養育費の未払いは諦める必要なし!法改正によりどのように変わったか

  • 作成日

    作成日

    2023/06/15

  • 更新日

    更新日

    2024/03/19

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目次

養育費の未払いは諦める必要なし!法改正によりどのように変わったか
「養育費を支払うという合意をしたのに、ちゃんと支払ってくれない。どうしたらいい?」

養育費が未払いの場合でも、諦める必要はありません。対処法はあります。
まずは、元配偶者に直接催促する方法が考えられますが、もともと決められていた約束があったのに、支払わなくなったのですから、効果は薄いかもしれません。
催促しても支払われない場合には、最終的には相手の財産から強制的に回収するしかないでしょう。

この点、2019年の民事執行法改正により、裁判所が財産を調査できる手続が新設されたので、以前よりも養育費を回収しやすくなりました。

このコラムでは、養育費の未払いが発生した場合の対処法について弁護士が解説します。
養育費の未払いでお困りの方の役に立てば幸いです。

養育費とは?

養育費は、子どもにかかる生活費などのことをいいます。具体的には、子どもの衣食住の費用、教育費、医療費などが含まれます。
養育費の話合いをすると、「自分が生活するので精一杯で、経済的余裕がないから養育費は支払えない」と言われることがあるようです。

しかし、 養育費は「余裕があるときに支払えばよい」という性質のものではありません。
養育費を支払う義務は、「自分の生活を保持するのと同程度の生活を、子にも保持させる義務」(生活保持義務)です(民法第877条1項参照)。
つまり、養育費を支払うのは法律上の義務なのです。

そのため、養育費を支払う義務は、支払う側の経済的な余裕とは無関係に発生します。
養育費の支払いが滞った場合には、子どものためにしっかりと対処するようにしましょう。

養育費の未払いで悩むひとり親世帯も多い

5年ごとに厚生労働省が発表している「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、 現在も養育費を受け取っている割合は母子家庭で28.1%、父子家庭では8.7%にすぎません。
ひとり親世帯の多くは、養育費を受け取れていない状態であり、極めて深刻な事態といえるでしょう。
また、養育費の合意をして一時期は養育費を受け取っていたけれども、支払いが途絶えて受け取れなくなってしまう割合も、母子家庭で14.2%となっています。

養育費未払いの原因は、次のとおりさまざまです。

  • そもそも養育費の合意をしていない
  • 合意しても音信不通となってしまった
  • 離婚後に関わりを持ちたくない
  • 支払う側に金銭的な余裕がない

養育費は、子どものために必要な費用なので、基本的には支払いが遅れればしっかりと支払いを催促し、未払いは許容しない態度を取るようにしましょう。

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養育費の未払いが発生したら?4つの対処法を紹介

合意した養育費の未払いが発生した場合でも、離婚後も友好的な関係が続いており、「少し支払いが遅れる」という事前連絡があるなどの事情があれば、様子をみてもいいでしょう。
しかし、「わざわざ連絡しなくてもそのうち支払われるだろう」と放置するのは得策ではありません。

養育費の未払いが発生した場合、たとえば次のような対処法があります。
  • 元配偶者に連絡する
  • 家庭裁判所の「履行勧告」「履行命令」の制度を利用する
  • 「強制執行」の手続をする
  • 弁護士に相談する

(1)元配偶者に連絡する

まずは直接連絡して支払うように催促しましょう。
電話でも、書面でも構いません。
単に不注意で忘れていたり、仕事が忙しくて振り込む時間が取れなかったりして支払いが遅れた、というケースもあります。
直接の連絡が難しい場合や、連絡しても返事がなかったり支払いを拒否されたりした場合には、ほかの手段を検討しましょう。

(2)家庭裁判所の「履行勧告」「履行命令」の制度を利用する

家庭裁判所の履行勧告・履行命令の制度は、家庭裁判所の調停や審判などで養育費の取決めが成立した場合のみ利用できます。
養育費についての公正証書を作成しただけの場合には利用できない点に注意しましょう。

履行勧告とは、家庭裁判所に、養育費の未払いがあるかどうかなどの履行状況を調査し、取決めどおりに支払うよう促してもらう制度です(家事事件手続法第289条)。
履行勧告に強制力はありませんが、支払う側は、裁判所から直接「支払うように」と連絡を受けることになるので、一定の効果が期待できるというメリットがあります。
また、家庭裁判所が相当と認めた場合には、一定の時期までに支払うよう命令してもらうこともできます。これを履行命令といいます(同法第290条)。
この命令に正当な理由なく従わない場合、10万円以下の過料という制裁はありますが、あまり利用されていないのが実情です。

履行勧告・履行命令は、裁判所が、あくまで自主的に支払うように促す制度なので、そもそも自主的に支払う姿勢がない場合には、あまり回収の効果は望めないでしょう。

しかし、履行勧告・履行命令は、次に説明する強制執行と比べ、手続自体が簡単だというメリットがあります。 そのため、強制執行をする前に利用を検討してみるとよいかもしれません。

