「深夜手当って、何時から何時まで働いた分なの?」
日中の時給より深夜の時給のほうが高くなっている求人広告を見たことがありませんか。
深夜(原則として22~5時まで)に勤務した場合には深夜手当が支払われるので、同じ店舗で同じ仕事をして働くとしても時給は高くなります。
今回は、次のことについて弁護士がご説明します。
- 「深夜手当」の内容
- 深夜手当の計算方法
- 深夜手当の不払いへの対処法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
深夜手当とは?
まず深夜手当に関して規定した労働基準法37条4項をみてみましょう。
使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
引用:労働基準法37条4項
つまり、深夜手当とは、深夜(基本的には22~5時)に勤務したときに受け取れる割増賃金(通常の労働時間の賃金の25%増し)のことです。
「深夜」とは言っても、午前0時からではありませんので、時間に注意してください。
例えば、日中の時給が1000円だとしたら、深夜(22~5時)の時間は時給が1250円以上支払われなければならないのです。
もし深夜の時間帯に勤務したにもかかわらず深夜手当が支払われなければ違法です。
深夜手当の支払は、本来休息に充てる時間を労働時間とした企業側の義務であるとされています。
深夜手当が基本給の25%以上であっても構いませんが、それを下回ることは許されません。
深夜手当は何時から何時までの労働に支払われる?
深夜手当は、22~5時まで勤務したときに支払われます。
運送業や24時間稼働の工場、コンビニなど、最初から深夜勤務が前提になっている場合でも、この時間帯に仕事をすれば深夜手当が加算されます。
もっとも、求人広告や就業規則に日中の時給の規定があり、その時給額に25%以上の金額を上乗せしたかたちで「時給1500円(深夜手当含む)」と規定されている場合、深夜手当は時給に含まれているということになりますので、企業は別途深夜手当を支払わなくても構いません。
深夜手当が基本給に組み込まれているといえるのは、次の2つの条件を満たす場合です。
- 割増賃金に相当する部分が明確に区別されていること
- 割増賃金相当部分が、法定の率で算出された割増賃金額以上の金額になっていること
例えば、東京都内の会社の深夜勤務なのに時給が1000円であれば、最低賃金を下回るため(※2023年10月時点)基本給に深夜手当が組み込まれているとは認められません。
あるいは、日中の時給が1200円なのに同じ仕事をしている深夜勤務の時給が1450円であれば、時給の1.25倍(1500円)に満たないので違法である可能性が高いといえます。
深夜手当は時給をもとにして計算する仕組み
深夜手当は、基本給×1.25で割り出されるので、まず通常の労働時間の時給がいくらなのかを計算しなければなりません。
時給 | 時給 |
日給 | (所定日給-除外賃金)÷1日の所定労働時間数 |
月給 | (所定月給-除外賃金)÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間数 |
例えば、次のようなケースで時給を計算してみましょう。
- 所定月給32万円(そのうち2万円は家族手当)
- 1日の所定労働時間8時間
- 年間の所定休日125日
1ヶ月あたりの所定労働時間を計算する
⇒(365日−125日)×8(時間)÷12(ヶ月)=160時間
まず、除外賃金を引いた所定の月給を計算します。
除外賃金とは、労働とは関係ない個人な実情に応じて支給される賃金や、1ヶ月を超える期間ごとに支給され、時給を計算する上で算定が困難である賃金などがこれに該当するとされ、労働基準法施行規則21条に具体的に列挙されております。
ある手当が除外賃金に該当するとなりますと、通常の労働時間の時給計算に算入されないことになります。
家族手当は、同規則21条に列挙されており、扶養家族の有無やその数といった実情に応じて支給額が決定されているのでありましたら、除外賃金とされます。
ここでは、2万円の家族手当を除外賃金として扱うことにします。
そうしますと、所定の月給から家族手当2万円を引いて、通常の労働時間の時給計算がなされることになります。
⇒32万円-2万円=30万円
1ヶ月あたりの所定労働時間から時給を計算する
⇒30万円÷160時間=1875円
このケースでの時給は1875円です。
ですから、22~5時までの時間に働いた場合には、その時間帯は少なくとも1875円×1.25倍以上の賃金が支払われなければいけません。
深夜手当の計算方法は?具体例を使って解説
では、具体的なケースを想定して深夜手当を割り出してみましょう。
時間外手当や休日手当と重なる場合には、二重、三重に割増率をかけることになります。
