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パートの社会保険の加入要件が拡大!加入したときの家計への影響は?

作成日:更新日:
s.miyagaki

※この記事は、一般的な法律知識の理解を深めていただくためのものです。アディーレ法律事務所では、具体的なご事情によってはご相談を承れない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

「パートで働いていて、いまは社会保険に入っていない。社会保険に入る対象が拡大したってニュースで聞いたけれど、私は社会保険に入らないといけないのかな。社会保険に入ることになったら、家計にどんな影響があるのかも気になるな……」

社会保険の加入要件が拡大したことにより、いままでは社会保険に入らなくてもよかった方でも、新たに社会保険に入らなければならないケースが増えることになりました。

社会保険に入ることになると、社会保険料が天引きされるようになって手取り額が減るなどの影響があります。
一方で、社会保険によるさまざまな保障を新たに受けられるようになるというメリットもあります。

この記事では、次のことについて弁護士が解説します。

  • 社会保険とは何か
  • パートの社会保険の加入要件
  • 社会保険に加入することによる家計への影響
  • 社会保険の加入メリット
  • 会社が社会保険に加入させてくれない場合の対処法
  • 社会保険に加入したくない場合の対応方法
この記事の監修弁護士
弁護士 髙野 文幸

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

法改正の対象となる「社会保険」とは?

社会保険とは、「健康保険」や「厚生年金保険」「雇用保険」「労災保険」などを総称したもののことです。
今回の法改正では、この社会保険のうち、「健康保険」と「厚生年金保険」が改正の対象となっています。
(このため、ここから先のご説明では、健康保険と厚生年金保険を指して社会保険と言うこととします。)

まずは、「健康保険」や「厚生年金保険」について、その概要をご説明します。

(1)健康保険

「健康保険」は、病気やケガによる出費や支出の減少に備えた保険です。
健康保険に加入していることにより、病院で診察を受けた際に支払うべき医療費のうち、本来の3割など一部の負担のみで済みます。

社会保険に加入していない人は、「国民健康保険」に加入することになります。
「国民健康保険」に加入していても、社会保険である「健康保険」と同様に、病気やケガなどで受診した際に医療費の一部を負担するのみで済みます。

しかし、社会保険である「健康保険」は「国民健康保険」よりも給付が充実しているという点に特徴があります。
例えば、「出産手当金」や「傷病手当金」などは、社会保険である健康保険に加入している場合にのみもらうことができるものです。

また、保険料の支払についても異なります。
国民健康保険では保険料の全額を自分で負担して支払わなければなりません。
これに対して、社会保険である健康保険では、保険料の半額は勤務先が負担することとされており、自分で負担する額は本来の保険料の半額で済みます。

(2)厚生年金保険

「厚生年金保険」とは、会社員のように会社などで働く方が加入する公的年金です。
受け取ることのできる年金には、「老齢厚生年金」「障害厚生年金」「遺族厚生年金」の3種類があります。
この3種類は、それぞれ次のような場合にもらうことができます。

老齢厚生年金:原則65歳以上になったとき
障害厚生年金:病気やケガにより一定程度以上の障害を負ったとき
遺族厚生年金:厚生年金保険の被保険者であるなど一定の条件を満たす方が亡くなったとき(遺族に支給されます)

「厚生年金保険」に対して、社会保険に加入していない方が加入するのが「国民年金保険」です。
「厚生年金保険」に加入していると、厚生年金制度を通じて「国民年金保険」にも加入していることになりますので、国民年金保険との「二階建て」で年金をもらうことができます。
「二階建て」とは、国民年金保険からもらうことのできる年金額だけでなく、これに加えて厚生年金保険から年金をもらうことができるということです。
これにより、国民年金保険に加入している方よりも厚生年金保険に加入している方のほうがより多くの額の年金をもらうことができます。

健康保険と同様、厚生年金保険の保険料は、半額を勤務先が負担して残りの半額を自分で負担することとなっています。
これに対して、国民年金保険では保険料の全額を自分で負担することになります。
このことから、国民年金に加入している場合よりも厚生年金に加入している場合のほうが保険料の自己負担率が低く、お得です。

