「ある日突然、クビを宣告されて目の前が真っ暗になった……。」
そんな方もいることでしょう。
しかし、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。
そのクビ、本当に適法ですか?無効となるような違法な解雇ではないですか?
解雇や、その対処法について、弁護士が解説いたします。
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
- 条件がそろわなければ「クビ」にはならない
- 整理解雇に必要な条件
- 普通解雇に必要な条件
- 懲戒解雇に必要な条件
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その他の解雇が禁止になる場合
- (1)業務上のケガや病気を理由とする解雇の禁止
- (2)産前産後休暇の期間およびその後30日間の解雇の禁止
- (3)労働組合員であることなどを理由とする解雇の禁止
- (4)性別などを理由とする解雇の禁止
- (5)育児・介護休業などを理由とする解雇の禁止
- (6)短時間・有期雇用労働者が待遇差の理由を求めたこと等を理由とする解雇の禁止
- (7)パワハラ・セクハラの相談をしたことを理由とする解雇の禁止
- (8)労働者が労働局長に解決の援助を求めたことなどを理由とする解雇の禁止
- (9)公益通報をしたことを理由とする解雇の禁止
- (10)障害者であることなどを理由とする解雇の制限
- (11)国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇の禁止
- 原則として解雇予告・解雇予告手当が必要
- クビを宣告されたときの対処法
- 【まとめ】クビに関するお悩みは専門家へご相談することをおすすめします
条件がそろわなければ「クビ」にはならない
従業員をクビにする(解雇する)ためには、一定のルールを守る必要があります。
正当な解雇理由が存在しない場合に、労働契約を解約するには、会社と労働者との双方の合意が必要です(※)。
「クビだ」と言われても、正当な解雇理由にあたらず、合意ができない場合はクビにはなりません。
※会社と労働者が労働契約を合意で解約したとの形式をとっていても、「労働者が自由な意思により労働契約の解約を同意した」ことが必要です。
退職への同意を強要された場合には、合意の効力が否定されることがあります。
クビ、と一口いっても主に次の3種類があります。
- 整理解雇
- 普通解雇
- 懲戒解雇
これらの種類別に、クビが正当になるために必要な条件についてご説明します。
整理解雇に必要な条件
業績の悪化や事業の縮小など、企業側の事情により、人員削減が必要であるため、クビ(解雇)にすることを整理解雇といいます。
整理解雇のことをリストラと呼ぶこともあります。
人員整理の必要性が全くないのに、整理解雇としてクビとすることは、原則として認められません。
裁判例上、基本的には、以下の4つの要素を総合的に考慮して、整理解雇が正当な解雇であるか判断されています。
(1)人員整理の必要性がある
経営不振など、企業が経営する上で人員削減の必要性が高いことが必要です。
(2)解雇回避努力
まずは、配転、出向、希望退職の募集など、可能な限り解雇以外の手段を試み、解雇を回避するための努力をしていることが必要です。
希望退職を募集したもの、社長の報酬は高額のまま維持し、整理解雇された者には少額の退職金しか提供されなかった事案においては、解雇回避努力が足りないとして、整理解雇を無効とした裁判例があります(日本通信事件(東京地裁判決平成24年2月29日労判1048号45頁))。
(3)被解雇者選定の合理性
整理解雇の対象者が、客観的で合理的な基準により、公正に選ばれていることが必要です。
(4)手続きの相当性
解雇の対象者や組合に、人選の基準や当否につき十分に説明し、協議していることが必要です。
普通解雇に必要な条件
労働者が著しく能力不足で改善の余地が見られない場合や、協調性の欠如、病気やケガで働けず、労働契約の履行をなしえない場合になされるクビ(解雇)としては「普通解雇」があります。
普通解雇としてクビが認められるためには、解雇に「社会的相当性」と「客観的な合理性」が必要です。
「能力不足」や「成績不振」を理由にクビ(普通解雇)を宣告された場合でも、評価が公正でない場合や、改善の見込みがある場合、業務に支障が生じていないような場合は普通解雇が認められません。
懲戒解雇に必要な条件
懲戒解雇は、規律違反等に対する罰としての解雇です。
例えば、業務上の地位を利用した犯罪行為や、長期間の無断欠勤などをした場合に懲戒解雇としてクビにされる可能性があります。
他方で、経営者の一方的な感情だけを理由に、懲戒解雇としてクビにすることは認められません。
懲戒解雇の場合は、以下のいずれの条件を満たすと、正当な解雇と判断される傾向にあります。
- 懲戒解雇の事由・程度が就業規則に明記されていること
- 問題となった労働者の行為が、就業規則上の懲戒解雇の事由に該当すること
- 懲戒解雇が社会通念上相当であること
