B型肝炎訴訟において「集団予防接種等を受けたこと」を証明する方法

B型肝炎訴訟において「集団予防接種等を受けたこと」を証明する方法
B型肝炎給付金を受給するための要件として、満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことがあることが求められています(なお、二次感染者については、一次感染者についてこの要件が求められます)。

B型肝炎訴訟では、この要件を満たしていることを証明する必要がありますが、集団予防接種等を受けたのはかなり昔のことで、その資料等が残っているかわからないという方も多いかと思います。

満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことがあることという要件は、母子健康手帳、予防接種台帳、本人等の陳述書等によって証明可能です。
本記事では、B型肝炎訴訟において上記要件を証明する方法等について解説します。

B型肝炎訴訟とは?

B型肝炎訴訟とは、幼少期に受けた集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染してしまった方等が、国に対してその賠償を求める訴訟をいいます。

幼少期に受けた集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染してしまった被害者5名が、1989年、国に対してその賠償を求める訴訟を提起し、2006年の最高裁判決により、国の責任が裁判所により認められることとなりました。

その後、2011年6月に国と全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団との間で救済の要件や金額等について定めた「基本合意書」が締結され、2012年1月13日に、救済要件を満たす被害者等に対して給付金等を支給することを内容とした「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」(「特措法」といってご説明します。)が施行されるに至りました。

B型肝炎給付金を受給するには、国を相手として国家賠償請求訴訟を提起し、その中で国との和解を成立させ、社会保険診療報酬支払基金に対して給付金を請求する必要があります。
B型肝炎給付金を受給するまでの大まかな流れは次のとおりとなります。
B型肝炎給付金を受給するまでの流れ

B型肝炎給付金を受給するための要件

B型肝炎給付金を受給するための要件
まずは、B型肝炎給付金を受給するための(一次感染者としての)要件について解説します。

(1)B型肝炎ウイルスに持続感染していること

B型肝炎給付金を受給するためには、一過性感染ではなく、B型肝炎ウイルスに持続感染していることが必要となります。
この持続感染を証明するためには、原則として血液検査結果が必要となり、具体的には次のいずれかの血液検査結果が必要となります。

1. 6ヶ月以上の間隔を空けた2時点における次の検査結果のいずれか

 ア HBs抗原陽性

 イ HBV-DNA陽性

 ウ HBe抗原陽性

2. HBc抗体高力価陽性

(2)満7歳になるまでに集団予防接種等を受けていること

2006年の最高裁判決では、持続感染化するのは、原則として6歳ころまでにB型肝炎ウイルスに感染した場合であるとされました。したがって、集団予防接種等を満7歳となる誕生日の前日まで受けていることが要件となります。

なお、「集団予防接種等」とは、集団接種の方法で実施された予防接種およびツベルクリン反応検査を指します。
この要件を証明するためには、原則として、次のアイウのいずれかの資料か必要となります。

ア 母子健康手帳

イ 予防接種台帳

ウ 母子健康手帳、予防接種台帳を提出できない場合には

 •陳述書

 •医師による接種痕意見書

 •住民票または戸籍の附票等

(3)集団予防接種等で注射器の連続使用があったこと

国が責任を負うのは、予防接種法の施行日である1948年7月1日から、注射筒の一人ごとの取り替えが指導された1988年1月27日までの間になされた集団予防接種等における注射器の連続使用についてです。そして、この期間内に実施された集団予防接種等については、特段の事情がない限り、注射器の連続使用が行われていたものと推認されます。

そのため、この期間内に集団予防接種等を受けていることが要件となります。この要件を証明するための資料は、満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明するために用いた資料が何かによって異なり、次のアとイのいずれかの資料が必要になります。

ア 母子健康手帳または予防接種台帳によって満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明する場合は、接種日が1948年7月1日~1988年までの間であることが記載された母子手帳または予防接種台帳
イ 陳述書等によって満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明する場合には、戸籍(1941年7月2日~1988年1月27日までの間に出生していることが必要になります)

(4)母子感染ではないこと

母子感染
持続感染の最も有力な原因は母子感染です。そのため、母子感染ではないことが要件となります。
母子感染でないことを証明するための資料として、原則として、次のような資料が必要となります。

