「22時以降に残業をした場合、残業代はどうなるのだろう?」
深夜に残業をした場合には、深夜労働に対する割増と、時間外労働に対する割増が重複して適用され、通常の深夜労働よりも上乗せされた割増賃金が発生します。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 深夜残業の定義と割増率
- 深夜残業の残業代計算方法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
22時以降の労働は深夜残業になる?
まず、深夜残業の定義及び深夜労働との違い、またそれぞれについての残業代、さらに法定休日に深夜労働した場合の割増賃金について説明していきます。
(1)深夜残業の定義
「深夜残業」とは、22~5時までの時間帯に残業することです(労働基準法37条4項)。
ここでの残業とは、法定労働時間(労働基準法で定められた1日の労働時間の上限)である1日8時間を超えた労働(時間外労働)のことです。
これに対して、1日8時間を超えない労働であって、22~5時までの間になされた労働のことは「深夜労働」といいます。
「深夜残業」と「深夜労働」の違いは、残業(時間外労働)であるかどうかという点にあります。
(2)深夜残業と深夜労働の残業代
22時以降に働く深夜労働を行った場合、通常の賃金に25%以上の割増率を乗じた割増賃金が発生します。
さらに、深夜残業を行った場合には、深夜労働を行った場合の割増賃金に比べてさらに時間外労働として25%以上の割増率が上乗せされます。
これにより、通常の賃金の50%以上が加算された割増賃金が支払われることになります。
割増率 | |
深夜労働 | 25%以上 |
時間外労働(※) | 25%以上 |
深夜労働+時間外労働 | 50%以上 |
休日労働 | 35%以上 |
深夜労働+休日労働 | 60%以上 |
※時間外労働が月60時間を超えた場合、その超えた部分については、原則として割増率が50%以上となります。
(3)法定休日に22時以降の深夜労働をした場合
「法定休日」とは、週1日以上または4週間につき4日以上という、会社が労働者に対して最低限与えなければならない休日のことです(労働基準法35条)。
法定休日に行われた労働のことを「休日労働」といい、通常の賃金の35%以上の割増率による割増賃金が発生します。
なお、法定休日における労働については時間外労働の考え方がないため、8時間以上労働したとしても、割増率はすべての時間帯で一律35%となります。
一方で、法定休日に深夜労働が行われれば、割増率は35%以上+深夜労働25%以上で60%以上の割増率になります。
なお、この法定休日に対して、会社が独自に定める休日のことを所定休日(法定外休日)と呼びます。
週休2日制で土日休みという会社の場合、日曜日を法定休日、土曜日を所定休日(法定外休日)などと定めたりします。
この所定休日に労働をした場合は、「休日労働」にはあたらないため、35%の割増率は適用されません。
なお、所定休日(法定外休日)に労働した場合、週でみたときの法定労働時間は40時間とされるため、それが週40時間を超える場合、時間外労働として25%以上が加算された割増賃金が支払われることになります。労働した時間が深夜にかかるときには、深夜残業として更に25%以上の割増賃金が加算されることになり、時間外労働と深夜残業の割増率の合計50%以上が加算された割増賃金が支払われることになります。
深夜割増の残業代を計算する方法
続いて、残業代の計算に必要な基礎時給に関する基本的な知識と、基礎時給の計算方法について解説いたします。
(1)残業代の計算に必要な基礎時給
基礎時給とは、1時間あたりの賃金のことをいいます。
そして、基礎時給を計算するには、基礎賃金を求める必要があります。
基礎賃金とは、労働には直接関係のない個人の事情に基づいて支給される手当を除いた賃金のことをいいます。
そのような除外対象となる手当には以下のようなものがあります(労働基準法37条5項、同施行規則21条)。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
基本給のみを基礎賃金とすると、本来除外しない手当まで除外してしまうことになるため、残業代が少なく計算されてしまいますから注意しましょう。
この基礎賃金を、月平均所定労働時間で割ることで、1時間あたりの基礎賃金=基礎時給を算出することができます。
(2)月平均所定労働時間数の求め方
基礎時給を求める場合に必要な月平均所定労働時間数は
「月平均所定労働時間=(365日-1年の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12ヶ月」
という計算式により算出できます。
暦によって、当該月の勤務日数や休日の数にばらつきがあるため、年間を通した平均の月労働時間が使用されます。
この計算をするためには、年間休日日数を把握する必要がありますので、就業規則で確認しておきましょう。
月給制の場合、例えば年間の休日日数が125日であれば、
(365日-125日)×8時間÷12ヶ月=160時間
が月平均所定労働時間となります。
このようにして算出された月平均所定労働時間を利用して、基礎賃金を求めることができます。
(3)22時以降にした深夜残業の残業代の計算例
残業代の計算式は、基本的には次の通りです。
残業代=基礎時給×残業時間×割増率
先に述べたように、深夜労働の割増率は25%以上、時間外労働も重なると50%以上の割増率となります。
深夜労働は25%以上、深夜残業は50%以上、法定休日労働は35%以上、法定休日労働+深夜労働は60%以上の割増率をあてはめることで、それぞれ残業代が計算できます。
22時以降の深夜労働に関する疑問
それでは、22時以降の残業の違法性、固定残業代制、女性の制限など、深夜労働にまつわる疑問について解説いたします。
(1)深夜残業は違法?
