「夫と話し合って離婚をしたいけど、何か気を付けておくことはあるのかな。」
夫婦が離婚する場合には、協議離婚・調停離婚・審判離婚・裁判離婚の4種類の方法がありますが、実は、2019年度に離婚した方の約88%は協議離婚でした。
夫婦の話合いだけで離婚をする協議離婚は、他の方法に比べて簡単な手続で離婚ができます。
しかし、本来協議で取り決めておくべき決め事が漏れていたり、取り決めに反した場合の対処が不十分であったりして、離婚後にトラブルになることも少なくありません。
今回の記事では、
- 協議離婚をするにあたっての注意点
についてご説明します。
これから協議離婚をしようとする方は、離婚することに気を取られがちです。
離婚後にトラブルになったり、改めて話合いをしなくても済むように、離婚前に協議離婚の注意点をしっかりと把握されることをお勧めします。
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
離婚にはどのような種類があるのか
離婚の種類は、次の4つです。
- 協議離婚
- 調停離婚
- 審判離婚
- 裁判離婚
そのうち協議離婚とは、夫婦が話し合いをして離婚する場合です。
協議離婚の場合は、お互いが離婚をすることに合意をして、離婚届を市区町村の役所に提出するだけで離婚が成立します。
厚生労働省の統計によれば、2019年度の離婚件数は20万8496件、その内協議離婚の件数は18万3673件、優に88.1%でした。
離婚をする方のほとんどは協議離婚で離婚が成立しますので、ここでは協議離婚をする際に知っておきたい注意点について解説します。
知っておきたい協議離婚の注意点
協議離婚をするにあたって注意すべき点は、次の2点です。
協議で取り決めておくべきことを漏らさないこと
取り決めを守らない時の備えをしておくこと
(1)協議で取り決めておくべきことを漏らさない
協議離婚をする際は、少なくとも次の点についてどうするのかしっかりと話し合って決めておくべきです。
財産分与
※婚姻中に築いた財産を離婚に際して分けることです。
離婚を急ぐと分けるべき財産を分けないままになってしまうこともあります。そのため、財産分与の対象となる財産をしっかり把握した上で、適正に分けることが大切です。
慰謝料
※夫婦の一方に離婚原因がある場合(浮気が原因で離婚に至った場合など)には、慰謝料を請求することができます。財産分与に含めて話し合うこともできます。
年金分割
※年金分割とは、離婚後に片方配偶者の年金保険料の納付実績の一部を分割し、それをもう片方の配偶者が受け取れるという制度です(※婚姻期間中に相手方が厚生年金・共済年金を自分より多く支払っていた場合にメリットがあります)。
親権者(監護権者)の指定
※未成年の子どもがいる場合、親権者を決めないと離婚はできません。
通常は親権者が監護権者となりますが、身上監護権者を親権者以外の親にすることもあります。
子どもの養育費
※養育費とは、監護親が非監護親に対して請求する、子供を育てていくために必要な費用(生活費・学費・医療費など)です。
離婚後も何年にもわたって支払われる費用ですから、金額・支払方法・支払期間などについてしっかりと取り決めておく必要があります。
面会交流権
※面会交流権とは、子どもと離れて暮らしている親(非監護親)と子どもが、直接会ったり、それ以外の方法(手紙など)で、親子の交流をする権利です。
その他、離婚後の氏のことや、婚姻費用の清算についても話し合う必要があります。
協議離婚の話合いでは、離婚をすることが最優先とされがちですが、それ以外についてもしっかり取り決めて片付けておかないと、後々トラブルになったり、改めて話合いをしなければならなくなることもありますので、気をつけてください。
しかも、相手に金銭を要求する場合には、請求できる期間が限られていますから、後回しにしていると、時間の経過により請求できなくなってしまうおそれもあります。
とにかく離婚がしたくて、財産分与のことなどは決めずに離婚しました。
後から財産分与の請求はできないのですか?
離婚後でも財産分与の請求はできますが、財産分与の請求権は、基本的に離婚から2年で消滅してしまいます。
また、その前であっても、離婚から時間が経つと相手が財産を使ってしまったり、預金口座を移してどこにあるか分からなくなる可能性もありますから、早く請求することをお勧めします。
慰謝料にも請求できる期間に限りはありますか?
慰謝料請求の内容にもよりますが、基本的には離婚から3年で消滅します。
もしかして、年金分割も時間的な制約はありますか?
年金分割のためには、年金事務所に標準報酬改定請求書を提出しなければいけません。
この請求の期限が、離婚が成立した日の翌日から2年以内です。
養育費はどうですか?
