交通事故でケガをして、治療しても完治せず後遺症が残ってしまうことがあります。
後遺症について賠償金(慰謝料と逸失利益)を請求するためには、「後遺障害」として認定されることが必要です。
後遺障害認定においては「後遺障害診断書」が必要となりますが、内容について理解しないまま、医師の記載内容も確認せずに後遺障害認定の手続きをしてしまう方もいるようです。
しかし、後遺障害診断書は、後遺障害等級認定を左右するとても重要な書類です。後遺障害として認定されるか、されないかは、最終的に受け取ることができる賠償金額に大きく影響します。
適正な金額の賠償金を受け取るために、後遺障害診断書の作成方法や手続きについて、きちんと知っておくことをおすすめします。
そこで今回の記事では、
- 後遺障害診断書の作成方法
- 後遺障害認定申請の手続き
について、弁護士が詳しく解説します。
岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。
弁護士による交通事故被害の無料相談はアディーレへ!
費用倒れの不安を解消!「損はさせない保証」あり
ご相談・ご依頼は、安心の全国対応。国内65拠点以上(※1)
後遺障害診断書とは
「後遺障害診断書」とは、正式名称を「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」といい、交通事故で受傷した被害者が、医師に依頼して作成してもらうものです。
後遺障害診断書の書式は、次に示すものになります。
【後遺障害診断書書式】
後遺障害等級の認定は、基本的には書面審査です。
ですから、後遺障害等級認定がされるかどうか(非該当となるか)、また、何級に認定されるかと言う点で、後遺障害診断書にどういった内容が記載されるかが非常に重要になります。
そして、交通事故の後遺症について後遺障害等級が認定されると、その等級に応じて、自賠責保険や加害者側の任意保険会社に対して、後遺症による逸失利益及び後遺症慰謝料を請求することができます。
他方、後遺障害等級認定がされない場合は、任意保険会社との交渉で、等級認定を前提とした後遺症部分についての賠償を受け取ることはできません。
等級認定を受けられなくても、最終的に訴訟を提起し、裁判において等級認定に相当する判断がなされて後遺症部分についての賠償請求が認められることもありますが、極めて例外的です。
つまり、後遺症が残ってしまった場合、適切な後遺障害等級が認定されるためには、「後遺障害診断書」の記載内容が重要であり、最終的に、後遺症部分についての賠償金の金額に大きく影響する場合があります。
<コラム> 後遺障害と後遺症の違いとは
「後遺症」とは、一般的に、何らかの病気や事故によるケガの治療終了後も、身体に残存してしまう障害や症状のことを言います。
一方で、交通事故においては、自賠責保険が交通事故による後遺症をその程度や深刻さに応じて1~14級までの等級に類型化し、等級が認定された後遺症について特に「後遺障害」と呼んでいます。
後遺症があるとされた人であっても、「後遺障害」として認定されなければ、事実上、加害者の保険会社から後遺症についての賠償を受け取ることは難しくなります。
後遺障害診断書の作成方法とチェックすべき項目
ここでは、後遺障害診断書の作成方法とチェックすべき項目について説明します。
(1)後遺障害診断書の作成方法
後遺障害診断書には決まった書式があります。書式は、保険会社から受け取ることができますし、インターネットからダウンロードすることもできます。
後遺障害診断書は、医師が症状固定と診断した後に、残った後遺症について後遺障害認定を受けるために作成します。後遺障害診断書は、医師のみが記載できますので、整骨院や柔道整復師は医師でないため記載できません。
作成費用は病院によって異なりますが、5000~1万円程度であることが多いようです。
作成に1週間~10日間程度かかる場合もありますので、医師から症状固定の診断を受けた後になるべく早く作成を依頼するようにしましょう。
症状固定の時期や症状固定の目的について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
(2)後遺障害診断書の中でチェックすべき3つの項目
後遺障害診断書は医師が記載しますが、適切な後遺障害等級認定を受けるためには、認定に必要な事項について後遺障害診断書に記載されている必要があります。
医師であるからといって、等級認定のための基準を踏まえて、適切な内容の後遺障害診断書を記載できるとは限りません。
医師はけがの治療には精通していますが、必ずしも後遺障害等級認定の基準を熟知しているわけではなく、そもそも等級認定を見据えて治療をしているわけではありません。
したがって、自分の身体に残っている症状については、医師に可能な限り正確に伝えて、作成された後遺障害診断書に、間違いや記入漏れがないかを確認するようにしましょう。
