雇止めとは、労働期間の定めがある労働者に対して、契約の更新を拒否することをいいます。
東京都産業労働局の2019年度の調査によれば、過去3年間に雇止めをしたことがあると回答した企業は、18.7%にのぼっております。
また、同調査によれば、16.4%の企業で、雇止め時におけるトラブルがあったと回答しており、雇止めによるトラブルが少なくないことが分かります。
雇止めは必ずしも有効というものではなく、労働契約法では、使用者の雇止めに制限をかけて、労働者の保護を図っています。
弁護士が雇止めについて解説いたします。
雇い止めの定義とは
雇止めとは、労働期間の定めがある非正規雇用(有期労働契約)の労働者に対して、期間満了をもって労働契約の更新を拒否することをいいます。
「派遣切り」とも呼ばれ、社会問題となっています。
しかし、雇止めは使用者が自由に行うことができるわけではありません。
雇止めには、次の通り、一定の制限があります。
有期雇用労働者を守るため、雇い止め法理がある!
雇い止め法理とは、有期雇用労働契約をしている労働者を保護するため、「雇止めに一定の制限をかける」という考え方です。
元々は最高裁判所判決で、雇い止め法理が示されてきましたが、労働契約法の改正で、雇止め法理が明文化されました(労働契約法19条)。
すなわち、
・有期労働契約が、過去に反復して契約期間を更新されたことによって、期間の定めのない労働契約と実質的に同じ場合、
または、
・当該労働者が、有期労働契約の更新を期待することが合理的といえる場合には、期間満了前に労働者が契約の更新の申し込みをするか、期間満了後すぐに有期労働契約締結の申し込みをすると、簡単には雇止めをすることができなくなります。
このような場合に、有効に雇止めをするためには、使用者が労働者からの契約更新の申し込みなどを拒否することが、客観的にみて合理的な理由があり、社会通念上相当である必要があります。
これらの要件を満たさない場合には、雇止めは無効となります。
雇止めが無効となると、労働契約法19条により、従前の有期労働契約と同じ労働条件で、雇用が継続することになります(使用者は、労働者の契約更新の申し込み、または、新たな有期労働契約の締結の申し込みを、従前の有期労働契約と同一の労働条件にて承認したとみなされます)。
【雇止めが無効となる場合のまとめ】
期間の定めのない労働契約と実質的に同じ場合
または
有期労働契約の更新を期待することが合理的な場合

