業務上や通勤中にケガや病気をした場合、労災保険から休業補償を貰えることがあります。
また、新型コロナの影響で休業をした場合にも、労働者が貰えるお金があります。
休業補償や、新型コロナの影響で休業した場合の給付金について、弁護士が解説いたします。
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
労災保険の休業補償とは?
労災保険の休業補償とは、従業員が業務上、または通勤中に負ったケガや病気が原因で働けず、賃金を受け取れないときに、給付されるものです。
労災保険に加入している方が、次の3つの要件を満たしている場合に、労働基準監督署長に保険給付の申請をなし、これに対する労働基準監督署長の支給決定がなされると、労災保険から休業期間4日目から休業(補償)給付と休業特別支給金が貰えます。(労働者災害補償保険法第十四条)。
- 労働者が業務や通勤により負ったケガ、または病気のため療養している
- 療養のため労働ができない
- 賃金を受けていない
労災保険法による保険給付は、後記のとおり、賃金を受けない4日目から対象とされますが、労働者が業務により負ったケガで労務の提供ができない、いわゆる業務災害のケースでは、最初の3日間は、労働基準法76条の休業補償(平均賃金の60%)の対象となります。
休業補償が適用される業務災害や通勤災害とは?
労災保険制度の休業補償が適用されるのは、業務災害(業務上のケガや病気)と通勤災害(通勤中のケガや病気)の2つの場面です。
業務災害や通勤災害の具体例をご紹介いたします。
【業務災害の例】
- 工場で機械操作中に指を切断した
- 解体作業中に、アスベストにより肺の病気にかかった
就業中の私的行為が原因となってケガや病気をした場合などは業務災害とは認められません。
【通勤災害の例】
- 通勤中のバスで交通事故に遭いケガをした
- 通勤中に、最寄り駅で転倒してケガをした。
普段使う通勤路から外れて、遠回りしているときにケガをした場合などは、原則として、通勤災害とは認められません。
休業補償の金額
労災の保険給付による場合、大まかにいえば、休業期間中は、1日当たりの賃金の80%を受け取ることができます(非課税)。
正確には、労災保険の休業補償で受けとることができる1日あたりの金額は、原則として、以下の通り計算します。
休業補償給付
休業特別支援金
※給付基礎日額
原則として労働基準法上の平均賃金に相当する額のことです。
給付基礎日額(平均賃金)は、以下のようにして算出します。
給付基礎日額(平均賃金)を計算する
原則として、給付基礎日額(平均賃金)には、次のAの金額を用います(労働基準法12条1項)。
ただし、賃金が時間額や日額、出来高給で決められていて、労働日数が少ない場合などの場合は、A・Bの内、いずれか高い金額を用います。
A 直前3ヶ月間の賃金の合計÷直前3ヶ月間の暦日数
B 直前3ヶ月間の賃金の合計÷直前3ヶ月間の労働日数
(1-1)「直前3ヶ月間」とは
基礎給付日額の計算式A、Bに出てくる「直前3ヶ月間」とは、「休業事由が発生した日の直前の賃金の締め日から、3ヶ月間遡った期間」のことを指します。
なお、次の期間は直前3ヶ月間の期間から除きます(労働基準法12条3項)。
- 業務上のケガや病気により療養するために休業した期間
- 産前産後休業期間
- 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- 育児・介護休業期間
- 試用期間
勤務期間が3ヶ月に満たない場合は、入社から直前の給与締め日までの賃金の総額を計算することになります。
(1-2)「賃金」とは
基礎給付日額の計算式A、Bに出てくる「賃金」とは、賃金の締日ごとに、基本給のみならず、交通費、皆勤手当、残業手当など諸手当も合算した金額です。
税金や社会保険料などの金額は控除しません。
また、以下の賃金は、基礎給付日額の計算で用いる「賃金」には含まれません。
- 臨時に支払われる賃金(慶弔見舞金、退職金等)
- 3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(6ヶ月に1回支払われる賞与など)
- 労働協約で定められていない現物給与(なお、労働協約によらない現物給与は違法)
(1-3)3ヶ月間の暦日数・労働日数を計算する
直近3ヶ月間の暦日数・労働日数を計算します。
「暦日数」には、労働日以外の休日も含みますが、「労働日数」には、労働日以外の休日は含みません。
なお、次の期間は直前3ヶ月間の暦日数・労働日数から除きます(労働基準法12条3項)。
- 業務上のケガや病気により療養するために休業した期間
- 産前産後休業期間
- 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- 育児・介護休業期間
- 試用期間
勤務期間が3ヶ月に満たない場合は、勤務開始日から前締日までの暦日数を計算します。
労働基準法上の休業手当との違いとは?
