退職金の未払いは労働基準監督署に相談できる?退職金の請求方法とは

  • 作成日

    作成日

    2023/11/24

  • 更新日

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    2023/11/24

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目次

退職金の未払いは労働基準監督署に相談できる?退職金の請求方法とは
会社を辞めるときには、通常、退職金が支払われます。

定年退職や早期退職、自己都合退職など、退職のかたちによってさまざまですが、退職金は毎月の給与等と比べて金額が大きいことが一般的です。そのため、退職金の未払いがあると、労働者は大変困ってしまいます。

このような退職金の未払いがあった場合、労働基準監督署が相談に乗ってくれることがあります。

そこで、今回の記事では、
  • 労働基準監督署への退職金の相談はどのような場合に可能か
  • 退職金を請求するにはどうしたらいいのか
について弁護士がご説明します。

会社は退職金の支払い義務があるのか?

まず、退職金を請求する前提として会社に退職金の支払い義務があることが必要です。
会社に退職金の支払い義務があるかは、退職金が賃金(の後払い)としての性質を有しているかどうかによります。
すなわち、賃金とは、以下のものをいうとされます(労働基準法第11条)。
賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの
引用:労働基準法11条
賃金は、会社に支払い義務がある金銭であるため、賃金の未払いがあれば会社に請求することが可能です。

一方で、退職金は、労働基準法では使用者に支払いが義務づけられていません。
しかし、退職金の支給条件が就業規則や雇用契約書などに明記されるなどして、退職金の支払いが労働契約の内容となっている場合は、上記の定義を満たすことにより労働基準法の「賃金」にあたるといえるため、労働基準法上、会社に退職金の支払義務が生じることになります。

また、就業規則等に明記されていなくても、その会社では労使慣行として退職金が支払われ続けているという事情がある場合には、会社に退職金の支払い義務が生じる可能性があります。
ただし就業規則等の明確な約定に代わり得るほどの事実関係が立証できなければならず、退職金の支払いを受けるためのハードルは高いといえるでしょう。

もし退職金が労働基準法上の賃金としての性質を有しているにもかかわらず、会社が退職金を支払わない場合は、「支払うべき適正な賃金を支払っていない」ものとして、労働基準法違反となります。

退職金の未払いは労働基準監督署に相談できるのか

労働基準監督署は、企業が労働基準法違反をしている可能性がある場合に調査や指導対応を行う厚生労働省の機関です。
そのため、以下のような場合は、労働基準法違反をしている可能性があるとして、労働基準監督署に調査・勧告・指導などの対応してもらえる可能性があります。
  • 退職金が賃金としての性質を有する場合(就業規則や雇用契約などに退職金の支給条件が明示されている場合)
かつ
  • 退職金の未払いが違法である可能性が高い場合
一方で、退職金を支給することおよびその支給基準が明確でない場合は、労働基準監督署では対応してもらえないことが多いといえます。

なお、退職金の未払いについては、各都道府県労働局でも相談を受け付けています。
また、支払いがない場合は法的手段に訴える旨についても記載します。

書面を送付する際は、「普通の書面で請求する方法」と、「配達証明付内容証明で請求する方法」があります。

内容証明とは、「いつ、いかなる内容の文書が、誰から誰あてに差し出されたのか」ということを、差出人が作成した謄本(原本の全部の写し)によって日本郵便が証明する制度です。
もちろん郵便局の窓口でも差し出すことができますし、インターネットで24時間受付も行っています。

「内容証明」で送付する際は「配達証明」を付けるようにしましょう。
内容証明郵便だけでは、会社が書面を受け取った日時や受け取った事実を証明することができません。

なお、普通の書面と配達証明付内容証明のどちらを送るべきか、決まりはありません。
もっとも、配達証明付内容証明の方が、受け取った相手に威圧感(プレッシャー)を与えるのが通常です。しかし、配達証明付内容証明は普通の書面より郵送料が高くつきます。
そのため、ただの支払い忘れなど、請求さえすればすぐに支払ってくるような状況であれば、普通の書面で送る方がよいでしょう。

