労災隠しとは?企業が労災隠しをする理由や対処方法について解説

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    2024/01/31

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    2024/01/31

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目次

労災隠しとは?企業が労災隠しをする理由や対処方法について解説
会社には、労働者が安全に働けるように配慮する義務があります。
ところが、残念ながら世の中には労働者の安全を全く考慮しないいわゆるブラック企業が多くあります。今回解説する「労災隠し」もそのようなブラック企業で横行している犯罪行為です。今回はなぜ労災隠しが起こるのか、どのように対応したらいいのかを解説します。

労災隠しとは?

労災隠しとは、労働災害が発生したにもかかわらず、労働基準監督署に労働死者傷病報告を提出しなかったり、虚偽の内容を記載して労災の事実を隠そうとしたりするような“犯罪行為”です。労災隠しは労働安全衛生法第100条1項に違反するため、違反した事業者には50万円以下の罰金が科せられます(同法第120条5号)。

次のようなケースは労災隠しに該当する可能性があります。
  1. 業務中に怪我をした人が出ても「労働死傷病報告の届出」を行わない
  2. 発生した事故や怪我の状況を偽って届け出る
  3. 責任逃れとして発生した労災事故を下請け業者の労災事故として届け出る
  4. 治療費を会社が負担、あるいは健康保険で治療を受けるように指示を出す
  5. 労災が下りるのは正社員だけだとパート・アルバイトに説明をする
  6. 従業員が少ないから労災に加入していないと説明をされる
  7. この怪我・ケースでは労災は認められないと説明をされる
労災隠しは、労災によって補償を受けられるはずの労働者の権利を奪うことになります。
また、今度同様の労災が起こらないように再発防止の措置も検討されないことになります。
そのため、厚生労働省は各事業者に対して労災隠しをしないように呼び掛けています。
もし労災隠しが身近で起こった場合には、労働基準監督署又は弁護士に相談することをおすすめします。

労災の基本的なしくみ

労災とは、業務上または通勤途中で起きた事故によるケガや病気または障害のことです。
正式には「労働災害」といいます。

労災保険(労働者災害補償保険)とは、業務や通勤を原因とするケガや病気の医療費などを補償する制度です。業務上の事故を「業務災害」、通勤中・帰宅中の事故を「通勤災害」と呼びます。

(1)業務災害

業務災害とは、業務上の事由による労働者の死亡、負傷、疾病、または障害をいいます。

具体的にどのようなケースで業務災害と認められる可能性があるのかを紹介します。
  • トラックの荷台を下ろす際に誤って転倒した結果、死亡した。
  • 台車で荷物を運ぼうとしたところ台車が動き出したためバランスを崩し、足を骨折した。
  • 日射病の予防措置を採ることなく炎天下で作業をしていたところ、日射病で死亡した。
  • 撮影のために床面を水性塗料で塗装したところ、ガス中毒を発症した。
  • ラーメン店の圧力釜の蓋をゆるめたときに噴出した蒸気で、火傷を負った。
製造業に限られず、どの業種においても業務災害は起こります。
一見リスクの低い仕事にみえても、いつ事故に巻き込まれるかわかりません。
日々の仕事において自らも事故が起きないように注意したいところです。

(2)通勤災害

通勤災害とは、合理的な経路・方法による通勤途中に起こった労働者の死亡、負傷、疾病、または障害をいいます。
毎日会社から直帰するわけではなく、スーパーやコンビニに立ち寄ることもあるでしょう。
最寄り駅で電車の待ち時間にジュースを買う程度ならば、何ら問題ありません。もちろんトイレによる程度でも「通勤」にあたります。
ただし、通勤路から外れてプライベートの用事を済ませる場合、通勤とはいえず、通勤災害にはあたりません。
たとえば、帰宅途中に夕食の買い物のため立ち寄ったスーパーの駐車場で事故に巻き込まれたとしても、労災と認められる可能性は低いといえます。

一般的に、プライベートの用事を済ませるため通勤路を逸脱・中断した場合、それ以降、通勤災害にはあたりません。
もっとも、日用品の購入のための必要最小限度の逸脱・中断などいくつかの例外的なケースでは、逸脱・中断後、再び元の通勤路に戻ると「通勤」といえます。
スーパーで日用品を購入した後、普段の通勤路に戻った後に事故に巻き込まれた場合には、労災と認められる可能性があります。
どのような場合に通勤災害と認められるのか、詳しくは専門家にご相談ください。

(3)労災保険の加入条件と保険料

労災保険は、社会保険制度の1つです。労災保険の加入条件と保険料について解説します。

(3-1)加入条件

労災保険では勤務形態は関係ないので、正社員に限られず、パートやアルバイト、日雇い労働者であっても、原則として、会社は従業員を雇用する限り、労災保険に加入させなければなりません。
ただし、5人未満の労働者を使用する個人経営の農林・畜産・水産の事業については、現在のところ加入義務がないなど、一部例外があります。
なお、加入義務がなくとも、任意に労災保険に加入することが認められている場合があります。

