「解雇されてしまった。これって不当解雇じゃないの?」
「不当解雇」とは、解雇が本当は無効であるのに、解雇されることをいいます。
解雇には様々な制限があり、簡単には、正当な解雇とは認められません。
例えば、「気に食わないやつ」という理由で解雇すると不当解雇となります。
他方で、何回教えても、仕事のミスがなくならない、配置転換しても改善の兆しがないといった場合に普通解雇をすると、正当な解雇となる可能性があります。
この記事では、次のことについて弁護士が解説いたします。
- 不当解雇とは何か
- 正当な解雇との違い
- 不当解雇への対処法について
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
不当解雇とは
「不当解雇」とは、解雇が有効になる要件を備えていないのに、解雇されることをいいます。
解雇に社会的相当性と客観的な合理性がなければ、解雇が無効になることがあります(労働契約法第16条 解雇権の濫用)。
これに加えて、事例によっては、法令や裁判例によって解雇にはさまざまな制限が加えられています(強行法規による解雇禁止など)。
「解雇は簡単には正当とは認められない」という点がポイントです。
(1)不当解雇にあたる例
不当解雇にあたる例には、次のようなものがあります。
- 業務上のケガや病気のための療養期間およびその後の30日間における解雇
- 産前産後休暇の期間およびその後30日間における解雇
- 妊娠を理由とする解雇
- 嫌いだからという理由での解雇
- 国籍、性別、宗教、政治的信条、身分を理由にした解雇
- 労働組合に加入したことを理由とする解雇
- 労働者が労働局長にあっせんを申請したことを理由とする解雇
- パワハラ・セクハラの相談をしたことを理由とする解雇
これらについてご説明します。
(1-1)業務上のケガや病気のための療養期間およびその後の30日間
「労働者が、業務上のケガや病気の療養のために休業する期間」+「その後の30日間」は、原則として、解雇することができません(労働基準法19条1項)。
そのため、業務上のケガや病気のための療養期間およびその後の30日間の期間に解雇すると、原則として不当解雇となります。
(1-2)産前産後休暇の期間およびその後30日間の解雇
産前・産後休業期間及びその後30日間の解雇は原則として、禁止されています(労働基準法19条)。
そのため、産前・産後休業期間及びその後30日間の期間中に解雇すると、不当解雇となります。
(1-3)妊娠を理由とする解雇
次のことを理由とする解雇は禁止されています(男女雇用機会均等法6条4号、9条2項、3項、17条2項、18条2項)。
- 労働者の性別
- 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたこと
- 産前産後の休業の請求をしたこと
- 性差別禁止の規定をめぐる争いについて、労働者が労働局長に解決の援助を求めたこと
- 同争いにつき、労働者が調停を申請したこと
そのため、妊娠したことを理由に解雇すると、不当解雇となります。
(1-4)嫌いだからという理由での解雇
先ほどもご説明したとおり、解雇に社会的相当性と客観的な合理性がなければ、解雇が無効になることがあります(労働契約法第16条)。
通常、「嫌いだから」という理由では、解雇に社会的相当性と客観的な合理性がありません。
そのため、嫌いだからということを理由に解雇すると、原則として不当解雇となります。
(1-5)国籍、性別、宗教、政治的信条、身分を理由にした場合の解雇
国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇は禁止されています(労働基準法3条)。
そのため、外国人であることを理由に解雇すると、不当解雇となります。
(1-6)労働組合に加入したことを理由とする解雇
労働者が労働組合の組合員であること、正当な労働組合活動をしたことなどを理由とした解雇は禁止されています(労働組合法7条1号、4号)。
そのため、労働組合に加入したという理由で解雇すると、不当解雇となります。
(1-7)労働者が労働局長にあっせんを申請したことを理由とする解雇
