B型肝炎ウイルスの感染が広まった集団予防接種とは?B型肝炎訴訟について

B型肝炎ウイルスの感染が広まった集団予防接種とは?B型肝炎訴訟について
B型肝炎訴訟は、幼少期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎に感染してしまった方が、国にその賠償を求める訴訟をいいます。
なぜ、集団予防接種によってB型肝炎が広まってしまったのでしょうか。
その原因は、1988年に注射筒の交換に関する指導が国から行われるまで、注射針や注射筒の連続使用がされていたことにあります。
今回の記事では、
  • B型肝炎ウイルスの感染が拡大してしまった理由
  • B型肝炎訴訟
などについて弁護士が解説します。

集団予防接種とは?

予防接種とは、病気(感染症)に対する免疫をつけるために、その予防に有効と確認されたワクチンを接種することをいいます。

戦後間もない頃の日本においては、衛生状態が劣悪で感染症が蔓延しやすい状況にあり、戦後復興が急務となっていた状況の中で、感染症の蔓延による人的損失を防ぐ必要性が非常に重要視されていました。

このような事情から、1948年に予防接種法が施行され、1994年に改正されるまで、公的な仕組みとして予防接種が国民の義務とされました。

予防接種には、個人が各々病院等にかかり予防接種を受ける個別予防接種と、自治体等が一斉に行う集団予防接種がありますが、予防接種法に基づく予防接種の実施については、多くのケースで集団予防接種が選択されていました。

B型肝炎ウイルスの感染経路

B型肝炎ウイルスの感染が広まる経路は様々です。
ここでは、B型肝炎ウイルスの感染経路について解説します。

(1)集団予防接種等における注射器の連続使用(使いまわし)

注射器
現在では、予防接種に際し、接種者ごとに注射針や注射筒を交換するのは当たり前となっています。
これは、接種者の中に感染症にかかっている者がいた場合、血液を媒介として、他の接種者に感染が広まってしまう危険性があるからです。

予防接種については1948年に接種者ごとに注射針の交換や消毒を指導する通達が出され、ツベルクリン反応検査・BCG接種については1950年に注射針の交換を指導する通達が出されましたが、周知徹底が十分になされず、現場では注射器の連続使用が平然と行われていました。

結局、1988年に注射筒の交換に関する指導が国から行われるまで、注射針や注射筒の連続使用は継続しました。

その結果として、集団予防接等において、B型肝炎ウイルスの感染が蔓延することになったのです。

(2)母子感染

B型肝炎ウイルスに感染した母親の産道や胎内で子どもに感染してしまうことを母子感染といいます。
新生児は免疫機能が未熟のため、B型肝炎ウイルスを体内からうまく排除することができず、そのほとんどがB型肝炎ウイルスに持続感染することになります。

なお、1986年以降、B型肝炎の母子感染防止事業によって、B型肝炎ワクチンなどの接種が実施され、現在では新生児への母子感染は大幅に減少しています。

(3)これら以外のB型肝炎ウイルス感染経路

B型肝炎ウイルスの感染経路は、集団予防接種等や母子感染に限られません。
覚せい剤使用時における注射器の連続使用や、入れ墨針の連続使用によっても、B型肝炎ウイルス感染者の血液を媒介として、感染が広まる危険性があります。

また、輸血も感染経路のひとつです。もっとも現在では、B型肝炎ウイルスの検出試薬の開発等により、輸血による感染は大幅に減少しています。
B型肝炎ウイルスは、人の精液にも含まれます。したがって、B型肝炎ウイルス感染者との性交渉も感染経路といえます。

さらに、汗、涙、唾液、粘液、排泄物にもB型肝炎ウイルスが存在することが報告されており、これらを媒介として人に感染することがあるとの報告がされており、父子感染などの家族内感染や保育園などの集団生活においても感染することがあります。

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B型肝炎訴訟・B型肝炎給付金とは?

B型肝炎訴訟とは、集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染してしまった方が、国に対してその賠償を求める訴訟です。

ここでは、B型肝炎訴訟や、B型肝炎給付金について解説をします。

(1)B型肝炎訴訟とは?