(3)社会保険に加入するメリット・デメリット

社会保険に加入するメリットには、次のものがあります。

  • 健康保険、厚生年金保険ともに、勤務先の会社が保険料の半額を負担してくれる。
  • 国民健康保険や国民年金保険では保険料の全額を自分で負担しなければならないため、これらに比べると自分で負担する保険料の割合が低くなる。
  • 老齢・障害・遺族の各年金について、国民年金に上乗せしてもらうことができるので、結果的にもらえる年金額が増える。
  • 健康保険については、出産手当金や傷病手当金などがもらえるため、国民健康保険に比べて給付が充実している。

これに対して、社会保険に加入することにはデメリットもあります。
社会保険に加入することによる代表的なデメリットは、主に次のとおりです。

  • 自分が負担する分の保険料が給与から天引きされるため、その分だけ手取り額が減る。
  • 支払うべき保険料負担額そのものは、国民健康保険・国民年金保険と比べると、増えることがある(扶養親族がいる場合は安くなることもあります)。

簡単に言えば、社会保険に加入すると、より給付が充実するということができます。

これらのメリット・デメリットについては、このあとでも詳しくご説明します。

パートの社会保険の加入要件は、法改正でどう変わる?

社会保険の適用対象となる事業所(適用事業所)に勤務している労働者が所定の加入要件を満たしている場合には、パートであっても社会保険に強制的に入ることになります。
社会保険に入るか入らないかを労働者が自由に選ぶことはできません。

(1)パート・アルバイトの方の社会保険の加入要件は主に5つ

「適用事業所に常時使用される70歳未満の方」であれば、社会保険に入ることになります。
これは、いわゆるフルタイム勤務の方などです。

パートタイマーやアルバイトの方などであっても、次のいずれも満たす方は被保険者となります。

  • 『1週間の所定労働時間』が、同じ事業所で同じような業務についている通常の労働者(フルタイム労働者)の4分の3以上である方
  • 『1ヶ月の所定労働日数』が、同じ事業所で同じような業務についている通常の労働者(フルタイム労働者)の4分の3以上である方

また、これらの要件を満たさない場合でも、次の5つの要件を全て満たす方は、被保険者となります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 雇用期間が1年以上見込まれること
  • 賃金の月額が8万8000円以上であること
  • 学生でないこと
  • 「特定適用事業所」等に勤めていること(事業所の規模が一定以上であること)

このうち、「特定適用事業所」とは、会社全体の社会保険の被保険者数が501人以上である適用事業所のことです(2022年2月現在)。
簡単に言えば、会社全体でフルタイム勤務の労働者の数が501人以上である会社に勤めている場合には、この要件を満たすと考えられます。

(2)2022年10月の改正で加入要件はどう変わる?

法改正により、「事業所の規模」の要件と「雇用期間」の要件がかわり、社会保険の適用が拡大されることになりました。
事業所の規模について、2022年10月1日から、「501人以上」という数字が「101人以上」に変更されます。

また、雇用期間について、2022年10月1日から、「1年以上」という数字が「2ヶ月超」に変更されます。

(3)2024年10月の改正で加入要件はどう変わる?

2024年10月にも、さらに加入要件が緩和され、社会保険の適用が拡大されることが予定されています。

2024年10月1日からは、「事業所の規模」の要件につき、「101人以上」という数字が「51人以上」へと変更されます。

このように、今後、段階的に中小企業で働くパート・アルバイトの方に対しても社会保険への加入が義務付けられるように変更されていきます。

社会保険の加入要件
現在(2022年2月)2022年10月から2024年10月から
会社の従業員数501人以上101人以上51人以上
週の所定労働時間20時間以上
雇用期間の見込み1年以上2か月超
賃金月額月額8万8000円以上(年収106万円以上)
その他学生ではないこと

参考:適用事業所と被保険者|日本年金機構

参考:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

参考:令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

社会保険加入による家計への影響は?

パートなのに社会保険に入らないといけないケースが増えるのか……。
社会保険に入ることになったせいで損をしてしまったら嫌だなあ。
もし私が社会保険に入ったら、家計にはいったいどんな影響があるんだろう。

社会保険に加入することで、社会保険料が天引きされることになるため、家計には一定の影響が出ます。
家計への影響について、支払うこととなる社会保険料の観点からご説明します。

(1)新たに支払うこととなる社会保険料の額

パートとして扶養内で働いており、現在年収132万円の方を例に解説します。
年収132万円の方が社会保険に入らずに働いている場合、負担する社会保険料(厚生年金保険料と健康保険料の合計)は0円です。
しかし、社会保険に加入した場合には、年間の厚生年金保険料は約12万780円、年間の健康保険料は約6万4740円となり、負担する年間の社会保険料は約18万5520円となります。

(年収132万円の場合)社会保険に加入しない場合社会保険に加入する場合
厚生年金保険料(年間)0円約12万780円
健康保険料(年間)0円約6万4740円
年間で負担が増える額約18万5520円

参考:令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表

年間18万円以上も負担が増えるなんて……。
社会保険に入ると損をするだけなんじゃないの?