労働者が労働局長に解決の援助を求めたこと、あっせんを申請したことを理由とする解雇を禁止しています(個別労働紛争解決促進法4条3項、5条2項)。
そのため、労働者が労働局長にあっせんを申請したことを理由として解雇すると、不当解雇となります。
(1-8)パワハラ・セクハラの相談をしたことを理由とする解雇の禁止
労働者がパワハラに関し、事業主に相談をしたこと等を理由とする解雇は禁止されています(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇⽤の安定及び職業生活の充実等に関する法律、いわゆる労働施策総合推進法30条の2第2項)。
セクハラに関しても、事業主に相談したこと等を理由とする解雇は禁止されています(男女雇用機会均等法11条2項)。
そのためパワハラ・セクハラを事業主に相談したからといって解雇すると、不当解雇となります。
(2)公益通報したことを理由とする解雇の禁止
労働者が一定の公益通報をしたことを理由とする解雇を禁止しています(公益通報者保護法3条)。
例えば、社内の労働基準法に違反する行為を、労働基準監督署に通報したからといって解雇することは不当解雇となります。
(3)短時間・有期雇用労働者が、待遇差の理由について説明を求めたことを理由とする解雇の禁止
次のことを理由として、解雇することは禁止されています(短時間・有期雇用労働者法14条3項、24条2項、25条2項)。
- 短期間・有期雇用労働者が、通常の労働者との間の待遇差の内容・理由等について説明を求めたこと
- 短期間・有期雇用労働者法に関する争いについて、労働局長に紛争解決の援助を求めたこと
- 同争いについて、調停を申請したこと
そのため、短期間・有期雇用労働者が、通常の労働者との間の待遇差の理由について説明を求めたことを理由として解雇すると、不当解雇となります。
(4)育児・介護休業を申し出たことを理由とする解雇の禁止
労働者が、次のことを申し出たり、利用したことを理由とする解雇は禁止されます(育児・介護休業法10条、16条、16条の4、16条の7、16条の10、18条の2、20条の2、23条の2)。
- 育児・介護休業
- 子の看護休業
- 時間外労働の制限
- 深夜業の制限
- 所定労働時間の短縮など
そのため、労働者が育児・介護休業を申し出たことを理由として解雇すると、不当解雇となります。
また、育児・介護休業法では、職場における育児休業等に関するハラスメントについて、労働者が相談を行ったことを理由とする解雇を禁止しております(育児・介護休業法25条2項)。
(5)障害者雇用促進法による解雇の制限
労働者が障害者であることを理由として解雇することは禁止されています(障害者雇用促進法35条、平成27年厚生労働省告示第116号)。
そのため、障害者であることを理由に解雇すると、不当解雇となります。
正当な解雇とは?
解雇には次の3つの種類があります。
- 普通解雇
- 懲戒解雇
- 整理解雇
これらは、それぞれ解雇が有効(正当な解雇)となる要件が違います。
解雇の種類ごとに正当な解雇となる場合についてご説明します。
(1)普通解雇
「普通解雇」とは、懲戒解雇(懲罰)、整理解雇(経営上の理由)以外の解雇のことをいいます。
例えば、次のような場合には普通解雇となることがあります。
- 労働者が健康上の問題を抱えている
- 能力が足りない
- 無断欠勤が多い
普通解雇は、解雇に客観的な合理性と社会的相当性があれば正当な解雇となる可能性があります。
[原則として正当な解雇となる例]
新卒、未経験者に対し、必要な指導や、適性を見るための配置転換を行った後も、勤務成績が著しく不良で、改善の見込みがない場合。
(2)懲戒解雇
「懲戒解雇」とは、規律違反等に対する罰としての解雇です。
例えば、業務上の地位を利用した犯罪行為や、長期間の無断欠勤などをした場合に懲戒解雇となる可能性があります。
懲戒解雇の場合は、次の条件を全て満たすと、正当な解雇と判断される傾向にあります。
- 懲戒解雇の事由・程度が就業規則に明記されていること
- 問題となった労働者の行為が、就業規則上の懲戒解雇の事由に該当すること
- 懲戒解雇が社会通念上相当であること
「社会通念上相当であること」というのはなんだか抽象的で分かりにくいかも。
どういう場合が社会通念上相当といえるの?