B型肝炎訴訟とは、幼少期に受けた集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染した方等が、その賠償を国に求める訴訟をいいます。

幼少期に受けた集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染してしまった被害者5名が、1989年、国に対してその賠償を求める訴訟を提起し、2006年の最高裁判決により、国の責任が裁判所に認められることとなりました。

その後、2008年3月以降、同様の状況にある被害者700名以上による集団訴訟が提起され、2011年6月に国と全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団との間で「基本合意書」が成立し、救済の認定要件や金額等が合意されました。

そして、2012年1月13日に、「基本合意書」に基づき和解が成立した被害者等に対して給付金等を支給することを内容とした「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」(これからは「特措法」といってご説明します)が施行されるに至りました。

(2)B型肝炎給付金を受給するまでの流れ

B型肝炎給付金を受給するには、国を相手として訴訟を提起し、その中で国との和解を成立させ、社会保険診療報酬支払基金に対して給付金を請求する必要があります。
  • 裁判に提出するための資料収集
  • 裁判所で国を被告とする国家賠償請求訴訟を提起する
  • 和解協議手続・国との間で裁判上の和解を成立させる(和解調書の作成)
  • 社会保険診療報酬支払基金に給付金の請求をする

(3)B型肝炎給付金の給付金額

B型肝炎給付金の給付金額は次のとおりです。
死亡・肝がん・肝硬変(重度) 除斥期間等が経過していない方 3600万円
除斥期間等が経過している方 900万円
肝硬変(軽度) 除斥期間等が経過していない方 2500万円
除斥期間等が経過している方のうち、現に治療を受けている方等 600万円
除斥期間等が経過している方で、上記以外の方 300万円
慢性肝炎 除斥期間等が経過していない方 1250万円
除斥期間等が経過していない方で、現に治療を受けている方等 300万円
除斥期間等が経過していない方で、上記以外の方 150万円
無症候性キャリア 除斥期間等が経過していない方 600万円
除斥期間等が経過している方 50万円

定期検査費の支給等の政策対応
※2020年4月1日より、改正民法が施行されています。改正前民法724条の「20年」の期間は、この除斥期間と考えられていましたが、改正民法724条柱書では「時効」という文言が用いられており、消滅時効であるとされています。
この表をご覧いただけると分かりますが、給付金額は病態により異なります。
また、除斥期間等の経過の有無によっても給付金額は異なります。損害賠償請求権は、加害行為時または損害発生時から20年の経過により消滅してしまうのですが、これでは被害者救済に欠けるという観点から、特措法は、除斥期間等の経過によって損害賠償請求権が消滅してしまった被害者に対しても、給付金請求権を認めた上で、その金額を減額するにとどめています。
なお、B型肝炎訴訟の和解協議にあたって弁護士又は弁護士法人に報酬を支払う場合には、各給付⾦額の4%相当額が支給されます。
ただし、給付金の支給が決定した場合に限ります。

(4)B型肝炎給付金の要件と必要な資料

B型肝炎給付金の対象者は、1948年7月1日~1988年1月27日までの間で、かつ、満7歳の誕生日の前日までの間に集団予防接種等を受けた方で、集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染した方(一次感染者)、および、そのご子息の方で母子感染や父子感染した方(二次感染者)、さらに三次感染者の方が対象となります。
ここでは、B型肝炎給付金を受給するための要件と必要資料について解説します。

(4-1)一次感染者の要件と資料

一次感染者の具体的な要件は次の通りです。
【1. B型肝炎ウイルスに持続感染していること】
一過性の感染ではなく、B型肝炎ウイルスに持続的に感染していることが要件となります。
訴訟では、この持続感染を証明するため、原則として、本人の血液検査結果が必要となります。
【2. 満7歳になる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けていること※「集団予防接種等」とは、集団接種の方法で実施された予防接種およびツベルクリン反応検査を指します】
2006年の最高裁判決では、持続感染化するのは、原則として免疫機能が未熟な幼少期にB型肝炎ウイルスに感染した場合であるとされました。

したがって、集団予防接種等を満7歳となる誕生日の前日まで受けていることが要件となります。
この要件を証明するための資料として次のいずれかの資料が必要となります。
ア 母子健康手帳
イ 予防接種台帳
ウ 母子健康手帳、予防接種台帳を提出できない場合には
・陳述書
・医師による接種痕意見書
・住民票または戸籍の附票等
【3. 集団予防接種等における注射器の連続使用があったこと】
予防接種法の施行日である1948年7月1日から、注射筒の一人ごとの取り替えが指導された1988年1月27日までの間になされた集団予防接種における注射器の連続使用について、国は責任を負担します。

そのため、この期間内に集団予防接種等を受けていることが要件となります。
【4. 母子感染でないこと】
持続感染の最も有力な原因は母子感染です。そのため、母子感染ではないことが要件となります。

母子感染でないことを証明するための資料として、原則として、次のような資料が必要となります。
ア 母親の血液検査結果
・母親が生存している場合には、HBs抗原陰性かつHBc抗体が陰性(または低力価陽性)
・母親が死亡している場合には、80歳未満のHBs抗原陰性結果のみで可
イ 母親が死亡しており、母親の生前の検査結果が残存しない場合で、年長のきょうだいがいるときには、年長のきょうだいの血液検査結果
【5. その他集団予防接種等以外の感染原因がないこと】
母子感染以外で、国の実施した集団予防接種等以外の感染がないことも要件となります。

