「仮眠時間は労働時間に含まれないの?実際に仕事があるとは限らないけど、その間はずっと待機しているわけだし…。」
このような疑問を持つ方は少なくありません。
仮眠時間に賃金が発生するかどうかは、仮眠時間が「労働時間」かどうかで決まります。
労働時間かどうかは、その時間帯、労働者が使用者の指揮監督下にあったかどうかなどをもとに判断されます。
そして、仮眠時間が労働時間であるにもかかわらず賃金が支払われていない場合、未払いになっている賃金を会社に請求できる可能性があります。
この記事を読んでわかること
- 仮眠時間が賃金の対象となる「労働時間」に該当するかどうかの判断基準
- 仮眠時間の賃金の計算方法
- 仮眠時間の賃金が未払いだった場合の請求方法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
仮眠時間は「労働時間」になる?
それでは、仮眠時間が「労働時間」になるかどうかについて詳しくご説明します。
(1)そもそも、労働時間とは?
ここで言う「労働時間」とは、労働基準法(労基法)上の労働時間のことです。
労基法上の労働時間とは、会社などの使用者が労働者を労働させた時間のことです(ここからは、単に「労働時間」と表記します)。
そして、使用者が労働者を労働させた時間であるかどうかは、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に」判断されます(三菱重工長崎造船所事件、最高裁判所第一小法廷判決平成12年3月9日民集54巻3号801頁)。
参考:裁判例結果詳細|裁判所 – Courts in Japan
労働時間は原則として「1週40時間まで」かつ「1日8時間まで」に収まっている必要があります(法定労働時間、同法32条)。
労働時間が「1週40時間」か「1日8時間」を超えた場合、超えた部分の賃金は割り増しされます。
(2)休憩時間とは?
労基法では、使用者が労働者に対して与える必要がある休憩時間について、次のように定めています(同法34条1項)。
1日あたりの労働時間 | 休憩時間 |
---|---|
6時間以下 | 0分以上 |
6時間超8時間以下 | 45分以上 |
8時間超 | 1時間以上 |
休憩時間には、賃金が発生しません。
ただし、使用者は休憩時間を自由に利用させなければならない (労基法34条3項)ので、休憩時間中は一切労働する必要がありません。
そのため、たとえ「休憩時間」などという名称の時間があったとしても、実際には上司の指示などで労働せざるを得なかった場合には、賃金が発生する「労働時間」だったということになります。
「休憩時間」などの名前がついている時間であっても、残業代などが発生する可能性があることについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)仮眠時間が労働時間に当たるケースとは?
仮眠時間が労働時間に当たるのは、仮眠時間中に労働しなければならない可能性があるときです。
あるビル管理会社の従業員が泊まりで警備などの勤務をした際の仮眠時間が労働時間に当たるかどうかについて、最高裁判所は次のように判断しています。
不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。
(大星ビル事件判決、最高裁判所第一小法廷判決平成14年2月28日民集56巻2号361頁)
参考:裁判例結果詳細|裁判所 – Courts in Japan
つまり、仮眠時間中でもトラブル対応などの労働が発生する可能性から解放されていないのであれば、使用者の指揮監督下に置かれた労働時間であるということになります。
仮眠時間が労働時間とされるということは、実際にトラブル対応などの労働に従事することなく、結果的に仮眠をしていただけということであっても、その全ての時間が労働時間として扱われるということです。
ある特定の労働日における仮眠時間の途中で実際にトラブル対応をしたかどうかというのは、あくまでも事後的な問題です。仮眠時間の最中、いつ必要となっても対応できるよう待機していなければならなかった場合、その時間は労働時間と扱われます。
先ほどの最高裁判決は、実際にトラブル対応をすることが皆無に等しいといった特段の事情があれば、仮眠時間中にトラブル対応をする労働契約上の義務があったとしても、仮眠時間を労働時間とは扱わない趣旨であると考えられています。
例えば、仮眠から起きてトラブル対応することがこれまで全くなかった場合や、そうした対応をしたことがあっても、その頻度が数年間に1回だけであるといった事情が考えられます。
(4)仮眠時間が労働時間に当たらないとした裁判例
ビル管理会社の従業員の仮眠時間について、仮眠時間中の人が労働しなければならないことが皆無に等しいことなどを理由に、労働時間には当たらないと判断した裁判例もあります(ビル代行事件判決、東京高等裁判所判決平成17年7月20日判例タイムズ1206号207頁)。
この裁判例においては、次のような事情がありました。
- 仮眠する人は、制服をパジャマに着替えて仮眠していた
- 22時以降は業務量が少ないうえ、そのビルの従業員が退社するときの施錠確認などは、仮眠時間中の人ではなく他の巡回者が行うこととなっていた
- そのビルに浮浪者などが侵入したときの対応は、仮眠時間中の人ではなく警備員が行うこととなっていた
仮眠時間中に実際に労働が発生する可能性がどれほどあったかで、労働時間かどうかが判断されるといえます。
(5)仮眠時間以外の、労働時間に当たるもの
仮眠時間だけでなく、その他の実際に本来的な業務たる作業等をしていなかった時間も労働時間となる可能性があります。
例えば、次のものが挙げられます。
- 業務が始まる前の準備や片付け、朝礼、体操などといった、業務に不可欠だったり、参加が義務付けられている時間
- 業務に必要な作業服や保護服などを着ることが、義務付けられている時間
- 客を待っている時間 など
このような時間も、労働者が使用者の指揮監督下に置かれていたと判断されれば、賃金などが発生する「労働時間」となります。
仮眠時間中の賃金はどうなる?
