基本給がいくらかによって、残業代の金額などが変わってきます。
会社によっては、基本給の金額によって、ボーナスや退職金の額までもが変わってくる場合もあります。
また、基本給は、手取り額や最低賃金とも関係してきます。
基本給について、弁護士が解説いたします。
基本給とは?
基本給とは、給与の基本的な部分で、残業手当や通勤手当などの諸手当を除いたものです。
基本給の決め方は、会社によって異なりますが、一般的に、基本給は年齢や勤続年数、個人の能力などで決定されることが多いです。
基本給は月によって金額が変動しないという特徴があります。
※厚生労働省の「平成29年就労条件総合調査 結果の概況」によれば、基本給は次のように定義づけられています。
毎月の賃金の中で最も根本的な部分を占め、年齢、学歴、勤続年数、経験、能力、資格、地位、職務、業績など労働者本人の属性又は労働者の従事する職務に伴う要素によって算定される賃金で、原則として同じ賃金体系が適用される労働者に全員支給されるものをいう。
引用:平成29年就労条件総合調査 結果の概況:用語の説明|厚生労働省
なお、住宅手当、通勤手当など、労働者本人の属性又は職務に伴う要素によって算定されるとはいえない手当や、一部の労働者が一時的に従事する特殊な作業に対して支給される手当は基本給としない。
基本給を決める3つの方法
3つの基本給の決め方を説明いたします。
(1)仕事給式
「仕事給式」とは、仕事の内容や職務の遂行能力、成果などを踏まえて決める方法で、欧米でよく採用されています。
仕事ができる人が、たくさん給与をもらいやすい仕組です。
(2)属人給式
「属人給式」とは、学歴、年齢、勤続年数などをもとに基本給を決める方法で、「年功序列型」に代表されます。
毎年自動的に収入が上がるので、将来の生活プランを立てやすくなります。
会社に長くいればいるほど、給与をたくさんもらいやすい仕組みです。
(3)総合給式
「総合給式」とは、仕事給式と属人給式を組み合わせた方法です。
年齢や勤続年数をベースにして、そこに実力や実績を加えて最終的な金額を決める方法です。
多くの会社で採用されている基本給の決定方法で、バランスを取った仕組みです。
基本給と給与の関係は?
給与は基本給とさまざまな手当を合わせたものです。
給与は「基準内賃金」と「基準外賃金」で構成されています。
「基準内賃金」と「基準外賃金」について、説明いたします。
(1)基準内賃金とは?変動しない賃金のこと
基準内賃金とは、法律上決まった定義はありませんが、基本給、及び、月により変動がない手当とされることがあります。
例えば、スキルに応じて支払われる職能給や役職手当などが、これにあたります。
(2)基準外賃金とは?変動する賃金のこと
基準外賃金とは、基準内賃金と同様に法律上決まった定義はありませんが、毎月の就業内容によって変動する賃金とされることがあります。
例えば、時間外労働手当や休日出勤手当などが、これにあたります。
基本給と一緒に支給される手当にはどんなものがある?
基本給といっしょに支給される手当は、企業によって異なりますが、一般的な手当を解説いたします。
(1)家族手当や扶養手当
家族手当や扶養手当は、家族がいる社員に対して支給される手当です。
扶養人数が増えると、それに応じて家族手当や扶養手当が増えることが多いです。
(2)時間外手当や残業手当
時間外手当や残業手当とは、規定の就業時間(所定労働時間)を超えて働いたときに支給される手当のことです。
基本的には、長く働けば働くほど、時間外手当や残業手当が増えます。
(3)通勤手当
通勤手当とは、通勤のために公共交通機関を利用する際に支給される交通費のことです。
一般的に最も安いルートの交通費が支給される場合が多いです。
(4)役職手当
主任や管理職など、一定以上の役職についている人に支給される手当のことです。
役職が上がれば上がるほど、役職手当が増えることが多いです。
(5)資格手当
資格手当とは、免許や仕事に関わる高度なスキル、資格などを保有している社員に支給される手当です。
基本給と給与、手取り額の関係は?
