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「借金は消えたが、家が消えない」予納金100万円に泣く40代の誤算

弁護士 重光 勇次

監修弁護士:重光 勇次

(アディーレ法律事務所)

特に力を入れている分野:相続、アスベスト救済、インターネット権利侵害等

作成日:
LA_Ishii

※この記事は、一般的な法律知識の理解を深めていただくためのものです。アディーレ法律事務所では、具体的なご事情によってはご相談を承れない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

「借金まみれの親の遺産なんて、相続放棄すればそれで終わり」
もし今、あなたがそう考えているとしたら、少しだけ立ち止まってお話を聞いてください。
その認識だけで手続きを進めてしまうと、思わぬところで生活に影響が出てしまう可能性があるのです。

ネットの情報は、あなたの個人的な事情を踏まえてアドバイスをしてくれるわけではありません。そして、法律を「知らなかった」というだけでは、責任を逃れることはできません。

自分で相続放棄の手続きを終わらせて安心していたのに、実家に関してトラブルに直面するケースもあります。

架空の相談事例として、ある40代男性が直面した、現代の「負の相続」について解説します。

相続放棄の2年後に届いた「悪夢の通知」

2024年冬、とある男性Aさん(仮名・48歳)の父が亡くなりました(架空の事例です)。
父とは長年疎遠でしたが、死後に消費者金融から500万円の借金があることが発覚。父は身寄りがなく、兄弟はいません。Aさんの母はすでに亡くなっており、Aさんは迷わず家庭裁判所に「相続放棄」の申述を行い、無事に受理されました。

「これで借金も、ボロボロの実家とも縁が切れた」 そう安堵しました。しかし、彼は一つだけ「良かれと思って」してしまったことがありました。

それは、「実家の鍵を保有し、父親が死んだことを知ってから相続放棄後も、定期的に風通しや掃除に行っており、管理のために私物を置いていた」ことです。

そして2026年の夏。 Aさんの元に、市役所から連絡がきます。「実家を適切に管理してください」という指導でした。

また、近隣住民から通知も届きました。なんと、「損害を賠償してください」という内容でした。どうやら、実家の庭にある古い小屋のトタン屋根が強風で飛んで隣家の車にあたり、車を傷つけたようでした。

あわてて法律事務所に駆け込んで、「いや、私は相続放棄しましたから! あの家はもう関係ありません!」 と説明するも、弁護士は冷静に説明します。

「あなたは相続放棄時に実家の鍵を保有し、私物を置き、また定期的に出入りして掃除などの管理を行っていましたね? そのため、民法940条1項の規定により、実家を「現に占有している」と評価されるリスクがあります。そうなると、実家の保存義務があることになりますので、保存義務を怠って隣家に損害を与えたのであれば、損害を賠償する責任が生じることがあります。」

「そんな・・・」

「また、管理不全な空き家の管理者とされると、行政から、『適切に管理するように』という指導や勧告、命令が出されることがあります。命令に違反すると、50万円以下の過料を受けるリスクがあります。」

【弁護士の視点】相続放棄に潜むリスク

なぜ、法的に相続放棄が認められたはずなのに、ここまで追い詰められてしまったのでしょうか?
ここでは、相続放棄により借金から逃れられたとしても、残ってしまう法的リスクについて説明します。

  1. 改正民法940条の「現に占有」という罠
    2023年の民法改正により、相続放棄後の管理責任(保存義務)は相続放棄時に「現に占有している者」に限定されました。
    これは一見、別居していて実家とは疎遠な子どもには有利な改正に見えます。
    しかし、相続放棄時に「鍵を持って実家を管理していた」場合、「現に占有していた」とみなされるリスクがあり、そうなると相続放棄した後も、実家の保存義務を負うことになります。

    その保存義務を怠った結果、他人に損害を与えたのであれば、生じた損害を賠償しなければならないケースがあります。

    新しいルールなので判例の蓄積はなく、どのような状態であれば「現に占有している者」とされるのかについて、はっきりとした基準がないのが実情です。

    わかりやすいのは、相続放棄前から引き続き実家で同居していたパターンです。これだと、「現に占有している者」と認められやすいでしょう。
    実際に住んでいない場合には、鍵を保有しているか、私物を置いているか、定期的に訪れていたかどうか、管理をしていたかどうかなどの事情を総合的に考慮して、判断することになります。
  2. 「管理不全空家」による過料のリスク
    日本全国に所有者不明の空き家が増え、災害の復興や都市開発に影響が出ていることから、空き家対策の一環として「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家法)が制定されました。令和5年に改正され、空き家の解体、活用などの措置が強化されました。