(3)「強制執行」の手続をする

養育費について強制執行力のある書面(債務名義)がある場合には、地方裁判所に対して強制執行の申立てをすることで、元配偶者の財産から強制的に養育費を回収できる可能性があります。
債務名義とは、たとえば次のようなものです。

  • 確定判決
  • 和解調書
  • 調停調書
  • 審判書
  • 公正証書(執行認諾文言あり) など

離婚の際に強制執行認諾文言付きの公正証書を作成せず、口頭や公正証書以外の書面で養育費の合意をしたにすぎない場合には、すぐに強制執行の手続をすることはできません。 一度公正証書の作成について話し合うとよいでしょう。

公正証書の作成が難しければ、元配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所に養育費の支払いを求める申立てをして、債務名義となる調停調書・審判書を得る必要があります。
通常は、まず調停を申し立てて、話合いによる合意成立が難しい場合には審判に移行します。
しかし、養育費の支払いがなく子どもを育てるのが困難な経済状況に陥っている場合には、初めから審判を申し立てると同時に、審判前の保全処分の利用を検討するとよいでしょう。

審判前の保全処分手続では、仮差押えや仮処分が認められることによる養育費の早期回収が見込まれます。
ただし、認められるための要件が厳格である点には注意が必要です。

実際に強制執行を行うと、どれくらいの額を回収できるのでしょうか。

強制執行の対象は相手方の財産ですが、預金や給与となる場合が多いと思われます。

相手の生活もありますので、給与で差し押さえられるのは、基本的に手取りの2分の1までです(民事執行法第152条3項)。

また、養育費の未払いを原因とする給与などの差押え は、一度手続を行えば、将来分も継続的に差し押さえることができます(同法第151条の2第1項3号)。
したがって、一度給与などを差し押さえれば、未払いがあるたびに何度も強制執行を申し立てる必要はありません。

(4)弁護士に相談する

直接連絡したくない場合には、弁護士から書面で催促してもらったり、弁護士から電話して催促してもらったりすることもできます。
また、養育費の未払いに対してどのような対処法が適切なのかは、慎重な判断が必要なケースがあります。
たとえば、債務名義があり、相手の職場が分かっている場合には、給与を差し押えることがもっとも効果的な回収方法です。
しかし、相手が差押えを嫌がって仕事を辞めてしまうと、差し押える対象の給与自体がなくなってしまいます。

弁護士であれば、事案の内容を踏まえて、強制執行の手続をする前に、交渉して自主的な支払いを求めたほうがいいか、裁判所による履行勧告の手続を利用したりしたほうがいいかについて、的確なアドバイスができるでしょう。
また、預金を差し押える場合は、基本的に預金口座の銀行名と支店名まで特定する必要があります。
弁護士に依頼すれば、弁護士の調査により、支店名などを特定できることがあります。

養育費の取決めは公正証書にしておくべき

養育費の取決めは、口約束や離婚協議書でもできますが、未払いとなったときに、口約束や単なる離婚協議書に基づいて強制的に支払わせることはできません。
一方、「支払いを滞納した場合は強制執行されてもかまわない」旨の執行認諾文言のある公正証書があれば、未払いとなったときもスムーズに強制執行の手続に移行できます。
養育費の支払いが途絶える事態に備えて、強制執行が可能な公正証書を作成しておくことをおすすめします。

法改正で未払い養育費は回収しやすくなった

養育費を受け取っているひとり親世帯の割合が低いことは、貧困の原因になるなど社会的な問題となっていました。
以前は、強制執行するためには、未払いで苦しむ側が相手の財産を調べて特定する必要があり、特定できない場合には強制執行することができませんでした。

たとえば、相手が勤務先を変えたり、預金口座を変更したりすると、調査をしても勤務先や預金口座(銀行名および支店名)を特定できないケースもあり、泣き寝入りを余儀なくされていたのです。
しかし、2020年4月1日に施行された民事執行法改正により、調査しても相手の財産を特定できない場合には、裁判所の「第三者からの情報取得手続」という制度を利用することで、相手の勤務先や預金口座が把握しやすくなりました。
この改正により、法制度上、以前より養育費の回収がしやすくなったため、養育費を受け取れる世帯の増加が期待されています。

【まとめ】養育費の未払いには迅速な対応を!

催促しても応じてもらえず、一度取り決めた養育費が未払いになっている場合、対処法としては、家庭裁判所の「履行勧告」「履行命令」を利用したり、「強制執行」の手続をとったりすることが挙げられます。

スムーズに強制執行の手続に移行するためには、養育費の取決めを強制執行認諾文言付きの公正証書として作成することが効果的です。

また、民事執行法の改正により、相手の勤務先や預金口座を把握しやすくなりました。
そのため、強制執行が成功しやすくなったといえます。

養育費の支払いが滞り、未払いが発生した場合には、子どものためにしっかりと催促して回収できるようにしましょう。
自分で対応することが難しいと感じる場合には、弁護士に依頼することもできます。

養育費の未払いトラブルでお悩みの方は、養育費請求を取り扱っているアディーレ法律事務所にご相談ください。

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この記事の監修弁護士

慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。

林 頼信の顔写真
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