懲戒解雇が社会通念上相当であるというためには、少なくとも次の項目をいずれもクリアしている必要があります。
- 問題となった労働者の行為や勤務歴などに比べて、懲戒解雇という処分が重すぎないこと
- 同じ問題行為を取った過去の労働者に対する処分に比べて、公平性を害しないこと
- 就業規則などに定められた懲戒解雇の手続きをきちんと守っていること
- 懲戒解雇について、本人に弁明の機会を与えていること
[原則として正当な解雇となる例]
正当な理由もないのに、何度も重要な業務命令を拒否する場合(就業規則にその旨の根拠規定があるなど上記1~3を満たしていることが前提)
(3)整理解雇
「整理解雇」とは、企業の経営上の事情により、人員削減の必要が生じたため、解雇されることをいいます。
裁判例上、基本的には、次の4つの要素を総合的に考慮して、整理解雇が正当な解雇であるか判断されています。
- 人員削減の必要性
経営不振など、企業が経営する上で人員削減の必要性が高いことが求められます。
- 解雇回避努力
まずは、配転、出向、希望退職の募集など、可能な限り解雇以外の手段を試み、解雇を回避するための努力をしていることが必要です。
- 被解雇者選定の合理性
整理解雇の対象者が、客観的で合理的な基準により、公正に選ばれていることが必要です。
- 手続きの相当性
解雇の対象者や組合に、人選の基準や当否につき十分に説明し、協議していることが必要です。
不当解雇の疑いがある場合の対処法
私のされた解雇は不当解雇かもしれない!
こんな場合はどう対処したらいいんだろう……。
不当解雇の疑いがある場合には、適切な対処が必要です。
不当解雇の疑いがある場合には、これからご説明する対処を行ってみましょう。
不当解雇の疑いがある場合の対処法には、次のようなものがあります。
- 労働基準監督署に相談する
- 弁護士に相談する
(1)労働基準監督署に相談する
「労働基準監督署」とは、労働基準法などに違反した会社に対して改善のための指導を行う公的機関です。
不当解雇については、労働基準監督署が対応できる事例とできない事例があります。
例えば、解雇予告や解雇予告手当を労働基準法の定める通り支払うことを促すということであれば、原則として指導可能です。
※会社側が労働者を解雇しようとする場合、原則として、少なくとも30日前に解雇の予告をしなければならず、30日前の予告をしない場合、原則として、会社側は30日に不足する平均賃金を労働者に支払わなければいけません(労働基準法20条)。
これに対して、解雇理由の是非については労働基準監督署が介入することが難しいです。
(2)弁護士への相談で早期解決が期待できる
不当解雇の場合、法律のプロである弁護士に相談するとよいでしょう。
基本的には、不当解雇に当たるかどうかの見極めから訴訟になった時の代理までしてもらえます。
自分では会社側と交渉するのが難しい場合も弁護士に交渉してもらうことが可能です。
【まとめ】不当解雇とは解雇が無効なのに解雇されること
この記事のまとめは次のとおりです。
- 不当解雇とは、解雇が有効になる要件を備えていないのに、解雇されること。
- 解雇に社会的相動性と客観的な合理性がなければ、解雇が無効になることがある。
また、法令などによって解雇に制限が加えられていることがある。
例えば、業務上のケガや病気のための療養期間およびその後の30日間における解雇は、法令により禁止されている。 - 解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類があり、それぞれ正当な解雇となる場合が異なる。
- 不当解雇の疑いがある場合には、労働基準監督署に相談したり弁護士に相談するという対処法がある。
解雇をされると生活への打撃も大きく、とても困惑してしまうものです。
解雇をされた場合であっても、それが不当解雇として無効であることもあります。
解雇をされた場合でも、すぐに受け入れてしまわないようにしましょう。
解雇でお困りの方は、不当解雇かわからない場合でも、労働問題を取り扱う弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士が適切なアドバイスをしてくれるでしょう。