変形労働時間制でも残業代は発生する!36協定が必要なケースとは

  • 作成日

    作成日

    2023/11/16

  • 更新日

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    2023/11/16

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目次

変形労働時間制でも残業代は発生する!36協定が必要なケースとは
働き方の多様化とともに、変形労働時間制という労働時間制度を導入する企業が多くなっています。

この制度には、業務の忙しさやライフスタイルに合わせて働くことが可能になるというメリットがある一方で、労働時間や割増賃金の管理が複雑になりがちな側面もあります。

変形労働時間制のメリットを享受しながら、不当な長時間労働やサービス残業を回避できるようにするためにも、変形労働時間制の仕組みや、時間外労働・割増賃金が発生するケースについて、しっかりと理解しておきましょう。

変形労働時間制とは

まず、変形労働時間の仕組みについて説明していきましょう。

(1)変形労働時間制は、労働時間を「日・週」ではなく「週・月・年」単位で計算する

変形労働時間制とは、一定の単位期間(1年・1ヶ月・1週など)において、期間内の週あたりの平均労働時間が週の法定労働時間(原則として40時間)に収まっていれば、特定の日や週に法定労働時間(原則として1日8時間・1週40時間)を超えた労働をさせたとしても時間外労働とはならないとする制度です。

つまり、変形労働時間制では、労働時間を週単位・月単位・年単位で調整し、計算することになります。

(2)変形労働時間制は「残業代を抑える効果」を持つ制度

変形労働時間制の下では、業務の繁閑に応じてあらかじめ労働時間を月単位や年単位で調整しておけば、特定の期間に労働時間が一定程度増加しても時間外労働が発生しないこととなり、使用者が割増賃金(いわゆる残業代)を支払う必要がありません。
そのため、労働時間制度の柔軟な運用が可能となり、割増賃金(いわゆる残業代)を抑える効果を持つことになります。

ただし、割増賃金がまったく発生しないわけではないことには注意が必要です。

(3)変形労働時間制の種類

変形労働時間制には、大きく分けて3つの種類があります。

(3-1)1ヶ月単位の変形労働時間制

使用者は、事業場の労働者の過半数代表との労使協定又は就業規則その他これに準じるものにより、1ヶ月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない定めをした場合には、その定めにより、特定された週又は日において1週40時間又は1日8時間を超えて労働させることができます(労働基準法第32条の2)。

(3-2)1年単位の変形労働時間制

使用者は、事業場の労働者の過半数代表との労使協定により、1ヶ月を超え1年以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない定めをした場合には、その定めにより、特定された週又は日において1週40時間又は1日8時間を超えて労働させることができます(労働基準法第32条の4)。

(3-3)1週間単位の変形労働時間制

使用者は、小売業、旅館、料理店及び飲食店の事業であって、常時使用する労働者が30人未満である場合は、事業場の労働者の過半数代表との労使協定により、1日について10時間まで労働させることができます(労働基準法第32条の5、労働基準法施行規則第12条の5)。

変形労働時間制においても「時間外労働」や「休日労働」が発生する場合には36協定の締結が必要

変形労働時間制の場合でも、36協定の締結が必要なケースがあります。
以下では、そうしたケースについて説明していきます。

(1)36協定とは

まず、36協定の意義と役割について説明いたします。

労働基準法では、労働時間の上限(第32条)や休日の付与(第35条)が定められています。この上限のことを「法定労働時間」といい、法律で労働者への付与が義務付けられているこの休日のことを「法定休日」といいます。

そして、法定労働時間を超える労働のことを「時間外労働」、法定休日に行う労働のことを「休日労働」と呼んでいます。

なお、会社が独自に定める労働時間及び休日のことは、それぞれ「所定労働時間」「所定休日」といいます。

使用者が労働者に「時間外労働」や「休日労働」をさせる場合は、以下のことを行わなければなりません。
  • 労働基準法第36条に基づく「時間外・休日労働に関する労使協定」(以下、36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ること。
  • 雇用契約書や就業規則等に「36協定の範囲内で残業や休日出勤を命じる」旨を明記すること。
36協定の締結・届出をせずに労働者に時間外労働や休日労働をさせた場合、使用者には罰則(労働基準法第119条1項)が科される可能性があります。

