労災保険は、労働者なら誰もが利用する可能性のある重要な制度です。
労働者が、勤務時間中や通勤途中にケガをしてしまったり、仕事が原因で病気になってしまったりした場合に、病院での治療費などを給付金という形で補償してくれます。
しかし、「労災給付が突然打ち切られるのでは?」という不安を抱える方も少なくありません。
労災給付には様々な種類があり、打ち切りになる場合も給付金の種類によって異なります。
本記事では、主な給付の打ち切り条件や、打ち切りに直面した際の3つの対応策を紹介します。
この記事を読んでわかること
- 【労災給付の種類別】打ち切られるケース
- 労災給付が打ち切られた場合の対処法
ここを押さえればOK!
1. 療養(補償)等給付:治癒または症状固定時
2. 休業(補償)給付:治癒・症状固定時、症状が回復し休業の必要性がなくなる、療養開始から1年6ヶ月経過時、労働者死亡時
3. 傷病(補償)等年金:症状軽快時、治癒時、労働者死亡時
4. 障害(補償)等給付:障害消失時、障害等級変更時、労働者死亡時
5. 遺族(補償)等給付:受給資格喪失時、受給権者死亡時、給付期間満了時
6. 介護(補償)等給付:介護不要時、障害等級変更時、労働者死亡時
労災給付が打ち切られた場合の対処法として、以下の3つがあります。
1. 審査請求:決定から3ヶ月以内に労働者災害補償保険審査官へ
2. 再審査請求:審査請求決定から2ヶ月以内に労働保険審査会へ
3. 取消訴訟:決定から6ヶ月以内に提起可能
また、使用者の安全配慮義務違反がある場合、会社への損害賠償請求も選択肢となります。労災給付打ち切りに不安や疑問がある場合は、労働基準監督署や労災問題を扱っている弁護士に相談することが重要です。
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東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。アディーレ入所後は未払残業代請求事件をメインに担当し、2022年より労働部門の統括者。「自身も同じ労働者だからこそ、労働者の方々に寄り添える」との信念のもと、より多くのご依頼者様を、より良い解決へ導くことを目標に尽力している。東京弁護士会所属。
労災給付の種類と打ち切りの関係
労災保険の給付金には複数の種類があり、それぞれに給付できる要件が決まっています。
給付できる要件を満たさない状態になれば、給付金は打ち切られますし、また給付期間が決まっている場合は給付期間が終了すればもらうことができません。
打ち切りになる場合を理解することで、受給者は自身の状況を適切に把握し、将来の計画を立てることができるでしょう。
以下、主な労災給付金について、打ち切られる場合を解説します。
(1)療養(補償)等給付が打ち切られる場合
療養(補償)等給付は、労働者の負傷や疾病が治癒(症状固定を含む)と診断されるまで継続されます。
つまり、治癒した場合には、療養(補償)等給付は打ち切りとなります。
治癒には、完全に回復した状態だけではなく、症状が安定して治療しても効果が期待できなくなった状態(症状固定)も含みます。
例えば、骨折で療養給付を受けていた労働者が、レントゲン検査で骨の完全な癒合が確認され、医師が治癒と判断した場合、その時点で給付は終了します。
(2)休業(補償)給付が打ち切られる場合
休業(補償)給付は、労働者が業務上の負傷や疾病により労働不能となった期間中に支給されます。次のケースでは、給付金は打ち切りとなります。
- 治癒または症状固定:医師が労働可能と判断した場合
- 症状が回復し、働けるようになった場合
- 療養開始から1年6ヶ月経過:負傷や疾病が治っておらず、傷病等級に該当する程度の障害がある場合、傷病(補償)等年金に移行
- 労働者の死亡:遺族(補償)給付に移行
参考:休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続|厚生労働省
例えば、腰痛で休業(補償)給付を受けていた労働者が、リハビリにより症状が改善し、医師が「労働可能」と判断した場合、その時点で給付は終了します。
(3)傷病(補償)等年金が打ち切られる場合
傷病(補償)等年金は、療養開始から1年6か月を経過しても治癒せず、傷病等級に該当する程度の障害が残っている場合に支給されます。
主な打ち切り条件は次の通りです。
- 症状の軽快:傷病等級に該当しなくなった場合
- 治癒又は症状固定:医師が治癒(症状固定)と判断した場合
- 労働者の死亡:遺族(補償)等給付に移行
参考:休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続|厚生労働省
(4)障害(補償)等給付が打ち切られる場合