(3-2)保険料は会社が全額負担

労災保険の保険料は会社が全額負担します。

労災隠しが起きてしまう理由

労災隠しが起こる理由としては、次のようなことが考えられます。
  • 一部の会社では労災保険を申請すると労災保険の保険料が上がってしまう
  • 労災保険の申請手続きが面倒
  • 労災の調査によって何らかの法律違反が発覚するのを避けたい
  • 労災が起きたことを公表すると企業イメージを損ねてしまう(無災害表彰の機会を逃す)
  • 本来は加入すべきであるのに労災保険に未加入
どのような理由であれ、労災隠しは犯罪行為であり、決して許されません。

労災保険によって補償される範囲

一般に、労災保険によって補償されるのは次のとおりです。
  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 障害(補償)給付
  • 遺族(補償)給付
  • 葬祭料(葬祭給付)
  • 傷病(補償)年金
  • 介護(補償)給付
  • 二次健康診断等給付
代表的なものをいくつか詳しく解説します。

(1)療養(補償)給付

療養(補償)給付とは、療養の給付(労災病院や労災指定病院での診察・処置・手術、入院や移送、薬剤の支給などの現物給付)と、療養の費用の支給(近くに労災病院や労災指定病院がないなどの理由でそれ以外の病院にてケガや病気の治療を受けた場合に、かかった治療費などの費用を支給)を内容とするものです。

労災病院や労災指定病院で治療を受ける場合には、療養の給付として、医療サービスを無料で受けることができます。これに対して、労災病院や労災指定病院以外で治療を受けた場合には、一度自分で治療費等を立て替える必要があります。

原則として、症状が治癒(※症状固定含む)するまで療養(補償)給付を受けることができます。
※症状固定とは、傷病の症状が安定し、一定の医療を行っても、改善など医療効果が期待できなくなった状態をいいます。

(2)休業(補償)給付

仕事中にケガをして働けなくなった場合、および仕事に関連する病気で働けなくなった場合その期間の給料の約8割にあたる金額が労災保険から支給されます。
給料の約6割に相当するお金を休業補償給付、2割に相当するお金を休業特別支援金と呼びます。もっとも、呼び方は覚えなくても構いません。
※正確には、給付基礎日額の8割の支給を受けることができます。給付基礎日額とは、労働基準法の平均賃金に相当するものです。原則として、直近3ヶ月間に労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で除した1日あたりの賃金額とされます。計算の基礎となる賃金の総額には、ボーナスや臨時に支払われた賃金は含まれません。

(3)傷病(補償)年金

傷病(補償)年金とは、療養(治療)開始から1年6ヶ月以上経っても労災によるケガや病気が治らず、ケガや病気の程度が障害等級第1~3級に達している場合、労働基準監督署長の職権により、かかる状況が継続している間に支給されるものです。
年金の額は、障害等級第1~3級に応じて、1年につき給付基礎日額の245~313日分です。
また、傷病特別年金として、1年につきボーナス等の特別給与を算定の基礎とし、障害等級第1~3級に応じて、その算定基礎日額(ボーナス等を365で除したものです。臨時に支払われた賃金は含まれません)の245~313日分が支給されます(給付基礎日額を365で乗じた金額の20%相当が上限とされますが、150万円を超えることはできないとされます)。傷病特別支給金として、障害等級第1~3級に応じ、100万~114万円が一時金として支給されます。
なお、傷病(補償)年金の支給により、休業(補償)給付は支給されなくなります(労災保険法第18条2項)。
※障害等級第1~3級とは、およそ就労することが不能と評価される程の重大な障害です。

(4)障害(補償)給付

業務災害・通勤災害によるケガや病気が治った(症状固定した)ものの、次のような一定の障害が残ったときに給付されるお金です。

障害の程度(等級)に応じ、給付の内容が異なります。
  1. 障害等級第1~7級の障害が残ってしまった場合
    労災による傷病の治療を行ない、治癒(症状が固定)したものの、障害等級第1~7級の障害が残ってしまった場合は、障害(補償)給付を障害(補償)年金として受け取ることができます。
    支給金額は障害の程度に応じて、1年につき給付基礎日額の131〜313日分が支払われます。
    また、障害等級に応じて定められた一定の額の中から、希望する額を選択して、一括にて前払いを受けることを可能とする障害年金の前払一時金の制度もあります。
    さらに、障害特別年金として、1年につきボーナス等の特別給与を算定の基礎とし、障害の程度(等級)に応じて、その算定基礎日額の131~313日分が支払われます(給付基礎日額を365で乗じた金額の20%相当が上限とされますが、150万円を超えることはできないとされます)。障害特別支給金として、障害等級に応じ159万〜342万円の一時金が支払われます。
  2. 障害等級第8~14級の障害が残ってしまった場合
    労災による傷病の治療を行ない、治癒(症状が固定)したものの、障害等級第8~14級の障害が残ってしまった場合は、障害(補償)給付を障害(補償)一時金として受け取ることができます(給付基礎日額の56~503日分)。
    また、障害特別一時金として、1年につきボーナス等の特別給与を算定の基礎とし、障害の程度(等級)に応じて、その算定基礎日額の56~503日分が支払われます(給付基礎日額を365で乗じた金額の20%相当が上限とされますが、150万円を超えることはできないとされます)。障害特別支給金として8万〜65万円の一時金が支払われます。

