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弁護士が教える遺言書の書き方|無効にならないための全知識

作成日:
s.miyagaki

※この記事は、一般的な法律知識の理解を深めていただくためのものです。アディーレ法律事務所では、具体的なご事情によってはご相談を承れない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

遺言書を作成することは、ご自身の財産を特定の人物に確実に引き継がせるための、もっとも重要な手段です。しかし、「書き方がわからない」「せっかく書いても無効になるのでは」といった不安を抱く方も少なくありません。本コラムでは、形式的な「書き方」だけでなく、無効リスクの回避策や、遺された家族間の争いを防ぐための戦略的な「内容設計」まで、弁護士の視点から総合的に解説します。本記事が、ご自身の意思を確実に実現し、大切な家族を守るための確実な一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。

遺言書作成の目的と必要性

遺言書がない場合、亡くなった方の財産は「相続人全員の共有状態」となり、分割するには必ず遺産分割協議が必要になります。この協議は、感情的な対立や意見の食い違いから難航しやすく、結果として相続手続が長期間にわたり停滞するだけでなく、家族関係に深刻な亀裂を生じさせてしまうおそれがあります。遺言書は、この協議を不要とし、亡くなった方の意思を尊重した円滑かつ迅速な財産承継を実現するための、もっとも強力なツールといえるでしょう。

遺言がない場合の家族の負担と相続リスク

遺言書がない場合、法定相続分に従って財産が分割されます。しかし、たとえば「同居して介護を担ってくれた長男」と「遠方に住むほかの兄弟」の貢献度が同じように扱われた場合、不公平感が生まれ、家族間の争いに発展するリスクが高いです。さらに、遺産分割協議がまとまらなければ、相続財産はいつまでも共有状態のままであり、売却や名義変更といった手続が一切進まなくなります。

遺言書で実現する「確実な財産承継」

遺言書を作成することで、生前の意思をそのまま死後の財産承継に反映させることが可能になります。特定の財産を特定の人物に渡したい、相続人以外の第三者に寄付したいといった意向を法的に担保できるため、亡くなった方の想いを確実に実現できるのです。これにより、遺産分割協議という複雑な手続を省略し、相続人の負担を大幅に軽減しながら、スムーズな承継が可能となります。

遺言書の3つの方式と選び方

遺言書には、主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「法務局保管制度を利用した自筆証書遺言」の3つの方式があります。それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況に合わせて最適な方式を選ぶことが、遺言の確実性を左右する重要な最初のステップとなります。

自筆証書遺言公正証書遺言法務局保管制度
特徴費用がほとんどかからず手軽に作成できる公証人が内容を審査、作成、保管するためもっとも確実自筆証書遺言の手軽さと高い安全性を両立
リスク方式不備による無効、紛失、隠匿、改ざんなしなし
手続検認手続が必要検認手続が不要検認手続が不要
費用ほとんどかからない財産額に応じた公証人手数料保管料

遺言書作成前の「4つの必須準備」

要件を満たす前に、まず遺言書の内容を具体的に固めることが不可欠です。この事前準備を怠ると、せっかく作成した遺言書があいまいな内容になり、かえって紛争の原因となるおそれがあります。

財産(負債含む)の正確な確定

まずは、ご自身のすべての財産を漏れなく把握することが重要です。不動産の登記簿謄本、預金通帳、証券口座の資料などを収集し、プラスの財産だけでなく、住宅ローンや借金などのマイナスの財産(負債)も正確にリストアップします。これにより、遺産全体を正確に把握し、具体的な配分計画を立てる土台ができます。

相続人・受遺者の特定

遺産を受け継がせる対象を、戸籍謄本などを用いて正確に特定しましょう。相続人の確定はもちろんのこと、遺言で財産を渡したい相続人以外の人物(受遺者)がいる場合は、その方の氏名や住所、続柄などを明確に把握しておくことが重要です。これにより、あとの手続で混乱が生じるのを防ぎます。