障害(補償)等給付は、労働者が業務上の負傷や疾病が治ったとき(症状が固定したとき)、身体に一定の障害が残った場合に支給されます。障害の等級により、給付金の額が異なります。
主な打ち切り条件は次の通りです。
- 障害の消失:医学的に障害が認められなくなった場合
- 障害等級の変更:より軽度の等級に変更された場合(給付額の減額)
- 労働者の死亡:遺族(補償)等給付に移行
(5)遺族(補償)等給付が打ち切られる場合
遺族(補償)等給付は、労働者が業務又は通勤が原因で死亡した場合に、その遺族に支給されます。すべての遺族が受給できるものではなく、受給資格のある遺族であることが必要です。
主な打ち切り条件は次の通りです。
- 受給資格の喪失:再婚や死亡、18歳に達したなど
- 受給権者の死亡:他に受給資格のある遺族がいない場合
- 給付期間の満了:一定期間の給付が終了した場合
例えば、労働者の死亡により、その労働者が死亡した当時その収入によって生計を維持していた妻と未成年の子が遺族年金を受給していた場合、子が18歳(その後の最初の3月31日まで)に達すると子への給付は終了します。ただし、妻への給付は継続されます。また、一定の障害を持つ子の場合は、18歳以降も給付が継続される可能性があります。
参考:遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)の請求手続き|厚生労働省
(6)介護(補償)等給付が打ち切られる場合
介護(補償)等給付は、障害(補償)等年金又は傷病(補償)等年金の受給者のうち、等級が第1級と第2級の精神神経・胸腹部臓器の障害を有している方が、介護を受けている場合に支給されます。
主な打ち切り条件は次の通りです。
- 介護の必要性の消失:介護が不要になった場合や、病院に入院した場合、介護老人保健施設などに入所した場合
- 障害等級の変更:介護給付の対象外の等級に変更された場合
- 労働者の死亡:給付終了
労災給付打ち切りへの3つの対処法
労災給付が打ち切られた場合でも、状況に応じて対応策を講じることができます。ここでは4つの対処法を紹介します。
いずれも、一定の法律や労災に関する知識が必要ですので、自分で対応することに不安がある方は、一度労災を扱っている弁護士へ相談するようにしましょう。
(1)審査請求
審査請求は、労災給付の打ち切り決定に不服がある場合の最初の対応策です。
審査請求は、管轄の都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して行います。
給付に関する決定があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内に行う必要があるので、注意が必要です。
(2)再審査請求
再審査請求は、審査請求後の審査官の決定に不服がある場合や、審査請求後3ヶ月を経過しても決定がない場合に、労働保険審査会に対して行います。
再審査請求は、審査請求の決定通知を受けてから2ヶ月以内に行う必要があります。
(3)取消訴訟
審査請求後、労働者災害補償保険審査官の決定に不服がある場合、審査請求をして3ヶ月経過しても決定がない場合には、打ち切りの決定について取消訴訟を提起することができます。
取消訴訟は、決定後6ケ月以内に行う必要があります。
(4)会社へ損害賠償請求
使用者の安全配慮義務違反によって、労働者の身体・生命に損害が生じた場合、労働者は事業者に対して、債務不履行(不法行為)に基づく損害賠償をすることができます。
これは労災保険給付とは別の補償を求める方法です。
【損害賠償請求の特徴】
- 労災保険給付を超える補償の可能性:逸失利益、慰謝料なども請求可能
- 使用者の過失が必要
- 時効の考慮:身体・生命に損害が生じた場合、権利を行使できることを知ったときから5年又は権利を行使することができるときから20年
例えば、工場で機械の不具合により負傷した場合、労災申請では使用者の過失を問わず補償を受けられますが、会社の民事上の責任を問う場合には、会社側の過失が必要です。
労災と損害賠償請求の両方の請求を行うことも可能ですが、2重取りできるわけではなく、労災保険給付分は損害賠償額から控除されます。
会社に対して損害賠償請求を検討する場合には、労災問題を扱っている弁護士に相談することをお勧めします。
【まとめ】労災給付打ち切りへの理解と適切な対応を
労災給付の打ち切りには明確な理由があります。
打ち切り後も健康保険や自費での治療継続は可能です。打ち切りの決定に不服がある場合は、定められた期限内に審査請求などの不服申し立てを行うことが重要です。
不安や疑問がある場合は、速やかに労働基準監督署や労災問題を扱う弁護士などに相談しましょう。正確な情報と適切な対応が、あなたの権利を守る鍵となります。
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