給料が支払われないという事態に直面したとき、あなたはどうしますか?
不安と怒りが入り混じる中、どのような行動を取るべきか迷ってしまうかもしれません。
しかし、諦めないでください。給料未払いは違法行為であり、あなたには労働した分の賃金を請求する権利があります。
本記事では、給料未払い問題を解決するために、従業員の権利や請求手順などを弁護士が詳しく解説します。
この記事を読んでわかること
- 給料未払いは違法
- 未払い給与の時効期間
- 未払い給料の請求方法
- 未払い賃金立替制度
ここを押さえればOK!
未払い給与請求には時効があるため、早めの対応が重要です。通常の給与は3年、退職金は5年で消滅時効が完成し、請求は困難になります。
未払いに気づいたら、早めに労働時間の記録や給与関連書類などの証拠を収集し、会社との交渉を行います。交渉が不調の場合は、労働基準監督署への相談や弁護士による法的手続きを検討します。
会社が倒産した場合でも、未払賃金立替払制度を利用できる可能性があります。この制度では、年齢に応じた上限額内で未払賃金の80%が立て替え払いされます。
未払い給与問題の解決には、早めの行動が鍵となります。自身の権利を守るため、証拠収集や専門家への相談を含め、積極的に対応することが重要です。
アディーレ法律事務所
同志社大学、及び、同志社大学法科大学院卒。2009年弁護士登録。アディーレに入所後、福岡支店長、大阪なんば支店長を経て、2022年4月より商品開発部門の統括者。アディーレがより「身近な法律事務所」となれるよう、新たなリーガルサービスを開発すべく、日々奮闘している。現在、神奈川県弁護士会所属
給料未払いは違法行為:労働基準法で定められた4つの原則
給料未払いは労働基準法違反であり、厳しく禁止されています。労働基準法は、従業員の権利を守るため、給与支払いに関する4つの重要な原則を定めています(労働基準法24条1項)。
- 通貨払いの原則:原則、給与は通貨(貨幣=コイン、日本銀行券=お札)で支払うこと
- 直接払いの原則:原則、労働者本人に直接支払うこと
- 全額払いの原則:給与を全額支払うこと
- 毎月1回以上定期払いの原則:給与を定期的に支払うこと
これらの原則に違反すると給料未払いで違法となり、雇用主は30万円以下の罰金刑を受ける可能性があります(労働基準法120条1号)。
特に重要な「全額払いの原則」を詳しく説明します。
全額払いの原則
給料は、原則全額を支払わなければなりません。
ただし、次のような例外はあります。
- 源泉徴収、社会保険料の控除
- 財形貯蓄金の控除
- 労働者との合意による相殺(払いすぎた給料の調整) など
給料に含まれる項目:残業代や各種手当も対象
給料未払いの対象となる「給料」には、基本給だけでなく、次のような様々な項目が含まれます:
- 残業代:法定労働時間を超えて働いた場合の割増賃金
- 休日出勤手当:休日に働いた場合の割増賃金
- 深夜勤務手当:22時から5時までの勤務に対する割増賃金
- 各種手当:通勤手当、住宅手当、家族手当など
- 賞与:契約で支給が約束されている場合
特に残業代の未払いは「サービス残業」として社会的にも問題視されています。労働者は、給与明細を注意深くチェックし、これらの項目が適切に支払われているか確認することが大切です。
未払給与には請求期限があるので早めに対応する
未払給与の請求には時効があるため、早めの対応が極めて重要です。
消滅時効が完成すると、法律上、未払給与を支払ってもらうのは難しくなります。
(1)給与請求権の消滅時効:基本は3年
給与請求権の消滅時効は、3年の時効にかかります。
退職手当の消滅時効は、より労働者の保護が必要ということで、5年となっています。
従業員は、請求する給与の種類を正確に把握し、適切な時効期間内に行動を起こすことが重要です。
※3年の時効についても、今後5年に延長させることが予定されています。最新の法改正に注意してください。
(2)時効の起算点:いつから計算されるのか
時効の起算点を正確に把握することは、未払給与の請求において非常に重要です。
一般的に、時効の起算点は以下のように考えます。
- 通常の給与:支払期日の翌日から起算
例:月給制で月締め翌月25日払いの場合、6月分の給与は7月26日から時効が進行
- 退職金:退職日の翌日から起算
例:3月31日に退職した場合、4月1日から時効が進行
- 賞与:支給日が定められている場合はその翌日
労働者は、未払いが発生した日付を正確に記録し、時効の起算点を把握しておくことが重要です。
時効を意識しつつ、早めの対応を心がけることが、未払給与回収の成功につながります。
給料未払いへの対応:労働基準監督署と弁護士の役割
給料未払いの問題に直面した場合、個人で直接会社と交渉することもできますが、労働基準監督署や弁護士を活用することも効果的です。
(1)労働基準監督署の役割:無料相談と是正勧告
労働基準監督署は、労働者の権利を守るための行政機関です。
給料未払いに関しても、具体的な資料を持参して相談すると、アドバイスをしてくれたり、会社に対して是正するよう指導してくれたりすることもあります。
ただし、労働基準監督署はあくまで行政機関であり、あなたの代理人として、あなたの代わりに会社に対して未払い給与を請求してくれるわけではありません。
個別具体的な対応については、必要に応じて弁護士への相談も検討すべきです。
(2)弁護士への相談:具体的なアドバイスと法的手続きのサポート
弁護士は、給料未払い問題に対して、具体的事情を聴いたうえで、法律家としての知識と経験から法的なアドバイスを行います。
弁護士に相談することで得られる主なメリットは以下の通りです:
- 具体的なアドバイス
- 個別の状況に応じた詳細な法的助言
- 証拠の収集方法や交渉戦略の提案
- 時効間近の給与について時効完成を防ぐ