具体的な配分内容の決定

どの財産を誰に、どのような割合で配分するのかを具体的に決定します。たとえば、「○○の土地は長男に、△△銀行の預金は妻に」というように、財産と人物を結びつけて明確に記載することが大切です。あいまいな表現は避け、誰が見ても一義的に解釈できる内容にすることが、将来の紛争を防ぐ鍵となります。

遺言執行者の選任

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するための手続を担う人物です。この執行者をあらかじめ指定しておくことで、相続開始後の手続をスムーズに進められます。相続人同士の対立を防ぐため、弁護士などの第三者を執行者に指定することも有効な選択肢となります。

【自筆証書】無効を避けるための要件

自筆証書遺言のもっとも難しい点は、法的に定められた要件の遵守にあります。これらの要件を一つでも満たしていないと、遺言書全体が無効になるため、慎重な対応が必要です。

「全文・日付・氏名」は必ず自筆

自筆証書遺言は、財産目録を除き、遺言書に記載するすべての事項を、遺言者本人が手書きで記載しなければなりません。パソコンで作成したものはもちろん、ほかの人に代筆させた部分も無効となります。手が不自由な場合は、公正証書遺言を選択するしかありません。全文が自筆で書かれているか、記載内容を厳しくチェックしましょう。

日付は「特定できる日時」を記載

遺言書には、作成年月日を自筆で具体的に明記する必要があります。「令和〇年○月吉日」や「今年の誕生日」といった、日付を特定できない記載は認められません。複数の遺言書が見つかった場合、もっとも新しい日付の遺言が優先されるため、作成日を明確に記載することは非常に重要な意味をもつものです。

署名と押印のルール

遺言書本文の末尾には、遺言者本人の署名と押印が必要です。署名は住民票や戸籍の記載どおりに自筆することが推奨されます。押印は必須ですが、実印である必要はなく、認印でも問題ありません。ただし、後でご説明するように、財産目録を添付することで遺言書が複数のページにわたるような場合は、財産目録の全ページにも署名と押印がされているか、漏れがないか確認することが重要です。

自筆証書遺言:財産目録の作成ルール

自筆証書遺言の作成負担を軽減するため、財産目録は手書きでなくてもよくなりました。しかし、この簡略化されたルールにも厳格な要件があり、違反すると無効になるため注意が必要です。

財産目録の全ページへの署名・押印

パソコンで作成した財産目録や、預金通帳のコピーなどを添付する場合、目録の全ページに遺言者自身が署名し、押印することが必須です。この署名・押印がない場合、その目録は無効となり、それに記載された財産に関する遺言の効力も失われます。必ず、各ページに漏れなく署名と押印を行いましょう。

財産の正確な特定方法(不動産・預貯金など)

遺言書の内容があいまいであると、相続人間で解釈を巡る争いに発展します。これを避けるためには、財産をきわめて正確に特定することが求められます。不動産は登記簿謄本に記載されている地番や家屋番号を、預貯金は金融機関名、支店名、口座番号、種別を具体的に記載しましょう。

訂正・変更時の厳格な方式と対応策

自筆証書遺言の内容を訂正する場合、民法で定められた複雑で厳格な方式に従わなければなりません。方式に少しでも不備があれば、訂正部分が無効となるだけでなく、遺言全体が無効になる危険性も伴います。そのため、実務的には、訂正は行わず、最初から新しい用紙に全文を書き直すことがもっとも安全な方法とされています。

【公正証書】作成の流れと費用

公正証書遺言は、その高い確実性ゆえに、自筆証書遺言よりも手間と費用がかかります。しかし、そのプロセスを理解することで、費用対効果の高い安心が得られることがわかるでしょう。

公証役場での作成プロセス

公正証書遺言の作成は、公証役場にて行います。まず、遺言者が公証人に対し、遺言内容を口頭で伝え、公証人がそれを法律的に正しい文章にまとめます(実務的には、作成日当日までの段階で、遺言者と公証人との間で、メール等で遺言書の内容に関する打ち合わせを済ませておくことが通常です。)。作成日には、二人以上の証人の立会いのもと、公証人が遺言内容を読み上げ、遺言者、証人、公証人が内容を確認し、署名・押印することで完成します。病気などで公証役場に行けない場合は、公証人に自宅や病院に来てもらうことも可能です。

