「会社が残業代を払ってくれない…。労働基準監督署に指導してもらいたいけれど、匿名で通報はできるのかな。私が通報したことはバレるの?」
職場の労働条件や待遇が違法ではないかと疑われる場合、労働基準監督署への相談や通報をするという対処法があります。
そうした相談・通報の際に、違法状態を証明する証拠などを持参することができれば、労働基準監督署が会社への調査や行政指導などのアクションをとってくれる可能性もあります。
ただし、今後も同じ職場で働きたいと思っている場合、自身が相談者・通報者であることが会社に知られてしまうのはなるべく避けたいところでしょう。
そこで今回の記事では、次の内容について弁護士がご説明します。
- 労働基準監督署への匿名相談・通報の可否
- 労働基準監督署に匿名で相談・通報できる内容
- 具体的に匿名でする相談方法
- 通報者の保護
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
労働基準監督署には匿名で相談・通報できる
労働基準監督署へは、匿名で相談や通報をすることができます。
ただし、電話や電子メールでの相談を匿名でした場合には、何らかのアドバイスをもらえる可能性はありますが、具体的な事情までは分からないため、実際に労働基準監督署に調査等をしてもらうことは難しいでしょう。
ですから、労働基準監督署に対応を求める場合は、直接訪問をした上で、実名による申告をしたほうが効果的といえます。
また、労働基準監督署に立ち入り調査をしてもらうためには、会社の違法性を明らかにできる証拠をひとつでも多く持参して、調査の必要性を伝える必要があります。
証拠となりうるものとしては、例えば違法なサービス残業が問題となる場合には、次のようなものがあります。
【違法なサービス残業の証拠の例】
- タイムカード
- Web打刻のスクリーンショット
- 日報、業務日報の写し
- 出勤簿の写し など
その他、契約上の労働時間を明らかにするために、「労働契約書」や「就業規則」なども持参しましょう!
労働基準監督署の業務内容などについて詳しくはこちらの記事もご確認ください。
労働基準監督者に通報したのが誰なのか会社にバレてしまう?
労働基準監督署で勤務する労働基準監督官には守秘義務があるため(労働基準法105条)、誰が通報したのかを外部に知らせることは、通常ありません。
もっとも、労働基準監督官から直接会社に対して通報者そのものについての情報が漏れてしまうことがなくても、「会社が小規模で告発者が予測できてしまう」といった場合や、「労働基準監督署に提出した証拠に、特定の個人しか知らないはずの情報がある」などといった場合には、誰が通報したかということが事実上、会社にバレてしまう可能性があります。
労働基準監督署に匿名で相談・通報できる内容
労働基準監督署は労働基準法違反の有無の観点から会社を監督・調査するため、相談内容は、労働基準法違反の可能性が疑われるトラブルである必要があります。
労働基準監督署に匿名で相談・通報できる内容は具体的には次のようなものがあります。
- 賃金や残業代の未払い
- 違法な長時間労働・休憩時間不足
- 有給休暇が与えられない
- 違法な休日設定
- 労働条件が雇用契約と異なる
- 安全対策が全くされていない危険な場所での作業
- 給与が現物支給 など
なお、残業代が未払いであるといった事案につきましては、労働基準監督署の対応は会社への行政指導(是正勧告)にとどまるのが一般的です。
例えば「残業代の請求」を実際に行うようなことはありません。
残業代の未払いには罰則がありますから、会社が労働基準監督署の指導を無視すれば、いずれ刑事事件に発展する可能性はあります。
ただ、労働者が会社から過去の未払い残業代の支払いを受けるためには、労働者自身が会社に対して未払い残業代の支払いを請求しなければいけません。
労働基準監督署に相談しても問題が解決しないという場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。
匿名で相談・通報する方法
それでは、匿名で相談・通報する方法について解説していきます。
(1)労働基準監督署を直接訪問する
労働基準監督署の窓口を訪問すれば、直接相談や通報をすることが可能です。
この場合は、メールや電話での相談・通報に比べて、より信憑性・緊急性が高いと判断されやすく、会社の違法行為を明確に示す証拠があれば、早期に調査を行なってもらえる可能性があります。
自分の名前や身分を明らかにしない匿名という方法を希望する場合も、信頼できる証拠によって違法性が十分に証明できるのであれば、労働基準監督署が動いてくれる可能性はあるでしょう。
労働基準監督署は各市区町村にあるため、最寄りの窓口を訪問してみるとよいでしょう。
(2)労働基準関係情報メール窓口を利用する
また、労働基準監督署へ電子メールで相談・通報することも可能です。
これは、厚生労働省のウェブサイトにある「労働基準関係情報メール窓口」を利用して電子メールを送信する形の相談・通報になります。
電子メールは24時間いつでも送信することができます。
送信履歴は残ってしまいますが、相談する上で必要以上に個人情報を明かす必要もありません。
電子メールの送信フォームには
1.「匿名だが、情報提供内容(メールの内容)を明らかにしてよい」
2.「匿名だが、 情報提供があったこと(メールがあったこと)のみ明らかにしてよい」
3.「匿名の上、メールがあったことも明かさないでもらいたい」
の3つの選択肢があります。
