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生活保護を受けている方が過払い金を請求をする前に知っておくべき3つの注意点

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kiriu_sakura

※アディーレ法律事務所では様々な法律相談を承っておりますが、具体的な事情によってはご相談を承れない場合もございます。予め、ご了承ください。

「働くことができなくて生活保護を受け始めたけど、テレビとかでよく聞く『過払い金』があれば生活が楽になるのかな……。」

支払い過ぎた利息を取り戻すための「過払い金返還請求」。
過払い金があれば借金の額を減らせたり、逆にお金を取り戻せる可能性があります。

しかし、生活保護を受けている間に過払い金を回収できた場合、一部のお金を自治体に支払わなければならなくなったり、生活保護が停止・廃止になるおそれもあります。
また、過払い金返還請求を試みても結局借金が残った場合には、借金問題を解決するために、「自己破産」などの手続きが必要となる可能性もあります。

こうした影響が考えられますので、生活保護を受けている間に過払い金返還請求をしたくなった場合には、あらかじめケースワーカーや福祉事務所に相談しておくことがおすすめです。

この記事では、次のことについて弁護士が解説します。

  • 生活保護を受けていても、過払い金返還請求はできること
  • 生活保護を受けている間に過払い金返還請求をしたいときの3つの注意点
  • 借金と生活保護の関係
この記事の監修弁護士
弁護士 谷崎 翔

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。

生活保護を受けていても、過払い金返還請求はできる!

生活保護を受けているからといって、過払い金返還請求ができなくなってしまうわけではありません。

過払い金とは、支払い過ぎた利息のことです。
そして、本来支払う必要のなかった分のお金を取り戻す、法律上の権利(民法703条)を行使するのが「過払い金返還請求」です。
生活保護を受けているからといって、過払い金を請求する法律上の権利が無くなってしまうわけではありません。

ですので、生活保護を受けている方であっても、過払い金が発生していれば、過払い金返還請求をすること自体は可能です。

過払い金返還請求をすることのできる可能性があるのは、次の2つの条件を両方満たしている方です。

  • 2010年(平成22年)6月17日以前に借入れを始めた(※)
  • 過払い金返還請求をしようと思っている貸金業者について、最後に返済や借入れをした日から10年以内である
  • (※一部の貸金業者ではそれに先駆けて金利を下げていましたので、これ以前の借金についても過払い金が発生していないこともあります。)

生活保護を受けている方が、過払い金返還請求をするときの3つの注意点

注意しなければならないのは、過払い金を無事回収できた場合の、生活保護への影響です。
主な注意点は、次の3つです。

  • お金を役所に返さなければならない可能性
  • 生活保護費の受給が停止、廃止される可能性
  • 過払い金を回収できたことを隠していると、不正受給となってしまうおそれ

それぞれについてご説明いたします。

(1)お金を役所に返さなければならない可能性

生活保護は、その人の能力や資産などを活用しても、収入が「最低生活費」(※)を下回る場合に、不足額を受け取ることができるという制度です。

※最低生活費……憲法で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」に必要な費用として、厚生労働省が算出する生活費のことです。

過払い金を回収できた月は、その分収入が増えています。
ですので、通常の月と同額の生活保護費を受給すると、最低生活費をオーバーすることとなります。
最低生活費をオーバーした分は、自治体に返すというのが原則ですので(生活保護法63条)、受け取った生活保護費のうちの一部を返さなければならない可能性があります。

参考:生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法|厚生労働省

(2)生活保護費の受給が「停止」「廃止」となる場合も

また、回収できた過払い金の額によっては、受給停止となる可能性もあります。
例えば、回収できた過払い金によって、一時的に生活保護を受給しなくても生活を維持できる状態になった場合には、生活保護費の支給が「停止」となる可能性があります(生活保護法26条)。

停止となるのは、一時的には生活保護が必要ない状況になっているものの、おおむね6ヶ月以内に再び生活保護が必要な状況になると見込まれる場合です。
そのため、停止となる場合にはあらかじめ「停止期間」(最長6ヶ月)が定められるのが基本です。

一方、回収できた過払い金の額が大きければ、生活保護が不要な状態が6ヶ月を超えて続くと見込まれる場合もあります。
このような場合には、生活保護が「廃止」となる可能性があります(生活保護法26条)。

参考:2020(令和2)年4月1日施行 生活保護実施要領等 87頁(91枚目)|厚生労働省

(3)過払い金について隠していると、「不正受給」となるおそれも!

過払い金を回収することができたにもかかわらず、ケースワーカーや役所に対して隠していると、「不正受給」になってしまうおそれがあります。

過払い金を回収できたことで、生活保護費の一部を役所に返す必要があったり、数ヶ月間は生活保護費を受給する必要がなくなったにもかかわらず、過払い金の存在を隠して生活保護費を受給していると、

受給した額の全部または一部

を徴収されるおそれがあります(生活保護法78条1項)。

さらに、上で決まった徴収額のうちの40%までの金額を上乗せされてしまうおそれもあります(生活保護法78条1項)。

例えば、30万円を不正受給したケースで、30万円全額を徴収することとなった場合に、さらに30万円の40%にあたる「12万円」の限度で、徴収額が上乗せされてしまう可能性があるのです。

不正受給は、単に費用徴収にとどまらず、情状により、生活保護の罰則規定(生活保護法85条)あるいは刑法の規定に基づき処罰を受けることもあります。

ですので、過払い金返還請求をしたいと思った場合や、無事に過払い金を回収することができた場合には、ケースワーカーに伝えたり、福祉事務所に報告するなどしておく必要があります。