必須となる「証人2名」の選定

公正証書遺言の作成には、必ず二人以上の証人が必要です。ただし、相続人や遺言で財産を受け取る人、およびこれらの者の配偶者や直系血族は、遺言の公正さを保つために証人になることができません。適切な証人を見つけることが難しい場合は、公証役場や弁護士などの第三者に依頼して、証人を紹介してもらうことが一般的な解決策となります。

公正証書作成の費用(手数料)

公正証書遺言の作成には、法律で定められた公証人手数料が必要です。この手数料は、遺言の目的となる財産の価額に応じて決まります。さらに、弁護士に依頼する場合は、遺言書案の作成や公証役場との調整費用として、別途弁護士費用が発生します。これらの費用は、将来的な無効リスクや訴訟費用を回避するための、確実性への投資と捉えるべきでしょう。

相続争いを防ぐための「内容設計」

要件を満たすだけでは不十分で、真に重要なのは、遺言書の内容によって相続開始後の家族間の紛争リスクを排除することです。

遺言執行者を弁護士に依頼するメリット

  • 単独で遺言内容を実行できる
  • 相続人全員の協力なしで手続を進められる

遺留分への配慮と付言事項の活用

特定の相続人に財産を集中させる内容にした場合、ほかの法定相続人がもつ「遺留分」(民法が定める最低限の取り分)を侵害する可能性があります。遺留分を侵害された相続人は、遺言書の内容にかかわらず、金銭を請求する権利を行使できます。紛争を防ぐためには、遺留分に配慮した内容にすること、そして、なぜそのような配分にしたのかという遺言者の想いを「付言事項」として書き添えることが有効です。付言事項に法的効力はありませんが、遺言者の気持ちを伝えることで、相続人たちが内容を感情的に受け入れやすくなり、訴訟などの感情的な対立の発生を抑制します。

遺言書の管理・変更・撤回ルール

遺言書は、作成して終わりではありません。相続が開始し、執行されるまでの管理と、そのあとの手続までを見越して戦略的に準備しておく必要があります。

保管方法によるリスクの比較

公正証書遺言法務局保管制度自宅で保管
リスクなしなし紛失、隠匿、改ざんのおそれがある
保管場所公証役場法務局自宅
検認手続不要不要必要

自筆証書遺言に必要な「検認手続」

自宅で保管されていた自筆証書遺言は、相続開始後、必ず家庭裁判所での「検認」の手続を経なければなりません。検認とは、遺言書の状態を確認し、偽造・変造を防ぐための手続であり、遺言の有効性を判断するものではありません。この手続は相続人に多大な負担をかけるため、検認が不要な公正証書遺言や法務局保管制度の利用が推奨されます。

遺言の撤回・変更時の注意点

遺言は、遺言者が生きている限り、いつでも自由に撤回・変更することが可能です。遺言書を複数作成した場合、作成日のもっとも新しい遺言が、古い遺言の内容に優先するという重要なルールがあります。したがって、遺言書の一部を変更・撤回する際は、新しい遺言書に最新の日付を正確に記載し、意図しない古い遺言の復活や、遺言間の矛盾による紛争を防ぐことがきわめて重要です。

まとめ

遺言書作成の目的は、単に形式を満たすことではなく、亡くなった方の意思を確実に実現し、家族間の争いを未然に防ぐことにあります。自筆証書遺言は手軽ですが、方式不備や保管上のおそれが潜んでいます。確実性を求めるなら、公証人の関与や法務局への保管制度を利用すべきでしょう。遺言執行者の指定や遺留分への配慮など、専門的な視点から内容を設計することが、真に有効な遺言書を作成する鍵となります。

「家族に不要な負担をかけたくない」「自分の想いを確実に実現したい」とお考えでしたら、ぜひアディーレ法律事務所にご相談ください。弁護士が、お客様の状況に合わせた最適な遺言書作成をサポートします。