Yさんは、妻と幼い2人の子供とともに4人で仲良く暮らしていました。
ところがある日突然、通勤中に横断歩道を歩いて渡っていた際に自動車にはねられ、帰らぬ人となってしまいました。
妻であるTさんは、夫を亡くした悲しみに打ちひしがれるとともに、今後必要となる様々な手続きについて、どこから手をつけたらいいのか途方に暮れています。
この記事では、交通事故でご家族を亡くした場合に、
- 相続人・遺族が知っておきたい、死亡事故後の流れ
- 死亡事故が起きた後の遺産相続の流れ
- 死亡事故における損害賠償手続きは誰が行うか?
- 死亡事故が起きたとき、相続人・遺族が注意すべきこと
- 死亡事故での賠償金請求を弁護士に相談するメリット
について解説します。
愛知大学、及び愛知大学法科大学院卒。2010年弁護士登録。アディーレに入所後,岡﨑支店長,家事部門の統括者を経て,2018年より交通部門の統括者。また同年より、アディーレの全部門を統括する弁護士部の部長を兼任。アディーレが真の意味において市民にとって身近な存在となり、依頼者の方に水準の高いリーガルサービスを提供できるよう、各部門の統括者らと連携・協力しながら日々奮闘している。現在、愛知県弁護士会所属。
相続人・遺族が知っておきたい、死亡事故後の流れ
ご家族や親族が交通事故で亡くなったとき、大きなショックを受けてしまうことでしょう。
それでも、遺族としてすぐにやらなければいけないことがいくつかあります。
【事故後やらなければいけないこと】
捜査機関による検視
↓
葬儀の準備・死亡届の提出
↓
各種手続き(住民票抹消など)
以下、具体的に説明します。
(1)捜査機関による検視
病気で入院中に亡くなった場合は医師が死亡診断書を作成しますが、交通事故で死亡した場合は捜査機関による「検視」が必要となります。
検視とは、検察官や警察官などの捜査機関によって行われる、死体状況の捜査のことをいいます。
検視の主な目的は、事件性の有無(=犯罪により殺害されたのではないか)を確認することにあります。
事件性がないと判断されれば、医師が検死を行ないます。
事件性が疑われる場合や、目視で死因を特定できないときには遺体の解剖が行なわれます。
検視や解剖の結果が出るまで、遺体は捜査機関に預けたままになります。検視にかかる期間はケースによって異なりますが、事故で遺体の状態が悪い場合など、DNA鑑定などが必要な場合には、1ヶ月ほどかかることもあります。
(2)葬儀の準備・死亡届の提出
遺体を引き取ったら、葬儀の準備に取り掛かります。
まずは葬儀社に連絡し、準備を進めます。火葬のためにはお住いの市区町村に対して死亡届の提出が必要となります。死亡届は葬儀社が代理で提出してくれることが多いです。
なお、加害者から香典を受け取ったり、加害者が葬儀に参列したりしても、後の示談交渉で被害者側が不利になることは通常はありません。
(3)各種手続き
その後、次のような手続きを進める必要があります。
- 住民票抹消手続き(死亡届と同時に抹消される場合もあります)
- 世帯主の変更届
- 所得税準確定申告・納税
- 年金受給停止手続き(年金受給者のみ)
- 介護保険資格喪失届の提出(介護保険対象者のみ)
- 電気・ガス・水道・電話などの利用停止(1人暮らしだった場合)
- 生命保険金の請求(保険加入者の場合)
相続の手続きも、このタイミングで始めることになります。
そこで次に、相続の流れについて説明します。
死亡事故が起きた後の遺産相続の流れ
ご家族や親族が交通事故で亡くなった後の遺産相続の流れは、次のとおりです。
【遺産相続の流れ】
遺言の有無の確認
↓
相続人の確定
↓
相続財産の確認
↓
遺産分割協議
↓
各種手続き
以下、具体的に見ていきましょう。
(1)遺言の有無の確認
ご家族が亡くなった場合、亡くなったご本人が生前に有していた財産については、配偶者や子などの遺族に相続されます。
誰がどれくらい相続するかは、民法でその割合が定められています(例えば配偶者:2分の1、子:2分の1など。これを「法定相続分」といいます)。
法定相続分について、詳しくはこちらをご参照ください。
もっとも、亡くなったご本人が生前に遺言を作成していた場合は、遺言のほうが法定相続分に優先し、原則として遺言に従って遺産が分割されることになります。
なお、普通方式による遺言には、
- 自筆証書遺言(本人が自筆したもの)
- 秘密証書遺言(遺言の内容を秘密にして保管するもの)
- 公正証書遺言(公証役場にて作成・保管するもの)
