パワハラにあたる言葉・行動とは?効果的な対処法も併せて紹介

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    作成日

    2023/12/11

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    2023/12/11

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目次

パワハラにあたる言葉・行動とは?効果的な対処法も併せて紹介
都道府県労働局に対する、いじめ・嫌がらせの相談件数は年々増加しており、パワハラは深刻な社会問題になっています。
例えば、2018年度の労働局に対するいじめ・嫌がらせの相談件数は、過去最大の8万件以上にもなります。

では、どのような言動がパワハラにあたるのでしょうか。
パワハラに当たる言葉・行動について弁護士が解説します。

パワハラ(パワーハラスメント)の定義

パワハラは、パワーハラスメントの略です。
職場におけるパワハラとは、「権力や立場を利用した、部下や同僚、上司などへの嫌がらせ」をいいます(以下、本記事ではパワハラとは職場におけるパワハラのことを意味します)。

労働施策総合推進法第30条の2第1項では、以下1〜3の要素をいずれも満たすものがパワーハラスメントとして定義されています。
  1. 職場において優越的な関係に基づいておこなわれる言動
  2. 1が業務の必要かつ相当な範囲を超えておこなわれること
  3. これにより、労働者の就業環境を害すること
それぞれの項目について詳しくご説明します。

(1)職場において優越的な関係に基づいておこなわれること

パワハラは、抵抗や拒絶が難しいような関係を背景にしておこなわれるものです。
たとえば、上司から部下に対しての嫌がらせや暴力はパワハラに当たる可能性があります。

部下から上司へのパワハラ、同僚によるパワハラも当然考えられます。
たとえば、上司よりもITについて豊富な知識を持つ部下が、その知識量の差を利用して上司に嫌がらせをする場合は、パワハラにあたる可能性があります。
また、集団での嫌がらせもパワハラになることがあります。

(2)業務の必要かつ相当な範囲を超えておこなわれること

  • 業務上明らかに必要がない行為や、
  • 業務を遂行するための手段として適当でない行為など
は、パワハラの要件2を満たす可能性があります。

「業務の必要かつ相当な範囲を超えておこなわれること」という要件は、指導なのか、パワハラなのか、という区別において問題となることが多いです。

たとえば、仕事の予定をすっぽかした部下に対して上司が強く注意する、といったケースでは、それだけではパワハラとはいえず、適切な指導の範囲に留まる可能性があります。
しかし、上司が、「お前は役立たずだ」など部下の人格を否定するような発言を繰り返した場合はパワハラにあたる可能性が高いといえます。

他方で、業務上関係のない、単に同じ企業の同僚間の喧嘩はパワハラにはあたりません。
優越的な関係に基づいていないうえ、業務上でも関係していないためです。

(3)就業環境を害すること

パワハラと認められるには、「社会の一般的な労働者が」当該言動を受けたならば
  • 身体的・精神的な苦痛を感じるであろうこと、
  • そのために職場環境が不快なものとなって能力を発揮するのに重大な支障が出るであろうこと
が必要です。

例えば、次の場合は、パワハラに当たる可能性があります。
  • 上司からの度重なる暴力や暴言で身体的・精神的に参ってしまった場合
  • いつも大声で怒鳴る上司に恐怖するあまり本来の能力を発揮できなくなった場合
  • 長期的に周囲から無視されて、身体的・精神的に不調をきたした場合
  • 長年にわたって能力に見合わない簡単な業務ばかりを与えられたりして就業意欲を失ってしまった場合

パワハラにあたりうる言葉・行動の6タイプ

厚生労働省が定めるパワハラに関する指針によると、職場のパワハラにあたりうる言葉や行動は下記6つのタイプに分けられます。
  • 身体的な攻撃
  • 精神的な攻撃
  • 人間関係からの切り離し
  • 過大な要求
  • 過小な要求
  • 個の侵害
それぞれのタイプについて、実際の言葉や行動の例を交えて、説明します。

(1)身体的な攻撃

身体的な攻撃とは、殴る蹴るなど暴行・傷害をする行為をいいます。

【身体的な攻撃の例】
  • 殴られた
  • 胸ぐらをつかんで怒鳴られた
  • 足蹴にされた
  • 書類で頭を叩かれた
  • 物を投げつけられ、それが身体に当たった
  • 酒を強要される(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件 東京高裁判決平成25年2月27日労判1072号5頁)

(2)精神的な攻撃

精神的な攻撃は、相手の人格を否定するなど、精神的ダメージを与えるような行為をいいます。

【精神的な攻撃の例】
  • 人格を否定される
  • 脅迫される
  • 侮辱される
  • 名誉を傷つけられる
例:「お前は馬鹿」という発言(サントリーホールディングズほか事件 東京地裁判決平成26年7月31日労判1107号55頁)

