「始業時刻の15分前には出社して、掃除をしておくこと」 「制服に着替えて準備を整えてから、タイムカードを押すこと」
あなたの職場に、このような“暗黙のルール”はありませんか?
多くの職場で「社会人のマナー」や「慣習」として行われているこれらの行為。実は、法律上の「労働時間」とみなされ、会社側に賃金の支払い義務が発生している可能性があります。
「たかが1日10分や15分のことだから」と諦めてしまうのは早いかもしれません。
その時間は、積み重なれば年間で数十時間、金額にして数十万円もの未払い賃金に相当するケースもあるのです。
「労働時間」とは何か?就業規則よりも「実態」が優先される
まず、法律における「労働時間」の定義を確認しておきましょう。
労働基準法上の労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことを指します。
そして、「労働時間にあたるかどうかは、就業規則や契約書の記載ではなく、客観的な実態で決まる」とされています(三菱重工業長崎造船所事件 最高裁第一小法廷判決 平成12年3月9日)。
つまり、会社の就業規則に「着替え時間は労働時間に含めない」と書いてあったとしても、実態として会社から義務付けられ、指揮命令下に置かれていると判断されれば、その時間は労働時間として扱われるべきなのです。
「うちはそういう決まりだから」という会社側の説明が、必ずしも法的に正しいとは限りません。
では、具体的にどのようなケースが労働時間とみなされるのでしょうか。
【ケース1】制服・作業着への「着替え時間」は労働時間か?
工場、飲食店、病院、建設現場など、制服や作業着への着替えが必須の職場は多いでしょう。この「着替え時間」については、過去に最高裁で重要な判断が示されています。
【労働時間となる可能性が高いケース】
前述の最高裁判決では、以下の2つの条件を満たす場合、着替え時間は労働時間にあたると判断されました。
- 就業規則などで制服や作業着の着用が義務付けられていること。
- 更衣室など、会社内の所定の場所で着替えることが義務付けられている(事実上強制されている)こと。
この場合、着替えは「業務を行うための不可欠な準備行為」であり、会社の指揮命令下に置かれているとみなされます。
当然、着替え終わってからタイムカードを打刻させる運用は、法的に問題がある可能性が高いでしょう。同様に、業務終了後の着替え時間も労働時間に含まれます。
【労働時間とならないケース】
一方で、自宅から制服を着てくることが認められている場合や、着替えが単なる個人の都合(スーツから私服への着替えなど)で行われる場合は、指揮命令下にあるとは言えず、労働時間には含まれないと考えられます。
【ケース2】始業前の「掃除・朝礼」
着替え時間以外で多いのが、「始業開始の9:00より前に来て、掃除や朝礼に参加する」というケースです。
会社側が「強制ではなく自主参加だ」と主張することが多いため、トラブルになりやすいポイントです。
「黙示の指示」があったかどうかが分かれ目
会社から「掃除をしろ」と明確に命令されていれば、当然それは労働時間です。
しかし、明確な命令がなくても、以下のような事情があれば「黙示(もくじ)の指示」があったとして、労働時間と認められる可能性があります。
- 掃除や朝礼に参加しないと、遅刻扱いになったり、人事評価(査定)を下げられたりする。
- 「参加するのが当たり前」という職場の雰囲気があり、事実上、拒否することが困難である。
- 掃除当番表などが作成され、業務として管理されている。
つまり、形式的に「自主的」と言っていても、不参加による不利益が存在する場合は、実質的に強制(指揮命令下)とみなされるのです。
逆に、参加しなくても何の不利益もなく、完全に自由意思に任されている場合は、労働時間にはあたりません。
「たかが1日15分」ではない!積み重なると数十万円の差に
「法的に労働時間になることはわかったけれど、毎日数分のことで波風を立てるのも……」と躊躇する方もいるかもしれません。 しかし、この時間を甘く見てはいけません。
塵も積もれば山となる、の言葉通り、経済的なインパクトは意外に大きいのです。
【単純計算シミュレーション】
たとえば、以下のような条件で試算してみましょう。
- 月給: 25万円(所定労働時間1日8時間・月20日勤務と仮定)
- 基礎時給: 約1,560円
- 早出時間: 1日15分(着替え+掃除)
1日15分のタダ働きは、月20日勤務で「月5時間」になります。 これを1年間続けると、「年間60時間」です。
そして、「法定労働時間(1日8時間・週40時間)」を超えた後の残業は、割増賃金(1.25倍など)が適用されます。
よって、1年間の未払い賃金は、次のようになります。
- 1,560円×1.25×60時間=117,000円
未払い賃金(残業代)の請求権の消滅時効は、現在「3年」(当面の間)です。
もし3年間この状態が続いていたとすれば、約35万円相当の請求権が発生している可能性があります。
決して「たかが数分」と無視できる金額ではないことがお分かりいただけるでしょう。
会社へ適正な管理を求めるために必要な「証拠」
もしあなたが「自分の着替えや掃除の時間は労働時間のはずだ」と考え、会社に適正な管理や未払い分の支払いを求めたい場合、重要なのが「証拠」です。
会社が「着替え終わってから打刻」を指示している場合、タイムカードには実際の出社時刻(着替え開始時刻)が記録されていません。
そのため、以下のような客観的な記録を集めておくことが重要になります。
- オフィスの入退室記録(セキュリティログ): 入退室時刻などから、おおよその出社時間を推認できる場合があります。
- 業務日報やメールの送信履歴: 始業時刻前に業務を行っていた証拠になり得ます。
- 手書きのメモ・日記: 毎日、「何時に会社に到着し、何時から着替え・掃除を始めたか」を具体的に記録します。継続的な記録だと信用性が高いと認められることもあります。
- 就業規則やマニュアル: 制服着用や掃除のルールが記載されている箇所。
- シフト表や当番表: 掃除当番などが割り振られている証拠。
いきなり会社に対して好戦的に請求を行う必要はありません。
まずはこれらの記録をもとに、自分の働き方が法的に適正かどうか、冷静に見つめ直すことから始めましょう。
【まとめ】未払い残業代の請求は弁護士にご相談ください
「着替え」や「始業前の活動」が労働時間にあたるかどうかは、職種や勤務形態、会社の具体的な指示内容によって判断が分かれる繊細な問題です。すべてのケースで必ず労働時間と認められるわけではありません。
しかし、もしあなたが「毎日の早出を強制され、納得がいかない」「退職を機に、これまでのサービス残業を精算したい」とお考えであれば、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士に相談・依頼するメリットは、以下のとおりです。
- 個別の事情に基づいた法的判断: あなたのケースが労働時間に該当する可能性を判断できます。
- 正確な残業代の計算: 複雑な割増賃金の計算や、時効を考慮した請求額を算出できます。
- 会社との交渉代理: あなたに代わって弁護士が会社と交渉するため、精神的な負担が大幅に軽減されます。
法律は、働く人の正当な権利を守るために存在します。
「みんなやっているから」と諦めて泣き寝入りする前に、まずは無料相談などを活用して、ご自身の権利を確認してみませんか?
残業代請求でお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。
























