「ツイッター社が日本で行った大量解雇は違法では?」
ツイッター社は、2022年11月、日本法人で働く従業員も含めて、全社で従業員の約半数を解雇するという大量解雇を行いました。
外国の企業が、時に大規模な解雇を発表し、ニュースとなることがあります。法制度の違いにより、比較的自由に解雇をすることができる国もあります。
日本においても、外資系企業は、他の企業と比べて比較的解雇をためらわないという印象があるようです。特に外資系企業の日本法人で働く方にとっては、今回の解雇は他人事ではなく、「外資系企業であるツイッター社の大量解雇が違法とならないのか」気になることでしょう。
結論から言えば、ツイッター社が2022年11月に日本で行った大量解雇は、違法無効である可能性が十分にあります。
外資系企業であっても、日本国内で解雇をする場合には、基本的には日本の解雇規制のルールが適用され、自由に解雇できるわけではないからです。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 外資系企業に解雇された労働者は日本の法律で守られるか
- 整理解雇が違法無効となるかの4つの判断ポイント
- 外資系企業の解雇・退職勧奨への対処法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
外資系企業に解雇された労働者は日本の法律で守られる?
そもそも、ツイッター社のような外資系企業に解雇された日本の労働者は、日本の法律で守られるのでしょうか?
結論としては、日本で外資系企業に解雇された労働者も、日本の法律で守られる可能性は高いです。
アメリカ・カリフォルニア州に本社を置くツイッター社が日本国内で労働者を解雇した場合、そもそも日本の法律が適用されるのかが問題となります。
このように複数の国・地域にまたがった法律関係があるとき、どの国・地域の法律を適用するかについて定めた法律が「法の適用に関する通則法」(以下、単に「通則法」)です。
通則法によれば、「どの国・地域の法律を適用するかあらかじめ当事者が合意により選んでいたかどうか」でパターンが分かれます。ここからは、それぞれのパターンについてご説明します。
(1)どの国・地域の法律を適用するかあらかじめ選ばれていない場合
労働契約の際に、当事者によってどの国・地域の法律を適用するかが選ばれていない場合、労働契約に「最も密接な関係がある地の法」が適用されます(通則法8条1項)。
また、「労務を提供すべき地の法」(働いている場所の法律)が、最も密接な関係がある地の法と推定されます(通則法12条3項)。
このため、労働者が日本国内の事業所で働いていた今回のケースでは、当事者によってどの国・地域の法律を適用するかが選ばれていなければ、原則として働いている場所である日本の法律が適用されることとなります。
(2)どの国・地域の法律を適用するかあらかじめ選ばれている場合
労働契約の際に、当事者によってどの国・地域の法律を適用するかが選ばれている場合には、適用する法律は、当事者が選んだ地の法律となります(通則法7条)。
もし「日本の法律を適用する」と選ばれていた場合には、日本の法律が適用されます。
今回のケースで仮にツイッター社の本社所在地であるアメリカ・カルフォルニア州の法律が選ばれていた場合には、もう労働者は日本の法律で守られなくなってしまうのですか?
いいえ、そのような場合でも、解雇については日本の法律が適用されるケースはあります。
どの国・地域の法律を適用するかを決めることに関しては、労働契約の特例があります。
労働契約では、労働者がその労働契約に最も密接な関係がある地の法(原則、労務を提供すべき地の法)の中の「特定の強行規定」を適用すべきと意思表示した場合には、基本的にそのルールも適用されることとなっています(通則法12条1項)。
後でご説明する解雇規制のルールも、「特定の強行規定」に含まれます。
このため、解雇された労働者が「日本の法律を適用してほしい」と意思表示すれば、たとえアメリカ・カルフォルニア州の法律が選ばれていたとしても、原則、日本の解雇規制のルールも適用されます。
※労働契約に「最も密接な関係がある地」がアメリカ・カルフォルニア州など日本以外の国・地域であると認められてしまうと、日本の法律を適用することはできません。
(3)労働基準法などは常に日本の法律が適用される
ここまででご説明してきたのは「日本の労働契約上の解雇規制のルールが適用されるか」という問題でした。
この労働契約上の解雇規制のルールと異なり、最低賃金法、労働安全衛生法、労働基準法などの「絶対的強行法規」は、当事者の意思にかかわらず、日本の法律が適用されるものと考えられています。
例えば、最低賃金法で定められた金額以下の時給を、労働契約で定めることはできません。これは、労働基準法などは性質上日本で働く労働者を守るために強制的に適用するべきルールであり、当事者の意思によって左右されるべきではないからです。
整理解雇は違法無効となることも!4つの判断ポイント
外資系企業でも日本の法律が適用されるケースはあるのですね。
それでは、今回のケースでは解雇は違法となるのでしょうか?
