健康保険に加入すると、被扶養者を誰にするか、という問題に直面することがありますが、「誰を被扶養者にできるのか」、という点につき正確な知識をお持ちでない方は多くいらっしゃいます。
今回は、健康保険の被扶養者の認定基準や、虚偽申請による罰則について解説いたします。
健康保険における被扶養者とは
被保険者の収入によって生活している家族は、申請することで被扶養者の認定を受けることができます。
被扶養者の認定を受けると、被扶養者がケガや病気、出産、死亡をした際に、自身で保険料を払うことなく被保険者と同様の給付を受けることが可能です。
なお、介護保険では、健康保険のような被扶養者の制度はなく、加入者は全員、被保険者となります。
また、健康保険における「被扶養者」は、所得税法上の「扶養親族」や、企業の扶養手当でいう「扶養家族」とは、一致しないことがありますので、注意が必要です。
被扶養者として認定される基準
被扶養者は、被保険者の家族であれば誰でも認定されるわけではなく、原則として、健康保険法3条7項などで定められた以下の条件を満たす必要があります。
- 被扶養者となろうとしている方が、日本国内に住所があること
- 被扶養者となろうとしている方が、一定の条件を満たす親族の範囲であること
- 被保険者にしようとしている方以外に優先扶養義務者がいないこと
- 被扶養者となろうとしている方が一定の収入基準を満たすこと
- 被保険者に継続的な扶養能力があること
これらの条件について、詳しく解説いたします。
(1)日本国内に住所があること
健康保険法の一部改正により、2020年4月1日以降は、被扶養者は、日本国内に住所(住民表)を有していることが必要となりました。
これまでは、海外在住者であっても被扶養者となることができましたが、2020年4月1日からは、被扶養者が「国内に住民票を有している人」に限定されることになります。
ただし、以下の方は、国内に住民票がなくても、原則として、被扶養者となることができます(健康保険法施行規則第37条の2)。
- 外国で留学している学生
- 被保険者が外国に赴任しており、その被保険者に同行している方
- 就労以外の目的(観光、保養又はボランティア活動その他)で一時的に海外にいる方
- 被保険者が外国に赴任中、当該被保険者と身分関係が生じた者であって、被保険者の同行者と認められる方
- その他、渡航目的やその他の事情を考慮して、生活の基礎が日本にあると認められる方
参考:令和2年4月より健康保険の被扶養者は原則「国内居住者」に限定されます|全国健康保険協会
(2)被扶養者となる親族の範囲にあること
被扶養者の範囲には、被保険者と同居していることが条件となる場合と、条件にならない場合の2通りがあります。
1.同居が必要ないパターン
次の方は、同居していなくとも、主に被保険者の収入で生活していれば被扶養者となります。
- 配偶者(内縁も可)
- 子
- 孫
- 兄弟姉妹、
- 父母等の直系尊属(※)
※直系尊属とは、父母、祖父母、曽祖父母、高祖父母など、自分の直接の祖先にあたる方のことを指します。
2.同居している必要があるパターン
次の方が被扶養者となるためには、被保険者と同一の世帯(※)で主として被保険者の収入により生活をしていることが必要です。
※同一世帯とは、被保険者と被扶養者が、住居も家計も一緒であることをいいます。

- (1)以外の三親等内の親族
- 内縁の配偶者の父母・連れ子
- 内縁の配偶者死亡後のその父母・連れ子
なお、75歳以上など、後期高齢者医療制度の対象となる方は、被扶養者にはなることはできません。
(3)被保険者になろうとしている方以外に優先扶養義務者がいないこと
一人の被扶養者に対し、複数の被保険者となることができる立場の親族がいる場合は、優先的に被保険者となるべき方(優先扶養義務者)が被保険者となるのが原則です。
例えば、既婚者であればその配偶者、子であれば親が優先扶養義務者になるのが通常です。
ただし、優先扶養義務者に扶養する能力がなく(収入がないなど)、被保険者となろうとする方が扶養せざるを得ない場合は、その方を被保険者とすることが可能です。
(4)被扶養者の収入が一定額を超えると被扶養者として認められない
被扶養者となるためには、原則として以下の1、2の収入基準をいずれも満たす必要があります(昭和52年4月6日付厚生省(現厚生労働省)保険局長の通達)。
1.収入限度額
被扶養者となろうとしている方の収入は、年間130万円(60歳以上または障害者の場合は180万円)未満であることが必要です。
この年間の収入限度額を月額に換算すると(年額÷12、小数点未満切り捨て)、
年130万円→月108333円未満
年180万円(60歳以上または障害者)→月15万円
となります。
2.生計維持関係
生計維持関係とは、被保険者が、被扶養者となろうとしている方の生計を維持している事実があることを指します。
被保険者と被扶養者となろうとする方が同一世帯であるかどうかによって、生計維持関係があると認められるための要件が異なります。
【同一世帯の場合】
被扶養者となろうとしている方の収入が、
・被保険者の年間収入の2分の1未満であること
あるいは、
・被扶養者になろうとしている方の収入が、被保険者の年間収入を上回らない場合は、被保険者がその世帯の生計を主に維持していると認められること
【同一世帯でない場合】
被扶養者の収入よりも、被保険者からの援助による収入の方が多いこと
ただし、上記の基準により被扶養者の認定を行うと、実態と著しくかけ離れたり、社会通念上妥当性を欠くことになる場合は、上記基準ではなく、個別事情に照らし、保険者が最も妥当と認められる方法で被扶養者の認定が行われます。
参考:収入がある者についての被扶養者の認定について|厚生労働省
(5)被保険者に継続的な扶養能力があること
被保険者には、継続的に被扶養者を養う「継続的な扶養能力」が必要です。
「被保険者の生活費」と「人事院が統計を取っている標準生活費」を比較して扶養能力を判定します。
また、共働き家庭における子どもについては、原則的に前年度の年間収入の多い方の扶養とされます。
複数の子どもがいる場合、例えば兄は父、弟は母というように、分けて扶養することは認められていません。
そのため、収入の多いほうが、まとめて扶養する必要があります。
虚偽の申請による罰則
もし、扶養の実態がない家族を被扶養者として申請して、被扶養者の認定を受けたことが判明した場合には罰則規定があります(健康保険法58条)。
この場合、被扶養者の資格は遡って取り消され、当該期間にわたって支払われた給付金を過去に遡及して返還しなくてはなりません。
【まとめ】健康保険に関するトラブルでお困りの方は専門家へご相談ください
以上のとおり、健康保険の被扶養者として認定されるためには、原則として次のような条件をクリアする必要があります。
- 被扶養者となろうとしている方が、日本国内に住所があること
- 被扶養者となろうとしている方が、一定の条件を満たす親族の範囲であること
- 被保険者にしようとしている方以外に優先扶養義務者がいないこと
- 被扶養者となろうとしている方が一定の収入基準を満たすこと
- 被保険者に継続的な扶養能力があること
健康保険法の改正により、「原則として国内に住所があること」が被扶養者の条件の一つに加わったことに注意が必要です。
健康保険に関するトラブルでお困りの方は専門家へご相談ください。