外資系だからといって従業員を勝手に「クビ」にすることは許されない

  • 作成日

    作成日

    2024/01/17

  • 更新日

    更新日

    2024/01/17

  • アディーレ法律事務所では様々な法律相談を承っておりますが具体的な事情によってはご相談を承れない場合もございます。予め、ご了承ください。

目次

外資系企業といえば、ある日突然、会社から「君は今日でクビだ。」と言われ、急に書類を書かされてあっさり解雇されてしまう、というようなイメージがあるかもしれません。
実際にも、そういったケースに直面したという方の例はみられるようです。

外資系企業で働く労働者は一般的に高い給料をもらっているから、そうした突然の解雇というリスクを背負うのも仕方がないのだろう、と思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、日本で企業活動を行っている場合は、外資系企業であっても日本の法律が適用されることになります。

そして、日本の法律では、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、解雇権を濫用したものとして無効となるとされています。

つまり、冒頭のような突然の解雇は、「仕方がない」で済まされるものではなく、それが有効とされるためには、客観的合理性と社会的相当性が認められなければならないのです。
今回は、外資系企業で起こりうる突然の解雇について、その問題点や対抗策について解説します。
また、外資系企業でなされることが多い退職勧奨についても、説明を加えていきます。

突然の「クビ」は解雇権の濫用にあたる可能性がある

外資系企業だからといって、予告期間を設けることなく従業員を突然解雇したり、不当に退職勧奨したりするようなことは、法的に許されません。
解雇は、客観的に合理的な解雇理由がなく、社会通念に照らして相当であると認められない場合は、外資系企業であっても解雇権の濫用にあたり、解雇が無効と判断されます(労働契約法第16条)。

また、退職勧奨とは、使用者が雇用する労働者に対して自発的に退職するよう求める行為をいいます。この行為は、場合によっては、不法行為として損害賠償請求の対象になります。

(1)外資系企業も、日本国内の会社活動では日本の労働法が適用される

労働法という法分野は、労働者を保護するための法律である「労働基準法」「労働組合法」「労働関係調整法」をはじめとする複数の法律によって構成されています。

外国資本によって成り立つ企業(外資系企業)でも、日本国内の会社活動においては、日本の労働法を遵守する必要があります。

(2)「会社都合退職(解雇や退職勧奨等)」と「自己都合退職(自主退職)」の違い

解雇や退職勧奨などのように、会社側の都合により雇用契約を終了することを「会社都合退職」といいます。

それに対して、労働者側の自由意思によって労働契約を終了することを「自己都合退職」(自主退職)といいます。

会社都合退職と自己都合退職では、退職金の支給率や失業保険の給付制限期間の有無等で違いが生じます。

なお、解雇について、その意味するところは「使用者による労働契約の解約」とされますが、日本では一般的に「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」の3種類があります。
懲戒解雇は、懲戒処分の最も重い処分であって、通常は、解雇予告も予告手当の支払いもせずに即時になされ、また退職金の全部または一部が支給されません。懲戒処分たる性格と解雇たる性格の双方を有し、両者に関する法規制をともに受けることになります。

整理解雇は、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇のことをいいます。
労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であるため、解雇の有効性はより厳格に判断すべきこととされています。

退職勧奨については、次項で詳しく説明します。

(3)外資系企業で行われがちな「退職勧奨」とは?

解雇が会社側による一方的な雇用契約の終了であるのに対して、退職勧奨は、会社が労働者に対して、「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと言って、自主的な退職を勧める方法のことをいいます。

会社側としては、解雇よりも穏便に雇用契約を終了できるメリットがあります。
退職勧奨に応じて退職した場合は、あくまで会社都合退職の一種であり、自己都合による退職とはなりません。
外資系企業では「PIP(Performance Improvement Program(Plan)/業績改善プログラム)」を用いて退職勧奨するケースが多くなっています。
PIPとは、使用者が対象となる労働者に対して課題を与え、その課題を一定の期間内に達成することができなければ、降格、減給あるいは解雇などの不利益処分を受け入れることを認めますという契約書にサインをさせるという形の人事考課システムのことをいいます。

もっとも、課題を達成するための期間が比較的短期間に設定されるなど、初めから達成が難しいことが多く、社員教育を通じて業務改善を図っていくというような目的を標ぼうしながら、実質的には不当な退職勧奨として機能していることが指摘されています。

外資系企業でよくある3つの「クビ」関連トラブル

不当解雇や退職勧奨等、労働トラブルに遭った場合は、労働問題に精通した弁護士に早めに相談することをおすすめします。
自分で交渉したり法的手続きをしたりすることも可能ではありますが、その場合は、書類の不備や手続き上の不要なトラブルに見舞われるリスクも高くなってしまいます。

以下では、外資系企業で起こりがちな退職にまつわるトラブルの例を紹介します。

(1)解雇予告なしに突然解雇された

ある日出社したら会社に入れずにそのまま解雇を告げられるといったケースでは、基本的に法的手続きに問題があるとして、解雇無効が認められる可能性が高いでしょう。
すでに述べたように、解雇には「客観的に合理的な理由」すなわち解雇事由を欠く場合には無効となります(労働契約法第16条)。

また、使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない(労働基準法第20条1項本文前段)とされ、30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない(同条同項本文後段)とされています。

もっとも、この予告の日数は、1日ごとの平均賃金を支払った分だけ日数を短縮することができるとされています(同条2項)。
このような場合、後で述べる「外資系企業を不当に「クビ」になった際の対処法」を実践することで、職場に復帰できる可能性が高くなります。
職場復帰後は、解雇期間中の給与の支払いについて、「バックペイ」として請求すると、解雇が無効であったことを理由に認められるケースが多いでしょう。

