労働基準法の「付加金」とは?実際に支払われるのはレアケース?

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    2023/10/19

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    2023/10/19

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目次

労働基準法の「付加金」とは?実際に支払われるのはレアケース?
残業代等の未払いが悪質であった場合、会社への制裁として、裁判所から「付加金」が課されることがあります。

裁判所が会社に対して付加金の支払を命じ、その裁判が確定すると、労働者は、「残業代等の未払い金」+「最大で当該未払い金と同一額の付加金」の支払いを受ける権利を得ます。

ところが、付加金の仕組みには「からくり」があり、付加金が実際に支払われるケースは珍しいです。

今回の記事では、
  • そもそも付加金とは何か
  • どのような場合に労働者が請求できるのか
  • 実際の支払い状況はどうなっているのか
について弁護士がご説明します。

労働基準法で定められている「付加金」の概要

付加金とは、労働者の請求により、裁判所が裁量により支払を命じる金銭のことです。裁判所から付加金の支払いを命じる裁判が下され、その裁判が確定すると、会社は残業代等の未払い賃金に加えて、最大で当該未払い金と同一の額を労働者に支払う義務が発生します。

アメリカの付加賠償金制度を参考に規定されたもので、「残業代等の悪質な未払いに対する会社への制裁」と位置付けられています。

(1)付加金の対象となる4つの未払金

付加金の対象となるのは、次の4つの未払い金です(労働基準法114条参照)。
  1. 解雇予告手当(労働基準法20条1項)
  2. 休業手当(労働基準法26条)
  3. 時間外・休日労働等に対する割増賃金(労働基準法37条)
  4. 年次有給休暇中の賃金(労働基準法39条9項)
なお、上記以外の給与の未払いは、付加金請求の対象外です。

裁判所は、第20条(解雇の予告)、第26条(休業手当)若しくは第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)の規定に違反した使用者又は第39条9項(年休手当の計算)の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から5年以内にしなければならない。

引用:労働基準法114条
労働基準法114条にいう「違反のあった時」とは、先ほどの4種類の手当等について、就業規則等で定められた支払期日に支払いがされなかった時を意味します。

(2)付加金を請求できるのは、未払い発生から「2年」もしくは「3年」以内

従来、付加金の請求可能期間は、未払いがあった時(就業規則等で定められた期日通りに支払いがされなかった時)から「2年」でした。
ところが、労働基準法が改正され、2020年4月1日以降に支払日がくる賃金に対する付加金については、「5年」に延長されることになりました。
ただし、経過措置として、請求可能期間は、当面の間は「5年」ではなく、「3年」です。

(3)付加金を請求するには、労働訴訟を起こす必要がある

付加金は、労働者が労働訴訟で請求し、裁判所が請求を認めた場合に、判決として会社に対して支払いを命じるものです。
そのため、次の3つのケースでは、付加金は支払われません。
  1. 任意交渉で和解が成立した場合
  2. 労働審判委員会管轄の労働審判で解決した場合
  3. 訴訟上の和解が成立した場合
なお、労働審判手続は、個々の労働者と使用者との間の労働関係のトラブルを、実際の状況に応じて、迅速、適正かつ実効的に解決するための非公開の手続です。

原則として3回以内の期日で審理を終えることとされているため、迅速な解決が期待でき、多くの事件が3ヶ月以内に手続きを終えています。
労働審判の結果に適法に異議が申立てられた場合には、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行します。

(4)付加金請求が認められるとどうなる?

付加金の金額は、法律上は「(未払い金の金額と)同一額」と定義されています。
もっとも、実際には裁判所が、使用者による法律違反の程度や態様、あるいは労働者の不利益の性質・内容など諸般の事情を総合的に判断して付加金の支払いの要否及び金額を決定するため、一概に「同一額」といえるわけではありません(「同一額」が付加金の上限となるということになります)。
そのようにして決定された額の付加金について、裁判所が使用者に対して、未払金とともに支払いを命ずることになります。

付加金の支払いが、実際にはレアケースである2つの理由

これらの規定があるにもかかわらず、実際には付加金が支払われるケースは珍しいです。
以下では、付加金が支払われるケースが、実態としてはレアケースである理由を説明します。

(1)労働事件の多くは、訴訟以外の方法で解決しているから

実態として、労働事件の多くは、付加金が支払われない以下の3ケースのいずれかで解決しています。これらの3ケースにおいては、前述したように、付加金の支払いが裁判所によって命じられることはありません。
  1. 任意交渉での和解成立
  2. 労働審判での解決(労働審判は訴訟ではないため)
  3. 訴訟上での和解成立

