8月16日 | ・未払いの対象:労働者1名 ・未払いの金額:1ヶ月間の時間外労働の割増賃金の一部である合計約11万円 |
青森県上北郡東北町 | 2022年2月10日 | ・未払いの対象:労働者7名 ・未払いの金額:7ヶ月間の時間外労働の割増賃金合計約427万円 |
大阪府大阪市住吉区 | 2022年3月23日 | ・未払いの対象:労働者8名 ・未払いの金額:法定の割増賃金を支払わなかった |
このように、労働基準法に定められた割増賃金を支払わないことは、悪質な犯罪行為です。
なお、割増賃金を支払わないこと以外にも、労働基準関係法令に違反したことが理由で送検されることはあります。
参考:労働基準関係法令違反に係る公表事案(最終更新日:2023年6月30日)|厚生労働省
(2)未払い残業代が実際に支払われた状況
労働基準監督署の監督指導によって未払い残業代が支払われた事例も少なくありません。
厚生労働省によると、労働基準監督署が監督指導を行ったことにより、未払い残業代が2021年度に支払われた企業数や金額等は次の通りです(支払額が1企業で合計100万円以上となった事案に限ります)。
是正企業数 | 1069社 |
対象労働者数 | 6万4968人 |
支払われた割増賃金合計額 | 65億781円 |
支払われた割増賃金の平均額 | ・1企業当たり609万円 ・労働者1人当たり10万円 |
参考:監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)|厚生労働省
このように、未払い残業代が支払われた事例も多く存在しますので、未払いだからといって諦める必要はありません。
未払い残業代を回収しやすい条件
未払い残業代には、回収しやすくなる条件がいくつかあります。
未払い残業代を回収しやすくなる条件としては、次のようなものがあります。
- 残業代請求のための証拠があること
- 「名ばかり管理職」として残業代を支給されていないが、実態としては労働基準法上の「管理監督者」にあたらないこと
- 固定残業代制度の運用が不適切なこと
これらについてご説明します。
(1)条件1|残業代請求のための証拠があること
残業代請求のための証拠があると、未払い残業代を回収しやすくなります。
残業代の請求をするためには、実際にいつからいつまで何時間残業していたのかということや、その他の未払い残業代の計算に必要な事項について、労働者が立証しなければなりません。
このため、残業代請求のための証拠がある場合には、ない場合と比べて残業代請求を成功させやすくなります。
残業代請求のための証拠としては、主に次のものがあります。
- 労働契約の内容が分かる証拠
- 賃金の支払に関する証拠
- 労働時間に関する証拠
これらの具体的な例は、次のとおりです。
労働契約の内容を証明する証拠 | ・雇用契約書 ・労働条件通知書 ・就業規則 ・就業規則変更届 ・賃金規程 |
賃金の支払に関する証拠 | ・給与明細書 ・給与振込口座の通帳の写し |
労働時間に関する証拠 | ・タイムカードの写し ・Web打刻のスクリーンショット ・タイムシートの写し ・タコグラフ(タコメーター)の写し(トラック運転手の方など) ・業務日報の写し ・出勤簿の写し など |
残業代請求のために集めるべき証拠について、詳しくはこちらをご覧ください。
(2)条件2|「名ばかり管理職」として管理監督者にあたらない場合
「管理監督者」として扱われているが、実態からすれば管理監督者にあたらない場合も、残業代請求を成功させやすくなります。
これは、いわゆる「名ばかり管理職」として残業代が支払われないケースです。
「名ばかり管理職」とは、管理監督者としての権限が一切ないのに、肩書きだけが管理監督職であることを理由に、残業代が支払われない立場にいる人のことをいいます。
すなわち、ある労働者が「管理監督者」にあたる場合には、その労働者は、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません(労働基準法41条2号)。
このため、時間外労働及び法定休日労働の残業代が支払われることはありません。
しかし、単に肩書きが管理職であったからといってそれだけで常に管理監督者にあたるわけではありません。
