時季変更権とは何か?行使できるケースや有給休暇取得を拒まれたときの対処法を解説

  • 作成日

    作成日

    2023/12/11

  • 更新日

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    2023/12/11

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目次

時季変更権とは何か?行使できるケースや有給休暇取得を拒まれたときの対処法を解説
どうしても希望する日に有給休暇を取りたい、ということはありますよね。

ところが、一定の場合に、会社は「時季変更権」を行使して、労働者から請求された時季とは別の時季に有給休暇を取らせることができます。
ではどのような場合に、会社は時季変更権を行使できるのでしょうか。

時季変更権について、弁護士が解説いたします。

有給休暇とは?

有給休暇とは、ゆとりのある生活を送って心身の疲労を回復させるべく、一定の労働者に付与される休暇のことです。
その名の通り、有給(給料が支払われる状態)で仕事を休むことができます。

有給休暇が付与されるためには、次の条件を満たす必要があります(労働基準法第39条1項)。
  • 雇用関係あり 請負など、雇用関係にない場合は、年次有給休暇が付与されません
  • 入社してから6ヶ月以上継続して勤務している
  • 全労働日の8割以上出勤している
パート従業員やアルバイト従業員であっても、上記条件を満たせば年次有給休暇は付与されます。

勤続期間や勤務形態に応じて、法律上付与される有給休暇日数が決められています。
なお、企業によっては、法律上規定された日数を超える有給休暇を付与していることもあります。

有給休暇を取得する際、その届出に理由を記入する必要はなく、休暇をどのように利用するのかは本人の自由に任せられます。

時季変更権とは?

しかし、この有給休暇、労働者が希望した日時通りに取得できるとは限りません。
使用者には、「時季変更権」を使うこともできるからです。
有給休暇取得において重要となる「時季変更権」について解説いたします。

(1)会社側が有給休暇の取得時季を変更する権利のこと

原則として、有給休暇を取得する時季は労働者が自由に決めることができます。
しかし、企業は、その時季に有給休暇を与えることで「事業の正常な運営を妨げる場合」には、他の時季に変更することが可能となります。
この権限を「時季変更権」と呼びます(労働基準法第39条5項但書)。

なお、あくまで時季の変更をするものであり、有給休暇の取得自体を拒否することは許されません。

(2)時季変更権の「事業の正常な運営を妨げる場合」とは

時季変更権の行使は、有給休暇の取得における例外的な措置と言えるため、その権限が行使できる場面はかなり限定されます。
単に「忙しいから」という理由だけでは時季変更はできません。

判例によれば、「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたるためには、おおよそ次の要件を満たす必要があります。
1.労働者が有給休暇を取ろうとしている日に予定されている仕事が、その労働者の担当業務やその所属する課や係等の運営にとって不可欠。
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2.代替要員を確保するのが困難
1、2の両方を満たさないと会社は時季変更権を行使できません。

各要件を、もう少し詳しく説明します。

(2-1)当該労働者の仕事が不可欠

予定されている仕事の量をこなすために必要な労働者の人数が、厳密に計算されており、その必要最小限の人数の中に、有給休暇を取ろうとしている労働者が所属している場合には、「1.労働者が有給休暇を取ろうとしている日に予定されている仕事が、その労働者の担当業務やその所属する課や係等の運営にとって不可欠」にあたることが多いです。

(2-2)代替要員を確保するのが困難

当該労働者が所属する課や係、またこれと密接に関連する組織の中で、代替要員を確保できるよう努力したが、代替要員を確保するのが困難だったという事情が必要です。

常に人員が不足している状況の場合は、常に「代替要員を確保するのが困難」となってしまうのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
でもご安心ください。
有給休暇の権利を保障するため、常に人員が不足している場合は、時期変更権の行使は違法と考えられています(名古屋高裁金沢支部判決平成10年3月16日労働判例738号32頁など)。

ただ、有給休暇を取ろうとしている日の直前になって、有給休暇を請求すると、会社が代替要員を確保するのが困難となってしまい、会社が時季変更権を適法に行使しやすくなります(東京高裁判決平成12年8月31日労判795号28頁参照)。
有給休暇の申請は時間に余裕をもって行いましょう。

(2-3)時季変更権が認められる可能性のある例

次の場合には、時季変更権が認められる可能性があります。
  • その労働者にしかできない業務があり期日が迫っている
  • 繁忙期や決算期などで今の時期に休暇を取られると業務に多大な支障が出る
  • 同じ時季に多数の者が休暇を希望したため、営業を継続するには全員への付与が難しい

会社に有給休暇取得を拒否されたときの対処法

有給休暇の取得を申請したものの、これを会社に拒否されたときの対処法について、いくつかご紹介します。

(1)拒否の理由を会社に聞く

有給休暇の取得を拒否する具体的な理由を、会社に聞きましょう。
上記のように、時季変更権を行使できるケースがあるためです。

「業務上致し方ない理由か」「他の時季に取得可能か」といった説明を会社に求めることになります。

(2)労働基準監督署に相談する

違法に有給休暇の取得を拒否されることもあります。
会社に違法であることなどを主張しても対応してくれない場合、労働基準監督署への相談を検討しましょう。
労働基準監督署へは無料で相談ができます。
また、労働基準法違反が認められる場合には、会社に対し指導や是正勧告などもしてもらえることもあります。

ただし、労働基準監督署には、労働者から相談を受けたからと言って、必ず、調査等の措置を取る義務はありません(東京労基局長事件(東京高裁判決昭和56年3月26日))。
そのため、相談のみで終わってしまうことも珍しくありません。

(3)弁護士に相談する

違法に有給休暇の取得を拒否された場合は、弁護士へ相談するという方法もあります。
弁護士であれば、労働者の代わりに会社と交渉することができます。

【まとめ】時季変更権に関してお困りの場合は弁護士へご相談することをおすすめ

時季変更権の行使が適法かどうかは簡単に判断ができないこともあります。
そのため、会社と労働者間でトラブルが生じた際、話し合いで解決できなさそうであれば、早期に弁護士に相談しましょう。

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この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

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