※3を満たすためには、通常、少なくとも以下のいずれの事項もクリアしていることが必要です。
- 問題となった労働者の行為や勤務歴などに比べて、懲戒解雇という処分が重すぎないこと
- 同じ問題行為を取った過去の労働者に対する処分に比べて、公平性を害しないこと
- 就業規則などに定められた懲戒解雇の手続きをきちんと守っていること
- 懲戒解雇について、本人に弁明の機会を与えていること
懲戒解雇が認められる可能性がある例
懲戒解雇としてクビが認められる可能性のある例は、次の通りです。
※ただし、懲戒解雇が有効となるためには、以下のような行為のほかに、就業規則にその旨の根拠規定があるなど上記1~3の条件を満たしていることが必要です。
- 業務上横領、架空取引などの業務に関わる犯罪行為をした
- 社用車利用による強盗などをして、自らの犯罪行為と共に社名が公開され、会社の名誉を著しく害した
- 年齢、学歴、職歴、資格、犯罪歴など会社が採用の際に重要視した事項を偽った
- 悪質なセクハラによって、著しく社内の風紀を乱した
- 悪質なパワハラによって、著しく社内の風紀を乱した
- 会社に連絡なく長期間欠勤した
- 正当な理由もないのに、何度も業務命令を拒否した
- 機密情報を違法に持ちだして、第三者に売った
その他の解雇が禁止になる場合
その他にも次のような場合に、解雇は禁止されます。
これらの禁止に反してクビにすることはできません。
(1)業務上のケガや病気を理由とする解雇の禁止
「労働者が、業務上のケガや病気の療養のために休業する期間」+「その後の30日間」は、原則として、クビ(解雇)にすることができません(労働基準法19条1項)。
ただし、次の場合は、上記休業中でも、例外的に解雇が可能となります。
- 療養開始後3年を経過しても、ケガや病気が治らない場合、使用者が平均賃金の1200日分にあたる「打切補償」(労働基準法81条)を支払った場合。
- ケガや病気になってから3年を経過した時点において、傷病補償年金(※)を受給している場合。
※傷病補償年金……1年6ヶ月たっても治らない業務上のケガや病気が、1年6ヶ月経過の時点で、1~3級に該当し、その状態が続く場合に、支給される年金 - ケガや病気になってから3年を経過した時点以降に、傷病補償年金を新たに受給することになった場合(受給を受ける日に、打切補償が支払われたものとみなされ、解雇が可能となります)。
- 地震などの天災事変、その他やむを得ない事由のために事業の継続ができなくなった場合(労働基準監督署長の認定が必要です)。
(2)産前産後休暇の期間およびその後30日間の解雇の禁止
産前・産後休業期間及びその後30日間のクビ(解雇)は原則として、禁止されています(労働基準法19条)。
ただし、地震などの天災事変、その他やむを得ない事由のために事業の継続ができなくなった場合、例外的に上記期間中でも解雇が可能となります(労働基準監督署長の認定が必要です)。
(3)労働組合員であることなどを理由とする解雇の禁止
労働者が労働組合の組合員であること、正当な労働組合活動をしたことなどを理由としたクビ(解雇)は禁止されています(労働組合法7条1項4号)。
(4)性別などを理由とする解雇の禁止
以下のことを理由とするクビ(解雇)などは禁止されています(男女雇用機会均等法6条4号、9条2項、3項、17条2項、18条2項)。
- 労働者の性別
- 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたこと
- 産前産後の休業の請求をしたこと
- 性差別禁止の規定をめぐる争いについて、労働者が労働局長に解決の援助を求めたこと
- 同争いにつき、労働者が調停を申請したこと
(5)育児・介護休業などを理由とする解雇の禁止
労働者が、以下のことを申し出たり、利用したことを理由とするクビ(解雇)は禁止です(育児・介護休業法10条、16条、16条の4、16条の7、16条の9、18条の2、20条の2、23条の2)。
- 育児・介護休業
- 子の看護休業
- 時間外労働の制限
- 深夜業の制限
- 所定労働時間の短縮など
(6)短時間・有期雇用労働者が待遇差の理由を求めたこと等を理由とする解雇の禁止
以下を理由として、クビ(解雇)にすることは禁止されています(短時間・有期雇用労働者法14条3項、24条2項、25条2項)。
- 短期間・有期雇用労働者が、通常の労働者との間の待遇差の内容・理由等について説明を求めたこと
- 短期間・有期雇用労働者法に関する争いについて、労働局長に紛争解決の援助を求めたこと
- 同争いについて、調停を申請したこと
(7)パワハラ・セクハラの相談をしたことを理由とする解雇の禁止
労働者がパワハラに関し、事業主に相談をしたことを理由とするクビ(解雇)は禁止されています(労働施策総合推進法30条の2第2項)。
セクハラについても、事業主に相談したこと等を理由とするクビ(解雇)は禁止です(男女雇用機会均等法11条2項)。
(8)労働者が労働局長に解決の援助を求めたことなどを理由とする解雇の禁止
労働者が労働局長に解決の援助を求めたこと、あっせんを申請したことを理由とするクビ(解雇)は禁止されています(個別労働紛争解決促進法4条3項、5条2項)。
