「タイムカードをきちんとつけていても残業代が支払われない」
「タイムカードの記録と実際の労働時間が違う」
こういった場合に残業代は請求できるのでしょうか。
タイムカードがある場合には、タイムカードを証拠として残業代請求をすることができます。
一方、タイムカードの記録と実際の労働時間が違う場合やタイムカードがない場合では、残業代請求ができないのでは……と諦めてしまうかもしれませんが、諦める必要はありません。
タイムカードがない場合でも、タイムカード以外で実際の労働時間がわかる証拠があれば残業代を請求することができます。
タイムカードカードがある場合とない場合の残業代請求やタイムカード以外にどういった証拠があればよいのかについて知っておきましょう。
この記事では、次のことについて弁護士が詳しく解説します。
- タイムカードがある場合の残業代請求
- タイムカードが本来の労働時間と違う場合の残業代請求
- タイムカードがない場合の残業代請求
- 管理職の残業代請求
- みなし残業代がある場合の残業代請求
- 残業代請求の方法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
タイムカードどおりに残業代は請求できる?
まず、タイムカードの記録がある場合の残業代請求について説明します。
(1)タイムカードに記録されている時間=労働時間ではない
タイムカードは出勤直後・退勤直前に打刻するのが一般的です。
そうすると、
タイムカードに記載されている時間は労働時間ではなく、あくまでもあなたの会社にいた滞在時間(出勤直後から退勤直前までの時間)であると考えられます。
どういうことかというと、例えば、出勤してすぐコーヒーを淹れ、20分ほど休むという方をイメージしてみてください。
この方の場合、タイムカード上ではすでに出勤していても、実際に働き始めるのは、コーヒーを淹れ、20分ほど休んでからとなり、実際の労働時間とタイムカードの記録時間にずれが生じていることになります。
そもそも、 労働時間とは、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるもの」とされています。
つまり、 タイムカードの記録上では出勤していても、上司からの指示・監督を受けて業務をしている実態がなければ、「労働時間」にはあたりません(同僚との雑談や休憩時間は労働時間とはいえません)。
(2)タイムカードに記録されている時間は労働時間と推定される
タイムカードの記録されている時間=労働時間ではないというのは説明した通りです。
しかし、
会社はタイムカードの記録をもとに労働時間を管理しており、実際は、タイムカードの記録されている時間は「労働時間」であると推定されていることが多くあります。
裁判でも、タイムカードの記録が「労働時間」であると推定している裁判例が多く見られます。
<裁判例>タイムカードに記載されている時間は労働時間と推定されるとしたケース
【東京高等裁判所判決平成10年9月16日】
「タイムカードに記録された出社・退社時刻とは異なる時刻によって労働時間を計算することを予定する後記の直行・直帰届(願)の手続がされたなどの特段の事情がない限り、タイムカードに基づいて、控訴人が作成した個人別出勤表の始業時間欄記載の時刻から終業時間欄記載の時刻までの時間をもって実労働時間と推定するのが相当である。」
⇒基本的には、タイムカードの記録が実際の労働時間であると推定すべきであると判断しました。
なお、タイムカードの記録がただちに労働時間ではないとした裁判例もあります。
なお、残業代の計算方法について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
タイムカードと実際の労働時間が違う場合、残業代は請求できる?
次に、タイムカードの記録と実際の労働時間が違う場合の残業代請求について説明します。
(1)実際の残業を証明する証拠をもとに残業代請求が可能
タイムカードの記録と実際の労働時間が違う場合であっても、実際の残業を証明する証拠があれば残業代を請求することができます。
実際、タイムカードの記録している時間ではない労働時間で残業代を認めた裁判例もあります。
<裁判例>タイムカードに記載されている時間ではない時間で残業代を認めたケース
【東京地方裁判所判決平成24年12月27日】
タイムカードに嘘の時間を記録し、その後残業していたケースで、タイムカードの記録されている時間とは違う労働時間で残業代を請求した事案になります。
裁判では、次のように判断しました。
「原告の退勤時刻は、基本的にはタイムカード記録時刻により、それを超えて原告が労務を提供していたことを認めるに足りる客観的な証拠がある場合はそれにより認定することが相当である。」
⇒基本的にはタイムカードの記録によって労働時間を判断すべきとしつつも、タイムカードの記録が実際の労働時間と違うことが証拠からわかる場合には、タイムカードの記録とは違う時間でも残業代の請求が認められると判断しました。
タイムカードに記載されている時間ではない時間で残業代を請求する場合には、業務日報、Web打刻のスクリーンショット、タコグラフ(トラック運転手などの方)など残業時間の証拠となるものを集めておくとよいでしょう。
残業代請求で集めるべき証拠についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
(2)実際の残業を証明する証拠がない場合の対処法
十分な証拠を集められなかった場合には、会社に証拠の開示を請求する方法があります。
会社は労働者の名簿やタイムカードや勤怠ソフトのデータ、賃金台帳などの重要書類を3年間保管する義務がありますので、あなたの勤怠記録がないということはありません。
会社に対して、退職した方がタイムカードなどの資料の開示請求をしても、会社が応じてくれない場合には、裁判所に対し、証拠保全の申立てすることができます。
証拠保全とは、裁判官や執行官が、会社を訪問し、裁判官が証拠の提出を求める手続きです。
証拠保全の手続には、証拠を提出させる強制力はありませんが、証拠保全によって裁判官から証拠の提示を求められれば、証拠の提出に応じるという対応をする会社が一般的です。
退職後の残業代請求について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
タイムカードがない会社の場合、残業代は請求できる?
