家族との時間や大切な生活を犠牲にしてまで、転勤に応じなければいけないのか?
「もし拒否したら解雇される?」「家庭の事情を理由に断るのはわがまま?」 そんな風に思い悩んでいませんか?
結論からお伝えすると、会社からの転勤命令は原則として断ることは難しいといえるでしょう。しかし、状況によっては、転勤命令を断ることができる可能性があります。
この記事では、弁護士の視点から、転勤命令を拒否できるケースや、実際に拒否した場合に会社がとる処分、そしてあなたがとるべき対処法を解説します。ぜひ最後までお読みください。
ここを押さえればOK!
正当な理由として認められるのは、業務上の必要性がない場合、労働者に著しい不利益が生じる場合、または不当な目的がある場合です。
転勤命令を回避するには、まず雇用契約書や就業規則を確認し、内示の段階で具体的な事情を会社に伝えることが有効です。万が一、不当な解雇や降格をされた場合は、アディーレ法律事務所へご相談ください。
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転勤命令を拒否するとどうなる?転勤拒否を考えるあなたに知って欲しいこと
転勤命令に納得できないとき、まず考えるのは「転勤を断ることができるのか?」ということでしょう。
原則、転勤命令は拒否できません。ただし、正当な理由がある場合には、転勤命令を拒否しても、懲戒解雇や降格などの不利益処分を受けずに済む可能性があります。
(1)そもそも転勤命令は拒否できる?
転勤命令を拒否することは、原則できません。なぜなら、転勤を命じる会社では、就業規則などで転勤を命じることができる旨定めていることが殆どであり、転勤のあることが労働条件とされるからです。
就業規則【例】 |
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(人事異動) 第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する 業務の変更を命ずることがある。 2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させること がある。 3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。 引用:モデル就業規則|厚生労働省 |
たとえば、「単身赴任になるから離れたくない」や「長時間の通勤はしたくない」などの理由による転勤命令拒否は、原則認められない可能性が高いでしょう。
(2)転勤命令を拒否した後はどうなるの?
正当な理由なく会社からの転勤命令を拒否すると、業務命令違反などを理由に懲戒解雇や降格、減給など不利益な扱いを受けたり、退職勧奨を受けたりするリスクがあります。
処分 | 内容 |
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懲戒解雇 | 一方的に従業員を辞めさせる処分で、懲戒処分の中で最も重い処分になります。 退職金の減額や不支給になる可能性もあります。 |
降格処分 | 役職や等級が下がり、それに伴い給与も減少する可能性があります。 |
減給処分 | 給与から一定額が差し引かれる処分のことをいいます。 |
退職勧奨 | 会社から自主的な退職を促す処分のことをいいます。 |
転勤拒否はわがまま?転勤命令の拒否が許容される可能性のあるケースとは
転勤命令を拒否したとしても、懲戒解雇や降格などの不利益な扱いを受けない、仮にそうした不利益な扱いを受けたとして、事後に裁判等で無効とされるというためには、転勤命令の拒否に「正当な理由」がなければなりません。
ただし、正当な理由がない場合でも、勤務地を限定する条件で採用された場合には、転勤命令を断ることができる可能性があります。
(1)転勤命令を拒否する「正当な理由」が認められやすいケース
正当な理由として認められやすいケースは、次の3つになります。
- 転勤を命じる業務上の必要性がない場合
- 転勤による労働者の不利益が著しい場合
- 不当な目的による転勤命令である場合
これらが肯定されると、転勤命令が転勤命令権を濫用するものとして無効とされます。
それぞれ説明しましょう。
(1-1)転勤を命じる業務上の必要性がない場合
転勤命令には業務上の必要性がなければなりません。