養育費は、そもそも請求時から発生します。
ですから、養育費について取り決めずに離婚し、後から養育費を請求した場合には、基本的には離婚時から請求時までの分は、遡って請求することができません(※養育費自体は基本的には発生してから5年で時効により消滅します)。
(2)取り決めを守らない時の備えをしておくこと
協議離婚は合意で離婚する方法ですが、合意の方法は人それぞれです。
婚姻して間もなく、子どもがいない状態で離婚するような場合には、離婚の際に話し合うべきことも少ないケースがあるので、口約束で離婚に合意し、離婚届を提出して離婚することもあるようです。
他方、婚姻期間が長く、特に未成年の子どもがいる状態で離婚する場合には、今ご説明したように、財産分与や、子どもの親権、養育費等、様々なことについて話し合う必要があります。
このような場合には、口約束だけで済ましてしまうと、後々食い違いが生じるおそれがありますので、『離婚協議書』を作成して、客観的に離婚条件を明確にする必要があります。
さらに、相手が協議で取り決めた約束を守らない場合に備えて、離婚協議書は次の書面で準備しておくことが良いでしょう。
強制執行認諾約款のある公正証書
その理由について、ご説明します。
協議離婚では離婚協議書を公正証書で作成するとよい理由
『離婚協議書』は、離婚の条件や養育費、財産分与などについて夫婦で話し合って合意した内容を書面にまとめたものをいいます。
ですが、離婚協議書を作成するだけでは、養育費や慰謝料の未払いがあったとしても、すぐに相手の財産から強制的に養育費や慰謝料を回収することはできません。
基本的には、まず訴訟を提起して勝訴し、判決が確定した後に、確定判決を債務名義として強制執行の手続きをとる必要があります。
他方、公正証書とは、当事者の依頼をうけて、公証役場の公証人がその権限に基づいて作成する公文書ですが、離婚協議書を公正証書で作成し「強制執行認諾約款」を記載しておくと、相手が養育費や慰謝料の未払いがあった場合には、訴訟を提起することなくすぐに相手の給料や預金などの財産を差し押さえることが可能になります。

「強制執行認諾約款」とは何ですか?
支払を怠った時は、すぐに財産に強制執行されても構わないという条項です。
「強制執行認諾約款」がない公正証書だとどうなるんですか?
相手が慰謝料や養育費の支払を怠っても、すぐに相手の財産を差し押さえることができません。
相手の財産を差し押さえるには改めて訴訟を提起するなどして債務名義を取得する必要がありますので、わざわざ公正証書で離婚協議書を作った意味がなくなってしまいます。
もちろん公正証書作成には費用や手間がかかるというデメリットがあります。
すなわち、公正証書を準備するのにも、弁護士などの専門家に内容の作成を依頼したりするとその費用がかかりますし、実際に公正証書を作成する公証人に支払う費用がかかります(公証人に支払う費用は、作成する文書量によっても異なるので、具体的には利用する公証役場に問い合わせるようにしましょう)。
また、公正証書は、予約を取って公証役場に当事者双方が行き(代理人でも可能)、内容に間違いがないか確認したうえで署名・押印する必要がありますので、手間もかかります。
ですが、後々養育費等が支払われなくなった場合にかかる訴訟費用や労力と比べれば、必要な出費や手間と考えてよいのではないでしょうか。
協議離婚の必要書類
協議離婚は夫婦の話し合いで離婚に合意し、離婚するものなので、必要となる書類は基本的に離婚届のみです。
離婚届を提出する際は、本人確認書類が必要となるケースもありますので、運転免許証やパスポートなどの本人確認書類と、修正が必要な場合の印鑑を持参するようにしましょう。
また、本籍地以外の役場に離婚届を提出する場合には、戸籍謄本も必要になります。
【まとめ】協議離婚するときは、取り決める内容に注意が必要
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 離婚をするには協議離婚・調停離婚・審判離婚・裁判離婚の4つがあるが、離婚をする方のほとんどは協議離婚で離婚をしている。
- 協議離婚をする際には、財産分与・慰謝料・年金分割について話し合った上で、未成年の子どもがいる場合には、親権者(監護権者)の指定・養育費・面会交流権などについて取り決めておくことが大切。きちんと取り決めしておかないと、後々トラブルになったり、再度話し合わなければいけなくなることがある。
- 慰謝料や養育費などお金の取り決めをする場合は、離婚協議書を「強制執行認諾約款のある公正証書」で作成しておくことがお勧め。これを作成しておけば、離婚後、相手が慰謝料や養育費の支払を怠った場合、相手の給料や預金などの財産に対してすぐに強制執行をすることができる。
協議離婚にあたっては、双方の主張が対立し、冷静に話し合うことができない場合もあります。
また、離婚協議書や公正証書作成の際に、合意内容に漏れがないか、自身に不利な点はないかなどの判断が難しい場合もあります。
協議離婚で、もし不安な点や悩んでいることがありましたら、法律に詳しい弁護士に相談することも検討してみるとよいでしょう。