労働基準法上の休業手当は会社都合によって生じた休業に対して、事業主が従業員に対し、平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならないという制度です(労働基準法第26条)。
会社都合による休業とは、労働者が働く意思があっても、会社の都合により業務を停止せざるを得ない状況のことをいいます。
例えば、機械の検査による操業中止、資材不足による操業停止などがこれに当てはまります。
休業第1日目から休業手当が貰えますが、休業手当としてもらえる金額は、平均賃金の60%で課税対象となります。
休業補償(労災保険) | 休業手当(労働基準法) | |
---|---|---|
支給事由 | 業務上や通勤上のケガ・病気 | 会社都合による休業 |
支給金額 | 平均賃金の80% (休業補償給付+休業特別支援金) | 平均賃金の60% |
支給開始日 | 休業第4日目。 | 休業第1日目 |
税金 | 非課税 | 課税 |
参考:No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係|国税庁
新型コロナにより休業した場合に、労働者が貰えるお金
新型コロナにより休業した労働者は、次のお金を受け取ることができる場合があります。
- 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金
- 傷病手当金
これらにつき、詳しく解説いたします。
(1)新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金
新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金は、新型コロナウイルスの影響により休業させられた中小企業の労働者のうち、休業中に賃金(休業手当)を支給されなかった方に対し、国が申請者に対し、一定額を支給するというものです。
2020年4月1日~12月31日までの間に事業者の指示を受けて休業し、その間に休業手当の支払いがなかった中小企業の労働者が対象となります。
支給額は、次の計算により算定します。
休業前の1日あたり平均賃金(上限1万1000円)×80%×休業実績(※)
※休業実績=各月の日数(30日または31日)-就労した日数または労働者の事情で休んだ日数
新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金は、労働者が申請しないと貰えませんので、注意しましょう。
参考:新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金|厚生労働省
(2)傷病手当金
自分が新型コロナに感染して会社を休業する場合は、通常は、健康保険から支給される「傷病手当金」の対象となります。
傷病手当金の場合、療養のために就業できなくなった日から起算して第4日目から貰えます。
傷病手当で貰える1日あたりのお金は、「標準報酬日額(直近12ヶ月の平均)×3分の2」となります。
なお、自営業やフリーランスなどが加入する国民健康保険では、通常は傷病手当金が支給されないのが実情です。
ただし、新型コロナウイルスに感染(感染疑い含む)したために休職した場合は、一定の条件を満たせば国民健康保険の加入者も、国民健康保険の制度に基づく傷病手当金を受給できるようになりました(ただし、適用期間は2020年12月末まで。※2020年11月17日現在)。
参考:働けなくなった国民健康保険加入の被用者に傷病手当金を支給【新型コロナウイルス感染症関連】|京丹後市役所
【まとめ】労災保険の休業補償などでお困りの方は専門家にご相談
労災保険の休業補償は業務上や通勤中の病気やケガによって仕事ができなくなった労働者への給付で、4日目以降に給付されます。
また、新型コロナに感染して休業する場合にも、1.新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金や、2.傷病手当金を貰える場合があります。
休業補償などでお困りの方は、専門家に相談しましょう。