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フルフレックスの注意点!通常のフレックスとの違いや残業代を簡単解説

弁護士 山内 涼太

監修弁護士:山内 涼太

(アディーレ法律事務所)

特に力を入れている分野:労働事件

作成日:
LA_Ishii

※この記事は、一般的な法律知識の理解を深めていただくためのものです。アディーレ法律事務所では、具体的なご事情によってはご相談を承れない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

「働き方改革」が進む中、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方に注目が集まっています。 特に、転職を機に「フルフレックス(スーパーフレックスとも呼ばれる)」の会社を選び、ワークライフバランスを充実させたいと考えている方も多いのではないでしょうか。

しかし、自由度が高いからこそ、法的な仕組みや、「名ばかりフレックス」といったリスク、そして少々複雑な残業代の計算ルールを正しく理解しておくことが大切です。これらを知らないと、思わぬトラブルに巻き込まれてしまう可能性もあります。

この記事では、フルフレックス・スーパーフレックスの仕組みやメリット・デメリット、そして清算期間における残業代計算のルールについて分かりやすく解説します。自分らしい働き方を守るための知識として、ぜひお役立てください。

ここを押さえればOK!

フルフレックスタイム(スーパーフレックスタイム)制は、労働者が始業・終業時刻や労働時間を自ら決められる制度で、通常のフレックス制と異なり、必ず勤務すべきコアタイムが存在しないことが最大の特徴です。
この制度は、通勤ラッシュの回避や個人のバイオリズムに合わせた生産性の向上、私生活との両立を可能にするなど、ワークライフバランスの飛躍的な向上という大きなメリットをもたらします。

しかし、自由度が高い反面、デメリットやリスクも存在します。コアタイムがないため、従業員間のリアルタイムなコミュニケーションや連携がとりにくいという課題が生じやすいほか、制度上は自由でも実態として出社時間などが指示される「名ばかりフレックス」の罠にも注意が必要です。

また、清算期間(最長3ヶ月)において定められた総労働時間を計画的に確保する必要があり、不足した場合は基本的に賃金が控除されるため、高度な自己管理能力が求められます。
残業代の計算も固定時間制とは異なり、日々の労働時間が法定時間を超えても直ちには発生せず、清算期間全体の実労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合にのみ支払われます。フルフレックス制を採用する企業への転職を成功させるためには、これらの法的仕組みや企業の実際の運用状況を正しく理解し、労働時間を自己管理することが必要です。

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フルフレックスタイムの基本と法的定義|通常の制度との違い

フルフレックスタイム(スーパーフレックスタイム制とも呼ばれます)への転職を検討する際、まずはその制度が労働基準法上でどのように位置づけられ、通常のフレックスタイム制と何が異なるのかを正確に理解しておくことが重要です。

「フルフレックス」と、「フレックス」の違い(コアタイムの有無)

フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が始業時刻・終業時刻・労働時間を自ら決められる制度です(労働基準法32条の3)。

フレックスタイム制は、一般的に、いつ出社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)、必ず勤務しなければならない時間帯(コアタイム)に分かれることが多いです。

例えば、8時~10時がフレキシブルタイム、10時~15時がコアタイム、14時~17時がフレキシブルタイムと設定された場合、10時~15時は必ず勤務する必要があります。

ただし、フレキシブルタイムやコアタイムを設定しないことも可能です。

コアタイムを設けないフレックスタイム制のことは、一般的に「フルフレックス」「スーパーフレックス」と呼ばれています。

労働者にとっては、仕事をする時間を自由に決めることができるため、プライベートを確保して仕事とのバランスを取りやすい制度となっています。

参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省

フルフレックスタイムを導入するための法的要件(就業規則・労使協定)

企業がフルフレックスタイム(スーパーフレックスタイム制)を有効に導入するためには、労働基準法に基づき、ルールを守って行う必要があります。

(1)就業規則等への規定

まず、企業は就業規則等に、フレックスタイム制を採用する旨(始業・終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨)を明確に規定しなければなりません。

(2)労使協定で所定事項を定める

就業規則の規定に加え、労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、次のような制度の具体的な運用方法を定めた労使協定を締結することが必要です。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 清算期間の長さ
  • 清算期間における総労働時間
  • 標準となる1日の労働時間
  • コアタイム(任意)
  • フレキシブルタイム(任意)