たしかに、年間の社会保険料の負担は大きいものです。
しかし、社会保険に入ることは損をするばかりではありません。
負担した額に応じて、将来もらえる老齢年金の額が増えるなどのメリットもあります。

(2)支払う年金保険料と将来増える年金額

パートで年収150万円の方の場合、社会保険に加入することで支払う年金保険料は、月額1万1600円(年額13万9200円)です。
これに対して、仮に10年社会保険に加入し続けると、月額6400円(年額7万6800円)年金が増えます。
また、仮に20年社会保険に加入し続けると、月額1万2900円(年額15万4800円)年金が増えます

年収150万円の場合
社会保険への加入期間負担が増える年金保険料の総額増える年金の年額
1年13万9200円7200円
5年69万6000円3万8400円
10年139万2000円7万6800円
15年208万8000円11万5200
20年278万4000円15万4800円
25年348万円19万3200円
30年417万6000円23万1600円

参考:社会保険適用ガイドブック|厚生労働省

配偶者の扶養内での働き方について、詳しくはこちらをご覧ください。

配偶者の扶養内で働くなら知っておきたい5つの「○○万円の壁」

まだまだある!社会保険の加入メリットとは

社会保険の加入メリットは将来の老齢年金が増えることだけなの?
将来のことだし、それよりも今の生活のほうが大事だからあんまり関係ないかな……。

社会保険に加入するメリットは、将来の老齢年金が増えることだけではありません。
そのほかにもさまざまなメリットがあります。

社会保険に加入するメリットには、次のようなものがあります。

  • 障害厚生年金で障害への保障が充実する
  • 遺族厚生年金で万が一の死亡の場合の遺族への保障が充実する
  • 傷病手当金が受け取れる
  • 出産手当金が受け取れる

メリット(1)障害厚生年金で障害への保障が充実する

病気やケガで一定の障害を負ってしまった場合には、障害年金を受け取ることができます。
障害年金は、社会保険に入っていなくてももらえるものです(障害基礎年金)。
しかし、社会保険に入っていない場合には、障害等級が1級や2級といった日常生活に支障をきたすほどの重い障害になった場合しか、障害年金を受け取ることができません。

これに対して、社会保険に入っていれば、障害厚生年金を受け取ることができます。
障害厚生年金は、1級や2級の障害の場合には、障害基礎年金に上乗せした額の年金をもらうことができます。
また、1級、2級だけでなく3級という比較的軽い障害の場合であっても障害年金を受け取ることができます。
さらに障害の程度が軽い場合には障害手当金という一時金を受け取ることもできます。

このように、社会保険に入っていれば、入っていない場合と比べて障害への保障が大きく充実することになります。

障害の等級障害基礎年金障害厚生年金
1級1級の障害基礎年金1級の障害厚生年金
2級2級の障害基礎年金2級の障害厚生年金
3級(もらえない)3級の障害厚生年金
3級より軽い障害(もらえない)障害手当金(一時金)

メリット(2)万が一死亡の場合、遺族厚生年金で、遺族への保障が充実する

社会保険に加入していれば、万が一亡くなったときでも、一定の要件を満たせば、残された家族が遺族厚生年金を受け取ることができます。

遺族厚生年金は、社会保険に加入していなくてももらえる遺族基礎年金よりも手厚い額の保障です。
また、遺族基礎年金は子どもが高校を卒業すれば支給が打ち切られてしまうのに対して、遺族厚生年金であれば所定の打ち切り要件を満たさない限りは一生にわたって受け取ることができます。

メリット(3)傷病手当金が受け取れる

健康保険に加入すれば、病気やケガにより4日以上働くことができなくなった場合に傷病手当金を受け取ることができます。
傷病手当金は、働くことができない期間、それまでの給与を基礎に計算して約3分の2に相当する額を最長1年6ヶ月にわたって受け取ることができます。