次に、タイムカードがない場合の残業代請求について説明します。
(1)タイムカードがないことは違法ではない
タイムカードがないことで直ちに違法ということにはなりません。
タイムカード以外の方法で労働時間の確認や記録がきちんとできていれば問題はないとされています。
厚生労働省によるガイドラインでは、次のように定められています。
「使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいず
引用:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
れかの方法によること。
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎
として確認し、適正に記録すること。」
(2)勤務の実態がわかる資料をもとに残業代請求が可能
タイムカードがない場合であっても勤務実態がわかる資料があれば残業代請求を行うことができます。
タイムカードが実際の労働時間が違う場合の残業代請求で紹介した証拠などを集めておくとよいでしょう。
管理職だと残業代は請求できない!?
管理職だと残業代が請求できないという話を聞いたことはないでしょうか。
実は、管理監督者(「監督若しくは管理の地位にある者」)に対しては、労働基準法が定める労働時間・休憩・休日に関する規制の適用が除外され、いわゆる残業代を請求することができないとされています(労働基準法41条2号)(※)。
※なお、深夜労働に対しては割増賃金を支払う義務があります。
「管理監督者」とは、行政解釈によれば、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」のことをいうとされています。
そして、それは、名称や肩書き、就業規則の定めのいかんにとらわれず、実態に即して客観的に判断されるべきであるとされます。
つまり、課長や部長等の肩書きが与えられていても、職務内容や勤務上の裁量などの点からみて管理監督者に相当する実態がない場合には、残業代を請求することができます。
管理監督者に当たるかどうかの判断基準は、裁判例などでは、次のようになっています。
- 経営者と一体といえるような職務権限を有しているか(職務権限)
- 厳密な時間管理を受けておらず、自己の勤務時間に対する自由裁量を有しているか(勤務態様)
- 管理監督者の地位にふさわしい待遇を受けているか(待遇)
実際、裁判例では、ファーストフード店の店長について、職務の内容や勤務上の裁量などの点からみて管理監督者には当たらないとして、残業代の請求を認めました。
参考:東京地方裁判所判決平成20年1月28日労判953号10頁(日本マクドナルド事件)│裁判所 – Courts in Japan
管理監督者の残業代請求についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
みなし残業代(固定残業代)があると、残業代は請求できない!?
みなし残業代(固定残業代)がある場合でも、固定残業代に相当する残業時間を超えた部分について残業代が発生します。
みなし残業代(固定残業代)とは、実際の残業時間に関わらず、予め一定時間残業をした分の割増賃金を支給するものであり、基本給などに組込んで支給する場合と、特定の手当として支給する場合があります。
みなし残業代制度が取られている会社でも、みなし残業代を超えた部分については残業代が発生しますので、残業代請求を諦める必要はありません。
残業代が支払われないケースや対処法についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
残業代請求の3つの方法
できる限りの証拠を準備したら、残業代請求をすることになります。
残業代請求をする場合には、次の3つの方法をとることになります。
- 会社に直接請求する
- 労働基準監督署に申告する
- 裁判手続をする
それぞれ説明します。
(1)会社に直接請求する
残業(時間外労働、休日労働、深夜労働)をしたという事実を証明する証拠を揃え、その証拠をもとにして請求できる残業代を計算した上で、まずは会社と直接交渉を行うことになります。
直接交渉する際には、未払い残業代を請求するという旨を記載した内容証明郵便を送るとよいでしょう。
内容証明郵便を送ったことで会社が話し合いの場を設けてくれた場合、そこで残業代の支払いを認めるよう求めていきます。
<補足> 内容証明郵便ってなに?
