「労働基準監督署は何をしてくれるところなんだろう?」
労働基準監督署という言葉を聞いたことがある方は多いかと思われます。
ですが、労働基準監督署が何をしてくれるところなのかということはあまり知らない方も多いのではないでしょうか。
労働基準監督署は、労働に関する一定の相談を受け付けたり、労働関係の法令に違反している企業に行政指導をしたりする機関です。
このことを知っていれば、必要な時に適切に労働基準監督署に相談などをすることができます。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 労働基準監督署とは何か
- 労働基準監督署は何をしてくれるところか
- 労働基準監督署を利用するメリット
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
労働基準監督署とは?
労働基準監督署とは、労働基準法などの法律に基づいて労働条件や安全衛生の指導、労災保険の給付などをする機関です。
労働基準監督署では、労働基準監督官という役職の人などが様々な業務を行っています。そこで、労働基準監督署の基本的な業務内容について解説いたします。
労働基準監督署は何をしてくれるところか
労働基準監督署は、次のような業務を行っています。
- 労働に関する相談を受け付ける
- 会社が労働基準関係法令(※)を遵守しているか確認・指導する
※労働基準関係法令とは、例えば次のような法令です。- 労働基準法
- 最低賃金法
- 労働安全衛生法
- じん肺法
- 家内労働法
- 賃金の支払の確保等に関する法律など
- 機械や設備の設置に関する届出を審査する
- 労働者災害補償保険法に基づき調査・保険給付をする など
これらについてご説明します。
参考:労働基準監督署の役割|厚生労働省
参考:労働基準監督官の仕事|厚生労働省
(1)労働に関する相談を受け付ける
労働基準監督署は、労働者の相談窓口として、労働基準法などに違反する事実の申告を受けています。
具体的には、次のような内容の相談をすることができます。
- サービス残業をさせられている
- 休日手当を支払われていない
相談だけでなく、行政指導を求めることも可能です。
また、労働基準監督署は、必要に応じて事業主から事情を聴取してくれることもあります(労働基準法104条の2第2項)。
使用者は、労働者が、労働基準法違反などの事実を労働基準監督署に申告したからといって、労働者に対して解雇などの不利益な取り扱いをすることは禁じられています(労働基準法104条2項、最低賃金法34条2項)。
(2)労働基準法を遵守しているか確認・指導する(臨検監督)
労働基準監督官は、必要に応じ、会社が労働基準法を守っているか確認するため、事業場や寄宿舎に、立ち入り調査をします(臨検、労働基準法101条1項)。
臨検する会社をどこにするかは、労働基準監督署が計画的に選んでいることもありますし、労働者の申告に基づき選ぶこともあります。
また、具体的な労働災害が発生すると、その労働災害が起こった会社へ臨検することもあります。
証拠の隠滅などが行われないよう、原則として、予告なしに突然、労働基準監督官が事業所に臨検することとされていますが(ILO 第81号条約第12条第1項)、事前の予告をしてから臨検に来ることが多いのが実情です。
こうして会社にやってきた労働基準監督官は、書類や帳簿の提出を求めたり、使用者や労働者から事情聴取をしたりします。
この臨検監督に対し、次のいずれかの行為をすると、30万円以下の罰金に処されます(労働基準法120条4号)。
- 臨検の拒否・妨害・忌避
- 尋問の拒否や虚偽陳述
- 帳簿書類の提出の拒否や、虚偽記載の帳簿書類の提出
臨検監督の結果、労働基準法違反などの事実が確認できれば、行政指導(是正勧告、改善指導)をすることができますし、場合によっては機械等の使用停止命令等の行政処分をなすことができます。
行政指導を受けた事業場は、指摘を受けた法令違反等の状態を是正し、労働基準監督官に是正・改善報告を行うことになります。
法令違反等の状態の是正が確認されれば、指導は終了です。
他方で、法令違反等の状態が是正されず、重大で悪質である場合は、送検(刑事事件として検察庁に引継ぎ)されることがあります。
(3)労働基準法違反の罪に対しては司法警察職員の職務を行うことも
労働基準監督官は、労働基準法違反の罪に対しては、司法警察職員(いわゆる警察官)の職務を行うことができます(労働基準法102条)。
例えば次のような職務を行うことができます。
- 逮捕
- 逮捕の際の令状によらない捜索・差押え・検証
- 令状による捜索・差押え・検証
(4)労働安全衛生法を遵守しているか確認・指導をおこなう
労働安全衛生法は、労働者の健康や安全を守るための法律です。
労働基準監督署は、会社が労働安全衛生法を守れているのか確認するために、事業場へ立ち入り検査をすることができます。
そして、労働基準監督官は、この立ち入り検査において、関係者に質問し、帳簿・書類その他の物件を検査することなどができます。
労働安全衛生法を守れていない企業に対しては、行政指導が行われます。
また、労働基準監督署長は、事業者などが一定の義務に違反する場合には、次の措置を講じるように命じることができます(労働安全衛生法98条)。
- 作業の全部または一部の停止
- 建設物などの全部または一部の使用の停止
- そのほか労働災害防止に必要な応急の措置
さらに労働基準監督署長は、必要に応じて、事業者や労働者などに対して、必要な事項(労災事故など)を報告させたり、出頭を命じることができます(労働安全衛生法100条1項)。
この報告や出頭を拒否したり、虚偽の報告をしたりすると、50万円以下の罰金に処せられることがあります(労働安全衛生法120条5号)。
(5)最低賃金法を遵守しているか確認・指導をおこなう
労働基準監督官は、会社が最低賃金法を遵守しているか監督するためなどの目的で、事業場への立ち入りや帳簿書類などの検査、関係者への質問をすることができます(最低賃金法32条1項)。
(6)労働者災害補償保険法に基づき調査・保険給付をする
