マタハラとは?職場でみられる具体例、対処法について解説

  • 作成日

    作成日

    2023/12/18

  • 更新日

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    2023/12/18

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目次

マタハラとは?職場でみられる具体例、対処法について解説
妊娠・出産・育児は喜ばしいことであると同時に、本人にとっては負担が増えることでもあります。

そのため周囲の人の助けを必要としながら、助けてもらうどころか「マタハラ」を受けて苦しめられている人も少なくありません。

法改正により、2019年1月から、妊娠・出産・育児休業等に関するマタハラについて、適切な防止措置を取ることが事業主に義務付けられました。

マタハラについて弁護士が解説します。

マタハラとは

マタハラとは、マタニティハラスメントのことです。
明確な定義はありませんが、妊娠、出産、育児に関することで不快な思いをさせられることを広くマタハラといいます。女性だけではなく、育児に参加しようとする男性もマタハラの対象となることがあります。

妊娠や出産、育児を理由とした解雇や雇い止めをされるケースや、職場での精神的・肉体的な嫌がらせなどが社会問題となっています。

職場でみられるマタハラの具体例

職場でみられるマタハラの例をご紹介します。

(1)嫌味を言われる

妊娠・出産・育児に関して、職場で次のような嫌みを言われるというマタハラがあります。
  • 妊娠・出産・育児に関する休みを取ろうとすると「休みが多い」と言われる
  • 仕事を休んで妊婦検診に行こうとすると、病院に行く際「会社が休みの日に行けないのか?」と言われる
  • 「休暇を取るせいで、みんなの仕事が大変になって迷惑している」などと言われる
  • 妊娠したため外回りの仕事を免除してもらったところ、周囲から「ずるい」と言われる
  • 男性が育児休業を取ろうとすると「男のくせに育児休業をとるのはおかしい」と言われる
  • 入社してすぐに妊娠するのはおかしいと言われる

(2)辞めるよう迫られる

妊娠や出産・育児を機に、会社を辞めるように迫られるというマタハラがあります。
  • 産前・産後休業や育児休業などを取得しようとすると、会社を辞めるように言われる
  • 会社が、直接的に解雇するようなことをしなくても、自ら退職をするよう迫られたり、そうせざるを得ない状況に追い込まれたりする

(3)労働環境を悪化させる

妊娠や出産、育児を機に、次のように労働環境を悪化させるというマタハラがあります。
  • 正社員からパートになるなど、労働契約内容の変更を強要してくる
  • 降格や、就業環境を害したりする
  • 減給や不利益な評価を行う
  • 不利益な配置転換をされる
  • 合理的理由もなく、仕事をもらえない

(4)契約が更新されない

妊娠や出産、育児を機に、契約を更新しないというマタハラがあります。
  • 期間を定めて雇用されているところ、妊娠・出産をすると「契約の更新をしない」などと言われる

マタハラが起こる主な理由

マタハラはなぜ起こるのか、同僚や上司がマタハラをしてしまう背景についてご説明します。

(1)仕事に支障が出ることによるマタハラ

妊娠・出産・育児をする人が会社を休むことで、仕事に支障をきたすことは事実として起こり得ます。

特に従業員数の少ない中小企業では人手不足になることなど、業務への影響が大きいため、そのことに対する不満からマタハラをするケースがあります。

また「とにかく休まず働くこと」を美徳として考える経営者、上司もおり、妊娠・出産・育児に関する休みを取得しようとする従業員と対立しやすいという背景もあります。

しかし、事業主は、妊娠・出産・育児のため休む従業員がいても業務が回るように配慮するべきで、仕事に支障が出るからといってマタハラをすることは許されません。

(2)妊娠や出産、育児への理解のなさによるマタハラ

妊娠、出産、育児への理解が足りないためにマタハラをする人もします。

たとえば、妊娠・出産・育児をしながらでも仕事はできるはずと考える人や、逆に、仕事との両立は不可能だから会社を辞めるべきと考える人もいます。

また、妊娠中に起こるつわりや、出産、その後の育児の大変さは人それぞれ異なるものの、自身の経験だけをもとに「自分は問題なかったから、あなたもできるはず」といったことを言われることもあります。