(2)「時間外労働」と残業代の計算方法

すでに述べたように、法定労働時間(原則は1日8時間以内・1週40時間以内)を超える労働のことを「時間外労働」といいます。

「時間外労働」が行われた場合、使用者は労働者に対して、所定の割増率(下に掲げる表を参照のこと)に基づいて計算された割増賃金(いわゆる残業代)を支払わなければなりません(労働基準法第37条)。

なお、常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作は除く)、保健衛生業、接客業については、1週間当たりの法定労働時間が44時間とされています(労働基準法40条、労働基準法施行規則第25条の2第1項)。
割増賃金は3種類
(※1)25%を超える率とするよう努めることが必要です。
(※2)中小企業については、2023年4月1日から適用となります。
そして、変形労働時間制の場合でも、時間外労働が発生する場合があり、時間外労働をさせる場合には36協定の締結及び届出が必要となります。
また、時間外労働の時間に対応した割増賃金が発生します。

変形労働時間制における時間外労働の時間は、「1日単位」「週単位」「単位期間の全体」という3段階の計算を合計することによって算出されます。

具体的には、以下のような手順で計算することになります。

1. 1日単位の計算
o 所定労働時間が8時間を超えて設定された日についてはそれを超えて労働した時間
o 所定労働時間が8時間以内に設定された日については8時間を超えて労働した時間

2. 週単位の計算
1で時間外労働として計算された時間を除き、
o 所定労働時間が40時間(上記した一部の業種では44時間、以下同じ)を超えて設定された週についてはそれを超えて労働した時間
o 所定労働時間が40時間以内に設定された週については40時間を超えて労働した時間

3. 単位期間全体での計算
1、2で時間外労働とされた時間を除き、単位期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間
※1ヶ月の法定労働時間の総枠は、「週の法定労働時間(原則として40時間)×暦日数÷7日」として計算されるため、1ヶ月が28日の月であれば160時間、31日の月であれば177.1時間となります。

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(3)「休日労働」と休日手当

法定休日に行われた労働のことを「休日労働」といいます。
休日労働が行われた場合、使用者は労働者に対して、所定の割増率に基づく割増賃金(いわゆる休日手当)を支払わなければなりません(労働基準法第37条)。

そして、変形労働時間制であっても、法定休日に行われた労働は休日労働と扱われ、割増賃金の適用対象となります。

なお、法定休日ではない所定休日(法定外休日)に労働したとしても、休日労働にはあたらないため、休日労働としての割増賃金の支給対象にはなりません。

また、法定休日は、あらかじめ別の日に振り替えることができます(振替休日の指定)。
振替休日の指定があった場合は、法定休日だった日が入れ替わって労働日と扱われるため、その日の労働は休日労働にはならず、割増賃金は支払われません。

(4)「深夜労働」と深夜手当の計算方法

使用者が、深夜の時間帯に労働(いわゆる「深夜労働」)をさせた場合には、労働者に対して、所定の割増率に基づく割増賃金(いわゆる深夜手当)を支払わなければなりません。
この「深夜労働」は、原則として22~5時までにした労働のことを指します(労働基準法第37条4項)。

そして、変形労働時間制であっても、深夜労働が行われた場合は、割増賃金の適用対象となります。

(5)時間外労働や休日労働には「時間外労働の上限規制」が適用される

働き方改革関連法の施行(2019年4月)により労働基準法等が改正され、「時間外労働の上限規制」が大企業には2019年4月から、中小企業には2020年4月から適用されるようになりました。

