月80時間の残業は過労死ライン!残業時間の上限規制とは?

  • 作成日

    作成日

    2023/10/12

  • 更新日

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    2023/10/12

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目次

月80時間の残業は過労死ライン!残業時間の上限規制とは?
日本においては、近年、過労死の事案が多発して大きな社会問題となっています。
この問題は、今に始まったことではなく、20年以上も前から問題視されています。

しかし、令和の時代になっても、過労死等の危険につながりうる長時間労働が行われているという実態を伝えるニュースは多く、それらを見聞きする機会は少なくありません。

その中で、残業がこれ以上になると危険だ、という基準を指す「過労死ライン」という言葉を耳にすることも増えてきました。

あなたの会社では、違法な長時間労働が行われていないでしょうか。
あなたは、過労死ラインを超える残業を強いられていないでしょうか。

今回は、残業にはどのような規制があるのか、過労死ラインとは何か、そして労働者としてはどのように対処すべきかなどについて、解説していきます。

月に80時間を超える残業は「過労死ライン」と呼ばれる

ここでは、長時間労働と過労死ラインの関係について解説していきます。

(1)過労死とは?

近年、過労死等が多発し社会問題となっていることなどを踏まえ、2014年11月1日に「過労死等防止対策推進法」が施行されました。
この法律は、

過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与すること

引用:過労死等防止対策推進法1条
を目的として制定されたものです。
また、この法律に基づき、政府は、過労死等の防止のための対策を効果的に推進するため、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(2018年7月24日閣議決定)を定めています。

「過労死等」とは、過労死等防止対策推進法2条により、以下のようなものとして定義づけられています。
  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  • 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患もしくは心臓疾患もしくは精神障害
引用:過労死等防止対策推進法2条

(2)「過労死ライン」とは?

過労死ラインとは、労働者が病気・死亡・自殺に至るリスクが高まる労働時間のことをいいます。
長時間に及ぶ過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も大きな要因と考えられ、さらには脳・心臓疾患との関連性が強いという医学的知見が得られています。

具体的には、脳・心臓疾患に関する労災認定基準においては、疾患の発症自体は、週40時間を超える時間外労働及び休日労働が「月45時間」を超えたあたりから、業務と発症の関連性が強まるとされています。

そして、月45時間を超えて長くなればなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まり、「発症前1ヶ月間に概ね100時間」又は「発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって1ヶ月あたり概ね80時間」を超える時間外・休日労働がある場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされます(厚生労働省の定めた行政認定基準。平成13年12月12基発1063号)。

過去のデータを踏まえたこうした判断基準から、「月80時間」という基準が、時間外労働・休日労働に関する「過労死ライン」と呼ばれるに至っています。
発症前1ヶ月間の数字をとらえて「月100時間」を過労死ラインとする場合もあります。

過労死ラインはあくまで疾患や自殺に至る可能性が高まる目安の時間であるため、「時間外・休日労働は80時間以内であれば問題ない」というものではありません。

残業80時間以上は違法?

労働基準法により、法定労働時間である「1日につき8時間・1週間につき40時間」を超えた労働をさせる場合は、36協定(労働基準法36条に基づいて労使間で結ばれた協定)の締結が必要であり、36協定を締結せずに法定労働時間を超えた場合は違法であるとされています(32条、36条)。

また休日についても、原則として、少なくとも「毎週1日」または「4週間で4日」は与えることとされています(同法35条)。

1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

引用:労働基準法32条
1項 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1回の休日を与えなければならない。
2項 前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。

引用:労働基準法35条
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5までもしくは第40条の労働時間又は前条の休日に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

引用:労働基準法36条1項
36協定の特別条項を締結している場合には、1ヶ月当たり80時間以上の残業も認められる場合があります。
ただしその場合も「年720時間以内」「時間外労働(休日労働含む)が月100時間未満」「時間外労働(休日労働含む)の複数月の平均が80時間以内」「原則である月45時間を超える時間外労働は年6ヶ月まで」といった上限規制が設けられています。