内容証明郵便とは、送付した文書について、「送付日時」「文書内容」「送付者」「文書の受け取り手」を日本郵便株式会社が証明してくれるサービスです。
内容証明郵便を送ることで、文書の内容や送付した事実を証明できるほか、裁判でも証拠とすることができます。
内容証明郵便による残業代請求の方法について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
(2)労働基準監督署に申告する
会社にプレッシャーを与える方法として、 労働基準監督署に給料の未払いを労働基準法違反として申告する方法もあります。
労働者からの申告を受けた後、労働基準監督官は使用者からの事情聴取をしたり、事業場へ立ち入り調査するなどして、労働者・会社双方の主張の整理・確認をします。
給料未払いの事実が確認されれば、是正や改善の指導などがされます。
ただし、労働基準監督署には、労働者から相談を受けたからと言って、必ずしも、調査等の措置を取る義務はありません(東京労基局長事件(東京高等裁判所判決昭和56年3月26日))。
労働基準監督署に申告に行く際、給料未払いの証拠を持参すると、労働基準書に動いてもらいやすくなりますので、申告の際は証拠を持参することをおすすめします。
参考:賃金不払いが発生したら、迷わず労働基準監督署に相談、申告してください!|厚生労働省
参考:相談機関のご紹介|厚生労働省
(3)裁判手続をする
交渉がうまくいかない、労働基準監督署も動いてくれいないというような場合には、裁判手続をすることになります。
給与未払いの場合に利用可能な裁判手続には、いろいろな種類があります。例えば次のような裁判手続きがあります。
- 支払督促
- 少額訴訟
- 労働審判
- 通常の訴訟
これらの手続きについてそれぞれ説明します。
(3-1)簡易裁判所に支払督促を申立てる
支払督促とは、金銭の支払などを求める場合に限り利用できる手続で、未払給料を請求するときにも利用できます。
書類審査のみで、裁判のように審理のために裁判所へ行く(出廷する)必要がない手続です。
また、手数料も通常の訴訟の半額です。
ただし、 相手(会社)が異議を申立てると通常の訴訟に移行します。
(3-2)給料の未払いが60万円以下なら少額訴訟をする
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる手続きです。
支払督促とは違い、審理のために出廷する必要があるものの、原則として1回の期日で終結し、その後、判決が直ちに出るなど、迅速な手続です。
ただし、 相手(会社)が少額訴訟の手続きを望まないと主張した場合(異議の申立てをした場合)には、通常の訴訟になります。
(3-3)労働審判を申立てる
労働審判手続は、労働者と事業主との間で起きた労働トラブルに対し、裁判官1名と労働関係の専門家2名(労使それぞれから1名ずつ)が間に入って、話合いによって調停を成立させたり、審判(判断を下すこと)をしたりする制度です。
この手続きは、 裁判所へ行く必要があるものの、原則として期日は3回以内で終了します(通常の訴訟よりは短い手続きになります)。
ただし、相手方が労働審判の手続による解決を望まないとして出廷しないときには手続が終了してしまうことがありますし、審判が下されたとしても、相手方からこれに対する異議が出されることがあります。このような場合、通常の裁判に移行します。
参考:労働審判手続|裁判所 – Courts in Japan
(3-4)通常の訴訟を起こす
通常の訴訟とは、みなさんがイメージする裁判のことをいいます。
通常の訴訟は、他の手続きに比べて、時間も手間もかかってしまいます。
複数回にわたり、裁判所へ行く必要がありますが、裁判所の終局的(最終的)な判断を得ることができます。
どの手続を取った方がよいかは、事例の複雑さや、相手方が争ってくるか、話合いの余地はあるかなどにより違ってきます。
未払い残業代を請求する方法について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
残業代請求は弁護士への相談・依頼がおすすめ!
未払い残業を会社に請求する場合、弁護士に依頼すると残業代を取り戻せる可能性が高くなり、早期解決が期待できます。
証拠集めのアドバイスを得ることができますし、複雑になりがちな未払い残業代の適切な計算や、会社との交渉を任せることができます。
また、個人で請求した場合、無視されたり、不誠実な対応をされたりすることも多くありますが、弁護士を通じて交渉をすることで会社の態度も変わってきます。
会社との交渉がうまくいかず裁判となった場合でも、弁護士に依頼しておけば最後までサポートを受けることができます。
また、残業代請求を弁護士に相談する前に不安や疑問を解消したい方はこちらの記事をご覧ください。
【まとめ】タイムカードのあり・なしに関わらず、他の証拠があれば残業代請求は可能!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- タイムカードの記録されている時間=労働時間ではないが、実際は、タイムカードの記録されている時間は「労働時間」であると推定されていることが多くある。
- タイムカードの記録と実際の労働時間が違う場合であっても、業務日報など実際の残業を証明する証拠があれば残業代を請求することができる。
- 十分な証拠を集められなかった場合には、会社に証拠の開示を請求する方法もある。
- タイムカードがないことは違法ではない。タイムカードがない場合も残業したことが分かる証拠があれば残業代を請求できる。
- 残業代請求の3つの方法
- 会社に直接請求する
- 労働基準監督署に申告する
- 裁判手続をする
残業代が本当に取り戻せるのか不安に感じられているかもしれません。
しかし、一人では会社に立ち向かうことは難しくても、弁護士が味方になることで、残業代を取り戻すことができる可能性を高めることができます。
弁護士が入ると大ごとになると思われているかもしれませんが、弁護士はプロですので、一人で残業代請求をするよりもかえってスムーズに進むこともあります。
会社にはあなたが働いた分の残業代をきちんと支払う義務があります。会社だけが得をしたままで終わらせるのはよくありません。一人で悩まれる前に弁護士への相談をおすすめします。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した経済的利益から頂戴しますので、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年8月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。