時間外労働に対する手当+深夜手当 | 1.5倍以上 |
休日手当+深夜手当 | 1.6倍以上 |
※時間外労働が月60時間を超える場合には、割増率が50%以上となるため、時間外労働と深夜労働が重なるときは、割増率が75%以上となります(2023年3月31日まで中小企業(働き方改革関連法附則3条)において特別割増率は適用されません)。
(1)時間外労働と深夜手当を組み合わせて計算する方法
契約上、労働時間が8~17時(休憩時間1時間)まで、時給1000円とされている人が23時まで残業したとしましょう。
この場合、17~22時までは時間外手当、22~23時までは時間外手当と深夜手当が払われなければなりません。
8~17時勤務の方が23時まで働いた場合
時間外手当は時給の1.25倍なので、17~22時の残業代は6250円です(1000×1.25×5)。
加えて、時間外手当・深夜手当が重なると、時給の1.5倍が支払われることになるので、22~23時の深夜の残業代は1500円となります。
(2)法定休日中の深夜手当の計算方法
例えば、時給1000円の人が休日10~23時(休憩時間1時間)に勤務したとします。
この場合、10~22時までは休日手当、22~23時までは休日手当と深夜手当が払われなければなりません。
法定休日に10~23時まで勤務した場合
休日手当は時給の1.35倍なので、10~22時の法定休日労働(休憩を除く11時間)の手当は1万4850円(1000×1.35×11)です。
加えて、休日手当・深夜手当が重なると時給の1.6倍が支払われることになるので、22~23時の深夜の手当は1600円となります。
深夜手当は、『勤務した時間帯』に着目して支払われるため、労働時間が短くても発生します。
休日労働には、時間外の概念がないので、働いた時間によって割増率が変わることはありません。
深夜手当の不払いは違法
深夜に勤務したにもかかわらず、給与明細上、深夜手当が支払われていなければ違法となります。
タイムカードなどで深夜勤務したことが明らかであれば、未払い分を請求できます。
また、タイムカードが実際の勤務時間と異なる場合であっても、勤務終了後に送信した業務メールや業務日報、会社のパソコンのログ履歴などを元に、未払いの手当・残業代を請求できることもあります。
深夜手当は管理職に対しても支払われなければならない
「管理監督者」に対して、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払わなくてもよいとされています(労働基準法41条2号)。
しかし、管理監督者であっても、深夜手当は支払われなければなりません。
そもそも、会社から「管理監督者」と言われていても法律上「管理監督者」に該当しない人が大勢います。
店長などが「管理監督者」にあたるかという議論を差し置くとしても、「管理監督者」だからといって深夜手当が支払われないことは違法なので、もし「管理監督者だから深夜手当を支払わない」と言われた場合には、弁護士に相談しましょう。
例外的に管理監督者の給料が深夜手当を含めて規定されている場合には、別途深夜手当が支払われなくても違法ではありません。管理監督者の手当として地位にふさわしい処遇がされているのか考えてみましょう。
参照:最高裁判所判決平成21年12月18日 判例タイムズ1316号 129頁|裁判所 – Courts in Japan
【まとめ】深夜(22~5時)に勤務した場合の時給は通常の労働時間の1.25倍
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 深夜手当とは、労働基準法37条4項に定められた、深夜割増賃金のこと。
- 通常、22~5時に勤務した場合には、もともと深夜勤務が想定されている場合でも、勤務時間が短くても、基本給の1.25倍以上の深夜手当を受け取ることができる。
- 深夜の勤務が残業や休日勤務にもあたる場合には、さらに受け取れる金額が次のとおりに増える。
- 時間外労働に対する手当(1.25倍)+深夜手当(1.25倍)…1.5倍以上
- 休日手当(1.35倍)+深夜手当(1.25倍)…1.6倍以上
(※時間外労働が月60時間以内の場合)
深夜手当を請求することは、労働者の正当な権利です。
もし深夜に勤務したにもかかわらず給与明細に反映されていない場合には、会社に問い合わせてみましょう。
もし会社が誠実に対応してくれない場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した金銭(例:残業代、示談金)からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年9月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。