転職先がフレックス制を採用している場合には、これらのルールを守っているかどうか確認するようにしましょう。

(3)会社は労働時間の管理が必要

フルフレックスタイム(スーパーフレックスタイム)制は、始業・終業時刻の決定について、労働者に裁量を与える制度ですが、企業側が労働時間管理の義務を免除されるわけではありません。
企業は、労働者の始業時刻と終業時刻を客観的な方法で正確に記録し、管理する義務を負います。
具体的な記録方法としては、タイムカード、WEB打刻など客観的な手法を用いることが求められます。
この管理義務を企業が適切に果たしていない場合、実質的なサービス残業が発生しやすい環境となり、法的なトラブルの原因となるため、転職前にどのような方法で労働時間が記録されているかを確認すべきです。

フルフレックスの具体的なメリット

フルフレックスタイム制は、単なる勤務時間の自由化に留まらず、転職者の生活の質(QOL)と仕事の生産性の両面で、固定時間制では得られない多大な恩恵をもたらします。以下に、その具体的なメリットを解説します。

(1)通勤ラッシュの回避とワークライフバランスの飛躍的向上

フルフレックス制度は、多くの都市労働者にとって深刻なストレス源である通勤ラッシュを回避できるという、実生活に直結する大きなメリットがあります。
朝の満員電車を避け避けて出勤できることは、通勤による時間的・精神的な疲弊を防ぎ、仕事の前の時間を有効活用することを可能にします。
これにより、プライベートの時間と仕事の時間を調和させやすくなり、結果としてワークライフバランス(WLB)の向上が見込まれます。

(2)個人のバイオリズムに合わせた生産性の向上

勤務時間が自由に決められるフルフレックスタイム制は、労働者が最も集中しやすい時間帯、すなわち自身のバイオリズムの「ハイパフォーマー時間」に合わせて業務をすることを可能にします。
例えば、朝型の労働者であれば早朝に集中力の高い業務を行い、夜型の労働者であれば午後の遅い時間帯から集中的に業務に取り組むなど、自分のペースで仕事を進められます。
この時間の調整の自由は、ダラダラと仕事をすることを防ぎ、短時間で高い成果を出す生産性の向上に繋がるでしょう。

(3)私生活の都合に合わせた柔軟な時間の確保(通院、子育てなど)

コアタイムがないフルフレックス制度は、私生活における突発的な予定や定期的な用事に対応するための柔軟な時間確保を可能にします。
例えば、平日の日中に病院の予約を入れたり、子どもの学校行事や送迎の時間に合わせたりするために、出勤・退勤時刻を柔軟に変更できます。
これは、固定時間制では有給休暇を取得しなければならなかった状況において、仕事を調整することで対応できることを意味し、個人の生活を尊重しながらキャリアを継続していく上で非常に有効な手段となります。

フルフレックスタイムの自由の裏側:転職前に知っておくべデメリットとリスク

フルフレックスタイム制は高い自由度を持つ一方で、その裏側には、特に転職者が事前に認識しておかなければならない、チーム連携の課題や自己管理の難しさといった潜在的なデメリットやリスクが伴います。
これらのリスクを理解し対策を講じることが、制度を使いこなす鍵となります。

(1)チーム連携やコミュニケーションにおける構造的な課題

コアタイムが存在しないフルフレックス制度では、従業員が同時に勤務する時間が固定されないため、リアルタイムでのコミュニケーションの頻度や円滑さに課題が生じやすいというデメリットがあります。
突発的な相談や、チームでの迅速な意思決定が必要な場合、連絡を取りたい相手が勤務時間外である可能性もあります。
このため、企業はチャットツールやドキュメント共有などのルールを明確に定め、情報共有の障壁をいかに乗り越えているかを、転職前に確認する必要があるでしょう。

(2)「名ばかりフルフレックス」の罠と見極めるポイント

制度上はフルフレックスを謳っていても、実態としてコアタイムが存在する「名ばかりフルフレックス」の罠に注意が必要です。
例えば、コアタイムがないにも関わらず、特定の時間に必須の朝会や部門会議が集中している場合、または上司が日常的に始業時刻や終業時刻について指示を行っている場合です。
面接や社員との対話を通じて、フルフレックス制度が形式的ではなく、労働者に就業開始・終了時間を決定する自由があるのかどうか、見極める必要があります。

(3)高度な「自己管理能力」が求められる(総労働時間確保の義務)

フルフレックスタイム制には、「清算期間」があります。
上限は3ヶ月で、清算期間における実労働時間が、あらかじめ定めた総労働時間を超過した場合には、超過した時間について割増賃金が支払われます。
一方で、実労働時間が総労働時間に達しない場合には、欠勤扱いとなり賃金が控除されたり、不足時間を繰り越して次の清算期間の総労働時間に合算するという扱いになります(※加算後の時間(総労働時間+前の清算期間の不⾜時間)は、 法定労働時間の総枠の範囲内である必要があります。)。

