交通事故により被害者が死亡した場合、死亡慰謝料を含めた損害賠償額は一般的に高額になります。
被害者は亡くなられていますので、被害者の相続人が、加害者や加害者側の任意保険会社と損害賠償についての話し合いをする必要があります。
本人が亡くなられているのに、本人について発生した損害について正確に把握し、適切な損害賠償額を請求することは簡単ではありません。
そこで今回の記事では、交通死亡事故の慰謝料の相場や、損害賠償請求のポイントについて、弁護士が解説します。
死亡慰謝料とは
交通事故により被害者が死亡した場合、被害者に対して、被害者が精神的な苦痛を受けて死亡したことについて、慰謝料が支払われます(民法710条)。
また、被害者の一定の遺族(被害者の父母、配偶者、子など)も、被害者が事故に遭い死亡したことで受けた精神的苦痛について、加害者側に対して慰謝料を請求することができます(民法711条)。
このように、被害者が交通事故に遭い亡くなったことで受けた精神的苦痛に対して、被害者及び一定の遺族に支払われる慰謝料を、死亡慰謝料といいます。
死亡慰謝料は、加害者側に請求できる様々な損害の項目の中でも、高額となる項目です。
被害者が亡くなると相続人に請求権が引き継がれる
交通死亡事故では被害者本人が亡くなっていますので、被害者本人に発生した死亡慰謝料などの損害賠償を請求する権利は、被害者の相続人が相続し、加害者側に請求していくことになります。
また、相続した損害賠償請求権のほかに、一定の遺族の固有の権利として、死亡慰謝料を請求することができます。この死亡慰謝料を請求できる遺族は、法律上、被害者の父母、配偶者及び子に限定されています(民法711条)。
ただし、例えば祖父母等の民法711条に規定されていない遺族が被害者と特別な関係にあった場合には、その祖父母等は民法711条所定の者に準ずる者として、死亡慰謝料の請求が認められるケースもあります。
一般的に、交通死亡事故の被害者が請求できる損害賠償の主な項目は次の通りですが、具体的にどの項目について請求できるかは、被害者の状況によって異なります。
例えば、交通死亡事故により被害者が即死した場合には、休業損害は発生しません。
一方で、被害者がしばらく入院治療した後に亡くなった場合には、入院中仕事ができずに収入が減少した分について休業損害が発生しますので、休業損害についても請求することができます。
どの項目についてどの程度の賠償金を請求できるかについては、項目ごとに計算方法がありますので、専門家でなければ計算が難しい点もあります。
また、被害者が若年者であると、一般的に逸失利益は死亡慰謝料以上に高額になります。
請求できる項目に漏れがないか、項目ごとに適切な金額を請求できているかどうかについては、加害者側と示談を成立させる前に、必ず交通事故に詳しい弁護士に相談するようにしてください。
<被害者から相続した損害賠償請求権>
治療関係費 | 実際の治療にかかった費用 |
---|---|
付添費用 | 医師の指示や被害者の年齢などにより近親者やプロが付き添った場合の費用 |
通院交通費 | 通院に要した交通費 |
葬儀関係費用 | 葬儀費用 |
休業損害 | 事故が原因で働けなかったために失った収入 |
死亡による逸失利益 | 死亡したために失った、被害者が将来にわたって得られたであろう収入 |
死亡慰謝料 | 死亡による精神的苦痛の損害 |
交通事故による物損 (物の損害) | 車の修理代 など |
<一定の遺族固有の損害賠償請求権>
死亡慰謝料 | 死亡慰謝料 被害者が死亡したことによる精神的苦痛の損害 |
交通事故の慰謝料基準
死亡慰謝料の算定には次の3つの基準があり、どの基準で計算するかによって死亡慰謝料の額が異なります。
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 裁判所基準(弁護士基準)
精神的苦痛は目に見えるものではありませんので、それを慰謝するための「正しい慰謝料」は誰にも分らないのですが、賠償するためには精神的苦痛を金銭的に評価する必要があります。
そこで、自賠責保険基準は法令で定められた死亡慰謝料を基準とし、裁判所基準では交通事故の裁判例の積み重ねにより客観的な事情から慰謝料を算定するという基準が確立しています。
それぞれの基準について説明します。
(1)自賠責保険基準
自賠責保険は、運行に供する車両の保有者に法律上その加入を強制しているものです(自動車損害賠償保障法5条。以下「自賠法」と記載します。)。