    これにより、倒壊の危険がある「特定空家」の前段階である「管理不全空家」でも、行政が、指導・勧告を行うことができるようになりました。さらに「特定空家」と認定されると、指導・勧告に応じず、命令にも従わなければ、50万円以下の過料の対象となります。それでも必要な措置を講じなければ、行政による強制撤去等が行われることがあります。

    注意が必要なのは、相続放棄をした場合であっても、相続放棄時に「現に占有する者」とされると、空き家の管理者として、行政の指導・勧告を受けるリスクがある点です。

    つまり、相続放棄しても、実家の保存義務が残っている場合には、第三者から損害賠償請求されたり、行政から指導・勧告を受けたりする責任が降りかかってしまうのです。

出口戦略のコストは「100万円」

この「負の相続」から抜け出す方法は、家庭裁判所に「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)」の選任を求める申立てを行うことです。選任された、相続財産清算人に不動産を管理してもらい、最終的に不動産を国庫に帰属させます。

しかし、相続財産清算人の業務に対しては、費用や報酬がかかります。その必要なお金は、通常相続財産から手当てされますが、足りない可能性がある場合、そのための予納金(裁判所に預ける費用)が必要です。
実務相場では、20万円から100万円を超えることもあります。

「借金を背負いたくない」と相続放棄を選んだはずが、結果的に「多額の現金の支払い」または「終わりのない保存義務」を背負わされる。

空き家の不動産の管理する人がいないのは問題ですので、法律は、相続放棄した場合でも、空き家を保存する責任を負う人を定めているのです。

「とりあえず相続放棄」の前に、これだけは確認して

あなたが今、「親の借金を引き継ぐのが怖い」と心配しているなら、相続放棄をすれば、借金を背負わずに済みます。しかし、相続人が他におらず、実家を引き継ぐ人がいない場合には、不動産が最終的にどうなるのか配慮しなければなりません。

相続放棄時に実家を「現に占有している」とされると、保存義務を背負うことになるからです。

相続放棄には、原則として、「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」という期限があります。いろいろな手続きをしていると、決して余裕のある期間ではありませんが、「自分が実家を占有している状態か否か」という点も考慮する必要があります。

今日からできる「最初の一歩」

相続放棄を検討している方は、次のポイントをおさえて準備を進めるようにしましょう。

(1)実家の鍵や財産には不用意に触れない

善意であっても、遺品を処分、売却したり、借金を遺産から返済したりする行為は「単純承認(借金を承継する)」とみなされる可能性があります。相続放棄を検討している方は、相続財産には手を触れず、現状を維持してください。

また、保存義務を負うことになりかねませんので、遠方の実家で生前同居していないのであれば、そのまま実家には関与せず、鍵を預かったり、訪ねて管理することは避けましょう。

(2)「保存義務」の所在を確認する

もし自分が相続放棄したら、次に相続人になる親族がいるのか? (次に相続人になる親族が相続すれば、最終的に自分に保存義務は残らない。)
相続放棄時に、自分は法的に「現に占有していた」といえるのか?(その場合、自分の責任をまぬかれるために、相続財産清算人の選任申立てを視野に入れる。)

自分が最終的に保存義務を負うことになるのか、確認します。

(3)弁護士に「出口戦略」を聞く

弁護士であれば、相続問題について、広く法的なアドバイスを行うことができます。
単に「借金を引き継がない(相続放棄の手続きをする)」だけでなく、個別具体的な事情を踏まえたうえで、「相続放棄後の空き家がどうなるか」まで見通せる弁護士に相談してください。

法律は、自分の身を守るための武器として戦うツールでもあります。一方で、知らない者にとっては、逆に自分を傷つける凶器ともなりえます。
自分や家族を守るために、法律を理解したうえで対処しましょう。

相続問題や相続放棄でお悩みの方は、一人で悩まず、一度アディーレ法律事務所にご相談ください。

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