「管理監督者」とは、労働条件の決定などの労務管理に関して経営者と一体となるような立場にある者のことをいいます。
管理監督者に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。
管理監督者にあたるかについては、次に掲げる判断基準に基づいて総合的に判断します。
- 労働時間等に関する規制の枠を超えて活動するのがしかたないような重要な職務内容を有していること
- 労働時間等に関する規制の枠を超えて活動するのがしかたないような重要な責任と権限を有していること
- 実際の勤務の態様も、労働時間等の規制を受けるのが適切ではないようなものであること
- 賃金などの待遇が、その地位にふさわしいものであること
管理監督者をめぐる裁判例には、次のようなものがあります。
次の裁判例では、いずれも管理監督者にはあたらないとの判断がなされました。
管理監督者にはあたらないとされた裁判例 | |||
事件名 | 判決年月日 | 労働者の地位 | 主要な事実 |
レストランビュッフェ事件 | 大阪地裁判決昭和61年7月30日 | ファミリーレストランの店長 | ・店長として従業員を統括し、採用にも関与し、店長手当の支給を受けていたが、従業員の労働条件は経営者が決定していた。 ・店舗の営業時間に拘束され、出退勤の自由はなかった。 ・店長の職務以外にも、コック・ウェイター・レジ・掃除等全般の職務を行っていた。 |
インターパシフィック事件 | 大阪地裁判決平成8年9月6日 | ベーカリー部門および喫茶部門の店長 | ・売上金管理およびアルバイト採用の権限がなかった。 ・勤務時間の定めがあり、毎日タイムカードに打刻していた。 ・通常の従業員としての賃金以外の手当は全く支払われていなかった。 |
マハラジャ事件 | 東京地裁判決平成12年12月22日 | インド料理店の店長 | ・店長としての管理業務だけでなく、店員と同様の接客及び掃除等の業務が大部分を占めていた。 ・店員の採用権限および労働条件の決定権限がなかった。 ・店舗の営業時間に拘束されており、出退勤の際に必ずタイムカードを打刻しており、出退勤の管理を受けていた。 ・月々の給与において、役職手当等の管理職の地位に応じた手当が支給されたことはなかった。 |
風月荘事件 | 大阪地裁判決平成13年3月26日 | 喫茶店およびカラオケ店の店長 | ・会社の営業方針や重要事項の決定に加わる権限が認められていたわけではなく、人事権も有していなかった。 ・タイムカードの打刻や勤務予定表の提出が義務付けられていた。 ・残業手当が支給されていた時期があった。 ・日々の就労状況が査定の対象とされていた。 |
アクト事件 | 東京地裁判決平成18年8月7日 | 飲食店のマネージャー | ・アルバイト従業員の採用などについて決定権を持つ店長を補佐していただけで、部下の査定の権限はなかった。 ・勤務時間に裁量がなく、アルバイト従業員と同じく接客や清掃を行っていた。 ・基本給は厚い待遇ではなく、役職手当なども十分ではなかった。 |
株式会社ほるぷ事件 | 東京地裁判決平成9年8月1日 | 書籍等の訪問販売を行う支店の販売主任 | ・支店の営業方針を決定する権限などがなかった。 ・タイムカードにより勤怠管理を受けており、勤務時間について裁量がなかった。 |
育英舎事件 | 札幌地裁判決平成14年4月18日 | 学習塾の営業課長 | ・運営に関する管理業務全般の事務を担当していたが、裁量はなかった。 ・タイムカードへの記録により、他の従業員と同じように勤怠管理が行われていた。 ・給与などの待遇も一般の従業員と比べてあまり高くなかった。 |
このように、管理監督者にあたるとされるためには、肩書きだけでなく実質的にも管理監督者にふさわしい労働実態が必要とされます。
管理監督者とされるための判断基準や名ばかり管理職について、詳しくはこちらをご覧ください。
参考:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省
(3)条件3|固定残業代の運用が不適切な場合
「固定残業代制度」(みなし残業)とは、あらかじめ一定額の残業代を設定して支給するものであり、これを基本給などに含めて支給するタイプのものと、基本給とは別の手当として支給するタイプのものがあります。実際に残業しなくとも、固定残業代はもらえます。