死亡慰謝料を自賠責保険から受け取る場合には、この基準で算定され、具体的な金額は法令に規定されています。
交通事故の被害者に対して、最低限の補償を行うことを目的としていますので、基本的に支払額は3つの基準のうち最も低くなります。
ただし、自賠責保険金額は、交通事故の過失があったとしても、70%未満の過失については減額対象となりません。一方で、任意保険基準や裁判所基準は、自己の過失分については賠償額から差し引かれます。
したがって、被害者の過失割合が大きい場合には、自賠責保険の基準が最も高額となることもあります。
<自賠責保険の基準>(2020年4月1日以降に発生した交通事故)
死亡した被害者本人の慰謝料 | 400万円 |
遺族の慰謝料(被害者の父母、配偶者、子) 請求権者1人 請求権者2人 請求権者3人以上 ※被害者に被扶養者がいるとき | 請求する人数によって異なる 550万円 650万円 750万円 上記金額に200万円を加算する |
例えば、被害者に配偶者と子供2人(幼児)がいた場合の死亡慰謝料を計算してみると、
400万円(本人の慰謝料)+950万円(遺族の慰謝料・請求権者は3人以上+200万円(被扶養者あり))=1350万円
となります。
(2)任意保険基準
任意保険の基準は、加害者側の任意保険会社が独自に設定している、示談交渉をする際の支払いの基準です。
任意保険会社によってその内容は異なり、公表されていません。
任意保険会社が提示してくる初回の示談案を見る限り、一般的に自賠責保険と同等かそれ以上ではありますが、裁判所基準(弁護士基準)と比べると、かなり低い額に抑えられていることが多いようです。
(3)裁判所基準(弁護士の基準)
加害者側の任意保険会社の示談案に納得できず示談できない場合には、訴訟を提起して、裁判所に適切な損害賠償額を判断してもらうことになります。
これまでの裁判例により認められてきた、客観的事情を考慮して賠償額を基準化したものが、裁判所基準(弁護士の基準)です。
実務では、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称「赤い本」)」及び「交通事故損害額算定基準(通称「青本」)」という本が、裁判所基準を踏襲したものとして、損害賠償の算定に利用されています。
3つの基準の中で、一般的に一番高くなるのがこの裁判所基準(弁護士の基準)です。
弁護士は、この基準で死亡慰謝料を算定して加害者側と交渉します。
<裁判所基準>
被害者の属性 | 慰謝料額(※1) |
---|---|
一家の支柱(※2) | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
その他(独身の男女、子ども、幼児など) | 2000万~2500万円 |
※1死亡慰謝料の総額であり、被害者本人の他、一定の遺族に認められる死亡慰謝料も含んだ金額です。一応の目安額であり、具体的な事情を考慮することで慰謝料額は増減します。
※2「一家の支柱」とは、被害者の世帯が、主として被害者の収入で生計を立てている場合をいいます。
自賠責保険基準のところで計算したのと同じように、被害者に配偶者と子供2人(幼児)がいた場合の死亡慰謝料を裁判所基準(弁護士基準)で計算してみましょう。
被害者の属性が「一家の支柱」だとすると、死亡慰謝料の目安額は2800万円になりますので、自賠責保険基準(同じケースで1350万円)の2倍以上の金額となります。
死亡慰謝料を含む損害賠償金の請求手順
交通死亡事故による損害賠償金について、一般的な請求手順について説明します。
加害者に対して損害賠償を請求する権利(損害賠償請求権)は、いつまでも行使できるものではありません。
民法や自賠法には、消滅時効が定められており、一定期間を過ぎて消滅時効が完成してしまうと、損害賠償請求権は行使することができなくなってしまいます。
民法上、2020年4月1日以降に発生した人身事故による損害賠償請求権は、原則として、事故による損害及び加害者を知った時から5年(民法724条の2)です。
交通死亡事故の場合、損害がどの程度か明らかになるのは被害者が死亡したときですので、被害者が死亡した翌日から時効期間がスタートするケースが多いでしょう。
自賠法上の被害者請求権の消滅時効は、民法とは異なり、死亡日から3年間とされています。
消滅時効について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
万が一消滅時効期間が過ぎたとしても、加害者側の任意保険会社が消滅時効の主張をせずに支払いに応じるケースはあるようです。