一対一で直接攻撃されるケースだけでなく、大勢の他の労働者の前で叱責したり、大勢の他の労働者が宛先に入ったメールで暴言を吐いたりするケースも、パワハラになる可能性があります。
わざとらしくため息をついたり、目の前で物に当たったりと、言外で威圧するケースもパワハラにあたることがあります。

(3)人間関係からの切り離し

仲間外れにしたり、業務上必要な情報を与えずに孤立させたりする、「人間関係からの切り離し」も、パワハラの一つです。

【人間関係からの切り離しの例】
  • 「君は参加しなくていいから」と、会議や打ち合わせに参加させてもらえない
  • 「君はここで仕事をするように」と合理的理由もなく別室に移され、1人で仕事をさせられる(東京高裁判決平成5年11月12日)。
  • 「他の人と話すな」「1人で考えろ」と、ほかの人との会話を禁じられる
  • 社内行事や飲み会に1人だけ誘われない
  • 集団で無視される
  • 回覧物を回してもらえない

(4)過大な要求

必要な教育をおこなわずに、到底対応できないようなレベルの高すぎる業務にあたらせたり、業務とは関係のない雑用を強制したりするのも、「過大な要求」としてパワハラになります。

【過大な要求の例】
  • いつも終業間際に「今日中にこれ全部やっておいて」と大量の仕事を振られる
  • 「休日もやれば終わるよね?」と、通常の勤務時間にこなしきれない仕事を振られる
  • 自分の業務で手一杯のときに「○○さんの分、代わりにやっておいて」と上司から他人の業務を押し付けられる
  • 全く英語ができないのに、教育を受ける機会も与えられず「海外に赴任しろ」と言われる
  • 過剰なノルマ達成を強要し、未達成に対し強く叱責する
  • 「週末に家の掃除に来てよ」と上司の私用を押し付けられる

(5)過小な要求

業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことは、「過小な要求」としてパワハラにあたります。

【過小な要求の例】
  • 管理職であるにもかかわらず「君はこれだけしてくれればいいから」と、清掃業務など誰にでもできる業務しか与えられない
  • 「お前にできることはない」と言われ、仕事を割り振ってもらえない
  • 内部通報したところ、新入社員と同じ職務に配置転換された

(6)個の侵害

私的なことに過度に立ち入ることも、「個の侵害」としてパワハラにあたります。

【個の侵害の例】
  • 「彼氏/彼女はいるの?」など、上司から執拗にプライベートを詮索される
  • 「今日の夜は何をして過ごすの?明日は?」など、上司から仕事以外の時間の過ごし方について必要以上にしつこく聞かれる
  • 思想や信条を理由として、集団で特定の社員を監視し、ロッカー内の私物を無断で写真に撮る(関西電力事件 最高裁第三小法廷判決平成7年9月5日労判680号28頁)。

パワハラが認められた裁判例

パワハラが認められた裁判例をいくつか紹介します。

(1)シー・ヴィー・エス・ベイエリア事件(東京地裁判決平成24年11月30日労判1064号86頁)

店長が、従業員である原告から同僚と揉めている旨の連絡を受けて早く出勤したものの、勤務時間終了を理由に帰宅しようとする原告の態度に立腹。
店長が原告に対し、激しい口調で「ばばあ」等と発言をしたことにつき、パワーハラスメントに当たるとされた事案です(慰謝料5万円が認められました)。
当該事案では、店長は次の通りの言動をしています。
・「あなた今日出勤しないでください。お金は払います。お金は払うんで来なくていいです。」「SVが本部の決定です。本部決定なんで。」

・「今日来た分と同じ給料支払われるんですか。」との原告の問いに対して「もちろん。最高じゃない。」と答え、もって同日夜からの原告の出勤を拒絶。

・「お前、ふざけんなよ。この野郎、うんじゃねえんだよおめえよ。この野郎。カメラ写ってようが何が関係ねえんだよ。こっちはよー、ばばあ、てめえ、この野郎、何考えてんだよ。」等と原告を罵倒

・「辞めてください。来ないでください。」「店に来んなよ。来んなよ。辞めろよ。」「どうするの。じゃ、今日来んなよ。二度と来んなよ。二度とな。」

引用:労判1064号86頁

(2)A保険会社上司(損害賠償)事件(東京高判判決平成17年4月20日労判914号82頁)

指導や叱咤激励の目的で送った次のようなメールにつき、表現が行き過ぎているとして、次のように違法と認定されています(慰謝料として5万円が認容されています)。
・「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。」という、退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られるおそれのある表現が盛り込まれており、これが控訴人本人のみならず同じ職場の従業員十数名にも送信されている。