また、不明な点は、医師に質問して理解するようにしましょう。
後遺障害の部位や程度によって異なりますが、後遺障害診断書の記載内容について、主にチェックすべき項目は次の3つです。
- 自覚症状
- 各部位の後遺障害の内容|精神・神経の障害 他覚症状及び検査結果
- 障害内容の増悪・緩解の見通し
それぞれ説明します。
(2-1)自覚症状
被害者は、自覚している症状について、具体的かつ正確に、医師に伝えた上で、医師に後遺障害診断書に記載してもらう必要があります。
医師が記載している自覚症状について、あなたが感じている自覚症状と一致しているかを確認しましょう。
自覚症状について後遺障害として認められるためには、自覚症状が受傷直後から一貫・継続して存在することが必要となります。そのため、「毎回言わなくてもわかるだろう」「勘違いかもしれない」と思ったりせず、具体的な症状について、診察の度にしっかり伝えるようにしましょう。
例えば、次のことを意識して伝えるようにしましょう。
自覚症状を伝えるときに注意すべき点 |
---|
|
自分の身体の自覚症状について一番わかるのは自分自身ですので、しっかりと医師に伝えるようにします。
(2-2)各部位の後遺障害の内容|精神・神経の障害 他覚症状及び検査結果
「各部位の後遺障害の内容」は、各部位に残存する後遺障害について記載する欄です。
ここに書かれている症状や検査結果が十分に記載されているか、足りない部分がないかの確認をしましょう(なお、残存しない部位(受傷していない部位)については、記載がなされず空欄となります)。
例えば、むち打ち症の場合には、どのような内容が記載されるのがよいのでしょうか。
むち打ち症について認定される可能性のある後遺障害は、後遺障害等級12級13号か14級9号です。
むち打ち症が12級13号の後遺障害認定を受けるためには、自覚症状があるだけでは足りず、他覚的に神経系統の障害が証明(医学的に神経系統の障害があることを証明)される必要があります。
医師は、むち打ち症について痛みやしびれ等の自覚症状がある場合、その原因となっている身体的異常の有無を検査します。
例えば、CT、MRI、レントゲンなどの画像により身体的異常を検査する方法が代表的ですが、ジャクソンテストやスパーリングテスト等の神経学的検査を行います(痛みやしびれについては、症状が生じる身体の部位にもよりますが、麻酔科やペインクリニック、神経内科などが専門科になりますので、専門医の診断を受けるようにしましょう)。
このような他覚的検査の結果、自覚症状を裏付ける神経系統の障害を証明できる場合には、その結果についてきちんとこの欄に記載してもらわなければなりません。
一方、CTやMRIで画像による異常が確認できないような場合は、むち打ち症について他覚的所見があるとされることは難しいです。
もっとも、他覚的所見がなくても、自覚症状が生じていることが医学的に説明可能であれば、「局部に神経症状を残すもの」として14級9号の後遺障害認定がされることになります。
(2-3)障害内容の増悪・緩解の見通し
最後に「傷害内容の増悪・緩解の見通し」を確認しましょう。
後遺症について後遺障害の認定を受けるためには、次の条件を満たす必要があります。
- その後遺症が、交通事故との間に相当因果関係があること
- 回復困難と見込まれる精神的または身体的な障害であること
- その存在が医学的に認められ労働能力の喪失を伴うもの
そのため、後遺症について、症状が一定していること、緩解(改善)の可能性がない(低い)ことや、憎悪する可能性があるのであれば、それらについて後遺障害診断書に記載してもらう必要があります。
仮に、この欄に「緩解の可能性あり」、「症状が軽減する可能性あり」などと記載されてしまうと、そもそも「回復困難と見込まれる」後遺障害とは言えませんので、後遺障害の認定を受けることは困難となってしまいます。
医師から後遺障害診断書を受け取ったら、自分の症状について詳しく記載されているか、検査結果について正確に記載されているかなど、記載内容をしっかりと確認するようにしましょう。
後遺障害診断書は、後遺障害認定の審査のために提出した後に修正することはできませんが、提出前であれば、書いてもらった後遺障害診断書を書き直してもらうことも可能です。
後遺障害等級認定のための2つの手続き
後遺障害認定の手続きは、次の2つの方法があります。
- 被害者請求
- 事前認定
それぞれ説明します。
メリットとデメリットを比較して、どちらの方法によって手続きを行うかを検討してみましょう。
なお、弁護士に後遺障害認定の手続きを依頼すると、被害者請求の手続きをとることが多いですが、事情によっては、事前認定で保険会社を通じて手続きをとることもあります。
(1)被害者請求
被害者請求とは、被害者自身が、病院からケガについての画像等(レントゲン写真、CT、MRI等)や、医師記載の後遺障害診断書を入手して、後遺障害認定を申請する方法です。
