悪意の遺棄の具体例とは?離婚の可否や慰謝料請求についても解説!

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    2023/07/06

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    2023/07/06

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目次

悪意の遺棄の具体例とは?離婚の可否や慰謝料請求についても解説!
「夫が突然家出して、生活費を送ってくれず困っている」という場合、もしかしたらそれは「悪意の遺棄」として、夫に慰謝料を請求することができるかもしれません。

夫婦はお互いに同居し、協力する義務がありますが、一方的な別居はその義務に反しており、悪意の遺棄として不法行為が成立する可能性があるためです。

今回の記事では、悪意の遺棄について、悪意の遺棄が認められた裁判例、悪意の遺棄で離婚や慰謝料を請求できるのか、などについて弁護士が解説します。

悪意の遺棄とは

民法上、夫婦は同居して互いに協力し、扶助する義務があります(民法第752条)。
正当な理由なく、夫婦がこの同居義務や協力扶助義務をはたさなければ、悪意の遺棄となる可能性があります。

単身赴任や、親の介護や子どもの通学のための別居、夫婦同意の別居などは、正当な理由がありますので、通常は同居義務・協力扶助義務違反にはなりません。

裁判例によれば、悪意の遺棄の意義は次のとおりです(新潟地方裁判所判決昭和36年4月14日・判タ118号107頁)。

「遺棄」―正当な理由なく、同居および協力扶助義務を継続的に履行せず、夫婦生活というにふさわしい共同生活の維持を拒否すること。
「悪意」―社会的倫理的非難に値する要素を含むものであって、積極的に婚姻共同生活の継続を廃絶するという結果の発生を企図し、もしくはこれを認容する意思のこと。

まとめると、悪意の遺棄とは、社会的倫理的非難に値するような、婚姻共同生活を廃絶する意図を有して(またはそれを容認して)、正当な理由なく同居協力扶助義務を継続的に履行せず、共同生活の維持を拒否することを指します。

この悪意の遺棄は、5つある法定の離婚事由のうちの1つです(民法第770条1項2号)。

<法定の離婚事由>
  • 不貞行為
  • 悪意の遺棄
  • 3年以上の生死不明
  • 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
  • その他婚姻を継続し難い重大な事由
したがって、配偶者による悪意の遺棄が認められた場合には、配偶者が離婚に合意しなかったとしても、最終的に裁判で離婚請求が認められる可能性があります。

悪意の遺棄の具体例

それではどのような場合に、悪意の遺棄があったと認められるのでしょうか。
当事者の意図や、客観的な言動などさまざまな事情が考慮されますので、一概にはいえませんが、次のような事情があれば、悪意の遺棄が認められる可能性があります。
  • 正当な理由もなく一方的に家を出て行き同居を拒否し、病気の配偶者を置き去りにし、長期間生活費を送らない。
  • 配偶者を家から追い出したり、家にいられない状況にして追い出して帰宅を拒否したりして同居義務を果たさない。
  • 別居して不貞相手と長期間同棲し、夫婦関係修復は困難で生活費を送らない。
  • 別居時期も行先も連絡せず、一方的に別居し、将来の相談も一切しない。
次では、悪意の遺棄が認められた裁判例と、認められなかった裁判例をそれぞれ紹介します。

(1)悪意の遺棄が認められた裁判例

1.東京地方裁判所判決平成28年3月31日
<事例>
妻が、夫に対して、不貞行為、悪意の遺棄、肉体的精神的暴力および子の奪取を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料計300万円を請求した。
妻は、一緒に生活をやり直すよう伝えていたにもかかわらず、夫がこれを無視して不貞関係を続けるために妻を置き去りにして別居したとして、夫による悪意の遺棄を主張した。

<裁判所の判断>
夫は、不貞相手との交際を主たる目的として、妻が関係修復を希望しているにもかかわらず、一方的に別居に踏み切り、その後も生活費の負担などの夫婦間の協力義務を果たしていないのであるから、被告による別居は、悪意の別居として、不法行為が成立するとした(悪意の遺棄の慰謝料は50万円)。慰謝料合計額は180万円。