基本給にさまざまな手当を加えたものが給与で、そこから保険料や税金を引かれたものが手取り額となります。
基本給+諸手当=給与
給与-保険料や税金=手取り額
給与から引かれる保険料や税金を解説いたします。
(1)健康保険料
病気やケガの際、医療費の自己負担額を軽減するために支払う保険料です。
毎年4~6月の「給与」の平均額や賞与をもとに健康保険料額が決まります。
健康保険料の算定の基礎となる「給与」には、基本給、家族手当などの諸手当や、労働の対価として給付される現金又は現物を含みます。
年4回以上の支給される賞与も、ここでいう「給与」に含まれます。
(2)厚生年金保険料
厚生年金保険料は、多くの会社員が加入している保険です。
健康保険料と同様に、毎年4~6月の「給与」の平均額や賞与をもとに厚生年金保険料額が決まります。
厚生年金に加入していると、例えば次の給付を貰うことができます。
- 「老齢年金」
65歳になったときに貰える年金 - 「障害年金」
病気やケガによって生活や仕事に支障がでる場合に貰える年金 - 「遺族年金」
厚生年金保険の被保険者または被保険者が死亡したときに、その方によって養ってもらっていた(生計を維持されていた)遺族が貰える年金
(3)介護保険料
介護保険料とは、40歳以上(40歳の誕生日の前日も含む)の方に、保険料の納付が義務付けられている保険です。
会社員の方は、健康保険料と一緒に給与から控除されます。
健康保険料と同様に、毎年4~6月の「給与」の平均額や賞与をもとに介護保険料額が決まります。
介護保険に加入していると、介護が必要になったときに、一定の介護サービスの利用の際、自己負担額が軽減されます。
参考:介護保険制度と介護保険料について|全国健康保険協会
参考:介護保険制度について(40歳になられた方へ)|厚生労働省
(4)所得税
所得税とは、所得の金額に応じて支払う税金です。
基本的には、所得の金額が高いほど所得税も高くなります。
所得税は、その年の所得に対して課税されます。
源泉徴収されている方(サラリーマンなど)は、基本的には年末調整にて、所得税の過不足が清算されます。
参考:所得税のしくみ|国税庁
(5)住民税
一般的に、都道府県民税と市町村民税(特別区民税)の2つを合計したものが、住民税と呼ばれています。
1月1日~12月31日までの1年間に生じた所得に応じて金額が決まります。
所得税とは異なり、住民税は前年の所得の金額に応じて課税されます。
そのため、前年の収入が高く、翌年の収入が低いと、「収入が低いのに住民税の負担が重い」という状態が生じることがありますので注意が必要です。
参考:住民税|文京区
(6)欠勤控除
会社によっては、欠勤や早退をした分の給与を引かれることがあります。
(7)その他の費用
その他にも、会社によっては、給料から控除されるお金があります。
(例)
- 社宅に居住しているときに支払う費用
- 社員が任意で行う社員旅行やイベントなどの積立金
- 財形貯蓄
基本給が低いと損をする理由は?3つ紹介
手取りが多くても、基本給自体が低い場合、色々と損をすることがあります。
基本給が低いと損する理由は以下の3つです。
(1)残業代が少なくなることも
残業代の計算は、1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率で算出できます。
残業代は、後述の「基礎賃金」をもとに計算されます。
基礎賃金には、基本給が含まれますが、諸手当は基礎賃金に含まれないことがあります。
そのため、基本給が低いと残業代も少なくなる可能性があるのです。
ここで、残業代の金額を左右する、基礎賃金について解説いたします。
基礎賃金とは
基礎礎賃金とは、所定労働時間に対する賃金から、以下の賃金を控除した金額になります。
- 個人の事情に基づき払われている賃金
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
【控除される賃金の例】(実態で決まります)
1.個人の事情に基づき払われている賃金 | ・家族手当 ・通勤手当 ・別居手当 ・子女教育手当 ・住宅手当 等 (家族数、通勤費、家賃等、個人の事情に応じて金額が変わるものは控除されます。 他方で、一律同じ額が支給される場合は控除されません。) |
2.臨時に支払われた賃金 | ・結婚手当 ・出産手当 等 |
3.1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金 | ・賞与 (※年度初めに年俸額を決定し、その一部として賞与を払う場合、賞与は控除されません。) |
このように、基礎賃金には、基本給が含まれることになりますが、その他の諸手当は控除されることがあるのです。