今回のケースでは、解雇が違法となる可能性は十分にあります。
ここからは、日本の法律が適用されることを前提に、今回のケースに即してご説明します。
日本の法律では、経営者が全くの自由に解雇をすることはできません。
解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」とされます(労働契約法16条)。
ツイッター社は、今回、交代した経営者によって大量解雇がなされました。この大量解雇については、交代後の新経営者によれば、日々多額の赤字が出ていることが理由とされています。これは、いわゆる「整理解雇」にあたります。
「整理解雇」とは、主に会社の経営状態が悪化したことなど、経営上の都合により労働者を解雇することです。整理解雇も解雇の一種であるため、解雇規制のルールが適用されます。特に、整理解雇には、「これを満たしていなければ解雇が無効になる可能性がある」という4つのポイントがあります。整理解雇の違法性を判断する4つのポイントは、次のとおりです。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力を尽くしたこと
- 人員選択の合理性
- 手続きの相当性
ここからは、整理解雇の違法性を判断する4つのポイントについて、詳しくご説明します。
(1)ポイント1|人員削減の必要性
これは、「経営上の理由により人員削減する必要が本当にあるかどうか」ということです。
もし人員削減の必要性が低いのであれば、何も悪くない労働者を解雇する合理的な理由がないことになります。
人員削減の必要性は、会社の売上や利益の推移、従業員数の増減などさまざまな事情に照らして判断されます。会社が倒産寸前の状態であることまでは要求されず、基本的には会社の経営判断が尊重されます。
整理解雇を行う一方で大量の新規採用を行っていたり、高い株式配当が続いているなどの事情があれば、人員削減の必要性は認められづらくなります。
今回のツイッター社の大量解雇が違法となるかについても、「人員削減の必要性が認められるための事情がどれだけあるか」が問題とされます。
仮に人員削減の必要性が認められるための事情が少なく、必要性が否定される方向の事情が多いのであれば、整理解雇は違法となる可能性が高まります。
なお、報道によれば、ツイッター社の現金等の資産は約3200億円である一方、純損失(赤字)は2021年で約330億円であり、倒産寸前の状態であるとまではいえません。この観点だけから見れば、人員削減の必要性があったかは微妙なラインです。
(2)ポイント2|解雇回避努力を尽くしたこと
これは、会社ができるだけ解雇を避けるために「さまざまな手段を講じて努力を尽くしたかどうか」ということです。解雇を避けるために何の手段も講じないで、いきなり整理解雇に踏み切るのは、認められません。
解雇を避けるための手段には、次のようなものがあります。
- 新規採用をやめる
- 役員の報酬を減らす
- 賞与(ボーナス)を減らす
- 残業を減らす
- 非正規の従業員を雇止めにする(人員の数を減らす)
- 希望退職者を募集する
- 人員の配置転換を行う
これらの手段を全て取る必要はありません。しかし「会社の規模などに応じて取れる手段をできるだけ取っていたか」により、解雇回避努力を尽くしたといえるかが判断されます。
今回のツイッター社の整理解雇では、どのような解雇回避努力が尽くされているかはっきりしていません。仮に具体的な解雇回避努力が十分に尽くされていないまま整理解雇がなされていれば、整理解雇が違法となる可能性が高まります。
(3)ポイント3|人員選択の合理性
これは、整理解雇の対象となる労働者が誰になるかについて、客観的に合理性があり、かつ、公平な基準で選んだかどうかということです。
例えば、「経営者の好みに合わないから整理解雇の対象とする」ということは、不合理であり認められません。一般的には、次のような点を含めたさまざまな観点から判断されます。
- 勤務成績の良し悪し
- 勤続年数
- 解雇された場合のダメージの大きさ(扶養家族がいるかどうかやその数)
これらに対して、次のものなど、合理性を説明するのが難しい抽象的な基準によることはできません。
- 責任感
- 協調性
- やる気の有無
報道によれば、ツイッター社の今回の大量解雇では、日本法人でも幅広い部署で従業員が解雇対象となったとされ、特に広報部門は全員が対象となったとされています。
ツイッター社が整理解雇の対象となる人員の選び方について合理的な基準を設けておらず、単に「広報部門だから」「いまの広報部門は気に食わないから」などの理由で解雇したのであれば、整理解雇は違法となる可能性が高いです。
(4)ポイント4|手続きの相当性
これは、会社が整理解雇について「従業員としっかり協議したり説明を尽くしたりしたかどうか」ということです。このような協議・説明は、整理解雇の対象となる可能性がある従業員との間で行われなければなりません。
今回のツイッター社の大量解雇では、買収による経営者の交代完了後すぐに解雇の通告が始まっており、このような協議・説明が、整理解雇の対象となる従業員との間で具体的に行われていなかった可能性が高いです。