しかし、消滅時効によって、法律上請求する権利を失うことは被害者にとって不利益です。
弁護士に相談しながら、期間内に請求したり、請求できる期間を延長したりする措置をとるようにしましょう。
(1)示談交渉は葬儀と四十九日の法要が終わったあとに行う
交通死亡事故のケースでは、被害者が死亡したことで、遺族は葬儀を執り行ったり、相続の準備をしたり、関係各所への連絡や調整をしたりするなど、精神的苦痛を受けながらも忙しい毎日を送ることになります。
したがって、加害者側の任意保険会社は、事故直後にお悔やみの連絡をしてくるかもしれませんが、具体的な損害賠償の話については、四十九日の法要が済むまで控えるのが一般的です。
四十九日の法要が済んだ後、加害者側の任意保険会社から、損害賠償額の提案と示談の申し込みがあるでしょう。
もし、まだ精神的に損害賠償について話し合う準備ができていない場合には、無理をして示談交渉を開始する必要はありませんが、消滅時効には注意するようにしましょう。
(2)弁護士に示談交渉を依頼し、進めてもらう
加害者側の任意保険会社から示談案の提示があっても、提案額について適正かどうかを検討せずに、示談を成立させることは避けてください。
なぜなら、加害者側の任意保険会社は営利企業ですので、賠償額が高ければその分自社にとっては損となってしまうからです。
特に、交通死亡事故の損害賠償金は通常高額になりますので、きちんと検討せずに示談を成立させてしまうと、後で「示談額はこんなに適正額よりも低かった」と後悔することになりかねません。
交通事故に詳しい弁護士であれば、被害者及び遺族の利益を一番に考えて、損害賠償の項目について漏れがないかを検討し、各損害について裁判所基準で適切な賠償額を計算することができますから、まずは示談案が適切なのかどうか、弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士に相談した結果、提案額に増額可能性があるのであれば、適切な損害賠償を受け取るために、交渉を弁護士に依頼した方がよいでしょう。
弁護士費用特約を利用できる場合には、基本的に弁護士費用の負担なく弁護士に依頼することができます。弁護士費用特約がない場合には、弁護士費用は自己負担となりますが、弁護士に依頼したことで増額できる損害賠償額を考慮すると、弁護士費用を負担しても十分プラスとなることが多いです。
弁護士費用は、弁護士事務所ごとに異なりますので、依頼する前に尋ねるようにしましょう。
(3)示談が決裂した場合は裁判所での解決を目指す
示談交渉でお互いが納得できれば、示談が成立し、損害賠償金が支払われます。
しかし、示談交渉でお互い納得できず合意できないと、示談は決裂し、裁判所での解決を目指すことになります。
通常、遺族が原告となり、裁判所に訴訟を提起し、被告である加害者に対して損害賠償の支払いを求めます。
裁判所の関与により、当事者間で話し合って和解することができれば、和解が成立します。
話し合っても妥協点を見いだせず和解が不成立となったり、和解を希望しない場合には、裁判所が、判決によって死亡慰謝料を含んだ損害賠償額や過失割合などについて判断します。
訴訟は避けたいと思われるかもしれませんが、遺族の今後の生活や被害者のために適切な賠償金を受け取るという観点からも、安易に妥協して示談を成立させることはお勧めしません。
依頼した弁護士とよく話し合い、アドバイスを受けながら、示談を成立させるか、訴訟を提起するかを判断するようにしましょう。
【まとめ】交通事故の慰謝料に関する相談はアディーレ法律事務所へ
今回の記事では、交通死亡事故における慰謝料の相場、損害賠償請求のポイントについて解説しました。
死亡慰謝料の算定方法には3種類あり、どの基準で計算するかによって、慰謝料額が2倍以上になることがあります。
弁護士であれば、被害者・遺族にとって通常一番高くなる基準である裁判所基準(弁護士基準)で死亡慰謝料などの損害を算定して請求することができます。
また、被害者を亡くし、遺族が精神的苦痛を受けながらも元の生活を取り戻そうとしている大変な時期に、損害賠償の請求手続きや交渉を行うことは、時間と労力がかかりますし、ストレスになって生活に悪影響を及ぼすことも想定されます。
弁護士に示談交渉を任せることで、それにかかる負担やストレスを軽減し、自分の生活を取り戻すことに集中する時間を確保することができるかもしれません。
交通死亡事故の慰謝料でお悩みの方は、アディーレ法律事務所へご相談ください。