(2)ボーナスが少なくなることも
ボーナスの計算は、基本給を元にして行う会社も多いため、ボーナスが低く計算されてしまうことがあります。
例えば、ボーナスが年間3ヶ月分の会社の場合、基本給が15万円と20万円では、年間15万円の差が出ることになります。
(3)退職金が少なくなることも
基本給の金額に応じて退職金の金額が決まる会社の場合は、基本給が少ないと退職金が減ります。
会社によっては、退職金が役職や等級、ポイントで決まることもありますので、就業規則を確認しましょう。
基本給と最低賃金の関係は?月給制でも最低賃金が適用される
最低賃金とは、最低限支払わなくてはならない1時間あたりの労働賃金です。
雇用形態は関係ありませんので、パートやアルバイトなどの時給制の人だけではなく、月給制の人にも最低賃金が適用されます。
最低賃金を下回る契約をしても、その契約は無効となるので、労働者は最低賃金を基準とする賃金を請求することができます。
例えば、東京都の最低賃金(地域別最低賃金)は時給1013円、大阪は964円となっています。
正社員や契約社員の方なども基本給が最低賃金を上回っているかを確認することが大切です。
ここで、最低賃金の規制の対象となる「賃金」とは何か、解説いたします。
(1)基本給と一部の諸手当は最低賃金の対象
最低賃金の算定対象となる賃金は、「1ヶ月以内の期間ごとに支払われる、通常の労働時間や労働日の労働に対してして支払われる賃金」です。
基本給と一部の諸手当は最低賃金の対象に含まれます。
最低賃金の算定対象とならない賃金は、例えば次のものです。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当、出産手当など)
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(ボーナスなど)
- 時間外勤務の手当
- 休日出勤の手当
- 深夜労働(22~5時の労働)の手当の内、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
(2)基本給や一部の諸手当が最低賃金を下回っていないか確認してみよう
最低賃金を下回る賃金を定めた労働契約は無効です。
最低賃金の算定対象となる賃金(基本給+一部の諸手当)が、最低賃金を下回っていないか確認してみましょう。
具体的には、以下の方法で、確認します。
【最低賃金を下回らない場合】
賃金 | 最低賃金 | |
---|---|---|
時間給 | ≧ | 最低賃金 (1時間当たり) |
(原則) 日給÷所定労働時間(日) | ||
月給÷平均所定労働時間(月) | ||
(歩合給等の場合) 「出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額」÷「当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数」 | ||
(※日額が定められている特定最低賃金が適用される場合) 日給 | ≧ | 最低賃金 (1日当たり) |
※特定最低賃金とは、特定の産業や職業に設けられている最低賃金のことです。
【例】
最低賃金の対象となる賃金(基本+一部の諸手当)の合計が月16万円
1日の所定労働時間が8時間
年間所定労働日数が250日
月給制
この場合、
(16万円×12ヶ月)1年間の月給総額 ÷ (8時間×250日)1年間の所定労働時間 =960円となり、
東京の最低賃金(時給1013円)を下回っていることになります。
参考:最低賃金額以上かどうかを確認する方法|厚生労働省
参考:特定最低賃金について|厚生労働省
【まとめ】基本給についてお困りのことがあったら専門家に相談
以上をまとめますと、次の通りとなります。
- 基本給とは
基本給とは、給与の基本的な部分で、残業手当や通勤手当などの諸手当を除いたものです。
基本給が低いと、残業代の計算で損をすることがありますし、会社によっては、ボーナスや退職金の計算でも損をしてしまうことがあります。 - 基本給と手取り額との関係
基本給と他の手当などを合わせた給料(総支給額)から税金や保険料などを控除したものが手取り金額(実際に手にできる金額)となります。 - 基本給と最低賃金との関係
また、基本給と一部の諸手当は、最低賃金の算定の対象となっています。
最低賃金の算定対象となる賃金(基本給+一部の諸手当)が、最低賃金を下回る労働契約は無効です。
そのため、ご自身の賃金の内、最低賃金の算定対象となる賃金(基本給+一部の諸手当)が、最低賃金を下回っていないかを確認しましょう。
基本給に関し、疑問点がある場合は、専門家に相談しましょう。