期間満了前に契約の更新の申し込み
または
期間満了後すぐに有期労働契約締結の申し込み

使用者が上記申し込みを拒否することが、
客観的合理性・相当性を欠く

雇止めが無効となる場合の要件について、具体例を交えて解説いたします。
(1)契約自体が実質的に無期雇用者と変わらない
以下のいずれにも当てはまる場合には、契約自体が、実質的に無期雇用者と変わらないと判断されやすくなります。
- 過去に契約が反復更新されたことが多い
- 契約の更新がきちんと管理されていない
※以下の場合は、契約の更新がきちんと管理されている場合といえます
更新の都度、契約書が事前に作成されている、
更新の都度、労働者に契約内容を確認させている
更新の都度、契約書に署名や記名押印をさせている
判例でも、5~23回にわたって契約を更新したのちに、複数人の有期雇用労働者に対し雇止めがなされた事案において、
期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた
と認定されています。
参考:東芝柳町工場事件 最高裁第一小法廷昭和49年7月22日民集28巻5号927頁|裁判所 – Courts in Japan
(2)契約更新に合理的な期待が生じている
以下のいずれかに当てはまる場合には、契約更新に合理的な期待が生じていると判断されやすくなります。
・有期雇用労働者の業務が、会社にとって恒常的・重要なものである場合
※逆に一時的・補助的な業務である場合には、契約更新に合理的な期待が生じていない、と判断されやすくなります。
・自身の過去の契約の更新回数が多く、入社時から通算した期間が長い
※ただし、更新回数等が多くとも、契約の更新がきちんと管理されている場合には、契約更新に合理的期待が生じていないと、判断されやすくなります。
・同じ職場で同じような業務を行っている有期雇用労働者が、過去の契約の更新回数が多く、入社時から通算した期間が長い
・雇い主が更新を期待させる発言をした場合
営業で恒常的な業務についていた労働者が雇止めされた事案につき、契約更新の契約書の管理も厳密になされていない(作成日付や記名押印がないなど)ことから、契約更新に合理的な期待が生じているとした裁判例があります(大阪地裁判決平成23年9月29日)。
また、航空会社に有期雇用契約により雇用された客室乗務員が雇止めされた事案につき、
「一緒に…会社の発展に貢献しましょう」との契約書を渡され、日本地区総支配人らから「これからも会社のために頑張って欲しい。」などと激励などされていたとして、雇用継続の合理的期待を認めた裁判例もあります(カンタス航空事件(東京高裁判決平成13年6月27日・労判810号21頁))。
更新回数や雇用期間の限度が明示・説明されている場合には注意
1.「契約締結前」に、更新回数の限度等の明示・説明がある場合
他方で、「契約の更新は3回までとする」など、有期雇用契約の更新回数や雇用期間の限度が、契約をする前から、就業規則や契約書において明記され、労働者にもその旨説明されている場合には、契約更新されることにつき合理的期待があったとは言えず、雇止めが有効となる傾向にあります。
ただし、有期雇用契約をした後やそれを更新した後に、更新回数や雇用期間の限度が就業規則に設けられた場合には、就業規則の不利益変更にあたります。
そして、就業規則を労働者の不利益に変更するためには、原則として労働者の自由な意思による合意が必要です(労働契約法8条、9条)。
労働者の自由な意思があったかどうかは、厳密に判断されます。
労働者の自由な意思による合意がない場合には、原則として、就業規則の当該不利益変更に関する部分は無効となります。
ただし、労働者の合意がなくとも、変更後の就業規則について、労働者に周知があり、その不利益変更が合理的である場合には、例外的に就業規則の不利益変更が有効となることがありますので注意が必要です(労働契約法10条、ただし、就業規則の変更を許さないとの労働契約をしている場合は原則として不利益変更は無効)。
2.「契約締結時や更新時」に、更新回数の限度等の明示・説明がある場合
有期雇用契約の契約締結時や、その更新時に、「更新は今回まで。次は更新しない」などと、契約書に明記され、使用者からもその理由とともにきちんと説明があり、労働者も合意していた場合には、契約更新されることにつき合理的期待があったとは言えない場合が多く、雇止めが有効となる傾向にあります。
(3)雇止めの合理性・社会的相当性
雇止めの合理性・社会的相当性があるか否かは、厳しく判断されるため、雇止めが無効とされる裁判例も多くあります。
例えば、会社の経営上の理由により、雇止めが行われた事案において、誰を雇止めにするかという選定基準が、合理的でなく、恣意的であったとして、雇止めが無効とされた裁判例もあります(安川電機八幡工場事件(福岡地裁小倉支部判決平成16年5月11日・労判879号71頁))。
雇い止めを無効・撤回させるための方法
では、不当な雇止めにあったときには具体的にどうすればよいでしょうか。
不当な雇い止めを無効・撤回させるための方法を以下で解説いたします。
(1)雇止めすると言われたらすぐに契約を更新したいなどと申し入れる
労働契約法19条の雇止めの法理の適用を受けるためには、
・契約期間満了前に契約の更新の申し込み
または
・契約期間満了後すぐに有期労働契約締結の申し込み
をすることが必要です。
そのため、雇止めをすると言われたら、すぐさま、上記申し込みをしましょう。
上記申し込みをしたことを確実に証拠として残すため、内容証明郵便を会社に送ると良いです。
参考:内容証明|郵便局
(2)勤務先に雇い止めの理由や経緯を確認する
雇止めの理由が何であるかが、無効かどうかの重要なポイントになってきますので、雇い止めという判断に至った具体的な理由を雇い主に確認しましょう。
証拠として残しやすいメール・書面で返答してもらうことが望ましいです。
(3)証拠を集める
雇い止めが不当であることを証明する証拠を準備しましょう。
例えば、証拠としては、次のようなものがあります。
- 現在の勤務先と交わした労働契約書全て
- 就業規則
- 雇い主が交付する雇い止め理由証明書や、雇止めの理由が記載されたその他の書面・メール
- 更新を期待させる雇い主からの発言を記録したもの(メールなどでも可)
- 契約更新を申し込んだ証拠または、有期雇用契約の新たな成立を申し込んだ証拠(内容証明郵便など)
- その他、業務内容や、更新回数、勤務期間がわかるものなど
(4)弁護士などに相談する
労働問題に強い弁護士、労働基準監督署、労働条件相談「ほっとライン」などに雇い止めについて相談しましょう。
証拠が揃っていなくとも相談できますが、既に証拠が揃っている場合にはそれを持参すると、相談がスムーズになります。
雇い止めにあった場合の相談先
不当な雇い止めにあった場合の相談先の詳細を、以下で解説いたします。
(1)労働条件相談ほっとライン
厚生労働省が運営する労働条件に関する相談先で、電話相談が可能です。
相談料は無料で、匿名でも相談できます。
- 連絡先:0120-811-610
- 受付時間:【月〜金】17時〜22時【土・日・祝日】9時〜21時
12月29日~1月3日は休止
(2)労働基準監督署
労働基準監督署に相談すると、アドバイスをくれたり、場合によっては、企業に立ち入り調査などをして、行政指導をしてくれたりします。
しかし、労働基準監督署は、会社の違法な状態を是正することが目的であって、個人の紛争の解決は目的としていません。
また労働基準監督署には、労働者から相談を受けたからと言って、必ず、調査等の措置を取る義務はありません(東京労基局長事件判決(東京高裁判決昭和56年3月26日))。
そのため、相談してもアドバイスのみで終わることも多いです。
(3)労働問題に強い弁護士
雇い止めに関する相談を受けてくれる弁護士に依頼すれば、具体的に雇止めの無効・撤回に向けて動いてくれます。
第三者に代わりに動いてほしいと考えている場合には、労働問題に強い弁護士に相談しましょう。
【まとめ】雇い止めでお悩みの方は専門家へ
雇い止めとは有期雇用契約労働者に対して、労働契約の更新を認めないことです。
しかし、雇止めは使用者が自由にできるわけではなく、雇い止め法理による制限があります。
雇い止めをするといわれた場合は、すぐに専門家に相談しましょう。