「通勤途中に転倒してちょっとした怪我をしてしまった!でも、こんなちょっとした怪我だったら労災なんて下りないかな?」
実は、怪我の程度にかかわらず、たとえちょっとした怪我でも労災は使えます。ちょっとした怪我でも、労災保険を使って治療を受けることができ、治療費を自己負担する必要はありません。
この記事を読んでわかること
- 労災補償は全ての労働者が受けられること
- ちょっとした怪我でも労災の補償を受けられること
- どのような事故が労災になるのか
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
労災補償は全ての労働者が受けられる
「労災保険」とは、業務上労働者が怪我や病気をし、あるいは死亡した場合(業務災害)や、通勤途中の事故などの場合(通勤災害)に、国が事業主に代わって治療等の給付を行う公的な制度です。基本的に労働者を一人でも雇用する場合には労災保険が適用され、保険料は全額事業主が負担します。
正社員だけでなく、パートやアルバイトも含むすべての労働者が対象です。
労災保険について、詳しくはこちらをご覧ください。
労働災害が原因なら、ちょっとした怪我でも労災補償を受けられる
労災保険においては、「事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」が労災給付の対象となります。
ここでは、怪我が重いのか軽いのかは問われていません。
「事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷」ならば、怪我の程度を問うことなく、たとえちょっとした怪我であっても労災補償をうけることができます。
労働災害は、業務中に起きた「業務災害」と、通勤途中に起きた「通勤災害」に分けられます。それぞれについて説明します。
(1)業務災害
業務災害とは、分かりやすく言えば仕事をしている中で負った怪我などのことです。
「業務災害」とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。
労働時間内に業務上の行為や事業場の施設・設備などが原因で発生した怪我は、業務災害(業務上の怪我)と認められることとなります。
「業務上」とは、業務が原因となったということ(『業務起因性』があること)を意味します。例えば、会社の仕事で、機械を使っていて機械に指を挟まれてしまって怪我をした場合には、業務起因性が認められます。
また、業務災害に対する保険給付は労災保険が適用される事業に労働者として雇われて働いていることが原因となって発生した災害に対して行われるものですから、労働者が会社の支配下にあるなかで起きた災害でなければなりません。これを『業務遂行性』と言います。
(2)通勤災害
通勤災害とは、分かりやすく言えば通勤・退勤の途中に負った怪我などのことです。
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡を言います。
この場合の通勤災害(通勤上の怪我)と認められる「通勤」は、業務外で次のいずれかを「合理的な経路及び方法」で行なっている場合が該当します。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
(単身赴任先住居と帰省先住居との移動など)
移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とはなりません。
例えば、会社からの帰り道に映画館で映画を観たり、居酒屋で飲酒するなどの場合です。移動の経路を逸脱・中断した際に怪我をしたような場合には、通勤災害と認められなくなります。
ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き「通勤」となります。
例えば、会社からの帰りに、病院で診察を受けて帰宅する際に怪我をした場合には、通勤災害と認められることがあります。
状況別に解説!この怪我は労災として認められる?
次の2つの場合について、状況別に労災として認められるかをご説明します。
- 業務時間中・休憩時間中・出張中の怪我
- 通勤途中の怪我
(1)業務時間中・休憩時間中・出張中の怪我
- 業務中に先輩社員に殴られて負傷した
私的怨恨、挑発行為など業務外の要素がなければ業務上災害となるでしょう。「業務中」ということで会社の支配下にあるため業務遂行性は認められますし、先輩が後輩に対して業務上の注意・指導をするなかで殴打行為に及び、後輩が負傷したのでしたら、それは注意・指導という業務を原因として生じたものといえるため、業務起因性も認められるからです。 - 荷物の積み込み中に指をはさんで負傷した
業務中の負傷であり、業務遂行性、業務起因性があり、業務災害となると考えられます。 - 業務中にトイレに向かおうとして、階段から落ちた
トイレに行くことは、本来業務ではありませんが、飲水等とともに生理的な行為として業務に付随する行為であるとされ、業務遂行性が認められます。また、階段という会社の施設が関係しているので、業務起因性も認められることから、業務災害となると考えられます。 - 昼休み中に社内の給湯室で火傷した
休憩中であっても、会社施設内にいる限り、業務遂行性があると考えられ、災害の原因が給湯室という事業場施設に関係していることから、業務起因性も認められることから業務上災害になると考えられます。 - 出張先のホテルの浴室で転び、腰を打った