固定残業代制度によって残業代を支払う場合には、所定の要件を満たさなければ有効な残業代の支払とは認められません。
固定残業代が有効な残業代の支払となるための要件は、主に次のとおりと考えられています。
- 固定残業代の性格を持つことが就業規則等に明示されていること
- 固定残業代はいくらなのかはっきり分かること
- 固定残業代が複数の種類の残業への対価である場合、内訳の明示があること
- 固定残業代が最低賃金を下回っていないこと
固定残業代制度による残業代の支払が要件を満たさない場合、たとえ固定残業代という名目で支払われていたとしても、残業代の支払としては無効です。
無効の場合、残業代計算の基礎となる賃金の額が増え、また固定残業代相当額も未払い額に含んで計算するため、労働者にはより多くの未払い残業代が発生しやすくなります。
残業代の支払として無効である以上は、会社はあらためて計算した残業代を支払わなければなりません。
このように、固定残業代制度によって残業代が支払われているもののその固定残業代の支払が無効であるという場合には、あらためて計算した残業代の支払を請求できる可能性が高くなります。
固定残業代制度の詳細や固定残業代の支払と認められない場合について、詳しくはこちらをご覧ください。
未払い残業代請求は弁護士に依頼するという方法もある
未払い残業代請求は弁護士に依頼して行うという方法もあります。
未払い残業代請求を弁護士に依頼するメリット
未払い残業代請求は、労働者本人が行うことも不可能ではありません。
しかし、未払い残業代請求は残業代計算など難しいところも多いのが実情です。
残業代請求を専門とする弁護士に未払い残業代請求を依頼すれば、適切に未払い残業代請求の手続きを代行してくれます。
未払い残業代請求を弁護士に依頼するメリットには、次のようなものがあります。
- 会社が労働法令を遵守しているか調査・是正勧告等するだけの労基署と異なり、弁護士は労働者個々人の代理人として残業代請求そのものを代わりに行ってくれる。
また、弁護士なら場合によっては労働審判や訴訟といった法的手続きを行ってくれる。 - 証拠になりそうな資料が実際に証拠となるかどうか法的な知見から判断してくれる。
- 証拠となる資料が手元にない場合でも、証拠の集め方をアドバイスしてくれる。
- 請求できる未払い残業代の額を正確に計算してくれる。
- 弁護士が代理人として会社と交渉することで、会社が真剣に対応してくれる可能性が高まる。
- 弁護士が代理人として会社と交渉することで、労働者本人が会社と直接交渉する必要がなくなり、交渉のストレスが軽減される。
- 労働審判や訴訟になっても、代理人として労働者をサポートしてくれたり、代わりに手続きに出頭してくれたりする。
【まとめ】未払いの証拠がある場合や、名ばかり管理職、無効な固定残業代制の場合は、残業代を回収できる可能性がある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 割増賃金を支払わないことは労働基準法37条違反であり、労働基準監督署に摘発された事例が複数ある。
- 労働基準監督署が監督指導を行った結果として未払い残業代が支払われたものもある。
- 未払い残業代を回収しやすい条件には、次のようなものがある。
- 残業代請求のための証拠があること
- 「名ばかり管理職」であること
- 固定残業代制度の運用が不適切であること
- 未払い残業代請求は弁護士に依頼するという方法もある。
未払い残業代請求を弁護士に依頼するメリットには、請求できる未払い残業代の額を正確に計算してくれる、弁護士が代理人として会社と交渉することで労働者本人が会社と直接交渉するストレスが軽減されるなどのことがある。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみ報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した残業代からのお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2023年3月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。