(2)PIPの結果等で、退職強要に遭った

上述したように、外資系企業ではPIP(業績改善プログラム)を用いて退職勧奨するケースが多くみられます。

PIPで現実的に達成困難な目標や、達成状況を客観的に判断しづらい抽象的な目標を設定させられた上に、目標未達成を理由に自主退職を促された場合も、法的手続きとして不当な退職勧奨であると認められる可能性が高いでしょう。
退職勧奨に応じる形の退職は、あくまで、労働者の自由意思で退職の求めを受け入れるものであって、会社の強要・強制が認められるものではないからです。

したがって、「退職勧奨を受け入れないならば解雇する」といった会社の言い分も、「客観的に合理的な理由」を欠くとして無効(労働契約法第16条)となる可能性が高いということになります。

(3)不当な降格・減給処分を受けた

労働者が退職勧奨を受け入れない場合に会社が降格・減給処分を下すケースも、不当な法的手続きであると認められる可能性が高いでしょう。
降格が「職能資格の低下」という意味で行われる場合は、賃金の引き下げを伴うため、契約上の根拠(就業規則上の明示など)が必要となります。

また、契約上の根拠があったとしても、降格処分が人事権の濫用にあたる場合には、権利濫用(民法第1条3項、労働契約法第3条5項)として無効となります。
成果主義を導入している外資系企業でも、安易な降格や減給は、裁判所に人事権の濫用と判断され、無効となる可能性があります。

権利の濫用は、これを許さない。

引用:民法第1条3項

労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

引用:労働契約法第3条5項

外資系企業で「クビ」や退職勧奨等のトラブルに遭ったら、弁護士に相談しよう

外資系企業で、不当な「クビ」や退職勧奨等のトラブルに遭った場合には、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。それは、弁護士に相談・依頼する方法には以下のようなメリットがあるからです。
  1. 対応策について、労務知識や豊富なノウハウを持ち合わせている
  2. パッケージ(退職に際しての特別手当)交渉を有利に進められる可能性がある
  3. 交渉・審判・訴訟等の対応を一任できる
なお、「パッケージ」とは、退職勧奨などの際、労働者側が自主的に退職することを促すために使用者が支払う特別の退職金のことをいいます。
外資系企業でよく行われているものですが、その金額や、そもそも支払いをするかどうかについても決まったルールがあるわけではありません。

外資系企業で「クビ」や退職強要に遭った際の対処法

法的手続きとしては、以下のような方法をとることが考えられます。
  • 労働審判を申し立てる
    労働審判手続は、解雇や給料の不払いなど、個々の労働者と使用者との間の労働関係のトラブルを、状況に応じて迅速・適正かつ実効的に解決するための非公開の手続です。
    原則として期日は3回までと決められているため、手続は多くの事件で3ヶ月以内に終了します。
    労働審判の結果に不服のある当事者が異議を申立てれば、審判は効力を失って、訴訟手続に移行します。

  • 労働訴訟を起こす(労働契約上の権利を有する地位の確認訴訟)
    労働審判の結果に当事者が異議を申立てれば訴訟に移行しますが、最初から訴訟を提起することも可能です。
    解雇を争う場合には、「労働契約上の権利を有する地位の確認訴訟」を提起することになります。これは、解雇が無効であることを前提に、労働者が現在も使用者と雇用契約関係にあることの確認を求める訴えになります。
  • 保全処分を申立てる(地位保全仮処分、賃金仮払い仮処分)
    訴訟を起こした場合は終結まで1年以上の期間を要することも珍しくないため、その期間中の労働者を保護するべく、裁判所による暫定的な措置を求める手続が保全処分になります。
「地位保全仮処分」は、労働者が使用者に対して労働契約上の地位を有することを仮に定めるという処分のことをいいます。
「賃金仮払い仮処分」は、労働者が生活に困ることのないよう、裁判所が使用者に賃金の仮払いを命じる処分のことをいいます。

これらの法的手続きは自分で行うことも可能です。

しかし、書類の不備や手続き上のトラブルを防ぐとともに、有利に手続きを進めるためには法律の専門知識とサポートが必要であるため、専門家に相談・依頼することをおすすめします。

【まとめ】外資系企業だからといって従業員を勝手に「クビ」にすることは許されません

今回の記事のまとめは以下のとおりです。
  • 外資系企業であっても、日本国内で会社活動を行うにあたっては日本の労働法の適用を受けるため、突然の「クビ」は解雇権の濫用として無効になる可能性があります。
  • 外資系企業でよくみられる解雇予告のない突然の解雇、PIP(業務改善プログラム)による不当な退職勧奨、不当な降格・減給処分などは、いずれも権利の濫用として無効となる可能性があります。
  • 不当解雇や退職勧奨等、外資系企業で労働トラブルに遭った場合は、弁護士に相談・依頼をするのが、さまざまなメリットを受けられるためおすすめの対処法であるといえます。
  • 弁護士のサポートを受けながら、労働審判や労働訴訟などの法的手続きを検討してもよいでしょう。
不当解雇や退職勧奨等、外資系企業で労働トラブルに遭った場合には、労働トラブルに精通した弁護士にご相談ください。
この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

髙野 文幸の顔写真
  • 本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

こんな記事も読まれています

FREE 0120-818-121 朝9時~夜10時・土日祝日も受付中