残業が続くと、心身への負担は避けられません。
この記事では、残業命令の法的根拠や、どのような理由があれば残業を拒否することが可能なのかについて解説します。
ワークライフバランスを保ち、充実した生活を送るために必要な知識を身につけましょう。
自分自身の時間を取り戻し、よりよい未来を築くための第一歩を踏み出してみませんか?
この記事が、健康を守りながらキャリアを築くための一助となれば幸いです。
この記事を読んでわかること
- 残業の法的根拠
- 残業を拒否できる理由
- 残業を強制された場合の相談先
ここを押さえればOK!
労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間、週40時間を超えてはなりません。
企業が残業(時間外労働)を命じるには「36協定」が必要なうえ、その場合にも無制限に残業させることはできません。36協定がない場合、労働者は残業を拒否できます。
また、残業命令が合理的でない場合や健康上の理由、育児・介護の必要がある場合も拒否可能です。
残業を強制された場合、労働基準監督署や弁護士に相談することで、労働者の権利を守るためのサポートが得られるでしょう。
残業拒否は短期的に職場での印象に差し障りがあるかもしれませんが、長期的には健康や効率を重視した持続可能なキャリア形成に寄与します。
長時間労働は健康や家庭生活に悪影響を及ぼすため、ワークライフバランスを保つことが重要です。これにより、仕事へのモチベーションが維持され、キャリアの幅が広がり、新たなチャンスをつかむ可能性が高まります。
東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。アディーレ入所後は未払残業代請求事件をメインに担当し、2022年より労働部門の統括者。「自身も同じ労働者だからこそ、労働者の方々に寄り添える」との信念のもと、より多くのご依頼者様を、より良い解決へ導くことを目標に尽力している。東京弁護士会所属。
残業拒否に関する法的問題
残業の問題は多くの労働者にとって大きな関心事です。法的にどのように位置づけられているのかを理解することは、労働者が自分の権利を守るために非常に重要といえるでしょう。
ここでは、労働基準法に基づく残業の位置づけや、企業が残業を命じる際の法的根拠について解説します。
(1)労働基準法における残業の位置づけ
労働基準法は、労働時間に関する基本的な規定を定めており、労働時間は原則として1日8時間、週40時間を超えてはならないとされています。
この時間を超える労働、すなわち「時間外労働」は、一般的に「残業」と呼ばれています。
残業を命じるためには、就業規則や労働協約などに労働者が残業をする義務がある旨定める必要があるのみならず、さらに企業は労使協定である「36協定」を締結し、これを労働基準監督署に届け出る必要があります。
この協定がなければ、企業は基本的に残業を命じることができません。
また、36協定がある場合でも、無制限に残業させていいわけではなく、時間外労働の上限規制が設けられています。
時間外労働の上限規制についてくわしくはこちらの記事をご覧ください。
(2)残業命令の法的根拠
労働基準法上、企業は原則として、36協定がない限り法定労働時間を超える労働を命じることはできないため、労働者は基本的に残業を頼まれても拒否できます。
法定労働時間は超えないものの、所定労働時間を超える残業であっても、合理的な労働協約または就業規則の定めが必要です。
また、企業が労働者に対して残業を命じることができる場合であっても、その命令が合理的であることが求められます。
業務上の必要がない場合や、業務外の目的での残業命令は、権利濫用として無効である可能性があります。
もし、労働者が不当な残業命令を受けた場合、まずは上司や人事部門に相談することをおすすめします。
場合によっては、労働組合や労働基準監督署への相談が有効なこともあるでしょう。
残業を拒否できる理由
36協定などの法的根拠があっても残業を拒否できる場合があります。
まず、健康上の問題は重要な理由の一つです。
企業には安全配慮義務があるため、体調不良の場合や健康を害するおそれのあるような残業を命じられたりした場合には、残業を拒否することができます。
次に、育児や介護の必要がある場合です。
妊娠中や出産後1年以内の女性が請求したときは、会社は残業をさせることができません(労働基準法第66条第2項及び同第3項)。
仮に会社が残業を命じてきたら、そうした女性労働者はこれを拒否することができます。
子を養育する労働者がその育児のため、要介護状態(2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態) にある家族を持つ労働者がその介護のため、育児・介護休業法により、残業免除の請求をすることができます。
これまで育児のために残業免除の請求ができるのは3歳未満の子を養育する労働者に限定されておりましたが、育児・介護休業法の改正により、令和7年4月1日から、小学校就学前の子を養育する労働者にまで拡大されます。
そうした請求により残業が免除される労働者に対し、会社は残業をさせることができません。万が一会社が残業を命じてきたら、労働者はこれを拒否することができます。
なお、残業の免除ではなく、残業の制限、すなわち時間外労働の制限(月24時間以内、年間150時間以内)及び深夜労働の制限の請求をすることもできます。そうした請求により残業が制限される労働者に対し、会社がその制限を超えた残業を命じてきたら、労働者はこれを拒否することができます。
これらの条件を確認し、正当な理由がある場合には、上司や人事部門に状況を説明し、適切な対応を求めることが重要です。
残業を拒否して解雇されることはある?