(5)遺族(補償)給付

  1. 遺族(補償)年金
    労災により死亡したときには、遺族の人数等に応じた遺族(補償)年金が給付されます(遺族とは、労災に遭った者の死亡当時その収入によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であり、これらのうち最先順位のものが受給者となります。なお、共稼ぎの場合も含まれます)。
    遺族(補償)年金の支給金額は、遺族の人数に応じて、給付基礎日額153〜245日分が支払われます。
    また、遺族特別年金として、1年につきボーナス等の特別給与を算定の基礎とし、遺族の人数に応じて、その算定基礎日額の153~245日分が支払われます(給付基礎日額を365で乗じた金額の20%相当が上限とされますが、150万円を超えることはできないとされます)。遺族特別支給金として一律300万円の一時金が支払われます。
    なお、受給者の請求によって、給付基礎日額1000日分の限度で、一括して前払いを受けることもできます。
  2. 遺族(補償)一時金
    遺族補償一時金は、1.遺族(補償)年金をもらえる遺族がないときや2.遺族(補償)年金の受給権者が全員いなくなってしまい、支給された年金の受給権者であった遺族全員にすでに支給された年金の合計額が、給付基礎日額+算定基礎日額の1000日分に満たない場合に給付されます。
遺族(補償)一時金などの支給額は、次の2パターンに分かれます。
  1. 労災にあった労働者の死亡当時、遺族(補償)年金をもらえる遺族がないとき
    ⇒支給される金額
    遺族(補償)一時金:給付基礎日額1000日分、
    遺族特別支給金:300万円、
    遺族特別一時金:算定基礎日額1000日分
  2. 遺族(補償)年金の受給権者が全員いなくなってしまい、支給された年金の受給権者であった遺族全員にすでに支給された年金の合計額が、給付基礎日額+算定基礎日額の1000日分に満たない場合

    遺族(補償)一時金:1.の給付基礎日額1000日分の金額からすでに支給した年金の合計額を控除した金額
    遺族特別一時金:1.の算定基礎日額1000日分の金額からすでに支給した年金の合計額を控除した金額

(6)介護(補償)給付

障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち、障害等級が第1級の者、または第2級の精神・神経障害および胸腹部臓器障害の者が、現に介護を受けているときに一定の要件を満たすと給付されます。身内が介護しており、介護費用の負担がなくても、介護給付を受け取ることが可能です。
常時介護であるのか随時介護であるのか、介護費用を支出しているのか、支出した介護費用の金額がいくらかによって、支給額が異なります(2020年4月時点では、常時介護の上限額は16万6950円、最低保障額は7万2990円であり、随時介護の上限額は8万3480円、最低保障額は3万6500円とされております)。

労災隠しにどのように対応すべきか

仕事中または通勤中に怪我や病気をした場合、どのように対応すればいいのでしょうか。

労働基準監督署に相談する

会社の協力を得られない場合でも、自分で労災申請ができるので、勤務地を管轄する労働基準監督署に相談しましょう。仮に会社が労災保険に加入していなくても、労災による補償を受けられることがあります。
労働基準監督署は、国の公的機関なので、相談料はかかりません。
労働基準監督署にすぐに対応してもらえない場合などは、有料ですが、弁護士に相談することをおすすめします。

【まとめ】労災隠しは弁護士に相談を

業務上または通勤途中で従業員が怪我や疾病といった災害を被ったときのために労災保険制度が用意されています。そのため、労働災害が起きたら会社に報告して、治療費や休業補償など必要な補償を受けましょう。
ところが、労災保険に加入していないなどの理由で、会社が労災を隠そうとすることがあります。「従業員が少ないから労災保険に加入していない」「パートは労災保険に加入していない」などの理由で、労災として申請してもらえない場合には、労働基準監督署に相談しましょう。仮に会社が労災保険に加入していなくても、労災保険に加入している場合と同様、手厚い補償を受けることができる場合があります。
労災隠しは、事業者に対して50万円以下の罰金の科せられるおそれのある犯罪行為なので、決して許されません。
この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

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