もっとも、業務上の必要性の有無について、余人をもっては容易に代え難いといった高度の必要性までは要求されません。下記の最高裁判例のとおり、会社の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性が肯定されます。
そうしますと、業務上の必要性の存在が否定されるのは、たとえば、転勤先で従事する業務が、本人の能力や経験からみて明らかに不合理である場合や、転勤先がすでに人員過剰であるにもかかわらず転勤を命じられたといった場合などに限定されることになります。
東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日判決) |
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業務上の必要性は、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、肯定すべきである。 |
(1-2)不当な目的による転勤命令である場合
転勤命令が、労働者に対する嫌がらせや、退職に追い込むことを目的として出された場合、権利の濫用として無効となります。
たとえば、会社の意に従わない従業員を疎外するために僻地への転勤を命じたり、労働組合活動を妨害するために不当な配置転換を行ったりするケースです。
フジシール事件(大阪地裁平成12年8月28日判決) |
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証拠上筑波工場の生産量の増大、これに伴う設備投資の増加は認められるものの(〈証拠・人証略〉)、当時筑波工場でのインク担当業務に原告を従事させなければならない業務上の必要性があったものとはいえず、退職勧奨を拒否した直後に従前の開発業務とは全く異なった業務に従事させていること、原告が担当した業務がその経験や経歴とは関連のない単純労働であったこと等に照らせば、本件配転命令1は、退職勧奨拒否に対する嫌がらせとして発令されたものというべきで権利の濫用として無効であるといわざるをえない。 |
(1-3)転勤による労働者の不利益が著しい場合
転勤命令が、労働者の生活に通常甘受すべき程度を超えた不利益を与える場合も、正当な理由として認められることがあります。
たとえば、要介護の家族の世話を労働者本人が行っている場合や、従業員の持病が転勤により悪化するおそれがある場合などが該当します。
北海道コカ・コーラボトルリング事件(札幌地決平成9年7月23日) |
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長女については、躁うつ病(疑い)…にあり、二女については脳炎の後遺症…であるうえ、…債権者か実質上面倒をみている状態にあることからすると、債権者が一家で札幌市に転居することは困難であ…る。そして、…帯広工場には、協調性という付随的要件に欠けるが、その他の要件を満たす者が他に五名もいることを考慮すると、これらの者の中から転勤候補者を選考し、債権者の転勤を避けることも十分可能であったと認められるから、債務者は、異動対象者の人選を誤ったといわざるをえず、債権者を札幌へ異動させることは、債権者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるというベきである。 |
育児介護休業法では、転勤命令によって子育てや介護が困難となる従業員がいるときは、会社側も配慮するが必要と定めています(育児介護休業法第26条)。労働者が育児や介護を理由に配置転換を拒む場合には、会社側も真摯に対応しなければならないのです。
(2)勤務地を限定する条件で採用されたケース
転勤命令を拒否する「正当な理由」がない場合であっても、勤務地を限定する条件で採用された場合、会社からの転勤命令があっても拒否することができる可能性があります。
たとえば、入社時の雇用契約書や労働条件通知書に「勤務地は〇〇事業所に限定する」や「転居を伴う異動なし」といった記載があれば、会社は従業員の同意なく転勤を命じることはできなくなります。
新日本通信事件(大阪地裁平成9年3月24日判決) |
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本件配転命令は、勤務地限定の合意に反するものであり、原告の同意がない限り効力を有しないというべきところ、原告が本件配転命令に同意しなかったことは当事者間に争いがないから、本件配転命令はその余の点を判断するまでもなく無効であるということができる。 |