の3種類があります。
自筆証書遺言・秘密証書遺言は、これを見つけた遺族が勝手に開封することはできません。遺言を発見したら、家庭裁判所に提出し、検認(※)を受ける必要があります。
検認を受けないと、原則として遺産である不動産の名義変更や預貯金の払い戻しができなくなります。
(※)検認……遺言書の形状や日付、署名など遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続き。
これに対し、公正証書遺言や、法務局に保管した自筆証書遺言の場合は、検認を受ける必要はありません。
遺言の検認手続きについて、詳しくはこちらもご参照ください。
参考:遺言書の検認|裁判所- Courts in Japan
(2)相続人の確定
亡くなったご本人(=「被相続人」といいます)が生前に有していた財産だけでなく、事故の加害者に対して損害賠償請求をする権利も相続人が引き継ぐことになります。
そこで、相続人が誰かを確定する必要があります。
なお、民法では、
- 被相続人の配偶者は常に相続人となり、
- 配偶者とともに相続人となる者の順位が次のように定められています。
(これらを「法定相続人」といいます。)
【法定相続人の範囲】
被相続人の配偶者
+
第1順位:被相続人の子(養子も含む。子がいない場合は孫)
第2順位:被相続人の直系尊属(父母・祖父母など)
第3順位:被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹がいない場合は甥・姪)
前順位の相続人がいれば、次順位の者は相続人になりません。
例えば、この記事の冒頭で挙げたYさんのケースでは、亡くなったYさんには配偶者であるTさんと第1順位である子(2人)がいます。
したがって、相続人になるのは妻であるTさんと2人の子ということになります。
第1順位である子(2人)がいるため、第2順位であるYさんの父母は相続人とはなりません。
相続人の範囲について、詳しくはこちらをご参照ください。
法定相続人を確定するためには、死亡したご本人(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本を取得して調査する必要があります。
(3)相続すべき財産の確認
法定相続人が確定したら、次に相続すべき財産を把握します。
相続人は、被相続人のすべての財産、すなわちプラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継ぎます。
- プラスの財産:現金、預貯金、株や債権、不動産など
- マイナスの財産:借金、連帯保証債務など
亡くなった本人の通帳を確認したり、残高証明書や権利証、固定資産税評価証明書などを取得して、財産の種類と金額を明確にする必要があります。
(4)遺産分割協議
法定相続分、または遺言により遺産の配分割合は一応決まります。
もっとも、遺言書がない場合や、遺言があっても具体的な配分が指定されていない場合、法定相続分と異なる配分を行いたい場合は、遺産の具体的な分け方についての話し合いを行う必要があります。
これを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議は、法定相続人全員の間で行なう必要があります。
遺産分割協議がまとまれば、「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議がうまくまとまらない場合は、調停や審判で分割の仕方を決定することになります。
(5)各種手続き
遺産分割協議が済んだら、預貯金・有価証券などの解約や名義変更、不動産の相続登記などを行ないます。
死亡事故における損害賠償手続きは相続人が行なう
相続人は、事故の加害者に対する損害賠償の請求権も相続します。
したがって、死亡したご本人の代わりに、相続人が損害賠償の手続きを行なうことになります。
交通事故の被害者が加害者に対して請求できる損害賠償には、死亡するまでにかかった治療関係費や休業損害、逸失利益(死亡により得られなくなった将来の収入)のほか、死亡による慰謝料があります。
死亡事故における慰謝料には
- 亡くなった本人に対する慰謝料と
- 遺族に対する慰謝料
の2つがあり、遺族がこの2つをまとめて請求することになります。
死亡事故で加害者に請求できる損害賠償について、詳しくはこちらもご確認ください。
また、死亡事故の場合は、一定の葬儀費用なども請求できます。