残業を拒否したことで解雇される可能性はありますが、その解雇が正当であるためには厳格な条件が必要となります。
日本の法律では、解雇は非常に限定的にしか認められません。
まず、残業拒否が解雇などの処分の理由となるためには、企業に残業命令を出す正当な理由があり、かつその命令が合理的である必要があります。
もっとも、法律上必要な手続を踏んでおり、業務上の必要があるといった正当な残業命令であれば、労働者は基本的にその命令に従う義務があります。
正当な理由なく残業を拒否したのであれば、雇用契約上の義務を果たしていないとして、懲戒処分を受けることはあり得ます。
一方、残業を命じること自体が法律上許されないものである、残業命令が不当動機・目的によるものである、労働者に過重な負担を強いるものである場合、拒否が認められることもあります。
たとえば、先述したような健康上の問題については、労働者に過重な負担を強いるものといえ、残業の拒否に正当な理由があるとされる可能性が高いです。
もし不当な解雇が行われた場合、労働基準監督署や弁護士に相談することをおすすめします。労働者の権利を守るため、解雇の正当性についてしっかりと確認することが重要です。
残業を強制された場合の相談先
残業を強制される状況においては、適切な相談先を利用することが大切です。それにより、労働者は自分の権利を守るためのサポートを得ることができます。
主な相談先は次のとおりです。
(1)労働基準監督署
労働基準監督署とは、労働に関する一定の相談を受け付けたり、労働関係の法令に違反している企業に行政指導をしたりする機関です。
残業命令が違法である場合や、過度な残業を強いられている場合には、労働基準監督署への相談をご検討ください。
労働基準監督署は、企業に対して是正勧告などの指導を行うことができます。
なお、相談は無料であり、労働者が労働基準法違反などの事実を労働基準監督署に申告したからといって、企業が解雇などの不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
(2)弁護士
相談先には、弁護士という選択肢もあります。
弁護士に相談することで、法的視点から具体的なアドバイスを受けることができます。
特に労働問題に詳しい弁護士は、残業に関するトラブルを適切に分析し、法的措置をはじめとする解決策を提案してくれるでしょう。
初回相談が無料の法律事務所も多いため、気軽に相談してみることをおすすめします。
法律事務所にはそれぞれ得意分野があるため、不当な残業命令について相談する場合は、そういった労働問題への対応実績が多い法律事務所(弁護士)を選ぶのがポイントです。
残業拒否とキャリア形成
残業を拒否することは、短期的には職場での印象に影響を与えるかもしれませんが、長期的にはキャリア形成においてよい影響を与えることがあります。
働き方を見直し、健康や効率を重視することで、より持続可能なキャリアを築くことが可能になるからです。
ワークライフバランスの重要性
ワークライフバランスを保つことは、長期的なキャリア形成において非常に重要です。
適切な休息と充実した私生活を確保することで、仕事へのモチベーションを維持し、より創造的で効率的な働き方が可能となります。
バランスの取れた生活は、職場でのパフォーマンスを向上させるだけでなく、自己成長やスキルアップの機会も広げます。これにより、キャリアの幅を広げ、新たなチャンスをつかむ可能性が高まるでしょう。
さらに、ワークライフバランスを重視することで、仕事に対する満足度が向上し、長期的なキャリアの安定にもつながります。
以上のように、自分自身の健康や生活の質を大切にしながら、持続可能な働き方を追求することが、よりよいキャリアを築く鍵となります。
【まとめ】残業を命じられても、正当な理由があれば残業を拒否できる
企業は、労働者に対して残業(時間外労働)を命じることができないのが原則です。
また、36協定など適切な手続を踏んだ残業命令であっても、健康上に問題があるなどの正当な理由があれば残業を拒否することも可能です。
しかし、なかには正当な理由があるのに残業を強いてくる企業も存在するようです。
そのような場合には、労働基準監督署や弁護士などの適切な相談先を活用することが大切です。長期的なキャリア形成のためにも、ワークライフバランスを意識し、自分自身を大切にする働き方を目指しましょう。
労働環境を見直すことで、よりよい未来を築く一歩となるはずです。