次の資料等が必要となります。
ア カルテ等の医療記録
イ 父親のHBs抗原陰性の検査結果(父親がB型肝炎ウイルスの持続感染者である場合には、父子の塩基配列比較検査結果)
ウ ジェノタイプAeに感染しているのではないことを明らかにする資料

(4-2)二次感染者の要件と資料

二次感染者(母子感染)の具体的な要件は次の通りです。
【1. 母親が一次感染者の要件をすべて満たしていること】
母親からの二次感染者としてB型肝炎給付金を受給するためには、母親が一次感染者としてB型肝炎給付金の受給対象者であることが必要です。

そのため、母親が先ほどご説明した一次感染者としての要件をすべて満たしていることを証明する資料を提出する必要があります。
【2. B型肝炎ウイルスに持続感染していること】
二次感染者といえるためには、二次感染者もB型肝炎ウイルスに持続感染している必要があります。

持続感染を証明するための資料として、原則として、二次感染者の血液検査結果が必要となります。
【3. 感染の原因が母子感染であるといえること】
母子感染であるといえることが要件となります。
具体的には次のいずれかの要件を満たす必要があります。
ア:母子のB型肝炎ウイルスの塩基配列が同定されていること
イ:出生直後の時点でB型肝炎ウイルスに持続感染していること
ウ:父子感染等の母子感染以外の感染原因がないこと
※なお、父子感染の場合は、
  • 父親が一次感染者の要件をすべて満たしていること
  • 二次感染者がB型肝炎ウイルスに持続感染していること
  • 二次感染者の感染原因が父子感染であるといえること
が要件となります。

(5)B型肝炎訴訟は弁護士に相談

B型肝炎給付金を受給するためには、必要資料を収集することが重要となります。
この資料を自分自身で収集することも不可能ではありませんが、血液検査については検査項目や場合によっては検査方法に指定がありますし、役所や医療機関等の様々な場所に問い合わせをする必要があります。
また、提出するべき資料としてカルテが求められていることとの関係上、カルテの中身をチェックし、他の医療機関への通院歴が見つかった場合には、その医療機関からカルテを開示してもらった上で、再度カルテの中身をチェックするという作業も行わなければなりません。
さらに、他原因による感染を疑わせるような記載がないか等をカルテからチェックする必要もあり、この作業には医学的な専門知識も必要となってきます。カルテの量が相当な量に及ぶ場合もあり、その場合にはカルテチェックに膨大な時間を費やす必要がでてくることも稀ではありません。
以上のように、B型肝炎給付金を受給するため個人で手続きを進めることには、多大な労力を要します。
これに対して、B型肝炎訴訟の経験のある弁護士に依頼すれば、資料集めやそのチェックについて専門のサポートがあり、訴訟提起までが非常にスムーズとなります。
このような事情から、B型肝炎給付金を受給しようとお考えの方は、個人でB型肝炎訴訟の手続きを進めるよりも、弁護士に相談する方がよいでしょう。

【まとめ】集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染した方については、B型肝炎給付金を受給できる可能性がある

本記事をまとめると次のようになります。
  • B型肝炎ウイルスの感染経路は、集団予防接種等における注射器の連続使用、母子感染、父子感染、輸血、性交渉等、様々である
  • 集団予防接種等によりB型肝炎ウイルスに感染した方については、所定の要件を満たすとB型肝炎給付金を受給することが可能
  • ただし、B型肝炎給付金の手続きを個人で進めるには多大な労力や専門知識が必要となる
アディーレ法律事務所はB型肝炎訴訟の資料収集の代行から、B型肝炎訴訟、同給付金の申請まで全て代わりに行います。
(※)母子手帳など、弁護士では収集できない一部資料を除きます。
また、アディーレ法律事務所では、B型肝炎訴訟・給付金請求に関し、着手金、相談料はいただいておらず、原則として報酬は給付金受け取り後の後払いとなっております。
そのため、当該事件についてアディーレ法律事務所にご依頼いただく場合、原則としてあらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
さらに、弁護士に依頼して、B型肝炎訴訟で和解した場合には、国から弁護士費用の一部として、訴訟手当金(給付金の4%)が支給されます。
B型肝炎訴訟・給付金請求に関しては、B型肝炎訴訟・給付金請求を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。

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この記事の監修弁護士

香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。

大西 亜希子の顔写真
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