深夜残業は違法になりますか?
深夜残業自体は違法ではありません。
もっとも、前提として残業に必要な36協定を締結・届出している必要があります。
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働(時間外労働)は許されないのが労働基準法の原則です(労働基準法32条)。しかし、労働基準法36条に基づく「36協定」を労使間で締結し、労働基準監督署への届出をすれば、時間外労働をさせることも違法にはなりません。
このような36協定があれば、基本的には深夜残業(深夜の時間外労働)も可能となります。
もっとも、深夜残業が時間外労働の上限規制に触れる場合には、違法な残業ということになります。
時間外労働の上限は、原則として「月45時間・年360時間」ですが、一定の場合にはさらに長い時間の時間外労働も認められます。
労働時間の上限について、詳しくはこちらをご覧ください。
(2)固定残業代制の残業代は?
固定残業代とは、給与のうちであらかじめ基本給に加算されて支払われる、あるいは特定の手当として支払われる、「想定される一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対する定額の割増賃金」のことです。
想定される残業代は、実際の労働時間にかかわらず固定給として支払われます。
しかし、あらかじめ定めた残業代が、実際の時間外労働や深夜労働の割増賃金を下回る場合には、不足分を追加した残業代を払う義務があります。
また、固定残業代制のもとで深夜労働や休日労働をした場合、深夜労働や休日労働の割増率が固定残業代制度に組み込まれていないのであれば、別途残業代を請求できることになります。
「固定残業代制は、常に残業代が一定という制度であるから、深夜残業や休日労働でも残業代が発生しない」と勘違いするケースが多いので注意しましょう。
(3)深夜残業に女性の制限はある?
女性は深夜残業ができないなどの制限はありますか?
過去にはそのような制限がありましたが、現在は女性が深夜残業をできないという制限はありません。
1999年3月までは、業種により女性の深夜残業は原則的に禁止されていましたが、同年4月以降は女性の深夜労働に関する制限はなくなりました。
ただし、妊産婦(妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性)は、深夜業や休日労働、時間外労働をしないことを請求することができます(労働基準法66条)。
なお、これは女性の労働者に限ったことではありませんが、1.小学校就学前の子を養育している労働者、2.要介護状態にある対象家族を介護する労働者から、その養育や介護が必要であるということで請求されると、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、会社はその労働者を深夜に働かせることが禁止されます(介護育児休業法第19条及び同法第20条)。
ただし、1.勤続年数が1年未満、2.深夜に子あるいは対象家族を常態として保育・介護できる同居の家族がいる、3.1週間の所定労働日数が2日以下、4.所定労働時間の全部が深夜である労働者は、上記の請求ができないとされます。
参考:深夜業の制限|厚生労働省
(4)深夜労働の休憩時間の扱いは?
夜勤業務では、数時間の仮眠時間や休憩時間が設定されていることが一般的です。
しかし、休憩時間は「自由に利用させなければならない」(労働基準法34条3項)という規定があります。
仮眠時間とはいえ、何らかの事態で業務に直ちに戻る必要がある場合は、労働から解放されているとはいえません。
そのような時間は、使用者の指揮監督下に置かれていると評価できるとして、休憩時間ではなく労働時間にカウントされる場合があります。
(5)深夜残業の残業代について未払い残業代がある場合どうすれば?
深夜残業をしたのに、残業代がもらえていません。
どうすればよいでしょうか?
深夜残業をしたのに残業代がもらえないのは、大変つらいことですよね。
弁護士に相談・依頼することで、残業代トラブルを解決できる可能性があります。
深夜残業をしたのに支払われるべき残業代が未払いの場合、会社に請求することが可能です。
しかし、会社との交渉に不安がある場合や、裁量労働制などの関係で残業代が出ないと思い込み、残業代請求を諦めるケースがあります。
しかし、未払い残業代の問題は、弁護士に相談することによって、適正な残業代の算出、会社との交渉を代行してもらうことができます。
諦めていた未払い残業代を、弁護士に相談・依頼したことで解決した事例も多いため、まずは弁護士に相談してみましょう。
なお、アディーレ法律事務所のウェブサイトには「残業代メーター」という請求可能な残業代を簡単に計算できるページがあります。
ただし、簡易的に計算するものであるため、実際の請求額とは異なることがあります。
【まとめ】22時以降の残業代は深夜割増賃金で計算される
この記事のまとめは次のとおりです。
- 22時以降の労働には「深夜労働」と「深夜残業」があり、深夜残業は深夜労働の割増率がさらに上積みされて50%以上となります。
- 残業代の計算は基礎時給を算出し、残業時間と該当する割増率を乗じることで求められます。
- 36協定の締結・届出をしないと深夜残業は違法となるため、36協定が締結されているか確認することが重要です。
深夜残業をしたら、残業代の割増率は原則50%以上になるなど、多くの残業代が発生することがあります。
そんな残業代も、しっかりともらえていなければ意味がありません。
深夜残業の残業代をもらえていない場合には、会社に対して請求するようにしましょう。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した残業代からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年12月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。