具体的には、法定労働時間を超える時間外労働の限度時間を、原則として「月45時間・年間360時間」(3ヶ月を超える期間を定めた1年単位の変形労働時間制の場合にあっては、月42時間・年間320時間)とすることが法律上で規定されました(労働基準法第36条3項・4項)。

また、臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項を付けた36協定を労使間で締結すれば上限を引き上げることが可能となりますが、その場合でも、以下のような上限規制を守らなくてはなりません。
  • 時間外労働は年720時間以内(労働基準法第36条5項かっこ書き)
  • 時間外労働及び休日労働の合計が、複数月(2~6ヶ月のすべて)平均で80時間以内(同法第36条6項3号)
  • 時間外労働及び休日労働の合計が、1ヶ月当たり100時間未満(同法第36条6項2号)
  • 原則である1ヶ月当たり45時間を超えられるのは1年につき6ヶ月以内(同法第36条5項かっこ書き)
これらに違反した場合には、使用者に6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されるおそれがあります(同法第119条)。
なお、新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については、上記の上限規制の適用が除外されています(同法第36条11項)。

変形労働時間制でサービス残業が常態化している場合は、どうしたら良い?

一般に「サービス残業」とは、実際には労働をしているのに、正当な割増賃金(残業代)が支払われない時間外労働・休日労働・深夜労働のことをいいます。
変形労働時間制を理由に、適切な割増賃金が支払われないといったケースも実際にはありうるところです。

サービス残業が常態化するなど、会社が法律にのっとった残業制度の運用を行ってくれない、または改善を申し入れても取り合ってくれないような場合には、不当な残業が行われていることを証明できる証拠を取り揃えた上で労働基準監督署(労基署)に相談すると良いでしょう。

労働基準監督署への相談を会社に内密で行いたい場合は、匿名で相談することも可能です。

なお、労働基準監督官は法律上の秘密保持義務を負っているため、実名相談の場合であっても、申告者が誰であるかを会社に伝えることはありません。
ただし、労働基準監督署は個別のトラブルの解決を目的とした機関ではないため、未払いの残業代を請求したい場合には、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

残業代の計算は複雑なものになりがちですし、交渉や訴訟においては適切な証拠に基づいた的確な主張・立証を行う必要があります。

適切な証拠を集めるためのアドバイスも期待できますし、残業代の消滅時効期間の確認や、消滅時効期間の更新・完成猶予といった重要な法律上の手続きもしてもらうことができます。

【まとめ】変形労働時間制でも時間外労働・休日労働・深夜労働に対しては割増賃金(残業代)が発生する

今回の記事のまとめは以下のとおりです。
  • 変形労働時間制は、一定の単位期間内の週平均労働時間が週の法定労働時間の範囲内であれば、特定の日や週の法定労働時間を超えた労働も時間外労働とはならないとする制度です。1ヶ月単位、1年単位、1週間単位の3種類があります。
  • 変形労働時間制では、一定の範囲で法定労働時間の枠を柔軟化させることができますが、その枠を超えた労働はやはり時間外労働として扱われます。「時間外労働」や「休日労働」が発生する場合には36協定の締結が必要であり、所定の割増賃金の支給対象となることは一般的な労働時間制の場合と同様です。
  • 変形労働時間制を理由に適切な割増賃金が支払われない場合には、労働基準監督署や、弁護士に相談することをお勧めします。
未払いの残業代があり請求を検討している方は、残業代請求を扱っているアディーレ法律事務所にご相談ください。

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この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

髙野 文幸の顔写真
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法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき 25%以上
時間外労働が限度時間(1ヶ月45時間、1年360時間等)を超えたとき 25%以上
(※1)
時間外労働が1ヶ月60時間を超えたとき(※2) 50%以上
(※2)
休日
(休日手当)
法定休日(週1日)に勤務させたとき 35%以上
深夜
(深夜手当)
22~5時までの間に勤務させたとき 25%以上