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盗まれた車と交通事故!賠償は誰に請求ができるのか?

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yamazaki_sakura

「交通事故にあったが、相手が盗難車だった。どんな補償を受けられるの?」

警察庁が公表している犯罪統計資料によれば、2020年度の車両盗難件数は5210件(2019年度は7143件)でした。
単純に日割計算をすると、1日あたり14台以上の車両が盗難にあっているということになりますので、盗難車による交通事故の被害にあうというのは決してあり得ないことではありません。

その場合、交通事故を起こした車両運転手に対して、生じた損害の賠償請求ができることは問題ありません。
ですが、通常は、車両を盗むような運転手からの補償は期待できません。
この点、極めて限定的なケースですが、所有者に車両保管上の過失(不注意や落ち度)がある場合には、所有者や所有者の加入している保険に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
今回の記事では、

  • 盗難車の所有者の責任
  • 盗難車と所有者の責任に関する実際の裁判例
  • 所有者の責任を追及できない場合の補償

などについてご説明します。

この記事の監修弁護士
弁護士 岡﨑 淳

早稲田大学、及び明治大学法科大学院卒。2012年弁護士登録。アディーレ法律事務所に入所して以来、佐世保支店長、丸の内支店長、北千住支店長を経て、2022年より交通部門の統括者。交通事故の被害を受けてお悩みの方々に寄り添い、真摯な対応を貫くことをモットーに、日々ご依頼者様のため奮闘している。第一東京弁護士会所属。

所有者に損害賠償を請求できる理屈とは?

盗難車による交通事故の被害にあったというケースについて、所有者に民法709条の責任が認められる場合には、所有者に対して損害の賠償を請求できます。

第709条(不法行為による損害賠償)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用:民法 | e-Gov法令検索

所有者に対して民法上の責任が追及できるようなケースでは、通常は所有者の任意保険から賠償を受けることができるでしょう。

さらに、「人身事故」(人身損害)については、民法709条に加え、所有者が自動車損害賠償保障法(自賠法)3条の「運行供用者」にあたる場合には、基本的には自賠責保険から補償を受けることができます(※車両の所有者が自賠責保険に加入していなかった場合には、自賠責による補償を受けることはできません)。

自動車損害賠償保障法

第3条(自動車損害賠償責任)

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

引用:自動車損害賠償保障法 | e-Gov法令検索

人身事故と物損事故の違いについて詳しくはこちらをご覧ください。

物損事故って何?人身事故との違いや事故後の適切な対応について徹底解説!

それでは、所有者について民法709条や自賠法3条の責任が認められるための要件についてご説明します。

(1)民法709条の要件について

盗難車による交通事故について、所有者に民法709条の責任が認められる要件は、主に次のとおりです。

車両が盗難にあったことについて過失があること

交通事故の被害者に損害が生じたこと

所有者の過失と事故による損害の間に因果関係があること

盗難車の交通事故に関する所有者の民法上の責任について特に問題になるのは、「所有者の過失」と「過失と損害との因果関係」です。
それぞれご説明します。
民法709条について詳しくはこちらをご覧ください。

民法709条とは?具体的な事例で損害賠償請求についてくわしく解説

(1-1)車両が盗難にあったことについて所有者に過失があること

例えば、自宅の車庫に車両を駐車して、しっかり鍵をかけておいたのに、車の窓ガラスを割って車両が盗まれたという場合には、通常は盗難にあたって所有者の過失はないでしょう。

他方、人通りの多い場所に鍵を付けたまま長時間放置している間に車両が盗まれた、という場合には、盗難にあたって所有者に過失がありそうです。
盗難にあたっての所有者の過失の有無は、個別の事案によって異なりますが、主に次のような事情から考えることになります。

  • 車のドアにカギをかけていたか
  • エンジンや鍵をつけっ放しにしていなかったか
  • 駐車場所の状況(第三者が簡単に接触できる場所かどうか)
  • 車から離れた時間
  • 車から離れた理由
  • 警察への被害届出の有無    など

(1-2)所有者の過失と損害との間に因果関係があること

車両が盗難にあったことについて所有者に過失があったとしても、所有者の過失と交通事故との因果関係が認められるのは困難です。
というのは、交通事故の直接の原因は、通常は運転手の不注意です。
所有者に、盗まれやすい状況で車両を管理していた落ち度があるとしても、ただちにそれが事故につながるとは言えないことはお分かりかと思います。