流れとしては、次のようになります。
この方法のメリットは、自分で資料を準備することで、認定を目指して自身に有利な資料を確認して選別し、納得のいくものを提出することができる点にあります。
また、後遺障害に認定されれば、自賠責保険から直接、速やかに保険金を受け取ることができます。
ただし、審査には時間がかかります。むち打ち症の場合には、平均して2~3ヶ月程度、それ以外の場合には半年以上かかる場合もあります。
症状固定の診断を受けたら、速やかに資料を準備して請求するとよいでしょう。
(2)事前認定
事前認定とは、加害者加入の任意保険会社に医師に記載してもらった後遺障害診断書を提出し、認定の手続きを依頼する方法です。
流れとしては、次のようになります。
この方法のメリットは、申請手続きにかかる自分の負担が少ないことです。
医師に書いてもらった後遺障害診断書を準備するだけでよく、自分で病院から他の資料を集める必要はありません。
しかしながら、デメリットもあります。
事前認定では、加害者側の任意保険会社が、自賠責保険会社に後遺障害に関する資料を提出することになるわけですが、どんな資料を提出するのか被害者側で指示することは通常困難で、後遺障害等級認定が不利に進んでしまう場合もあります。
事前認定と被害者請求の違いをまとめると次のようになります。
事前認定は被害者の負担が少ない一方で、被害者自身が提出する資料を選べないため、後遺障害等級認定が不利に進んでしまう可能性があります。
後遺障害等級認定を有利に進めたい方は、「被害者請求」がおすすめです。
被害者請求に必要な書類や手順を詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
後遺障害診断書の作成を依頼する際に気を付けること
後遺症は、体の一部にのみ残存するとは限らず、複数の後遺症が残存するケースもあります。
症状によっては、専門科が異なることもありますので、症状にあった科を別々に受診し、治療を受けるようにしましょう。
例えば、交通事故によって頭部を受傷し、顔面に傷跡が残り、歯にも障害が残った場合には、顔面の傷は形成外科等、歯は歯科医を受診し、それぞれ後遺障害診断書の記載を依頼する必要があります。
【まとめ】後遺障害診断書は提出前に記載内容を要確認!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 後遺障害診断書は、交通事故による受傷の結果、残存してしまった後遺症について、後遺障害の等級認定を受けるために必要な診断書です。
- 後遺障害の認定を受けられなければ、後遺症部分の損害賠償(逸失利益や慰謝料)を請求することは困難です。そのため、適切な賠償金を受け取るためには後遺障害診断書の記載内容は重要です。
- 後遺障害診断書は医師が作成しますので、被害者は、事故直後から通院治療し、医師に対して自分の症状をできるだけ正確に伝えて、医師が記載した後遺障害診断書の内容をチェックすることが大切です。不明な点は、医師に質問して理解するようにしましょう。
- 後遺障害等級認定のための手続きには、(1)被害者請求、(2)事前認定の2つの方法があります。事前認定は被害者の負担が少ない一方で、被害者自身が提出する資料を選べないため、後遺障害等級認定が不利に進んでしまう可能性があります。後遺障害等級認定を有利に進めたい方は、「被害者請求」がおすすめです。
後遺障害等級認定の手続を被害者請求で行う場合、書類の入手や内容のチェックが必要なので手間と時間がかかりますが、弁護士に依頼すれば、弁護士が、本人の代わりに後遺障害認定を目指して必要な書類を入手し、内容をチェックすることができます。
交通事故の賠償金請求にお困りの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。
アディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。
すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので、やはりご相談者様・ご依頼者様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
実際のケースでは、弁護士費用は、この上限内に収まることが多いため、ご相談者様、ご依頼者様は実質無料で弁護士に相談・依頼できることが多いです。
なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各弁護士事務所へご確認ください。
(以上につき、2022年8月時点)
交通事故の被害にあって賠償金請求のことでお悩みの場合は、交通事故の賠償金請求を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。