死亡事故が起きたとき、相続人・遺族が注意すべきこと
次に、死亡事故が起きたときに相続人・遺族が注意すべきことを2点、説明します。
(1)保険会社が提示する条件での示談には注意
交通事故の被害にあった場合、損害賠償の支払いなどについての交渉は、通常は加害者が加入している保険会社と行うことになります。
交渉相手となる保険会社は、あくまで加害者側の立場です。保険会社が提示する賠償額などをそのまま受け入れないよう、注意が必要です。
また、事故後、加害者側の保険会社が早々に示談を持ちかけてくることもありますが、様々な手続きに追われているときに焦って交渉を進める必要はありません。
損害賠償請求は、ご遺族自身が加害者に責任を追及する手段です。悔いのないよう、適切な条件で賠償してもらうことが大切です。
また、示談交渉を弁護士に依頼することも一つの手です。ご遺族の負担が減るだけでなく、一般に最も高額な賠償金の算定基準である「弁護士の基準」を使って交渉を行うため、賠償額の増額も見込めます。
賠償金算定にあたっての「弁護士の基準」について、詳しくはこちらをご覧ください。
(2)相続される損害賠償請求権には時効がある
損害賠償請求権は、一定の期間の経過により時効にかかり、消滅してしまいます。
加害者との示談交渉を焦って進める必要はありませんが、あまりにも遅くなりすぎると請求権が消滅してしまうのです。
具体的には、人身事故における損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害及び加害者を知ったときから5年、または不法行為(事故)のときから20年となります(民法724条、724条の2)。
遺産分割協議がこじれてなかなか損害賠償請求にたどり着かない、といった事態に陥らないよう注意が必要です。
事故直後から弁護士に相談することで、相続トラブルを避け、適切なタイミングで損害賠償を請求できることも期待できます。
死亡事故での賠償金は高額!被害者の味方となる弁護士に相談を
死亡事故の場合、一般に賠償額も高額にのぼります。
加害者側の保険会社は、遺族の悲しみとは裏腹に、損害賠償の支払いに消極的なこともあります。
したがって、保険会社が提示する条件をうのみにせず、あせらず落ち着いて交渉することが必要です。
(1)示談交渉を弁護士に依頼することにより、賠償額が増額したケース
弁護士に交渉を依頼することにより、当初保険会社が提示してきた額より大幅な増額がなされたケースをご紹介します。
(2)弁護士費用特約の利用で弁護士費用をまかなえる
示談交渉などを弁護士に依頼すると、別途弁護士費用がかかります。
この弁護士費用は、自動車保険などの「弁護士費用特約」によりまかなうことができます。
「弁護士費用特約」とは、弁護士への相談・依頼の費用を一定限度額まで保険会社が補償する仕組みです。この弁護士費用特約を利用すると、実質的に無料で弁護士に相談・依頼できることが多いです。
ここでポイントなのが、「弁護士費用特約」が利用できるのは、被害者ご自身が任意保険に加入している場合だけではない、という点です。
すなわち、被害者の
- 配偶者
- 同居の親族
- 被害者ご自身が未婚の場合、別居の両親
- 被害事故にあった車両の所有者
のいずれかが任意保険に弁護士費用特約を付けていれば、被害者ご自身(またはご遺族)も弁護士費用特約の利用が可能であることが通常です。
また、弁護士費用特約を使っても、等級や保険料は上がりません。
ご自身が弁護士費用特約を利用できるのか、利用できる条件などを保険会社に確認してみましょう。
【まとめ】死亡事故による損害賠償請求は、アディーレ法律事務所にご相談ください
この記事のまとめは次のとおりです。
- ご家族が交通事故でなくなった場合、警察など捜査機関による検視、葬儀手続き、住民票末梢など各種手続きが必要となります。
- 死亡事故が起きた後は、相続人と相続財産を確定し、遺産分割協議を行います。
- 死亡事故における損害賠償手続きは相続人が行います。
- 死亡事故では、加害者側に請求できる賠償金も一般に高額になります。相続人は、加害者側の保険会社との示談交渉を慎重に進めることが重要です。
- 死亡事故での賠償金請求を弁護士に依頼すれば、保険会社が提示してきた賠償金を増額できる可能性も高まります。
死亡事故による損害賠償請求でお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。