派遣社員として働いていると、派遣期間の終わりが近づくたびに、「次はどうなるのだろう」、と思うことはないでしょうか。
2018年、労働契約法と労働者派遣法の改正が施行されました。
派遣社員は、同一事業所では、原則として3年以上働けなくなる一方で、有期雇用の派遣社員にも、無期転換権(有期雇用の従業員が、その契約期間が更新されて通算5年(例外あり)を超えると、無期雇用契約に転換する旨を申し込むことができる権利)が生じている場合があります。
「自分には、無期転換できないのだろうか」とか、「無期転換したらどうなるのか」など、気になる方はいらっしゃいませんか。
無期転換ルールによって、無期転換した場合、同じ派遣先で3年以上働けるようになります。一方で、雇用条件が変わることがあるため従来よりも自由な働き方ができなくなる場合もあります。
この記事では、
- 派遣社員の同一の派遣先事業所で働ける期間
- 無期転換ルール
- 無期雇用派遣のメリット、デメリット
- 無期転換ルールの利用前に不当に雇い止めに遭ったときの対処法
などについて、弁護士が解説します。
無期転換するかどうか迷っている方の参考になれば幸いです。
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
2018年の法改正で、派遣社員の雇用ルールはどう変わった?
2018年、派遣に関するルールを定める法律が改正されました。
まず、労働契約法改正によって、2018年4月1日からいわゆる「無期転換ルール」が開始されました。
また、労働者派遣法改正によって、2018年10月1日からいわゆる「派遣3年ルール」が開始されました。
まず、派遣3年ルール、無期転換ルールについて、それぞれ説明します。
(1)「派遣3年ルール」によって、同一の派遣先で働けるのは原則3年までに
労働契約法改正により、派遣社員が同一の派遣先の事業所で働けるのは、原則として3年が上限となりました。
この派遣3年ルールにより、3年以上、派遣社員が同一の派遣先の事業所で働けなくなりました。
派遣の働き方や利用は、臨時的・一時的なものであるという考えを原則とし、派遣の常用代替を防止、派遣労働者の雇用安定やキャリアアップを図るために抵触日が設けられています。
派遣3年ルールに抵触する日、すなわち、「抵触日」とは、派遣期間が切れた翌日のことを意味します。
ただし、例外として、次の場合は、3年を超えて同一の派遣先の事業所で働くことができます。
- 派遣元で無期雇用されている場合
- 派遣社員が60歳以上
- 終了時期が明確なプロジェクトに派遣されている場合
- 1ヶ月の勤務日数が所定の基準を下回っている場合
- 産休や育休、介護休暇等の取得者の代わりに派遣されている場合
(2)「無期転換ルール」とは?
無期転換ルールとは、雇用期間が通算5年を超えた派遣社員は、申請によって無期労働契約に転換できるというルールです。
派遣社員の場合、無期転換の申請先は派遣元企業です。
無期雇用転換は、有期雇用契約の契約期間が通算5年以上となることが必要です。
同一の使用者との間で有期労働契約を締結していない期間(退職し、労働契約の存在しない期間、これを「無契約期間」といいます。)が、一定以上続いた場合、それ以前の契約期間は通算対象から除外されます。これを「クーリング」と呼びます。
具体的にどのような場合にクーリングされることになるかは、以下のとおりです。
- 無契約期間の前の通算契約期間が1年以上の場合で、無契約期間が6ヶ月以上の場合
無契約期間が6ヶ月以上あるときは、その期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含まれません。クーリングされます。 - 無契約期間の前の通算契約期間が1年以上の場合で、無契約期間が6ヶ月未満の場合
無契約期間が6ヶ月未満のときは、その期間より前の有期労働契約も通算契約期間に含まれます。クーリングされません。 - 無契約期間の前の通算契約期間が1年未満の場合
無契約期間の前の通算契約期間が1年未満の場合、無契約期間の前の通算契約期間に応じて、無契約期間がそれぞれ下記の表に記載する期間に該当するときは、無契約期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含まれません(クーリングされます)。 その場合、無契約期間の次の有期労働契約から、通算契約期間のカウントが再度スタートします。
無契約期間の前の通算契約期間 | 契約がない期間 (無契約期間) |
2ヶ月以下 | 1ヶ月以上 |
2ヶ月超~4ヶ月以下 | 2ヶ月以上 |
4ヶ月超~6ヶ月以下 | 3ヶ月以上 |
6ヶ月超~8ヶ月以下 | 4ヶ月以上 |
8ヶ月超~ 10ヶ月以下 | 5ヶ月以上 |
10ヶ月超~ | 6ヶ月以上 |
無期転換ルールにより、有期雇用契約の雇用期間が通算5年を超えれば、契約期間中であればいつでも無期労働契約への転換申請できることになりました。
なお、「登録型派遣」(派遣労働を希望する場合に、あらかじめ派遣会社に登録しておき、派遣をされる時に、その派遣会社と期間の定めのある労働契約を締結し、派遣先に派遣されること)で働く方の場合は、派遣されるたびに、有期労働契約を締結することとなり、この場合も派遣会社との間で無期転換ルールが適用されます。
したがって、同一の派遣会社との間で通算契約期間が5年を超えた場合、無期転換申込権が発生し、その契約期間の初日から末日までの間、いつでも無期転換の申込みをすることができます。
ただし、「登録型派遣」の場合、単に派遣会社に登録している状態では、一般に、労働契約は結ばれていませんので、その期間は、通算契約期間にカウントされません。
この無期転換ルールを利用すると、派遣社員の派遣3年ルールの適用外となり、同一の派遣先の事業所で3年を超えて働けるようになります。転換後は、無期労働契約となります。
無期雇用派遣のメリット・デメリット