傷病手当金について、詳しくはこちらをご覧ください。

傷病手当金と有給休暇はどっちが得?選ぶ際のポイントや違いを解説

メリット(4)出産手当金が受け取れる

健康保険に加入すれば、出産のために会社を休んで給与がもらえなかった場合、産前42日、産後56日までの間、それまでの給与を基礎に計算して約3分の2に相当する額を受け取ることができます。

会社が社会保険に加入させてくれないときの対処法

ここまででご説明したように、社会保険に加入するメリットにはさまざまなものがあります。
しかし、会社が社会保険に加入させてくれないというケースもあり得ます。
会社が社会保険に加入させてくれない場合の対処法などについてご説明します。

(1)加入状況の確認方法

まずは、自分が社会保険に加入しているのかどうかを確認しましょう。
社会保険に加入しているかどうかを確認する方法としては、次のようなものがあります。

  • 給与明細を見て社会保険料が天引きされているかどうか確認する(社会保険料が天引きされていれば、社会保険に加入していることになります)
  • 会社から健康保険証が支給されているか確認する(健康保険証が支給されていれば、社会保険に加入していることになります)
  • 年に一度届く「ねんきん定期便」にまとめられている加入状況をみて、厚生年金保険に加入しているか確認する
  • 年金手帳を持参して年金事務所の相談窓口に行き相談する

(2)会社が加入させてくれないときの対処法

これらの方法で社会保険に加入しているかを確認した結果、社会保険に加入していないことが判明することがあります。
社会保険の加入要件を満たしていないことが理由であれば何も問題はありません。
しかし、社会保険の加入要件を満たしているのに社会保険に加入していないのであれば、それは問題です。

このような場合、会社に対して社会保険に加入させてくれるように申し入れましょう。
会社がミスで加入していないのであれば、申入れをしたことで加入させてくれるかもしれません。
しかし、会社に申入れをしても取り合ってもらえない場合には、次のような専門の窓口に相談するとよいです。

健康保険:全国健康保険協会
厚生年金:会社の所在地を管轄する年金事務所

また、労働問題を扱う弁護士に相談するのも選択肢のひとつです。
個人で交渉しても解決できない場合であっても、弁護士のような専門家に依頼して代わりに交渉してもらえば解決できる可能性があります。

会社が社会保険に未加入である場合の対処法について、詳しくはこちらをご覧ください。

参考:全国健康保険協会

参考:全国の相談・手続き窓口|日本年金機構

社会保険に加入したくないときの対応方法

社会保険に加入するメリットがあることは分かったけれど、それでもやっぱり私は社会保険に加入したくないな。

ご事情によって「社会保険に加入したくない」と考えることもありますよね。
そんなときには、社会保険に加入せずに済むように働き方を調整しましょう。

社会保険に加入せずに済むような働き方とは、ここまででご説明した社会保険の加入要件を満たさないような働き方のことです。
具体的には、次のような点に注意して働き方を調整してみましょう。

  • 月収8万8000円未満(年収106万円未満)になるように働く時間を減らす
  • 週所定労働時間が20時間未満になるように働く時間を減らす

【まとめ】社会保険料の負担で手取り額が減る一方、保障が充実するメリットがある

この記事のまとめは次のとおりです。

  • 社会保険とは健康保険と厚生年金保険を総称したもののこと。
  • パート・アルバイトの方は、週所定労働時間が20時間以上であることや賃金月額が8万8000円以上であることなどの所定の要件を満たした場合には、社会保険に加入しなければならない。
  • 社会保険に加入することで、社会保険料が天引きされて手取り額が減るという影響がある。
  • 社会保険に加入することで、将来もらえる年金が増えたり、障害への保障が充実する、傷病手当金が受け取れるなどのメリットがある。
  • 会社が社会保険に加入させてくれないときには、公的窓口や弁護士に相談するという対処法がある。
  • 社会保険に加入したくないときは、月収8万8000円以下になるよう働く時間を減らすなどの対応方法がある。

社会保険に入るか入らないかは、家計への影響も大きく、切実な問題ですよね。
社会保険に入ることのメリットとデメリットをしっかりと把握することで、社会保険に加入するかどうかを考えながら働き方を決められるようにしましょう。

社会保険について分からないことがある場合には、全国健康保険協会などの公的窓口や労働問題を扱う弁護士などにご相談ください。

参考:全国健康保険協会

参考:全国の相談・手続き窓口|日本年金機構

この記事の監修弁護士
弁護士 髙野 文幸

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

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