清算期間において、いつ働き休むかという時間の配分は自由ですが、計画性を持って労働時間を管理しなければなりません。
したがって、月の途中で仕事量を少なめ調整したり、休暇を多く取りすぎたりした場合に、最終的な総労働時間が不足する事態を招きます。この高い計画性と自己規律が求められる点が、フルフレックス制度を使いこなす上での最大の難しさとなります。

フルフレックスにおける残業代計算の仕組みと注意点

フルフレックスタイム(スーパーフレックスタイム)制における残業代の計算は、固定時間制とは異なります。
そのため、1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えて労働しても、直ちに時間外労働として法定の割増残業代が発生するわけではありません。

(1)残業が発生する判断基準

フルフレックスタイム制では、日々の労働時間が法定労働時間である1日8時間・週40時間を超えたとしても、直ちに時間外労働(残業)とは判断されません。

残業が発生するかどうかは、清算期間全体の実労働時間の合計が、その清算期間における法定労働時間の総枠を超えたかどうかで判断されます。
法定労働時間の総枠は、「(40時間÷7)×清算期間の暦日数」という計算式で計算され、月の暦日数(28日〜31日)によって変動します。

清算期間の歴日数1ヶ月の法定労働時間の総枠
31日177.1時間
30日171.4時間
29日165.7時間
28日160.0時間

この総枠を超過した時間に対してのみ、法定の割増率で時間外労働手当、すなわち残業代が支払われます。

(2)清算期間が1ヶ月を超える場合の残業代計算

2019年の労働基準法改正により、清算期間は最長3ヶ月まで延長可能となりました。
ただし、清算期間が1ヶ月を超える場合、労働者の過重労働を防止するため、次の要件を満たす必要があります。

  1. 清算期間における総労働時間が、法定労働時間の総枠を超えないこと
  2. 1ヶ月毎の労働時間が、週平均50時間を超えないこと

このいずれかを超えた時間は、時間外労働となります。

例えば、1ヶ月目が繁忙期で月の労働時間が60時間である場合、2ケ月目と3ヶ月目が1ヶ月50時間を超えず、全体として法定労働時間の総枠ないであったとしても、50時間を超えた部分に対して時間外労働(残業代)が発生します。

なお、清算期間が1ヶ月を超える場合、就業規則等への規定、労使協定に加えて、労使協定を所轄の労働基準監督署長に提出する必要があります。

(3)総労働時間が不足した場合の賃金カットの扱い

フルフレックス制度の下では、労働者自身が労働時間を管理する必要があります。
自己管理の失敗により清算期間内の実労働時間の合計が、企業が定めた「所定の総労働時間」に満たなかった場合、その不足時間分の賃金は支払われません。
これは、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、賃金がカットされることを意味します。
賃金がカットされず、翌月の総労働時間に加算させて労働できることもあります(※加算後の時間は法定労働時間の総枠の範囲内)。

いずれにせよ、労働者にとっては賃金減のリスクがありますので、月の労働時間が不足しないように常に計画的に管理することが不可欠です。

(4)有給休暇を取得した日の労働時間のカウント方法

フレックスタイム制において、労働者が有給休暇を取得した場合、賃金の計算における総労働時間の扱いに特別な注意が必要です。
有給休暇を取得した日については、その労働者が企業で定められた「標準となる一日の所定労働時間」を勤務したものとして取り扱われます。
そのため、有給休暇を1日取得した場合には、標準となる1日の労働時間を労働したことになります。

フルフレックス企業への転職を成功させるためのコツ

フルフレックス制度を最大限に活用し、転職を成功させるためには、制度の法的理解だけでなく、企業がその制度をどのように運用しているかを見極める必要があります。
また、手に入れた時間的自由をどのようにQOL向上やキャリア形成に繋げる具体的な計画も重要です。

【まとめ】フルフレックス制は自由度が高い働き方

フルフレックス制は、労働者にとっても働き方の自由度が上がること、企業にとっても長時間労働を防止し、労働者の働く意欲を高めることができる、メリットの大きい制度です。

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この記事の監修弁護士
弁護士 山内 涼太

弁護士 山内 涼太

アディーレ法律事務所

東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。アディーレ入所後は未払残業代請求事件をメインに担当し、2022年より労働部門の統括者。「自身も同じ労働者だからこそ、労働者の方々に寄り添える」との信念のもと、より多くのご依頼者様を、より良い解決へ導くことを目標に尽力している。東京弁護士会所属。

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