- 請求可能額の正確な計算
- 法的手続きの支援
- 会社に対して未払い給料を請求
- 労働審判や訴訟の代理人として活動
- 書類作成や手続きの代行
- 心理的サポート
- 弁護士のバックアップによる安心感
- 客観的な視点からのアドバイス
未払給与を請求する具体的な手順
未払給与を請求するには、以下の手順を踏むことが効果的です。
- 証拠の収集:労働の事実と未払いの状況を証明する資料を集める
- 会社との交渉:書面での請求や面談を通じて支払いを求める
- 法的手続きの検討:交渉が不調の場合、労働審判や訴訟を考える
順に説明します。
(1)証拠の収集:労働の事実を証明する資料
未払給与の請求には、労働の事実と未払いの状況を証明する証拠が必要です。
以下の資料を可能な限り収集しましょう。
- 労働時間の記録
- タイムカードのコピー
- 勤務表や出勤簿
- 自身で記録した勤務日誌
- 給与関連書類
- 給与明細書
- 銀行の入金記録
- 雇用契約関連書類
- 雇用契約書
- 就業規則
- 労働条件通知書
- コミュニケーション記録
- 上司とのメールやLINEのやり取り
- 残業指示や給与に関する会話の記録
- その他
- 業務日報や作業報告書
- 社内システムのログイン記録
証拠収集のポイント:
- できるだけ客観的な資料を集める
- 日付や時間が明確なものを優先する
これらの証拠を整理し、時系列で並べることで、未払給与の請求をより説得力のあるものにできるでしょう。
(2)会社との交渉:効果的なアプローチ
労働時間を示す証拠から、未払い給料を計算した後、会社と交渉します。
会社との交渉は、未払給与問題解決の重要なステップです。効果的な交渉のためのアプローチは以下の通りです:
- 口頭やメール、書面での請求
- 未払給与の詳細と支払いを明確に求める
- 交渉の準備
- 証拠と計算書類を整理
- 想定される質問への回答を用意
- 妥協可能な範囲を事前に決めておく
- 交渉時の注意点
- 冷静かつ礼儀正しい態度を維持
- 感情的にならず、事実に基づいて主張
- 相手の発言をよく聞き、メモを取る
- 期限の設定
- 支払いや回答の期限を明確に伝える
交渉が難航する場合には、労働基準監督署への相談や申告を検討したり、未払い給料問題を扱っている弁護士に依頼して交渉を代行したりしてもらうとよいでしょう。
(3)訴訟などの手段の検討|交渉が決裂した場合
会社が真摯に対応してくれない、消滅時効の完成が迫っている、というような場合には、裁判手続きを選択することになります。
給与未払いの場合に利用可能な裁判手続きには、次のようなものがあります。
- 支払督促
- 少額訴訟
- 労働審判
- 通常の訴訟
いずれも、法律上決められた手続きにのっとって、法律上必要な書面を提出したりする必要があります。個人での対応が難しいと感じた時には、未払い給与問題を扱っている弁護士に相談してみるとよいでしょう。
会社が倒産した場合の対処法:未払賃金立替払制度の活用
会社が倒産しても、未払賃金立替払制度を利用することで、原則として未払給与の8割を受け取ることができます。
この制度は、独立行政法人労働者健康安全機構が運営しており、倒産企業の労働者を保護することを目的としています。
(1)誰が利用できるのか
未払賃金立替払制度を利用できるのは、使用者側の条件と、労働者側の上限両方を満たす人に限られます。
【使用者】
1.使用者が、労災保険の適用事業の事業主で、1年以上事業活動を行っていたこと
2.使用者が倒産したこと
(1)法律上の倒産:破産手続開始決定等
(2)事実上の倒産:労働基準監督署長の認定
【労働者】
1.倒産について裁判所への申立て等が行われた日の6ケ月前の日から2年の間に退職した労働者であること
2.未払い賃金等について、法律上の倒産の場合には破産管財人等の証明を受けること
(事実上の倒産の場合には、労働基準監督署長の確認を受けること)
3.破産手続開始決定等(事実上の倒産の認定)の日から2年以内に立替払請求を行うこと など
パートタイマーや契約社員も条件を満たせばこの制度を利用することができます。
この制度は、突然の倒産により賃金が支払われなくなった労働者の生活を守るためのセーフティネットとして機能しています。条件を満たす場合は、2年以内という期間制限に気を付けて、積極的に活用を検討しましょう。
(2)立替払いの上限額と計算方法
未払賃金立替払制度における立替払いの上限額と計算方法は以下の通りです:
- 上限額 年齢に応じて3段階に分かれています:
- 45歳以上:296万円
- 30歳以上45歳未満:176万円
- 30歳未満:88万円
- 計算方法
a. 未払賃金総額の80%が立替払いの対象
b. 上記の80%が年齢別上限額を超える場合は上限額が支給される
- 具体的な計算例
例:40歳の労働者、未払賃金総額が300万円の場合
- 300万円 × 80% = 240万円
- 240万円 > 176万円(30歳以上45歳未満の上限額)
- 立替払額 = 176万円
この制度により、倒産により突然の収入減少に直面した労働者の生活を一定程度保護することができます。
【まとめ】未払い給料は早めの対応がカギ!時効前に請求を
給料未払いは労働基準法違反で違法です。労働者には、未払い給料を請求する権利があります。
未払いに気づいたら、労働時間がわかる証拠を収集し、会社に対して直接請求したり、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
会社との交渉や法的手続きを通じて、未払給与を回収できる可能性があります。
会社が倒産した場合でも、未払賃金立替払制度を利用できます。
未払い賃金は、消滅時効にかかると請求が難しくなりますので、あなたの権利を守るため、早めに行動を起こす必要があります。