転勤命令を回避するには?転勤命令を拒否する前に確認したいこと
転勤命令は、受け入れるしかないと諦めてしまう方も多いかもしれません。しかし、事前に次の2つのポイントを確認しておくことで転勤を回避できる可能性があります。
(1)雇用契約書や就業規則などを確認する
転勤命令に納得できない場合、雇用契約書や就業規則などを確認してみましょう。
もし雇用契約書に「勤務地限定」の合意が明記されている場合、転居を伴う転勤命令は無効になる可能性が高いでしょう。また、就業規則などに転勤に関する規定がなければ、転居を伴う転勤は原則、本人の同意が必要になります。
2024年4月から労働条件明示のルールが改正され、労働契約締結と契約更新のタイミングに雇入れ直後の就業場所・業務、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の変更の範囲を明示しなければならなくなりました。
参照:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省
(2)打診・内示の段階で交渉の余地がないかを確認する
正式な辞令が出る前の打診や内示の段階であれば、交渉の余地があるかもしれません。
この時点で、転勤が困難な具体的な理由(家族の介護、育児、本人の健康問題など)を正直に伝えておくことで、会社も配慮してくれる可能性があります。
転勤拒否で解雇・降格されたら?弁護士に相談すべきケース
正当な理由に基づいて転勤を拒否したにもかかわらず、会社から不当な処分を受けた場合は、法的に争うことができます。
(1)転勤拒否による解雇・降格が「不当解雇・不当な降格」に当たる可能性がある
正当な理由に基づいて転勤を断ったにもかかわらず、転勤拒否を理由として解雇・降格された場合、「不当解雇・不当な降格」にあたる可能性があります。
たとえば、転勤の必要がないのに退職に追い込む目的で転勤を命じ、拒否されたことで解雇・降格した場合や、重度の要介護者を介護していて転勤が難しいことを理由に転勤を拒否したにもかかわらず解雇・降格された場合には「不当解雇・不当な降格」に当たる可能性があります。
(2)不当解雇・不当な降格が疑われる場合は弁護士へ相談を
不当解雇・不当な降格が疑われる場合、法律のプロである弁護士に相談するのもよいでしょう。
弁護士に相談することで、「不当解雇・不当な降格に当たるかどうかの見極め」から「裁判」になったときの対応までしてもらえます。また、 自分では会社側と交渉するのが難しい場合も弁護士に交渉してもらうことが可能です。
転勤拒否に関するよくある質問(Q&A)
最後に、転勤拒否に関するよくある質問をまとめています。ぜひ参考にしてください。
(1)持ち家を理由とした転勤拒否は認められる?
持ち家があるだけでは、転勤拒否の正当な理由としては認められにくいです。
ただし、持ち家があるだけではなく、自宅に要介護者がおり、転居が難しいなどの事情があれば転勤拒否の正当な理由として認められる可能性があります。
(2)子どもが小さいことを理由とした転勤拒否は認められる?
子どもが小さいという理由だけで転勤拒否が認められることは難しいでしょう。
ただし、育児介護休業法により、会社は従業員の育児や介護に配慮する努力義務を負っています。そのため、子供が小さく、保育園の転園が難しい、家族のサポート体制が崩壊するといった事情を丁寧に会社に説明することで、会社側が考慮してくれる可能性があります。
(3)転勤拒否を理由とした退職はできる?
転勤拒否を理由に自主的に退職することは可能です。
しかし、正当な理由なく転勤命令を拒否して自主退職した場合、失業保険で不利となる「自己都合退職」として扱われてしまう点に注意が必要となります。
【まとめ】転勤拒否には懲戒解雇などのリスクがある|転勤拒否ができるケースも
今回のコラムでは、転勤命令は原則拒否できないものの、正当な理由があれば拒否できる可能性があることを解説しました。家族の介護や育児、不当な目的による命令など、個々の事情によって転勤命令を断ることができる可能性があります。
転勤命令を拒否したことによる不当解雇の疑いがある場合、弁護士に相談することが重要です。不当解雇が認められると、解雇は無効となり、復職や賃金の支払い、さらには慰謝料の請求ができる可能性があります。
不当解雇の疑いがある場合、早めに弁護士に相談し、自分の権利を守るための適切な対応を取りましょう。
不当解雇でお悩みの方は、不当解雇を積極的に扱っているアディーレ法律事務所へご相談ください。