(9)公益通報をしたことを理由とする解雇の禁止
労働者が一定の公益通報をしたことを理由とするクビ(解雇)は禁止されています(公益通報者保護法3条)。
(10)障害者であることなどを理由とする解雇の制限
労働者が障害者であることを理由としてクビ(解雇)にすることなどは禁止されています(障害者雇用促進法35条)。
(11)国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇の禁止
国籍・信条・社会的身分を理由とするクビ(解雇)は禁止されています(労働基準法3条)。
原則として解雇予告・解雇予告手当が必要
クビ(解雇)にしようとする場合には、原則として、少なくとも30日前に解雇予告をしなければなりません(労働基準法20条1項)。
また、予告が30日前に満たない場合は、「不足した日数分の平均賃金」を企業が支払う義務があります(解雇予告手当、労働基準法20条2項)。
(1)例外的に即時解雇が可能な場合
ただし、次のいずれかの場合には、解雇予告期間や解雇予告手当がなくとも、労働基準監督署長の認定があれば、即時にクビ(解雇)にすることが可能です(労働基準法20条1項但書、同条3項)。
1.地震などの天変事変や、その他やむを得ない理由により、事業を続けることができなくなったとき
解雇予告期間を設けることが使用者にとって酷な状況のときは、即時解雇が可能となります。
2.労働者に帰責性があるために解雇する場合
懲戒解雇の場合、即時解雇が可能となることがあります。
もっとも、即時解雇されてもやむを得ないといえるほどに、重大な帰責性が労働者にある場合のみ即時解雇が可能です。
また、上記のほかにも、次の労働者に対しては、原則として即時解雇が可能です(労働基準法21条)。
- 日雇い労働者
※1ヶ月を超えて引き続き雇用される場合を除く - 2ヶ月以内の雇用期間を定められている季節労働者以外の労働者
※2ヶ月を超えて引き続き雇用される場合を除く - 季節労働者であって、4ヶ月以内の雇用期間を定められている労働者
※4ヶ月を超えて引き続き雇用される場合を除く - 試用期間中の労働者
※14日を超えて引き続き雇用される場合を除く
(2)解雇予告期間や解雇予告手当に違反があった場合の効果
解雇予告期間や解雇予告手当に違反があった場合の効果については、裁判例によって判断が異なるものの、
「使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇の通知後、30日が経過した時点、または解雇予告手当の支払をした時点のいずれかから解雇の効力が発生する」
とする裁判例があります(細谷服装事件(最高裁第二小法廷判決昭和35年3月11日民集14巻3号403頁))。
クビを宣告されたときの対処法
クビにされると従労働者の生活がたちまち成り立たなくなる可能性があります。
クビを宣告された場合の対処法を解説いたします。
(1)不当解雇ではないかを確認する
これまでに説明した、解雇に必要な条件を満たしたクビなのかを確認しましょう。
この際、解雇理由が具体的に記載された「解雇理由証明書」があると役に立ちます。
解雇理由証明書は、労働者が請求すると、事業主は遅滞なく解雇理由証明書を交付する義務があります(労働基準法第22条2項)。
(2)不当解雇の場合は解雇の無効を主張する
クビが不当解雇だった場合、解雇自体が無効となることがあるため、会社に解雇の無効を主張することになります。
(3)賃金などの金銭を請求する
その企業で働き続けたい場合は、企業に「クビ(解雇)の無効+未払い賃金の支払い(※)」を主張することも可能です。
※違法な解雇により退職に追い込まれなければ、当該企業での勤務を継続することで得られたであろう賃金相当額。
他方で、その企業で働くことを断念する場合は、以下の請求が可能です。
- 逸失利益(本来得られたはずの利益)として、再就職までに通常必要な期間分の賃金の請求
- クビ(解雇)が不法行為に当たるとして慰謝料請求
また、懲戒解雇の無効を争う中で、支払理由を明らかにしないまま、会社から「解決金」名目で一定の金銭を支払ってもらえる場合もあります。
(4)弁護士など専門家に相談する
解雇無効や賃金などの金銭の請求をするには、複雑な対応が必要であることも少なくありませんので(失業保険をもらっても問題ないのか、就職しても手続きに影響はないのかなど)、ご自身で行動する前に、弁護士などへ速やかに相談することをお勧めします。
【まとめ】クビに関するお悩みは専門家へご相談することをおすすめします
解雇には、主に整理解雇、普通解雇、懲戒解雇があり、それぞれ要件を満たしていなければクビ(解雇)にすることはできません。
クビを宣告されたものの、不当解雇に該当する場合は、解雇の無効を主張や未払い賃金など金銭の請求を検討しましょう。
とはいえ、立場の弱い労働者が会社に一人で立ち向かうのは大変ですし、法的な知識・技術も必要です。
専門的な知識・技術を持つ弁護士に依頼すれば、依頼者の強い味方となって戦ってくれます。
クビを宣告されてお悩みの場合は、まずは弁護士などの専門家へ相談することをお勧めします。