2.浦和地方裁判所判決昭和60年11月29日・判タ596号70頁
<事例>
妻が、夫に対して、不貞行為および悪意の遺棄を理由として離婚、財産分与などを請求した。

<裁判所の判断>
夫は、半身不随の身体障害者で日常生活もままならない妻を自宅に置き去りにし、正当な理由なく長期間別居を続け、その間生活費も全く送金していないものであり、悪意の別居であり、法定の離婚事由があるとして離婚を認めた。

3.東京地方裁判所判決平成21年4月27日
<事例>
元妻が、元夫に対して、不貞行為や悪意の遺棄などにより離婚するに至ったとして、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料1,000万円を請求した。

<裁判所の判断>
元夫は、経済的に献身的に支えてくれた元妻と生まれて間がない子を置いて家を出て、その後夫婦関係の修復を図ることなく、かえって離婚を求めて調停を申し立てたり、調停で決まった養育費の支払いを滞らせたりするなどし、結局離婚に至るまで帰宅しなかったのであるから、悪意の遺棄に該当し、不法行為が成立するとした(慰謝料300万円。不貞行為は証拠不十分で認めず)。

(2)悪意の遺棄が認められなかった裁判例

悪意の遺棄は、単なる一方的な別居では足りず、社会的倫理的非難に値する、婚姻共同生活の廃絶を意図していることが必要と考えられています。

悪意の遺棄を主張する側が、上記の意図などを証拠に基づいて立証する必要がありますので、立証のハードルが高いこともあり、悪意の遺棄を認める裁判例は少なく、否定されることが多いです。

ただし、離婚を請求する側は、通常は複数の法定の離婚事由を主張して離婚を求めますので、悪意の遺棄が認められなくても、婚姻し難い重大な事由があるとして離婚を認められるケースも少なくありません。
大阪地方裁判所判決昭和43年6月27日・判時533号56頁
<事例>
妻が、夫に対して悪意の遺棄などを主張して離婚および財産分与を請求した。

<裁判所の判断>
夫が、たとえ仕事のためとはいえあまりに多い出張や外泊を繰り返し、妻子を顧みない行動について、同居協力扶助の義務を十分に尽くしてはいないが、悪意の遺棄に該当するとまではいえないとした。しかしながら婚姻を継続し難い重大な事由はあるとして、離婚を認めた。

悪意の遺棄の判断における注意点とは

配偶者の行為に悪意の遺棄が認められるかどうか判断するにあたっては、次のような点に注意する必要があります。

(1)夫婦関係が破たんすることを認識していること(または認容していること)が必要

「悪意の遺棄」ですので、単なる遺棄(正当な理由なく、夫婦の同居義務・協力扶助義務を果たさないこと)では足りず、悪意が必要となります。

「悪意」とは、社会的倫理的非難に値する要素を含むものであって、積極的に婚姻共同生活の継続を廃絶するという結果の発生を企図し、もしくはこれを認容する意思のことを指します。
つまり、遺棄をした配偶者に、積極的に夫婦生活の破綻を意図しているか、もしくはこれを認容する意思が認められる必要があります。

このような意思の存在は、悪意の遺棄があったと主張する側が証拠をもって証明しなければなりません。証拠としては、次のようなものが考えられます。
  • 一方的に別居したことがわかるメール、SNSのやり取り、録音など
  • 配偶者が離婚を希望していることがわかるメール、SNSのやり取り、録音など
  • 別居後生活費の振り込みがないことがわかる通帳
  • 別居の原因が不貞行為であれば、不貞相手との肉体関係がわかるメール、写真、動画、録音など