ア 母親の血液検査結果

 •HBs抗原陰性、かつ、HBc抗体陰性または低力化陽性

 •母親が死亡している場合には、80歳未満のHBs抗原陰性の検査結果のみでも可

イ 母親が死亡しており、母親の生前の検査結果が残存しない場合、年長のきょうだいの血液検査結果(HBs抗原陰性、かつ、HBc抗体陰性または低力価陽性)

(5)その他、集団予防接種等以外の感染原因がないこと

集団予防接種等や母子感染以外にもB型肝炎ウイルスに感染する原因には様々なものがありますが、そのような他の感染原因がないことも要件となります。
原則として、次の資料が必要となります。

ア カルテ等の医療記録
イ 父親のHBs抗原陰性の検査結果(父親がB型肝炎ウイルスの持続感染者である場合には、父子の塩基配列比較検査結果)
ウ ジェノタイプAeに感染しているのではないことを確認するための資料

満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明する方法

前記のように、満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことという要件を証明するためには、原則として、次のいずれかの資料を提出しなければなりません。

ア 母子健康手帳

イ 予防接種台帳

ウ 母子健康手帳、予防接種台帳を提出できない場合には

 •陳述書

 •接種痕意見書

 •住民票または戸籍の附票等

これらには優先順位があり、原則として母子健康手帳によって証明することが求められます。母子手帳によっては証明できない場合には、予防接種台帳による証明が認められ、母子健康手帳と予防接種台帳のいずれによっても証明できない場合には、陳述書等による証明が認められます。
また、これらの方法以外の方法によって証明することができる場合もあります。

(1)母子健康手帳

満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことは、母子健康手帳によって証明するのが原則になります。

母子健康手帳には、予防接種等についての記録欄が設けられており、予防接種等を受けた際に、その予防接種等の実施主体と実施日が記載されるのが通例です。
その記載から、実施主体が自治体であることと、実施日が満7歳の誕生日の前日以前であることを明らかにすることができれば、満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明することができます。

国が責任を負うのは、自治体が実施した集団予防接種等のみであることから、実施主体が自治体であることが必要になります。自治体や自治体の首長の印、保健所の印が押されていれば、自治体が実施した集団予防接種等であることが明らかになります。
また、7歳以降の集団予防接種等では原則として持続感染しないため、実施日が満7歳の誕生日の前日以前であることがわかることも必要になります。

なお、母子健康手帳に記録されている予防接種の種類がポリオしかない場合には、注意が必要です。ポリオは多くの場合が経口接種で実施されており、経口接種では注射器が用いられません。そのため、経口接種の方法により実施されたポリオの予防接種については、「集団予防接種等で注射器の連続使用があったこと」の要件を満たさないということになります。この場合には、他の方法によって、満7歳となる誕生日の前日までにそのポリオ以外の集団予防接種等を受けたことを証明する必要があります。

(2)予防接種台帳

母子健康手帳によって、満7歳になる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明することができない場合には、予防接種台帳による証明が認められます。予防接種台帳とは、自治体が作成・保管する予防接種についての記録簿です。

予防接種台帳は、予防接種を行ったときから5年間保存しなければならないとされています。各自治体における予防接種台帳の保存状況については、厚生労働省がこれを調査して、その調査結果を公表しているのですが、昭和の時代に作成された予防接種台帳の多くは既に廃棄されており、実務的にはこの予防接種台帳をもって上記の要件を証明できることは多くありません。

なお、厚生労働省が公表している予防接種台帳の保存状況についての調査結果によれば、予防接種台帳が保存されているはずであるにもかかわらず、自己の接種記録は残っていないという場合があります。このような場合には、自治体から接種記録が残っていない旨の証明書を発行してもらって、それを提出することが必要になります。また、この場合には、予防接種台帳によって、満7歳になる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明することはできないため、陳述書等によってこれを証明することになります。

(3)陳述書等

母子健康手帳と予防接種台帳の両方を提出できない場合には、陳述書、接種痕意見書、住民票または戸籍の附票等により証明することが認められます。

陳述書とは、当事者や近親者が認識している事実関係を記した書面です。陳述書には、紛失したとか、そもそも発行されていないといった母子健康手帳を提出できない理由、集団予防接種等を満7歳になるまでに受けたこととその集団予防接種等を受けた場所について記載します。
陳述書は、このように当事者等の記憶に基づく主観的な証拠にすぎないため、十分な信用性を有するとはいえません。そのため、客観的な証拠によってこれを補強するために、接種痕意見書と住民票または戸籍の附票等の提出が求められます。