いずれも妊娠や出産、育児に対する理解が不足していることが原因になってしまっています。

知らないからマタハラは許されるというものではありません。相手の立場になって物事を考えることが大切です。

マタハラがなぜ違法になるのか

マタハラは、労働基準法違反、男女雇用機会均等法違反、育児介護休業法違反など、違法行為に該当する可能性があります。

以下で、それぞれの違反につき例を挙げてご説明します。

(1)労働基準法違反

女性からの産休取得の申し出を拒むことは、労働基準法違反となります。

すなわち、出産予定日から6週間以内の女性が産前休業を請求しているにもかかわらず、使用者が拒否すると労働基準法違反となります。

また、産後6週間以内の女性を働かせることは、本人の意思にかかわらず違法です。産後6週間を経過すると、「女性本人の請求+働いても支障がないとの医師の判断」があれば働かせても労働基準法違反とはなりませんが、女性本人が希望していないにもかかわらず働かせると、労働基準法違反となります。
第六十五条
使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
引用:労働基準法|e-Gov法令検索

(2)男女雇用機会均等法違反

男女雇用機会均等法第9条では、「妊娠・出産を理由とする不利益取り扱いの禁止」を定めています。

たとえば、女性労働者が妊娠・出産したことや産前産後休業を取得したことを理由に、解雇や不利益な取扱いをすることは雇用均等法違反となります。

また、女性労働者が妊娠したこと、出産したことを退職の理由として定めを置くことも許されません。
第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
引用:男女雇用機会均等法
また、男女雇用機会均等法第11条の3第1項では、女性労働者が妊娠・出産により、産前・産後休業を取得したことについて、周囲が何か言うことで当該女性労働者の就業環境が害されないように、相談に乗ったり、適切な措置を取ることを事業主に義務付けています。

事業主が、改善が必要な状況であるにもかかわらず放置していると、同条違反に該当する可能性があります。
第十一条の三 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
引用:男女雇用機会均等法

(3)育児介護休業法違反

マタハラは、育児介護休業法にも関連します。

同法第25条第1項では、「育児休業の利用や、子の養育に関する一定の制度や措置の利用」に関して、周囲が何か言ったりすることにより、当該労働者の就業環境が害されることのないよう、事業主は相談に乗ったり、適切な措置を講じなければならないと定めています。

事業主が、改善が必要な状況であるにもかかわらず放置していると、同条違反に該当する可能性があります。
第二十五条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない
引用:育児介護休業法

マタハラに関する裁判例

マタハラは裁判例でも違法と判断された事例があります。

マタハラに関する裁判例をご紹介します。

(1)正光会宇和島病院事件

1年間の雇用契約を反復更新していた女性労働者に対して妊娠を理由に雇止めした行為が、男女雇用機会均等法に違反するとして無効と判断されています(松山地裁宇和島支部判決平成13年12月17日労判839号68頁)。

(2)日欧産業協力センター事件

育児休業の申し出を拒否されたために、産後休暇明けから働かなければならなかったことにつき、不法行為に基づく慰謝料40万円が認められています(東京地裁判決平成15年10月31日労判862号24頁)。

マタハラにあった際の対処法

マタハラにあった場合の対処法についてご紹介します。

(1)会社にマタハラを相談する

会社には一定のマタハラに対する措置を講ずる必要があるため、マタハラを受けたときには、まず会社に相談することを検討しましょう。

一部の者だけがマタハラをしているのであれば、会社に相談することで改善される可能性もあります。

(2)都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へ相談する

マタハラを会社に相談しても改善されない、もしくは見込みがないと思われる場合には都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へ相談しましょう。

一定の要件に該当すれば、都道府県労働局長による助言・指導・勧告をしてもらえたり、事業主と労働者とで調停(話合い)などをすることもできます。

(3)弁護士にマタハラを相談する

マタハラにより実害を受けている、不利益の度合いが大きい、急いで対処する必要がある、といった場合には弁護士に相談するとよいでしょう。

会社からしても、弁護士が介入したことにより法的な問題に発展する可能性が高いと判断し、すぐに対応してくれることも考えられます。また悪質なマタハラにより損害が生じている場合には、慰謝料などを損害賠償請求ができる可能性も出てきます。

【まとめ】マタハラでお困りの方は弁護士へ相談することをおすすめします

マタハラは、妊娠・出産・育児に関して嫌みを言われるだけでなく、育児休業を拒否されたり、会社を辞めさせられたりと、多岐にわたります。

マタハラは、妊娠・出産・育児で頑張る労働者を苦しめるものであり、決して許されるものではありません。

マタハラを受けた場合には早期に弁護士や厚生労働省委託事業である「ハラスメント悩み相談室」などに相談し、どのような対応を取るのがベストなのか、事例に応じたアドバイスを受けることをお勧めします。

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この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

髙野 文幸の顔写真
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