・この表現は、「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。……これ以上、当SCに迷惑をかけないで下さい。」という、それ自体は正鵠を得ている面がないではないにしても、人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分ともあいまって、控訴人の名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らか

・上記送信目的が正当であったとしても、その表現において許容限度を超え、著しく相当性を欠くものであって、控訴人に対する不法行為を構成するというべきである。

引用:労判914号82頁

(3)神奈川中央交通(大和営業所)事件(横浜地裁判決平成11年9月21日労判771号32頁)

事故を起こしたバスの運転士に、8月2~25日までの間、次のように炎天下での除草作業を命じたことにつき、違法な業務命令と判断されています(慰謝料として60万円が認められました)。
・期限を付さず連続した出勤日に、多数ある下車勤務の勤務形態の中から最も過酷な作業である炎天下における構内除草作業のみを選択し、原告が病気になっても仕方がないとの認識のもと、終日または午前或いは午後一杯従事させる

・(この行為は)被命令者である原告に対する人権侵害の程度が非常に大きく、安全な運転を行うことができないおそれがある運転士を一時的に乗車勤務から外しその運転士に乗車勤務復帰後に安全な運転を行わせるという下車勤務の目的から大きく逸脱している

・むしろ恣意的な懲罰の色彩が強く、乗車勤務復帰後に安全な運転をさせるための手段としては不適当であり、運行管理者である所長の裁量によりなしうる範囲内ではあり得ないというべきである。

・したがって、第一業務命令は、前判断のとおり原告が本件事故の発生に気づかなかったこと自体には原告の不注意があったと認められるものとしても、就業規則八条二項の趣旨に反するのみならず、被告乙山の所長としての裁量の範囲を逸脱した違法な業務命令であるというべきである。

引用:労判771号32頁

パワハラの被害にあっている場合の対処法

パワハラの被害にあっている場合の対処法
パワハラを受けた場合の対処法を、ご説明します。

(1)パワハラの証拠を集める

まずはパワハラの証拠を集めましょう。
パワハラを受けた日付や場所、相手の言動、周囲でそれを見た人などをメモに残しておくとよいです。
ボイスレコーダーで発言を録音したり、映像を録画したりしておけば、第三者機関に相談するときに説明しやすく、民事裁判になったときにも証拠になりやすいです。

(2)会社の相談窓口や人事部にパワハラの事実を伝える

社内のハラスメント相談窓口や人事部などにパワハラの事実を伝え、相談してみましょう。
信頼できる上司や同僚などに相談してみるのも一つの手段です。

ただし、相談したことがパワハラの加害者の耳に入って二次被害を受けるのを避けるため、相談先は慎重に選ぶことが大切です。

(3)第三者機関に相談する

社内で相談しても事態が改善されなければ、下記のような外部機関への相談も検討してみましょう。
  • 各地の労働局や労働基準監督署にある「総合労働相談コーナー」
  • 最寄りの法務局や地方法務局に電話がつながる「みんなの人権110番(全国共通人権相談ダイヤル)」

(4)弁護士に相談する

弁護士に相談することも、有力な手段です。
依頼を受けた弁護士は、パワハラについての会社側との協議や交渉を本人に代わっておこなったり、弁護士の名前でパワハラの中止を求める文書を作成したりできます。
本人が相談して取り合ってもらえなかった場合、弁護士が交渉することで会社側が真剣になるケースもあります。
また、訴訟などに発展した場合にも、弁護士に訴訟対応を代理してもらうことができます。
パワハラの訴訟では慰謝料を請求したり、刑法に抵触するような悪質な場合には刑事告訴も検討したりしますが、このようなとき弁護士は心強い味方となります。

(5)転職・退職を検討する

心身に余裕がなくパワハラへの対処が難しい場合や、もう一切パワハラの加害者や会社と関わりたくない場合は、転職や退職を検討するべきです。
パワハラはうつ病などの精神疾患にもつながりかねないので、決して無理をしないことが大切です。
事情があって退職を申し出ることが難しい場合は、退職手続きを弁護士などの第三者が代わりに行ってくれる「退職代行サービス」の利用を検討してみましょう(アディーレ法律事務所も退職代行サービスを提供しています)。

【まとめ】パワハラ被害は専門家へのご相談をおすすめします

この記事を読んで、少しでも「自分はパワハラを受けているかも」と思ったら、会社の相談窓口や第三者機関にすぐに相談しましょう。
当事者は精神的に追い詰められていることもあり、パワハラかどうかを判断するのは難しいので、「これくらいパワハラではない」と思わずに気軽に相談すべきです。
パワハラによって実害が出ており、訴訟を視野に入れている場合は、弁護士に相談をお勧めします。

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この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

髙野 文幸の顔写真
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