仮に協議・説明が十分に尽くされていなければ、整理解雇は違法無効となります。
外資系企業による突然の解雇への対処法
外資系企業から突然解雇されてしまったら、どのように対処すればよいのでしょうか。
「解雇に異議を述べない」など、解雇を前提とする書類に署名を求められても、「絶対に応じない」というのがなにより大事な点です。
そのうえで、弁護士に相談するとよいでしょう。
外資系企業から解雇されてしまったときの対処法には、次のものがあります。
- 自主退職を勧められても応じない
- 弁護士に相談・依頼する
- 解雇無効を主張し争う
これらについてご説明します。
外資系企業で「クビ(解雇)」などにあった場合の対処法について、詳しくはこちらをご覧ください。
(1)対処法1|自主退職には応じない
最も大切なのが、「解雇を前提とする書類に署名したり、自主退職を勧められても自主退職に応じないこと」です。
会社による解雇によって、労働者はその地位を失いますので、退職届は不要です。ただ解雇をきっかけに、退職届にサインするなどして自主退職ともみられる行動をしてしまうと、後からその解雇が違法無効であるとされても、結局自主退職しているとされてしまうためです。
勤務を続けたいということを申し出るようにしましょう。
もし会社から「勤務を続けてはいけない」と命令され、自宅待機になった場合には、会社の命令で勤務ができなかったという証拠を残すことが重要です。会社からのメールを取っておくなどしましょう。
今回の事態を受け、「できたら会社に残りたいけど、会社に残らずに転職をすることも選択肢のひとつとして考えている」場合には、自主退職してはいけませんか?
たとえ「会社に残らずに、転職することも選択肢のひとつとして考えている」ということであっても、自主退職はしないほうがいいです。
できたら会社に残りたいということは、会社で就労を続ける意思があるということであるため、解雇無効を主張し、その主張が認められた場合には、解雇時点以降の未払賃金も請求できる可能性があるからです。
解雇が無効であれば、解雇時点以降も会社の都合で就業できなかったとみなされ、「解雇時点以降の未払賃金を請求する権利」があります。
解雇時点以降の未払い賃金を受け取った上で、改めて会社を退職して転職するのがよいのか、慎重に検討した方が、労働者にとってメリットが大きいと言えます。
(2)対処法2|弁護士に相談・依頼する
解雇の通告を受けたら、できるだけすぐに弁護士に相談しましょう。弁護士に相談・依頼することには、次のようなメリットがあります。
- 整理解雇が違法無効なものでないか、判断してくれる
- 今後どのように行動すればよいか、アドバイスしてくれる
- あなたに代わって整理解雇の違法無効を主張し、復職や金銭的解決に向けた交渉を、会社との間で行ってくれる
- 必要に応じて労働審判や訴訟などの裁判手続きを行い、裁判手続きの中で、あなたの代理人として出廷したり、あなたをサポートしたりしてくれる
弁護士に相談・依頼し、解雇無効を主張し争う方針が固まれば、会社に対して解雇無効を主張し争うこととなります。
(3)対処法3|解雇無効を主張し争う
会社に対して、整理解雇が無効であることを主張し、復職を求めたり金銭的解決を求めたりします。
整理解雇が無効である場合、労働者は労働者としての地位にあり続けることになります。このことを前提に、復職を求めることもできますし、解雇時点以降の未払賃金請求だけをすることもできます。
解雇無効を主張し争う場合、会社との任意交渉だけでは解決しない場合も多いです。そのような場合には、労働審判や訴訟といった裁判手続きをとることになります。これらの裁判手続きは、ご自身だけで行うことは難しいため、弁護士に依頼して行うとよいでしょう。
労働審判について、詳しくはこちらをご覧ください。
【まとめ】日本の法律では違法の可能性が高い!すぐに弁護士に相談を
この記事のまとめは次のとおりです。
- 外資系企業に解雇された労働者も、日本の解雇規制のルールが適用され、日本の法律で守られる可能性が高い。
- 経営上の都合により労働者を解雇する「整理解雇」は、自由にできるわけではなく、「これを満たしていなければ解雇が無効になる可能性がある」というポイントがある。
- 今回のツイッター社の大量解雇は、整理解雇について十分な協議・説明がなされていなかった可能性が高いなどのことから、整理解雇が違法無効となる可能性が十分にある。
- 外資系企業から突然解雇されてしまったら、「解雇には絶対に応じない」ことや、そのうえで「弁護士に相談する」といった対処法をとるとよい。
今回ツイッター社が日本で行った大量解雇は、違法無効となる可能性が十分にあります。
外資系企業は、海外では比較的解雇の自由度が高いことを受けてか、日本の解雇規制のルールを守らずに経営者の都合で思い切った解雇に踏み切ることも多いです。
もしあなたが外資系企業に勤めており、「違法かも?」と思うような解雇にあってしまったら、絶対に解雇を受け入れずにすぐに弁護士に相談しましょう。