(2)単に家事育児をしないだけでは認められない

同居しているけれども、配偶者が家事や育児に協力しない状況は、形式的には夫婦の協力扶助義務を果たしていないように感じられます。
しかしながら、裁判所が、単に配偶者が家事育児に協力しないという事実から、悪意の遺棄を認めることはないと考えられます。
家事育児に協力しないという事実から、積極的に夫婦生活の破綻を意図または認容していると判断することは難しいためです。

外形上同居していても、特段の事情がないのに生活費の負担をせず、配偶者としての関係維持も放棄するなどの事情(性交拒否・無視するなど)があれば、悪意の遺棄に当たるとする考え方もありますが、裁判所で認められることは困難だと思われます。

したがって、このような場合には、悪意の遺棄に加えて、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、離婚を請求するようにしましょう。

(3)悪意の遺棄に該当するかは種々の事情を総合的に考慮して判断される

裁判所による悪意の遺棄に該当するか否かの判断は、婚姻からその状況に至った経緯、生活費負担の状況、配偶者への影響、夫婦の関係性、夫婦の経済力、別居後の生活の窮状、子どもの有無などさまざまな状況を総合的に考慮してなされます。

したがって、事前に配偶者の行為が悪意の遺棄に該当するかどうかを判断することは簡単ではありません。
弁護士であれば、状況を把握したうえで、ある程度悪意の遺棄に当たるかどうかの見通しを立てることができますので、お悩みの方は一度相談してみることをおすすめします。

悪意の遺棄をされた場合の対処法

配偶者に突然の別居をされた場合の取るべき対処法について説明します。

まずは、当事者で話し合って問題解決を目指します。忘れずに婚姻費用(生活費)の分担の話もするようにしましょう。
話し合っても問題解決ができない場合には、家庭裁判所に次のような調停を申し立てて、調停員の仲介のもと話合いで解決を目指すことができます。

特に、婚姻費用については、過去の未払い分を遡って請求することはできないと考えられていますので、支払いが滞ったら、速やかに調停を申し立てるようにしましょう。

婚姻費用(生活費)の請求の場合 婚姻費用分担調停
同居や協力を求める場合 夫婦間の協力扶助の調停
夫婦関係の問題解決を求める場合 夫婦関係調整調停(円満)
離婚を求める場合 夫婦関係調整調停(離婚)
また、配偶者が不貞関係を継続するために別居したようなケースでは、不貞相手に慰謝料を請求したことがきっかけとなり、不貞関係を解消して同居に応じる可能性があります。

悪意の遺棄を理由として離婚できるのか

配偶者が離婚に同意すれば、理由を問わず離婚することができます。これを協議離婚といいます。

配偶者が離婚を拒否した場合、最終的に裁判所に離婚を認めてもらうためには、法定の離婚事由が必要です。
悪意の遺棄は法定の離婚事由の一つなので、裁判所が悪意の遺棄があったと認めれば、最終的に離婚することができます。

しかしながら、裁判所が悪意の遺棄を認めるケースは少ないので、裁判で離婚を請求する場合には、通常、悪意の遺棄と併せて、不貞行為や、婚姻を継続し難い重大な事由があることも主張することになります。

悪意の遺棄で慰謝料請求は可能!注意点や高額になるケースは?

悪意の遺棄は民法上の不法行為に該当しますので(民法第709条)、被害者は、加害者に対して、不法行為により受けた精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料を請求することができます。

慰謝料を請求する方法としては、次のようなものがあります。
  • 口頭で直接請求する
  • 内容証明郵便を送るなど書面で請求する
  • 離婚調停とあわせて調停で慰謝料を請求する、またはは慰謝料を請求する調停を申立てる
  • 調停不成立の場合には、離婚訴訟と合わせて慰謝料を請求したり、慰謝料請求訴訟を提起したりする