ただし、退職金の時効が迫っている場合には、請求したという証拠が残る配達証明付内容証明で送るほうがよいといえます。

退職金を請求する権利は、5年で時効消滅します(労働基準法第115条)。この期間を経過すると、退職金を裁判で請求しても、退職金をもらうことができなくなるのが原則です。

会社が未払い退職金の存在を認めてくれない場合、消滅時効が完成する前に訴訟提起などをして、「消滅時効の完成を阻止する措置」や、「時効完成する時期を一時的に伸ばす措置」を取らないと、そのまま権利が消滅してしまいます。

しかし、訴訟提起などの準備をするには時間がかかることも多いです。
このような場合、未払い退職金を請求(催告)すると、訴訟提起するまでの時間を6ヵ月間稼ぐことができます(この6ヶ月間は消滅時効が完成しません)。この催告したという証拠を残すために、配達証明付き内容証明郵便で請求した方がよいのです。

ただし、この6ヵ月間の間に、訴訟提起などをしないと時効が完成してしまいますので注意しましょう。
なお、配達証明付き内容証明郵便を繰り返し出すことによって、時効がさらに伸びることはありません(相手が未払い退職金の請求権の存在を認めた場合などは別です)。

(3)紛争調整機関を利用する方法

書面による請求によっても会社が退職金を支払わない場合には、各都道府県の労働局に設置されている「紛争調整委員会」に相談することも検討してよいでしょう。

紛争調整委員会とは、弁護士や大学教授といった労働問題の専門家で組織される委員会です。
そして、紛争調整委員の中から指名された「あっせん委員」が、紛争当事者(未払い退職金でいえば会社と退職者)の間に介入して、話合いをさせます。

このような紛争調整委員会によるあっせんは、基本的にあらゆる分野の労働問題がその対象となります(募集・採用に関するものは対象外)。退職金にまつわるトラブルもその対象です。
費用負担がなく、手続も迅速かつ簡便なため早期に解決するのに適しています。
あっせんの手続きは非公開のため、紛争当事者のプライバシーも守られます。

もっとも相手が話合いに応じなければ合意がないまま終了してしまいます。また、合意には判決と同じ効力はありません。
そのため合意が守られない場合は、別途、裁判するなど強制的に合意を守らせるための手段を取る必要があります。

(4)訴訟等で解決する方法

退職金の請求をしても会社が支払いに応じない場合は、労働審判や訴訟での解決も検討するとよいでしょう。

労働審判手続きは、労働者と事業主との間で起きた労働問題について、労働審判委員会(裁判官1名と労働の専門家2名)が間に入って、紛争当事者間で話合いをしたり、話し合いがまとまらない場合に労働審判委員会が審判(判断を下すこと)をしたりする制度です。

通常の訴訟に比べれば迅速な手続で、原則として期日は3回以内で終了します。
労働審判に対して異議が出ると、通常の訴訟に移行します。

通常の訴訟は、ほかの簡易な手続きに比べれば、時間や手間もかかる手続です。
もっとも、通常の訴訟では、「判決」という形で裁判所の終局的(最終的)な判断を得ることができます。
なお判決にまで至らずに、訴訟の途中で和解をすることもあります。

【まとめ】退職金の未払いは労働基準監督署に相談できます

今回の記事のまとめは以下のとおりです。
  • 労働基準法上、会社に退職金の支払い義務はありません。しかし、退職金の支給条件が就業規則や雇用契約書などに明記されており、退職金が賃金としての性質を有する場合は、会社に退職金の支払い義務が生じます。
  • 退職金が賃金としての性質を有しており、かつ、退職金の未払いが違法であることが明確な場合は、労働基準監督署に相談すると、調査・勧告・指導などをしてもらえることがあります。
  • 未払い退職金を請求するには、未払いの証拠を収集し、会社に退職金の請求を行います。会社が請求に応じない場合には、紛争調整機関を利用したり、労働審判や訴訟による解決を検討するとよいでしょう。
退職金の未払いについてお悩みの方は、一人で悩まず労働基準監督署に相談するとよいでしょう。

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この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

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