36協定の特別条項の上限規制に違反した場合、企業や企業側担当者には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金などの罰則が科されるおそれがあります。

36協定を締結しても残業時間には上限がある

36協定を締結しており、上限規制も遵守できている場合は、違法とはなりません。

ただし36協定の指針として、時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめるべきであるとされています。
また、時間外労働や休日労働が36協定の範囲内であったとしても、使用者は、労働者に対して安全配慮義務を負うこととされています。

安全配慮義務とは、労働契約の締結に伴って使用者が負う義務のひとつで、労働契約法5条に規定があります。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

引用:労働契約法5条
36協定の施行には経過措置が設けられており、建設事業・自動車運転業務・医師など一部の事業や業務については、2024年3月31日までは上限規制の適用が猶予されています。
また2024年4月1日以降も、一部については上限規制の対象から除外されます。

もっとも、36協定の上限規制が適用になる・ならないにかかわらず、使用者は限度時間を勘案し、労働者の健康・福祉を確保するよう努めなければならないのは当然のことです。

残業時間が違法の可能性があるとき

それでは、残業時間について違法な状態である可能性があるときの対処方法について解説していきましょう。

(1)労働基準監督署に報告する

もし上限を超える時間外労働などの実態がある場合は、労働基準監督署に相談してみるとよいでしょう。

労働基準監督署は、労働者から相談を受けて、問題があると判断した場合は、企業に対して指導勧告を行います。
労働基準監督署に相談する場合は、企業の違法性が客観的に分かる証拠や資料などを用意しておきましょう。例えば、勤怠データやメールの送信履歴、就業規則や雇用契約書などがそれにあたります。

労働基準監督署への相談方法は、窓口での直接相談のほか、電話・メールによる相談が可能となっています。

(2)会社に文書を送付する

残業時間について問題があると思われる場合には、まずは労働者の側から、会社に相談してみるのが解決に向けての第一歩と考えられます。

会社に相談しても改善されない場合は、健康被害がでていること・残業時間が適切でないことを文書にして、会社に直接送付する方法があります。

長時間労働によって労働者の健康が害された場合は、使用者が自らの負う安全配慮義務を果たしていないこととなり、これは労働契約法違反にあたります。
現在の労働環境が違法であり、改善の必要があることを、事実に基づいた主張として文書化するようにしましょう。

文書を送付する際は、内容証明郵便を使用し、送付した文書の内容を証拠として残しておくことも重要です。
内容証明郵便とは、いつ、いかなる内容の文書が、誰から誰あてに差し出されたのかということを、差出人が作成した謄本(原本の全部の写し)によって日本郵便が証明する制度です。
これは、もちろん郵便局の窓口でも差し出すことができますし、インターネットで24時間受付も行っています。

以上のように、労働者が会社に対して残業時間の改善を求める場合には、弁護士に依頼するとスムーズに対応できます。

(3)未払いの残業代を請求する

もし残業代が適正に支払われていない場合は、未払いの残業代について請求することもできます。

もっとも、残業代請求権には時効があるため、請求する際には注意が必要です。
法改正の影響で、残業が発生した時期によって時効完成までの期間が異なっており、2020年3月31日までに支払日が到来した残業代は2年で時効となり、2020年4月1日以降に支払日が到来した残業代については3年で時効となります(経過措置として当分の間は3年間とされていますが、将来的には5年に延長するとされています)。

労働者が会社に対して未払いの残業代を請求する場合も、弁護士に依頼するとスムーズに対応できます。

【まとめ】80時間を超える残業でお悩みの方は弁護士にご相談ください

限度を超えた長時間の労働は、労働者の健康に悪影響を与える可能性があります。

しかし、もし残業時間に関して違法な状態が生じていたとしても、労働者が直接企業に相談すればすぐに改善されるとは限りません。

違法な時間外労働や休日労働が行われている可能性がある場合や、未払いの残業代請求をする場合には、労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。

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この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

髙野 文幸の顔写真
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