では、有期雇用で勤務している派遣社員の方が、無期転換ルールによって無期雇用の派遣社員になった場合、どのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
以下、無期転換ルールによって、有期雇用から無期雇用に切り替えた場合のメリットとデメリットを説明します。
(1)無期雇用契約を結ぶメリット
まず、無期雇用契約を締結する代表的なメリットとしては、次の3点があります。
1つ目は、期間の定めがなくなるため、長期間の雇用が保証される点です。
これまでは、有期雇用契約であったことから、契約期間の終了のたびに更新するかどうかの問題がありましたが、無期契約になると、更新がなくなります。このため、雇用が安定するというメリットがあります。
2つ目は、収入が安定しやすい点です。
これは、期間の定めがなくなり、長期間でのキャリア形成が可能になるため、昇給などの制度がある場合が一般的であり、長期的に収入が安定するというメリットがあります。
3つ目は、同じ派遣先で3年以上働けるようになる点です。
派遣3年ルールにより、有期雇用の場合は、派遣社員が同一の派遣先の事業所で働けるのは原則として3年までとされていましたが、無期雇用になると、3年以上働くことが可能になります。
(2)無期雇用契約を結ぶデメリット
一方で、デメリットもあります。代表的なデメリットとしては、次の3点があります。
1つ目は、これまで通り、派遣会社に業務命令された派遣先で働くことになるため、自分で職場を選べないという点です。
派遣社員は派遣元派遣会社との間で無期雇用契約を締結することになり、派遣元の派遣会社からの指示で派遣先に派遣されます。したがって、無期転換をしたからといって、自分で職場を選ぶことはできません。
2つ目は、派遣会社との労働条件は、無期転換により、有期が無期になるだけで、その余の条件が有期雇用のときと同一とされることも多く、その場合には、これまでの労働条件より有利になるという訳ではありません。就業規則等で、例えば、無期転換により、職種や勤務地の限定がなくなる旨の定めがあるときは、これまで経験したことのない職種の業務を命じられ、有期雇用のときより大変になったとお感じになることも起こり得ます。
無期転換ルールを利用する前に雇い止めに遭ってしまった!対処法はある?
無期転換のルールにより、無期転換できれば、無期転換を考える方は多いと思います。
しかし、無期転換の申し込みしようと考えていた矢先に、無期転換申込権が発生する前に無期転換を申し込まれると困るから「雇止めする」と言われたら、どうしたらよいのでしょうか。
無期転換ルールの利用を阻止する目的で、派遣元の会社から、雇い止めをされた場合に、どう対応すべきでしょうか。
(1)雇い止めに遭ったときの対処法
無期転換ルールを避けることを目的として、会社が、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、という労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではないと厚生労働省は明言しています。
会社が有期労働契約の更新を拒否した場合、会社が、無期転換ルールを避けることを目的として、社員を雇い止めをした場合には、労働契約法第 19 条に定める雇止め法理により、一定の場合には当該雇い止めが無効となる場合があります。
雇い止めが無効であると主張するためには、次の方法が考えられます。
一つ目は、会社に直接申し入れをすることが考えられます。
社内で同じように雇い止めにあった同僚や、民間の労働組合に加入して集団交渉するのも一つの方法です。
会社に申し入れても期待する結果を得られなければ、近くの都道府県労働局雇用環境・均等部(室)(無期転換ルール特別相談窓口)に相談することが考えられます。
この相談窓口は、無期転換ルールに特化した窓口です。
この無期転換ルール特別相談窓口に相談しても解決できないときは、弁護士に相談・依頼して雇い止めの効力を争うために、労働審判、労働裁判などの法的手続きを検討することが考えられます。
参考:無期転換ルールのよくある質問(Q&A)│厚生労働省
参考:無期転換ルール特別相談窓口│厚生労働省
(2)ひとりで悩まず、相談しよう
無期転換権を行使させないために、雇止めにあった場合には、一人で悩まず、ぜひ相談してください。
相談できる専門機関は次の窓口があります。
- 厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」
- 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)(無期転換ルール特別相談窓口)
ひとりでなやまず、躊躇せず、ぜひこちらのポータルサイトや窓口から相談することをおすすめします。
参考:有期契約労働者の無期転換ポータルサイト│厚生労働省
参考:無期転換ルール特別相談窓口│厚生労働省
雇い止めの有効性を争い、法的手続きを検討する際は、労働問題に精通した弁護士に相談することがよいでしょう。
【まとめ】派遣社員は、雇用期間が通算5年を超えると無期労働契約に転換できる
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 2018年の法改正で、雇用期間が通算5年を超えた派遣社員は、申請によって無期労働契約に転換できることになった(無期転換ルール)
- 無期雇用契約への転換によって雇用や収入は安定する一方、派遣会社の業務命令によっては、従来よりも自由な働き方ができなくなる可能性がある
- 無期転換ルールの利用前に不当に雇い止めに遭ったときは、1人で悩まず相談することをおすすめ
派遣契約の無期転換ルールの運用でお困りの方は、弁護士または厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」、無期転換ルール特別相談窓口にご相談ください。