出張に通常伴う行為中の災害ですので、業務遂行性が認められ、業務起因性も認められることから業務災害になると考えられます。 - 休憩時間中に社外の喫煙場に向かおうとして、階段から落ちた
会社の管理下にはないと考えられ、業務遂行性が認められないため、業務災害にはならないと考えられます。なお、喫煙場が会社施設内にある場合には、業務遂行性、業務起因性が認められ、業務災害になる場合もあると考えられます。 - 昼休み中に社外にランチに出かけた際に怪我をした
会社施設から離れた私的行為のため、業務遂行性が認められず、業務災害にはならないと考えられます。
(2)通勤途中の怪我
- 出勤時にマンションのドアに指を挟んで負傷した
住居と通勤の境界は、マンションの場合、原則として自室の玄関ドアとなり、すでに通勤が開始された後の災害であるので、通勤災害になると考えられます。 - 早退して病院で診療を受けた帰路で怪我をした
病院での診察は、日常生活上必要な行為になり、診療後、合理的な通勤経路にもどったところから通勤が始まると考えられるので、通勤災害になる可能性があると考えられます。 - 自宅から単身赴任先へ向かう道中で怪我をした
単身赴任者の移動であって、通常の通勤に先行して行われるものである場合には、通勤災害になると考えられます。 - 帰宅途中に立ち寄った居酒屋のドアに指を挟んで負傷した
通勤の経路上にある居酒屋で飲酒をすることは、通勤の中断にあたるため、通勤災害にはならないと考えられます。 - 友人宅から会社に向かう途中で怪我をした
住居と就業の場所の往復に該当しないため、通勤災害には該当しないと考えられますが、業務上やむを得ない都合があったと認められる場合は、通勤災害が認定される可能性があります。
※実際のケースでは、個々の具体的状況によって判断が異なる可能性があります。
労災補償を受けるにあたっての注意点
労災補償を受けるにあたっては注意を要する点がいくつかあります。
そのうち、次の2つについてご説明します。
- 労災隠しは絶対にNG
- 労働災害の怪我の治療に健康保険証を使ってはいけないこと
(1)注意点1|労災隠しとは?
もし、あなたが労災の事故にあった場合、労災の事故にあったことを会社に報告することになります。
そして、普通であれば、会社は労災の手続きをしてくれるはずです。
しかし、なかには会社が報告しても何もしてくれないというケースもあります。
このように、労働災害が発生しているにもかかわらず会社が適切に労災の手続きを行わず労働災害を労働基準監督署に報告しないことを「労災隠し」といいます。
労災隠しの代表例としては、次の5つがあります。
- そもそも労災保険に加入していない
- 労災の事実を、労働基準監督署に報告をしなかった
- 労働者に労災の事実を口止めした
- 虚偽の内容を労働基準監督署に報告した
- 健康保険で治療するよう指示した
労災隠しについて詳しくは、こちらの記事もご確認ください。
会社が「労災隠し」をして、労災を使わせてくれません。どうすればいいでしょうか?
ご自身で労働基準監督署に相談し、労働基準監督署長に対して労災を申請するという方法があります。
(2)労働災害の怪我に健康保険証を使ってはいけない

労働災害で怪我をして病院に行くと、まず「健康保険証を出してください」と言われるかもしれません。
しかし、労働災害で怪我をして通院した場合、健康保険を使ってはいけません。
健康保険は、労災保険とは関係のない怪我や病気に対して支給される保険であり、労働災害の怪我に健康保険は使えません。
労働災害の怪我について、健康保険を使って治療を受けてしまった場合は、健康保険から労災保険への切替手続きが必要となります。
なお、労災保険指定医療機関では、原則として無償で治療を受けることができます。
労災の怪我の治療の場合には、「労災で治療してください」と病院の窓口にはっきり伝えるようにしましょう。
【まとめ】ちょっとした怪我でも労災補償を受けられる
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 全ての労働者(パートやアルバイトを含む)は労災保険に強制加入で、加入義務は会社等の雇用側にある
- 「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷」(労働災害)ならば、ちょっとした怪我でも、怪我の程度を問わず労災給付を受けられる
- 例えば、荷物の積み込み中に指を挟んで負傷した場合や、出勤時にマンションのドアに指を挟んで負傷した場合などが労災として認められる
- 会社が労災隠しをする場合は、労働基準監督署長に自分で労災申請することも可能
- 労災の怪我に健康保険を使ってはいけない
ちょっとした怪我だからといって、労災を使うのをためらってはいませんか?
ちょっとした怪我でも、労働災害は労働災害です。
労災保険の補償を使って治療を受けることなどができます。
もしも適切な労災補償を受けられずお困りの場合には、会社の所在地を管轄する労働基準監督署にご相談ください。
参考:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省
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