例えば、盗難直後に、盗難場所から極めて近接した場所で事故を起こしたような場合以外では、実際の裁判でも因果関係が認められることは難しいです。

(1-3)盗難車と民法709条に関する裁判例について

それでは、盗難車が交通事故を起こしたという事例で、民法709条が問題となった実際の裁判例をいくつかご紹介しましょう。

事案の概要責任理由裁判年月日
通勤のために従業員に使用させていた車両が盗まれ、交通事故を起こした事案
(車両は従業員寮の駐車場に駐車中。エンジンキーは運転席上部のサンバイザー部分に挟まれ、ドアの施錠なし。)
※被害者が車両の所有者に対し、民法709条の責任を求めたもの
×

(過失なし)
従業員に対し、駐車場に駐車する際はドアを施錠し、エンジンキーを保管場所に保管するとの内規を定めていたこと
第三者の自由な立ち入りが予定されていない従業員寮の食堂内にエンジンキーを保管する場所を設けていたこと
→自動車保管上の過失はない
最高裁
2020年1月21日
第三者が自由に出入りできる駐車場に駐車中の車両が盗まれ、交通事故を起こした事案
※被害者が車両の所有者に対し、民法709条+自賠法3条の責任を求めたもの
×
(因果関係なし)
※自賠法3条の
責任は肯定
車両は施錠されておらず、鍵は運転席サンバイザーに挟まれていたこと
→車両の保管について非難されるべき事由あり
ただし、車両の保管と第三者が車両を盗み事故を起こしたことの間に因果関係はない
東京地裁
2010年11月30日
無施錠の車両が盗まれ、交通事故を起こした事案
※被害者が車両の所有者に対し、民法709条の責任を求めたもの
×
(因果関係なし)
交通事故を起こしかねないような者が自動車を盗みそうな状況下で駐車したような特別な場合を除き、無施錠駐車と交通事故との間に因果関係はない大阪高裁
2000年12月12日
国道上に駐車し、エンジンキーをつけたまま施錠しなかった車両が盗まれ、交通事故を起こした事例
※被害者が車両の所有者に対し、民法709条の責任を求めたもの
自動車管理上の過失あり
盗難と事故が同一日であること
盗難と事故の場所が6~8キロしか離れていないこと
→過失と事故との因果関係もあり
福岡地裁
1987年10月13日

実際の裁判例で所有者に民法709条の責任が認められた事例は多くありません。
もしも盗難車による交通事故の被害にあい、加害者自身の賠償能力がないという場合には、早急に弁護士に相談することをお勧めします。

(2)自賠法3条の要件について

自賠法は、民法の特則です。
交通事故の被害者が所有者に対して民法709条の責任を追及するには、被害者側にて所有者の過失や損害との因果関係を立証しなければいけません。

他方、自賠法3条を根拠に所有者の責任を追及する場合、被害者は単に車両の運行によって損害が発生したことだけを立証すれば足ります。
ただし、自賠法3条の責任を追及するためには、所有者が同条の

自己のために自動車を運行の用に供する者

引用:自賠法3条

(これを「運行供用者」と言います)と言えなければいけません。
そして、自賠法3条の「運行供用者」と言うためには、一般的には、車両の運行をコントロールできること、それにより利益を得ていることが必要です。

車両を盗まれたという場合に、所有者が車両の運行をコントロールできたかどうかは、盗難直後かどうかということや、車両を取り戻す手段があったかどうか、などが考慮されますが、車両を盗まれてもなお車両の運行をコントロールできたと言えるケースは、やはり極めてまれです。

盗難車と自賠法3条に関する裁判例について

それでは、盗難車が交通事故を起こしたという事例で、自賠法3条が問題となった実際の裁判例をいくつかご紹介しましょう。

事案の概要責任理由裁判年月日
車両保有者が弁当配達中、配達先の施設の入口付近の路上にエンジンをかけたまま駐車していたところ、入居者が車両を盗み交通事故を起こしたという事案
※被害者側(遺族)が車両の所有者に対し、自賠法3条の責任を求めたもの
×盗難から1時間以内に被害届を提出していること
事故まで12時間が経過していること
盗難場所から事故現場まで最短走行距離24キロ以上離れていること
加害者がパトカーに追跡され、逃走中に事故を起こしたこと
名古屋地裁2018年6月6日
第三者が自由に出入りできる駐車場に駐車中の車両が盗まれ、交通事故を起こした事案
※被害者が車両の所有者に対し、民法709条+自賠法3条の責任を求めたもの

