「裁判に勝ったのに、相手がお金を払ってくれない…」せっかく労力と時間をかけて判決を得ても、相手(債務者)の財産が見つからず、債権回収ができない状況に、もどかしさや不安を感じていた方は多いのではないでしょうか。
確かに、民事執行法改正前の仕組みでは、「絵に描いた餅」になってしまうケースも少なくありませんでした。
しかし、2020年4月に施行された民事執行法改正により、この状況は大きく改善されています。本コラムでは、この法改正の主なポイントを、債務者の財産開示手続の強化や、銀行・登記所からの情報取得の新設など、具体的な変更点を交えて分かりやすく解説します。
ここを押さえればOK!
具体的には、相手に自分の財産を公開させる「財産開示手続」の利用範囲が広がり、正当な理由なく裁判所に来なかったり、ウソをついたりした場合の罰則が懲役刑を含む刑事罰に強化されました。さらに、銀行や登記所などの公的機関から、相手の預貯金や不動産、さらには勤務先(養育費など特定の債務に限る)の情報を強制的に取得できる、新しい手続も導入されています。
その他にも、子の引き渡しや返還を求める際の法整備や暴力団員による競売の規制なども合わせて改正されています。ぜひ最後までご覧ください。
民事執行法改正の概要とは
「判決で勝ったのに、相手(債務者)がお金を払ってくれない…」。これまでの法律の仕組みでは、せっかく裁判で勝っても、相手(債務者)の財産が見つからず、お金を回収できない「絵に描いた餅」になってしまうことが多くありました。
このような、お金を貸した人等(債権者)が抱えていた悩みを解決するため、民事執行法は改正(2020年4月1日施行)されました。改正法では、債権者が相手(債務者)の財産を調べ、お金を回収する仕組みを強化し、債権回収がより確実に行えるようにすることを目指しています。
他にも、子どもの引き渡しに関する強制執行手続の整備や不動産競売における暴力団員の買受けを防止する規定の新設についても定められました。
債務者の財産を開示させる手続が強化されました
相手(債務者)に自分の財産を正直に公開させる「財産開示手続」をより実効性のあるものにするため、制度が大幅に見直されました。
(1)財産開示手続の申立権者の範囲の拡大
相手(債務者)に自分の財産を公開させる「財産開示手続」を申し立てられる人(申立権者)の範囲が広がりました。
民事執行法改正以前は、財産開示手続の申立権者は確定判決等を有する債権者に限られていました。例えば、執行証書(公正証書)で養育費などの支払いを取り決めている人は財産開示手続を利用することはできませんでした。
しかし、民事執行法が改正されたことにより、強制執行に必要な債務名義(確定判決、執行証書など、「あなたにお金を払う義務がある」ことを示す公的な文書)を有していれば、誰でも財産開示手続の申立てをすることができるようになりました。
(2)債務者の不出頭などに対する罰則の強化
相手(債務者)が正当な理由なく裁判所に出頭しない場合や、正当な理由なく陳述を拒否もしくはウソの陳述をした場合等の罰則が重くなりました。
民事執行法改正以前は30万円以下の過料が定められていましたが、改正後は「6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という懲役刑を含む刑事罰となりました。
罰則が強化されたことで、相手(債務者)に「財産を隠し通せない」という強いプレッシャーを与え、結果として債権回収の実現につながりやすくなることが期待されています。
債務者の財産に関する情報取得しやすくなる手続が新設されました
もし相手(債務者)がお金を隠したり、どこかに移したりした場合、お金を貸した側(債権者)が「どこに財産があるか」を特定するのは非常に難しいことでした。
しかし、民事執行法改正により、この状況は大きくかわりました。銀行や登記所等からも債務者の財産情報(預貯金、不動産、勤務先)を得られる新しい仕組みが導入されました。
「あなたにお金を払う義務がある」ことを示す「債務名義(確定判決、仮執行宣言付判決、執行証書等)」をお持ちの方であれば、裁判所に申し立てを行うことで、以下の情報を強制的に提供するよう命令してもらえるようになりました。