「もしも、過払い金がなかったら……?」借金と生活保護の関係とは

「過払い金で、借金を減らしたり、逆にお金を取り戻したりできないかな」と思っていても、そもそも支払い過ぎた利息が無かったり、回収できる過払い金が無かった場合などには、借金が残ってしまうこととなります。

それでは、借金と生活保護の関係や注意点についてご説明します。

(1)借金があっても、生活保護を受けることはできる

まず、借金を抱えている方であっても、生活保護を受けることはできます。
生活保護を受けるための条件に、「借金がないこと」というものは無いからです。

生活保護を受けるための主な条件は、次の3つです。

  • すでに自身が持っている資産などを活用している状況である
  • 働いても最低生活費分の収入を得ることができない状況である
  • 親戚や親族からの援助が受けられない/援助を含めても、最低生活費を下回る状況である

このように、借金があるかどうかは生活保護を受けられるかどうかには基本的に関係ないのです。

借金があっても生活保護を受けられることや、支給される費目について、詳しくはこちらをご覧ください。

借金があっても生活保護は受けれるか?弁護士がわかりやすく解説

(2)生活保護を受けている間、「返済」は原則NG

しかし、生活保護を受けられることになったとしても、それだけでは借金から解放されることはできません。
なぜなら、生活保護を受けている間、借金返済は原則としてできないからです。

そもそも生活保護で支給される金額は、最低限度の生活を維持するための金額のみです。
生活保護を受けている間に借金を返済していると、「借金を返済できているということは、家計に余裕があるということだ」と判断され、支給される金額が引き下げられたり、生活保護自体が停止や廃止となってしまうおそれがあります。

「こっそり返済していれば大丈夫じゃない?」と思われるかもしれません。
しかし、福祉事務所が銀行口座について調査する(生活保護法29条1項1号)ことで、返済していたことが発覚する可能性があります。
「返済にお金を回せる≒その分家計に余裕がある」ことを隠していた場合には、不正受給を疑われてしまうおそれもありますので、生活保護を受け始めて以降は借金を返済しないでおくことが安全だと言えます。

(3)生活保護を受けている場合の、借金への対処法「自己破産」

生活保護を受けている間は借金返済がNGとは言っても、借金を返済する義務はそのまま残り続けます。
ですので、借金を放置していると、債権者から財産を差し押さえられてしまうおそれがあります。

もうお金も何もないから生活保護を受けているのに、差押えなんて受けるの?

差押えのリスクが無いとは言い切れません。
「生活保護費を受け取る権利」自体は、確かに差押えが禁止されています(生活保護法58条)。
ですが、生活保護費が預金口座に入金されると、「預金への差押え」を受けてしまうおそれがあるのです。
差押えが禁止されている「生活保護費を受け取る権利」も、ひとたび預金口座に入ってしまえば、差押えが可能な預金と一体になってしまうからです。

実質的に生活保護費を差し押さえられたのと同じ状況になった場合、裁判所に対して「差押禁止債権の範囲の変更の申立て」をすることで、預金差押えが取消しになる可能性はあります。
しかし、預金差押えを必ず取り消してもらえるとは限りません。

そこで、そもそも差押えを受けずに済むように、事前に借金問題に対処しておくことがおすすめです。
生活保護を受けている場合には、原則全ての支払義務が無くなる可能性(※)のある「自己破産」を第一に検討することとなります。
繰り返しになりますが、生活保護を受けている場合、基本的に借金返済はNGだからです。

※裁判所が「免責許可決定」を出せば、税金などの一部の支払義務を除いて、原則全ての支払義務が免除となります。借金返済の負担を減らすための方法には他にも「任意整理」や「個人再生」などがあるのですが、いずれも基本的には数年間返済を続けることとなる手続きです。そのため、まずは「自己破産」を検討することとなります。

自己破産の手続きの流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。

自己破産の手続きにかかる期間はどれくらい?流れに沿って解説

【まとめ】生活保護を受けている間でも過払い金返還請求はできる!思わぬ影響が生じないよう、あらかじめケースワーカー等に相談することがおすすめ

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • 生活保護を受けている間でも、過払い金返還請求をすることはできる。
  • 生活保護を受けている間に過払い金返還請求をしたい場合の注意点は、主に次の3つ。
    1. お金を役所に返さなければならない可能性
    2. 生活保護費の受給が停止、廃止される可能性
    3. 過払い金を回収できたことを隠していると、不正受給となってしまうおそれ
  • 借金があっても、生活保護を受けることはできる。ただし、生活保護を受けている間の借金返済は、基本的にNG。そのため、借金問題を解決するためには、税金などを除いて原則全ての支払義務が免除される可能性のある「自己破産」を検討することとなる。

生活保護を受けている間でも、過払い金返還請求をすることはできます。しかし、お金を自治体に返さなければならなくなったり、生活保護を受けられなくなる可能性もあります。さらに、回収できる過払い金が無かった場合などには結局借金が残り、自己破産の手続きを進める必要が出てくることもあります。

ですので、借金を抱えている方は、過払い金返還請求や自己破産の手続きをしようと思った際には、あらかじめケースワーカーや福祉事務所に伝えたうえで、債務整理を扱っている弁護士に相談することをおすすめします。

この記事の監修弁護士
弁護士 谷崎 翔

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。

※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

※¹:2024年4月時点。拠点数は、弁護士法人アディーレ法律事務所と弁護士法人AdIre法律事務所の合計です。