不倫やDV、モラハラなど、配偶者の行為で精神的な苦痛を受けたとき、「慰謝料は請求できるのか?」と考える方も多いでしょう。
しかし、実際に慰謝料を請求できるかどうかは、単に精神的苦痛を被ったという事実だけでなく、法律で定められた厳格な条件を満たす必要があります。このコラムでは、慰謝料請求が認められるための法的要件から、不倫相手に請求する際の追加条件、請求が難しくなるケース、そして慰謝料の相場や効果的な証拠収集方法まで、慰謝料請求を検討するうえで不可欠な情報を弁護士がわかりやすく解説します。
慰謝料請求の基本条件:成立に必要な「要件」
不倫やDVなどで慰謝料を請求するには、民法上の不法行為にあたると認められることが不可欠です。不法行為による慰謝料請求が成立するには、以下の要件をすべて満たさなければなりません。
「権利侵害」と「故意・過失」とは何か
1つ目の要件は、加害者による不法行為で、依頼者の方の権利や法律上の利益が侵害されていることです。夫婦間においては、互いの貞操を守る義務や、平和な共同生活を送る権利がこれにあたります。これらを侵害する不倫、DV、モラハラ、悪意の遺棄などが慰謝料請求の対象となります。
2つ目の要件は、加害者に「故意」または「過失」があることです。「故意」とは、加害者が不法行為によって相手に精神的苦痛を与えることを認識していたことを指し、「過失」とは、注意を払えば不法行為であると認識できたにもかかわらず、怠っていたことを指します。特に不倫相手に慰謝料を請求する場合、相手が既婚者であると知っていたか(故意)、もしくは少し注意すれば知ることができたか(過失)が重要なポイントとなります。
請求権が消滅する「時効」の期限(3年・20年)
慰謝料請求には期限が設けられており、時効が成立すると請求できなくなります。時効には2つの種類があります。1つは、損害と加害者を知った時から3年間が経過した場合です(主観的時効)。たとえば、不倫の事実や不倫相手の身元を知った時から3年を過ぎると、原則として請求できなくなります。もう1つは、不法行為があった時から20年間が経過した場合です(客観的時効)。いずれかの時効が成立すると請求権が消滅するため、ただちに動くことが不可欠です。
請求が認められる配偶者の「有責行為」5つのタイプ
慰謝料請求は不倫に限らず、さまざまなケースで認められます。具体的にどのような行為が慰謝料請求の対象となるのか、代表的なものを解説します。
【不貞行為】法律上の不倫(肉体関係)の定義と必要性
不貞行為とは、配偶者以外の者と肉体関係、つまり性交渉を持つことを指します。手をつないでいただけ、キスをした、たびたび連絡を取り合っていたといった、肉体関係に至らない行為は原則として法律上の不貞行為にはあたりません。不貞行為による慰謝料請求が認められるには、性交渉があったことを客観的な証拠で証明する必要があります。
【DV・モラハラ】精神的苦痛による人格権の侵害
DV(ドメスティック・バイオレンス)やモラハラも、慰謝料請求が認められる不法行為です。DVは身体的な暴力を振るう行為で、傷害罪などの犯罪にもあたります。モラハラは、人格を否定するような発言、長期間の無視、過度な行動制限など、言葉や態度で精神的な苦痛を与える行為です。これらの行為は、配偶者の身体や尊厳を侵害するため、慰謝料請求の対象となります。
【悪意の遺棄】正当な理由なき同居・扶助義務の違反
「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく、夫婦が互いに負っている同居義務や扶助義務に違反する行為を指します。具体的には、理由もなく家を出て別居したり、経済的に余裕があるにもかかわらず生活費を渡さなかったりするケースが該当します。ただし、仕事による単身赴任や、病気で働けないといったやむを得ない事情がある場合は、悪意の遺棄にはあたりません。
【その他】正当な理由のない性交渉の拒否など
慰謝料請求が認められるその他のケースとして、正当な理由のない性交渉の継続的な拒否が挙げられます。ただし、相手からのDVやモラハラが原因で拒否している場合など、拒否に正当な理由がある場合は慰謝料請求が認められない可能性があります。また、ギャンブル依存症やアルコール依存症そのものだけでは慰謝料請求はできませんが、それが原因で生活費を渡さない、暴力を振るうといった行為があった場合は、悪意の遺棄やDVとして慰謝料請求が可能になる場合があります。
不倫相手への慰謝料請求で必須となる追加条件
不倫相手に慰謝料を請求する場合、不倫をした配偶者に対する請求とは別に、満たすべき重要な条件があります。
相手が「既婚者だと知っていたか」が鍵となる理由
不倫相手に慰謝料を請求するには、相手が配偶者が既婚者であることを知っていた(故意)、または知らなかったことに過失があったことが必須条件となります。もし、配偶者が独身であるとウソをついていたなど、不倫相手が既婚者だと知らず、かつそれを知らないことについて過失がない場合には、不法行為の要件を満たさないため、不倫相手に対する慰謝料請求は認められない可能性が高いです。
慰謝料請求が「難しい」と判断される3つのケース
慰謝料請求の法的要件を満たしているように見えても、以下の特定のケースにあてはまる場合、請求が認められないか、または大幅に減額されるリスクがあります。
- 不法行為時に夫婦関係が破綻していた場合
- 請求者側にも離婚原因があった場合(相殺の可能性)
- 事実を証明する証拠がない場合
請求実現のために必要な「証拠収集」の具体的な方法
慰謝料請求を実現するためには、不法行為の事実を証明する客観的な証拠が不可欠です。どのような証拠が有効になるか、具体的な例を挙げていきましょう。
不貞行為やDV・モラハラの証拠例
不貞行為の証拠としては、ラブホテルに出入りする写真、肉体関係を推認させる詳細なやり取りが含まれるメッセージ(LINEやメールなど)、探偵事務所の調査報告書などが有効です。
DVやモラハラの証拠としては、診断書、暴力を受けた際の日記やメモ、暴言を録音・録画したデータ、警察や配偶者暴力相談支援センターへの相談記録などが挙げられます。
これらの証拠収集は、時効が進行している間に行う必要があり、方法によっては違法となるおそれもあります。そのため、弁護士に相談し、適切な方法で証拠を集めることが重要です。
慰謝料の相場と金額を増減させる判断要素
慰謝料の金額は、不法行為の悪質性、婚姻期間の長さ、未成年の子どもの有無、加害者の経済力など、さまざまな要素を総合的に考慮して算定されます。一般的に、不倫やDV・モラハラによる慰謝料は数十万円から300万円程度が相場とされていますが、個別の事情によって金額は変動します。婚姻期間が長い場合、不法行為の期間が長期にのぼる場合、未成年の子どもがいる場合などは増額される傾向にあります。逆に、不法行為の時点で夫婦関係が冷え切っていた場合や、婚姻期間が短い場合は減額される傾向にあります。
まとめ
慰謝料請求が法的に認められるには、不倫やDVといった不法行為の存在、相手の故意・過失、そして時効が成立していないことという3つの要件を満たす必要があります。また、慰謝料額は婚姻期間や不法行為の悪質性などによって変動し、証拠の有無が請求の成否を大きく左右します。ご自身のケースが慰謝料請求の条件を満たしているか、またどのような証拠が必要かについては、専門的な判断が不可欠です。ご自身の権利を守り、適正な賠償を得るために、まずは私たち弁護士にご相談ください。



