※民法709条の責任は否定
車両は施錠されておらず、鍵は運転席サンバイザーに挟まれていたこと
盗難から事故まで5時間半程度しか経過していないこと
盗難場所から事故現場も遠隔地とはいえないこと
盗難後事故発生まで、車両が運転されないように何らかの措置を取ったこともないこと
東京地裁
2010年11月30日
親族宅から車両の鍵を盗み出した上、運転中に交通事故を起こした事案
※被害者が車両の所有者に対し、民法709条+自賠法3条の責任を求めたもの
×
※民法709条の責任も否定
車両の鍵は自宅兼店舗の奥の厨房に保管されていたこと
車両のドアは施錠した上、駐車場に駐車していたこと
車両所有者として鍵・車両の保管に注意を欠いたとは考えられず、車両の運転を容認したこともないこと
広島地裁
1989年6月30日
駐車場に駐車してあったタクシー会社の車両(鍵をかけず、エンジンキーもさしたままであった)を盗み出した上、運転中に交通事故を起こした事案
※被害者が車両の所有者に対し、民法709条+自賠法3条の責任を求めたもの
×
※民法709条の責任も否定
犯人とタクシー会社は雇用関係など人的関係がないこと
タクシー営業ののち、乗り捨てようという意図のもとに盗まれたこと
盗難後2時間タクシー営業をしたのちに事故を起こしたこと
最高裁1973年12月20日

民法709条及び自賠法3条の責任を追及できない場合はどうすれば良い?

今ご紹介したとおり、実際の事案でも、所有者の責任を追及できるケースはそれほど多くはありません。
盗難車による交通事故の被害にあい所有者の責任を追及できない場合、被害者としては、加害者本人に損害賠償を請求するほか、『政府の保障事業』に対して損害の補償を請求することができます。

政府の保障事業とは

政府の保障事業とは、加害者が誰か分からなかったり(ひき逃げなど)、加害者が自賠責保険に加入していなかったりして、交通事故の被害者が自賠責保険による補償が受けられない場合に、加害者に代わって国が被害者に(限度はありますが)損害賠償を立替払いする制度です。

これまでご説明したとおり、盗難車による交通事故の被害にあい、所有者に対する請求が認められず、自賠法による補償が受けられない場合にも政府の保障事業に補償を請求することができます。
政府の保障事業によって補償される賠償金の限度額(傷害の場合は120万円、後遺障害等級認定を受けた場合には等級によって75万~4000万円)や、物損事故では利用できないという点は、自賠責保険と同じです。

参考:自賠責保険ポータルサイト|国土交通省

盗難車による交通事故の被害にあい、加害者に賠償能力がなく、所有者の責任も追及できない場合には、政府の保障事業による補償を検討してください。

さらに、被害者の加入している任意保険に「人身傷害保険」がついている場合には、保険金を受け取れる可能性がありますので、まずは保険会社に確認をしましょう。

【まとめ】盗難車による交通事故の被害にあった場合、限定的なケースでは所有者の責任を追及できる

今回の記事のまとめは、次のとおりです。

  • 盗難車による交通事故の被害にあった場合、加害者自身に対しては当然、損害の賠償を請求できる。
  • 所有者に対して民法上の責任を追及する場合、所有者に過失があること、所有者の過失と交通事故との間に因果関係があることなどが必要だが、実際の事例で所有者の責任が認められることはまれである。
  • 人身事故について所有者に対して自賠法3条の責任を追及するには、所有者が「運行供用者」と言える必要があるが、やはり実際の事例で認められることはまれである。
  • 所有者の自賠責保険による補償を受けられない場合には、「政府の保障事業」から損害に対する補償金の立替払いを受けることができる。

盗難車による交通事故の被害にあった方は、弁護士事務所へご相談ください。

この記事の監修弁護士
弁護士 岡﨑 淳

早稲田大学、及び明治大学法科大学院卒。2012年弁護士登録。アディーレ法律事務所に入所して以来、佐世保支店長、丸の内支店長、北千住支店長を経て、2022年より交通部門の統括者。交通事故の被害を受けてお悩みの方々に寄り添い、真摯な対応を貫くことをモットーに、日々ご依頼者様のため奮闘している。第一東京弁護士会所属。

※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

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