労働災害補償保険法が定める労働者災害補償保険とは、いわゆる労災保険のことです。
労災保険により、業務上・通勤による労働者のケガや病気に対して必要な給付がなされます。
労働基準監督署は、労働災害補償保険法に基づき、起こった事故などの実態を調査し、要件を満たした方に対して、労災保険の給付を行います。
労災保険について、詳しくは次のページをご覧ください。
労働者が労働基準監督署を利用するメリット
労働をするうえで発生したトラブルを会社内や自分だけでは解決できない場合は、労働基準監督署を利用するとよい場合もあります。
労働基準監督署を利用するメリットには、次の3つがあります。
- 相談・指導に費用がかからない
- 労働関係の法律に詳しい職員に相談できる
- 問題がある場合は調査・指導をしてもらえる
これらについてご説明します。
(1)相談・指導に費用がかからない
労働基準監督署への相談は何度でも無料です。
また、相談の結果として事業主からの聴取や立ち入り調査・指導(臨検監督)を行ってもらう場合も、費用はかかりません。
(2)労働関係の法律に詳しい職員に相談できる
労働基準監督署には、労働に関する法律に詳しい職員が配置されています。
自分一人では分からないことも、専門家に相談することができます。
相談すると、どのように対処すればよいかなどを適切にアドバイスしてもらえます。
ただし、労働基準監督署は、労働基準関係法令の違反に関してしか相談に乗ってくれません。
労働基準関係法令としては、次のようなものがあります。
- 労働基準法
- 最低賃金法
- 労働安全衛生法
これに対して、民法などは対象外です。
例えば、「パワハラにあったが慰謝料を払ってくれない」といった相談は、基本的には民法の規定に基づく相談になりますので、労働基準監督署では相談に乗ってはもらえません。
もっとも、労働基準監督署や労働局の中に設けられている、「総合労働相談コーナー」に相談すると、労働基準監督署では扱っていない労働の相談ごとにも乗ってくれる場合がありますので、こちらも利用してみましょう。
(3)問題がある場合は調査・指導をしてもらえる
相談した結果、職場に労働基準関係法令の違反等の問題があると労働基準監督署が判断した場合には、必要に応じて調査や指導をしてもらえます。
自分一人で解決できない問題も、労働基準監督署が調査を開始し、その結果、是正勧告や改善指導がなされればトラブルが解消される可能性があります。
ただし、労働基準監督署には、労働者から相談を受けたからと言って、必ずしも、調査等の措置を取る義務はありません(東京労基局長事件・東京高裁判決昭和56年3月26日)。
労働基準監督署に相談に行く際、「事業場が違法行為をしていることを示す明確な証拠」を持参すると、労働基準監督署に動いてもらいやすくなりますので、相談の際は証拠を持参することをおすすめします。
労働基準監督署以外の相談先
労働基準監督署は、労働者と企業の紛争をすべて解決してくれるわけではありません。
先ほどご説明したとおり、労働基準監督署が取り扱うことができる分野には限りがありますし、必ずしも調査・指導などをしてくれるわけではありません。
また、労働基準監督署は、会社が未払い残業代を個々の労働者に確実に支払わせるところまで面倒を看てくれません。労働基準監督署が未払いの残業代があるとして、その支払いを指導しても、会社がこれに応じないときには、労働者自ら会社に対して未払いの残業代を請求して、その回収を図る必要があります。
そのため、労働基準監督署に相談しても、トラブルが解決しないこともあります。
必要に応じて総合労働相談コーナーや、社会保険労務士、弁護士などへ相談することをお勧めします。
特に、民法に関するトラブルなど、労働基準監督署が扱っていない問題については、労働問題を多く取り扱う弁護士に相談してみてもよいでしょう。
弁護士は、労働基準監督署と異なり、労働者個々人の代理人として労働者の権利を実現するために交渉などを代わりに行ってくれます。
このため、労働基準監督署では取り扱ってくれないトラブルの解決(未払い残業代請求など)についても相談に乗ってくれて解決のために動いてくれます。
【まとめ】労働基準監督署ではやれることと、やれないことがある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 労働基準監督署とは、労働基準法などの法律に基づいて労働条件や安全衛生の指導、労災保険の給付などをする機関。
- 労働基準監督署は、次のような業務などを行っている。
- 労働に関する相談を受け付ける
- 会社が労働基準法などの労働基準関係法令を遵守しているか確認・指導する
- 労働者災害補償保険法に基づき保険給付決定などをする
- 労働基準監督署を利用するメリットとしては、次のようなものがある。
- 相談・指導に費用がかからない
- 労働関係の法律に詳しい職員に相談できる
- 問題がある場合には調査・指導をしてもらえる
- 労働基準監督署以外の相談先としては、総合労働相談センターや弁護士などがある。
会社が労働基準法を守ってくれないなどの場合には、労働基準監督署に相談すれば解決につながる可能性があります。
一方で、労働基準監督署では対応できないこともあります。
特に、「残業代が支払われない」などといったことのように、個人の権利に基づいて紛争を解決するなどのことは、労働基準監督署では直接的には取り扱ってくれないことも多くあります。
残業代が支払われないなどのような場合には、弁護士に相談しましょう。
弁護士であれば、労働者ひとりひとりのために、会社と残業代の支払について交渉したりするなど、労働者個々人のために動いてくれます。
アディーレ法律事務所も、未払い残業代請求について取り扱っている法律事務所の一つです。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した残業代からのお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年12月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。