もっとも、電子メールでの提供情報は、立入調査対象の選定などの参考程度にしかならないことが多いといえます。
そのため、電子メールで相談や通報をした場合は、調査等の踏み込んだ対応をしてもらうことは難しいでしょう。
電子メールへの返信は基本的になく、電子メールの内容に関する照会も受け付けていません。
そのため、相談・通報したあとは、労働基準監督署の対応をただ待つことになります。
電子メールで通報する際の注意点などは、次のサイトをご参照ください。
参照:労働基準関係情報メール窓口 情報提供のポイント|厚生労働省
参考:「労働基準関係情報メール窓口」 送信フォーム|厚生労働省
(3)電話で通報する
電話での相談・通報は、厚生労働省が開設している「労働条件相談ほっとライン」から無料で可能となっています。
電話番号:0120-811-610
相談時間:(月・火・木・金)17~22時、(土・日)10~17時
※年末年始を除く
また、地域を担当する労働基準監督署に直接電話で相談することもできます。
直接訪問に比べると、電話での相談は書面などによって具体的な証拠を提示することができないため、相談内容に関する詳しい事情や切迫感などが伝わりにくい部分があります。
匿名で相談する場合はなおさらでしょう。
そのため、電話で相談や通報をする際には、説明の仕方を工夫した方がよいでしょう。
内部通報者に対する保護
会社内部にて労働問題を相談したら、会社に居づらくならないか心配される方は多いです。
外部に相談・通報をしたことが会社に発覚してしまえば、昇進や配置転換などの点で、報復的な不利益取扱いを受けるおそれも考えられるところです。
この点、法は、内部通報者が不利益的取り扱いを受けないよう保護するための規定を置いています。
1.労働基準法104条は、同法に違反する事実を行政官庁等に申告したことを理由として当該労働者を不利益に取り扱ってはならないと規定しています。
1項 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
引用:労働基準法104条
2項 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
2.また、2004年に制定された公益通報者保護法は、一定の要件をみたす「公益通報」を行った労働者に対し、「公益通報」を行ったことを理由とする解雇その他の不利益取扱いをすることを、事業者に禁止しています。
公益通報者保護制度について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
3.上記1及び2の法律が適用されないケースでも、通報者が報復的な不利益取扱いから保護される可能性があります。
さらに、裁判例によれば、外部への相談・通報が正当な行為といえるものであれば、会社が通報をした労働者に対して人事上の不利益な取り扱いをした場合、会社は労働者に対して損害賠償責任を負う、とされています。
外部への相談・通報に関する正当性の判断は、次の3要素によって総合的になされます。
- 内容が真実でありまたは真実と信ずべき相当な理由があるか(事実の真実性)
- 目的が公益性を有するか(目的の公益性)
- 手段・態様が相当なものであったか(手段・態様の相当性)
匿名による相談・通報が難しい場合や、匿名を通したかったがうまくいかなかった場合なども、自分の身を守りつつ目的を果たせる可能性はあるといえるでしょう。
労働基準監督署に通報しても本当に不利益にならないか、通報して問題は解決するのか不安があるという方は、労働問題を取り扱っている弁護士に相談されることをお勧めします。
【まとめ】労働基準監督署への匿名通報は基本的にバレません
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 労働基準監督署に対しては、直接窓口へ赴くことによって、匿名で労働基準法違反に関する相談や通報をすることができます。
- 労働基準監督署には守秘義務があるため、誰が通報したかを外部に知らせることはありません。
- 相談・通報方法は、直接訪問・電子メール・電話の3種類がありますが、そのうち直接訪問がもっとも緊急性・信憑性が高いと判断されるでしょう。ただし、労働基準監督署の対応は調査や行政指導にとどまることが多く、実際に未払い残業代を請求するなどのアクションに関しては、労働基準監督署への相談結果も踏まえた上で、別に対処法を考える必要があります。
- 仮に外部への通報や相談をしたことを会社に知られたとしても、労働基準法や公益通報者保護法等によって、通報や相談をした労働者は解雇その他の不利益取扱いから保護されます。
職場の違法行為に悩んでいる場合には、労働基準監督署への匿名通報を検討してみましょう。
参考:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省
もっとも、未払い残業代を回収したい場合など、労働基準監督署に通報しても、根本的な問題が解決しないことも多いです。
未払いの残業代があり、労働基準監督署に通報しても問題が解決しない場合には、弁護士へ相談することをご検討ください。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した金銭(例:残業代、示談金)からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年9月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。