仮眠時間が労働時間に当たる場合、それに対して賃金が支払われなければいけません。
また、労働時間に当たる仮眠時間が法定労働時間を超えた法定時間外や深夜などに発生した場合には、賃金は割り増しされます。
割増率は、次の表のとおりです。
残業の種類 | 割増率 |
---|---|
法定時間外労働 (1日8時間・週40時間の少なくとも一方を超過した労働) |
月60時間まで:25%~ |
月60時間を超えた部分:原則50%~ | |
深夜労働 (原則:22~5時までの労働) |
25%~ |
休日労働 (法律上、使用者が労働者に対して付与すべき最低限の休日(法定休日)に発生した労働) |
35%~ |
また、例えば「20時から時間外労働に突入して、結局1時まで働いた」というケースでは、「22~1時まで」は時間外労働かつ深夜労働ということになります。
このように、複数の種類が重複している場合には、それぞれの割増率を合計します。例えば、上のケースでは、「22~1時まで」の割増率は50%以上となります(法定時間外労働25%以上+深夜労働25%以上。その月の時間外労働が60時間以内だった場合です)。
したがって、残業代の計算は「どこからどこまでが時間外労働で、深夜労働はさらに割増率が上がって…」などと複雑になりがちです。
仮眠時間分の未払い賃金を請求する方法
このように、たとえ実際に労働が発生しなかったとしても、仮眠時間が労働時間となるケースはあります。
そのため、給与明細などを見て、「仮眠時間分の賃金が、払われていないかも」と感じた場合、未払い賃金を会社に請求できる可能性があります。
それでは、仮眠時間分の未払い賃金を請求する方法についてご説明します。
(1)賃金が未払いになっていることの証拠集め
まずは、賃金が未払いになっていることの証拠を集めます。
例えば、次のような証拠です。
- 雇用契約書や就業規則、給与明細など
…残業代などの支払方法のルールや、実際にいくら支払われたのか(未払いなのか) - タイムカードの写しやweb打刻のスクリーンショットなど
…実際に出勤していたこと - 仮眠時間中の業務内容の記録
…労働が発生する可能性があり、いつでも対応できるように待機していたこと
(2)未払いになっている賃金の計算
次に、賃金がいくら未払いになっているかを計算します。
未払いになっている仮眠時間について、1時間あたりの賃金(※)に仮眠時間を(深夜労働などになっている場合には、先ほどの割増率も)掛けることで算出します。
※例えば月給制の場合、月給から通勤手当などを除いた金額を1ヶ月の平均所定労働時間で割ることで求められます。
残業代の計算方法について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)会社に対して、未払い賃金を請求
未払い賃金を計算したら、会社に対して請求します。
請求をしたことについて証拠を残しておくために、内容証明郵便で行いましょう。
支払方法や金額について会社と折り合いがつかなければ、労働審判や訴訟など裁判所での手続きを利用することもできます。
未払い賃金を請求したいと思ったら、弁護士に相談・依頼するのがおすすめ
未払い賃金を請求したいと思った場合には、まずは弁護士に相談してみるのもおすすめです。
弁護士に相談や依頼をすることには、次のようなメリットがあるからです。
- 証拠集めについてサポートを受けられる
…どのような証拠があると手続きをスムーズに進められるかについて、アドバイスをもらえます。また、依頼した場合には、会社に対する証拠開示の請求や、証拠が不十分な場合の未払い賃金の推定計算などもしてもらえます。 - 未払い賃金の消滅時効を管理してもらえる
…未払い賃金には、消滅時効があります(2020年4月1日以降は、本来支払われるべきだった日から3年)。月給制の場合、時効が到来する未払い賃金が毎月消滅していくイメージです。弁護士に依頼すれば、これ以上時効消滅が起こらないよう必要な措置を任せておくことができます。 - 依頼すれば、会社と直接交渉しなくて済む
…労働者本人が会社と交渉する場合、必ずしも誠実に対応しない会社もあるのが現状です。このような会社との交渉はしばしばストレスとなりますが、弁護士に依頼すれば会社との連絡や交渉は原則全て弁護士が担いますので、ストレスを軽減できます。
【まとめ】仮眠時間でも、賃金が発生する「労働時間」に該当するケースがある!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
• 仮眠時間に賃金が発生するかどうかは、仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たるかどうかで決まる
労働基準法上の労働時間に該当するかどうかは、客観的な事情をもとに、当該時間中労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるかどうかで決まる
• 仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たる場合、賃金の対象となる
• 仮眠時間の賃金が支払われていない場合、未払いになっていることや未払い額などの証拠を集め、未払い額を計算して、会社に対して請求することができる
• 未払い賃金の計算は複雑になりがちなうえ、労働者個人が請求しても誠実に対応しない会社もある
賃金は、労働の正当な対価です。
未払いになっているとしたら、請求するのは当然の権利です。
しかし、賃金が未払いになっているのか、未払い額はいくらなのかを計算するのは大変な場合も少なくありません。そもそも計算に必要な証拠を自力では集めきれないケースもあります。
未払い賃金がないかどうかを知るためにも、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した金銭(例:残業代、示談金)からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2023年5月時点
弁護士費用について詳しくはこちらをご覧ください。
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。