(1)預貯金などの情報: 銀行などの金融機関に対して命令が出されます。
(2)不動産の情報: 登記所に対して命令が出されます。
(3)勤務先の情報: 市町村などの役場に対して命令が出されます(※)。
ただし、相手(債務者)の不動産と勤務先に関する情報取得を求める場合は、先に相手(債務者)に財産を公開させる手続(財産開示手続)を実施しておく必要があります。
※勤務先に関する情報取得については、養育費の支払いや、生命や身体の侵害による損害賠償金の支払いを内容とする債務名義を持っている債権者に限定される点に注意が必要です。
国内の子の引き渡し・国際的なこの返還における強制執行手続の整備されました
離婚などが原因で、親権等を持つ親が、相手の親から子どもを取り戻す「子の引渡し」や、国際的な「子の返還」を求める強制執行のルールが整備されました。
(1)子どもの引き渡しや返還を求める2つの方法
- 間接強制: 裁判所が相手の親に対し、「子どもを引き渡すまで、1日あたり〇〇円を支払いなさい」といった金銭的なペナルティを課すことで、自発的な引渡しを促す方法
- 直接的な強制執行: 裁判所の命令を受けた執行官が、子どものいる場所に赴き、実際に引渡しや返還を実現する方法
(2)民事執行法改正で変わった2つのポイント
民事執行法の改正により、これらの手続に関して次の2点が大きく変わりました。
(2-1)直接的な強制執行が申立てられるようになりました
一定の条件を満たせば直接的な強制執行が申立てられるようになりました。
民事執行法改正以前は、直接的な強制執行を行う前に、まず「間接強制」を試みることが必要とされていました。しかし改正により、一定の条件を満たせば、間接強制の手続を経なくても、すぐに直接的な強制執行を申し立てることができるようになりました。
これにより、一刻を争う子どもの保護が、より迅速に行えることが期待されます。
(2-2)直接的な強制執行の際に相手の同席が不要になりました
民事執行法改正以前は、直接的な強制執行を行う際、相手の親(子どもの引渡し・返還をする人)がその場にいることが必要でした。しかし改正法では、相手の同席は不要とされました。これは、現場での無用なトラブルを避け、子どもへの心理的な影響を最小限に抑えるための配慮と考えられます。
ただし、その代わりに、子どもの引渡しや返還を求めている親(債権者)は、執行の場所に出頭することが原則とされました。
不動産競売における暴力団員の買受けを防止する規定の新設されました
以前の民事執行法に基づく不動産競売手続においては、暴力団員だからといって、不動産の購入を認めないとする規定はありませんでした。このため、一般の不動産取引で不動産を買うことができない暴力団ないし暴力団員が、不動産競売において購入した建物を暴力団事務所として利用する等の問題が生じていました。
民事執行法改正によって、不動産の買受けの申出をしようとする場合には、暴力団員でないこと又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者ではないことを陳述しなければならないこととされました。陳述できなければ、買受の申出をすることができません。
ただし、虚偽の陳述をした場合には、6ヶ月以下の懲または50万円以下の罰金という罰則があります。
【まとめ】
民事執行法改正の最大のポイントは、お金を貸した人など(債権者)が抱えていた「判決を得てもお金が回収できない」という悩みを解決するため、債務者の財産を調べる仕組みが大幅に強化された点にあります。
財産開示手続の罰則が強化されたことや、裁判所を通じて銀行・登記所・市町村から預貯金や不動産、勤務先の情報を取得できるようになったことは、債権回収の実現可能性を大きく高めてくれるでしょう。
また、子どもの引渡しに関する強制執行手続の整備や、不動産競売における暴力団員の買受けを防止する規定の新設も重要な変更点です。
皆さんの生活にも関わる大事な改正ですので、ぜひ知っておきましょう。