慰謝料請求する場合の注意点

法律上、悪意の遺棄を理由とする慰謝料請求は可能ですが、請求の際にいくつか注意すべき点について説明します。

(1-1)悪意の遺棄の証拠が必要

悪意の遺棄が不法行為に該当するとして慰謝料を請求する場合、悪意の遺棄の事実については、請求をする側が証拠をもって証明する必要があります。

相手方が、「たしかに悪意の遺棄をした。悪かったから慰謝料を支払う」と認めてくれれば、証拠がなくても慰謝料を請求することは可能ですが、相手方のそのような態度を期待することはできませんので、請求する前に証拠を確保する必要があります。

悪意の遺棄の証拠としては、次のようなものがあります。
  • 生活費が振り込まれなくなった通帳
  • 悪意の遺棄の状況がわかる日記や家計簿
  • 別居の事実がわかる住民票や賃貸借契約書
  • 一方的な別居の経緯がわかるメールややり取り
  • 夫婦関係の修復を求めたのに拒否された経緯がわかるメールややり取り
  • 離婚を求められたら、それがわかるメールややり取り
  • 別居の原因が不貞行為であれば、肉体関係がわかる証拠(動画、写真、メールなど)
  • 配偶者の浪費や借金がわかるクレジットカード利用明細やキャッシング明細書など

(1-2)時効に気をつける

慰謝料の請求は、未来永劫いつでも請求できるものではなく、法律上、一定期間が経過すると請求する権利が消滅すると規定されています。

そこで、慰謝料を請求したいと考えている場合には、この期間内に請求する必要があります。
法律上定められている消滅時効は、次の二つです(民法第724条)。
  • 被害者が損害及び加害者を知ったときから3年間
  • 不法行為のときから20年間
このいずれかの期間が経過した時点で、慰謝料を請求する権利は、時効で消滅してしまいます。

悪意の遺棄には不法行為が成立しますが、「悪意の遺棄が原因で離婚せざるを得なかったこと」にも不法行為が成立します。
したがって、悪意の遺棄が原因で離婚せざるを得なかったことを理由として慰謝料を請求する場合には、時効期間は離婚成立から3年となります。

ただし、法律上消滅時効の規定はありますが、消滅時効期間が経過していても、慰謝料を請求すること自体は可能で、法律上何ら問題はありません。
消滅時効は、相手方の利益になる規定ですので、相手方が「消滅時効の3年が経過しているから支払わない」と主張しない限り、考慮されないのです。
したがって、相手方が消滅時効を主張せず、自主的に支払いに応じるのであれば、慰謝料を受領することができます。

(1-3)離婚しない場合には婚姻費用の請求が現実的

別居してもすぐに離婚しない場合には、悪意の遺棄を理由とした慰謝料請求よりも、毎月しっかりと婚姻費用(生活費)を支払ってもらったほうが、長期的に見てメリットが大きいです。
悪意の遺棄は証拠で証明することが難しいのに対して、婚姻費用の請求は、基本的に、婚姻の事実と婚姻費用が支払われるべきなのに支払われていないことを証明すればよいためです。

また、婚姻費用は、通常、調停を申し立てたときから、同居再開または離婚成立まで受け取ることができるので、慰謝料よりも高額になることが多いのです。

したがって、別居後婚姻費用の請求をしても支払ってもらえない場合には、速やかに婚姻費用分担請求の調停を申し立てるようにしましょう。
調停で話合いが決裂して調停不成立となっても、審判に移行し、裁判所が適切な婚姻費用額を審判で定めてくれます。

【まとめ】ご自身での判断が難しい悪意の遺棄、お困りの方は弁護士に相談を

悪意の遺棄は、さまざまな事情を考慮した総合判断によるもので、裁判所も認めるケースが少ないため、事前に正確に判断することは困難です。
悪意の遺棄を理由に離婚請求をする場合には、事前に弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士であれば、状況を伺って適切な見通しを立て、ほかの離婚事由も主張すべきかどうか、証拠が十分かなどの見通しを示すことができます。悪意の遺棄を理由とする離婚でお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談ください。

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この記事の監修弁護士

慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。

林 頼信の顔写真
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