接種痕意見書とは、種痘またはBCGを接種した痕に関して医師による所見を記した書面です。予防接種を受けた時期はともかくとして、少なくとも予防接種を受けたこと自体はあるということを裏付けることができます。
もっとも、被害者が他界しており、もはや接種痕意見書を作成できないということもあります。被害者が他界している場合には、接種痕意見書の代わりに、予防接種の痕があったことについての近親者の陳述書を提出することになります。

住民票または戸籍の附票等は、満7歳になる誕生日の前日までに日本に居住していたことを証明するための客観的な証拠として提出が求められています。これによって、少なくとも幼少期に集団予防接種等を受けていた可能性があることを裏付けることができます。

なお、住民票や戸籍の附票は、満7歳になる誕生日の前日までの住所が記載されていることが必要になりますが、満7歳になる誕生日の前日までの住所が記載されている住民票や戸籍の附票が残っているケースはそれほど多くありません。

残っていない場合には、7歳になるまでの戸籍の附票の不存在証明書とともに、7歳になるまでに日本に居住していたことを推認させる他の資料を提出することになります。7歳になるまでに日本に居住していたことを推認させる資料は、例えば、小学校の卒業証書や卒業証明書、在学証明書、通知表、幼稚園の卒園証書や卒園証明書、保育園の保育証書などです。

(4)他の方法による証明

予防接種手帳、接種済票、通知表などによって、満7歳の誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明できる場合があります。

自治体や年代によって区々ですが、予防接種手帳が交付されることがあります。この場合、母子健康手帳ではなく、予防接種手帳に予防接種についての記録が記載されているということがあります。そして、実施主体が自治体であることと、実施日が満7歳の誕生日の前日以前であることを明らかにすることができるものであれば、満7歳になる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明するための資料として用いることができます。

また、予防接種等を受けた際に接種済票が交付されることがあります。その接種済証が自己の接種済証であること、実施主体が自治体であること、実施日が満7歳の誕生日の前日以前であることを明らかにすることができるものであれば、満7歳になる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明するための資料として用いることができます。なお、接種済票が母子健康手帳に貼付けられている場合もあり、この場合には、接種済票は母子健康手帳の一部として扱われます。

さらに、通知表には、稀にではあるのですが、小学校で実施した予防接種等についての記載欄が設けられていることがあります。通知表がこのような形式になっており、この通知表から満7歳になる誕生日の前日までにその予防接種等を受けていることが明らかになる場合には、満7歳になる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことを証明するための資料になることがあります。

ただし、審査担当者次第というところもあり、通知表の提出だけで満7歳になる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことが認められるケースもあれば、陳述書等の提出を追加で求められるケースもあります。

【まとめ】満7歳の誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたことは、母子健康手帳、または予防接種台帳で、これらがない場合は、陳述書等によって証明が可能

本記事をまとめると次のようになります。
  • B型肝炎訴訟とは、幼少期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに持続感染してしまった方による、国への賠償請求訴訟であり、一定の要件を満たすことによって国との間で裁判上の和解を成立させ、和解金を受給することが可能
  • 和解要件として、「満7歳となる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたこと」が要求されており、この要件を証明するためには、原則として、次のいずれかの資料が必要となる

ア 母子健康手帳

イ 予防接種台帳

ウ 母子健康手帳、予防接種台帳を提出できない場合には

 •陳述書

 •接種痕意見書

 •住民票または戸籍の附票等

  • 母子健康手帳、予防接種台帳、陳述書等以外にも、満7歳になる誕生日の前日までに集団予防接種等を受けたこと証明するための資料は存在する
アディーレ法律事務所はB型肝炎訴訟の資料収集の代行から、B型肝炎訴訟、同給付金の申請まで全て代わりに行います。
(※)母子手帳など、弁護士では収集できない一部資料を除きます。
また、アディーレ法律事務所では、B型肝炎訴訟・給付金請求に関し、着手金、相談料はいただいておらず、原則として報酬は給付金受け取り後の後払いとなっております。
そのため、当該事件についてアディーレ法律事務所にご依頼いただく場合、原則としてあらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
さらに、弁護士に依頼して、B型肝炎訴訟で和解した場合には、国から弁護士費用の一部として、訴訟手当金(給付金の4%)が支給されます。

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この記事の監修弁護士

香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。

大西 亜希子の顔写真
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