(2)裁判で付加金の請求が認められても、控訴審で弁済すると付加金は支払われないから

付加金は、付加金の支払いを命じた裁判が確定した後でないと支払い義務が発生しません。

そして、日本の裁判所では、正しい裁判を実現するために、三審制度、すなわち、第一審、第二審、第三審という3つの審級の裁判所を設けて、当事者が望めば、原則として3回までの反復審理を受けられるという制度を採用しています。
第一審で付加金の支払いが命じられても、控訴をして裁判が確定する時期を引き延ばした上で、控訴審(第二審)が終結するまでに使用者が第一審で命じられた未払い金を清算(弁済)すると、控訴審で付加金の支払いを命じられる根拠がなくなることになります。
このことにより、使用者側は容易に付加金の支払いを回避できることになります。

労働者が付加金請求を行なうメリット

前で述べたように、実際に付加金が支払われるのはレアケースにとどまります。
しかし、付加金請求をしておくと、第一審判決で、付加金の支払いを命じる判決が出た場合に、会社が未払金を任意に払ってくる可能性が高まります。

すなわち、第一審で付加金の支払を命じる判決が出た場合、会社は付加金の支払を避けるため、裁判の確定前に未払金を任意に払ってくる可能性が高くなります。任意に払ってもらえれば、強制執行をする手間や時間を省くことができます。

他方で、会社が判決に従わずに、未払金を払ってくれない場合、労働者は自ら会社の財産の在処を調査した上で、時間と費用をかけて強制執行をしなければなりません。
こうした事態を防ぐためにも、労働者が付加金を請求することにはメリットがあるのです。

労働訴訟によって付加金の支払いが企業に命じられた事例

それでは、労働訴訟によって付加金の支払いが命じられた実際の事例を紹介します。
  • 医療法人社団康心会(差戻審)事件(最高裁第2小法廷判決平成29年7月7日労判1168号49頁、(差戻審)東京高裁判決平成30年2月22日労判1181号11頁)
医師が雇用主である医療法人に対し、解雇無効に基づく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めるとともに、時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求める訴訟において、最高裁は「医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても、当該年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないという事情の下では、当該年俸の支払により、時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない」と判示しました。
そして、付加金の支払いを命ずることの適否及びその額等についてさらに審理を尽くさせるため、割増賃金及び付加金に関する請求をいずれも棄却すべきものとした控訴審の判決を破棄し、東京高裁に差し戻しました。
差戻審では、パソコンのログアウト記録などをもとに労働時間の詳細な認定がされた結果、付加金として割増賃金の残額と同額の支払いが命じられました。
  • イオンディライトセキュリティ事件(千葉地裁判決平成29年5月17日労判1161号5頁)
24時間勤務などで従事していた店舗の警備員が、時間外労働に対する未払いの割増賃金及びこれに対する遅延損害金や、割増賃金の未払金に係る付加金及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。
仮眠時間や休憩時間が労働時間に当たるかなどの点が争われ、裁判所はこれを労働時間と認める判断をしました。
そして、「仮眠時間又は休憩時間中の警備員に対して労働からの解放を保障するための有効かつ具体的な措置をとった事実は認められない」こと、基本給がそれほど高いとはいえないという事情からして「割増賃金の不払によって原告が受けた不利益は大きいといわざるを得ない」こと、といった労使双方の事実を総合し、「付加金という制裁を課すことが相当でない事情又はこれを減額すべき事情があるとは認められない」として、時効にかかっていた部分を除いて、未払い割増賃金と同額の付加金を支払うことを命じるのが相当である旨の判決が下されました。

アディーレ法律事務所でも、未払い残業代の請求について、解決実績を有しています。

【まとめ】付加金は会社への制裁

今回の記事のまとめは以下のとおりです。
  • 労働者の請求により、裁判所から付加金の支払を命じる裁判が下され、その裁判が確定すると、会社は残業代等の未払い賃金に加えて、最大で当該未払い金と同一の額を労働者に支払う義務が発生する。付加金は会社への制裁という位置づけ。
  • 実際に付加金が支払われることはレアケース。その理由は、(1)労働事件の多くは訴訟以外で解決していることと、(2)第一審で付加金の支払いが命じられても控訴して、控訴審終結までに未払い金を支払えば付加金の支払義務がなくなることにある。
  • ただし、付加金請求をしておくと、第一審判決で、付加金の支払いを命じる判決が出た場合に、会社が未払金を任意に払ってくる可能性が高まるというメリットがある。
残業代請求に合わせて付加金も請求したいが、自分で請求するのは不安。そんな方はアディーレ法律事務所にご相談ください。残業代請求に関するご相談は、何度でも無料です。

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この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

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