「不倫相手の奥さんに対して慰謝料を全額支払った。でも自分だけが全額負担するのは納得いかない。不倫相手にも負担してもらうことはできる?」
肉体関係を伴う不倫をした当事者は、いずれも、被害者(不倫をされた側の配偶者)に対して、基本的に、慰謝料の全額を支払う義務があります。
ただし、本来自分が負担すべき部分を超えて慰謝料の支払いをした場合、支払っていない方に対して、相手が本来負担すべき分の支払いを求めることが可能です。これを、「求償権を行使する」といいます。
この記事を読んで分かること
- 不倫の慰謝料請求
- 求償権とは
- 求償できる金額はいくらか
- 求償権行使の流れ
- 求償権行使についてよくある質問と回答

法政大学、及び学習院大学法科大学院卒。アディーレ法律事務所では、家事事件部にて、不貞の慰謝料請求、離婚、貞操権侵害その他の男女トラブルを一貫して担当。その後、慰謝料請求部門の統括者として広く男女問題に携わっており、日々ご依頼者様のお気持ちに寄り添えるよう心掛けている。第一東京弁護士会所属。
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不倫の慰謝料請求とは?
あなたが既婚者と不倫をした立場にある場合、相手の配偶者から慰謝料を請求される可能性があります。
二人だけで会ったりデートはしたりしましたが、肉体関係はありませんでした。それでも慰謝料を支払わなければなりませんか?
慰謝料の請求ができる不倫は、婚姻共同生活を侵害・破壊に導く可能性のある行為=不貞行為のことをいいます。
不貞行為には、配偶者が第三者と肉体関係を持つことや、手淫や口淫などの性行為類似行為も含まれます。
しかし、2人きりで会う、食事をする、手をつなぐという行為だけでは、基本的にこの不貞行為にはあたりませんので、慰謝料を支払うよう請求されても、原則として支払う義務はありません。
また、次のような場合には、不倫相手の配偶者は、あなたに対して不倫の慰謝料を請求することはできません。慰謝料を請求された場合には、驚いてすぐに「支払います」と言いたくなるかもしれません。しかし、自分が支払う義務があるのか、あるとして適切な額はいくらかを判断したうえで回答するようにしましょう。
- 不貞行為をした時点で、不倫相手夫婦の婚姻関係は破綻していた
- あなたは不倫相手が既婚者であることを知らなかったし、知らなかったことに落ち度もなかった
- 不倫相手の配偶者は、不倫相手からすでに慰謝料として十分な額を受け取った
不倫の慰謝料請求における求償権とは?
不倫の慰謝料について、被害者(不倫をされた側の配偶者)は不倫の当事者両方に対して、本来認められるべき慰謝料の全額を請求することが可能です(これを、法律の世界では『不真正連帯債務』といっています)。
そして、どちらかが慰謝料を全額を支払えば、被害者への損害賠償はなされたとして、もう一方が被害者に対して慰謝料を支払う義務はなくなります。
仮に、不倫当事者のどちらかが、不倫した当事者の配偶者=被害者に対して慰謝料の全額を支払ったとしましょう。
「もう不倫相手とは別れたし、関わりを持ちたくないから、自分が全額支払うのも仕方がない」と思う方もいます。
しかし一方で、「不倫相手も悪いのに、自分だけ払うのは納得がいかない。不倫相手に自分が負担した一部でも支払ってほしい」と思う方もいます。
その場合に問題となるのが「求償権」です。
ここでは、この求償権について詳しく解説していきます。
(1)求償権とは?
仮に、あなたが不倫したとして、慰謝料を請求してきた被害者に対して本来認められるべき慰謝料の全額を支払ったとしましょう。
あなたと不倫をした相手にも責任はあるし、被害者との関係では、自分と同様に、慰謝料の全額を支払う義務を負っていたはずです。
そうすると、他方の不倫相手に対して、「あなたも負担して」と言いたくなるでしょう。
それを可能とするのが求償権です。
例えば、本来認められるべき慰謝料額が120万円だったとします。
また、あなたと他方の不倫相手の負担割合(負担割合については、後ほど詳しく解説します)が、半分ずつだとしましょう。
この場合、あなたが120万円全額支払ったときには、求償権の行使をして、支払っていない方に対して60万円を請求することができます。

(2)求償権の放棄をする代わりに、被害者に払う慰謝料を減額してもらうよう交渉も可能
既婚者と不倫をして、相手の奥さんから慰謝料を請求されましたが「求償権は放棄して欲しい」と言われました。放棄するってどういうことですか?
あなたが奥さんに慰謝料を払った後、あなたから不倫していた相手(被害者から見て、その夫)に求償しないで欲しいということです。
求償権は、慰謝料を自分の負担割合を超えて支払った側が有する権利です。なので、その権利を行使することも、行使せずに放棄することも、権利を有する側が自由に決められます。
求償権を放棄すると、慰謝料を自分の負担部分を超えて支払っても、不倫相手に求償請求をすることはできなくなってしまいます。
そうすると、私にとって、放棄することは何かメリットがあるのでしょうか?
求償権を放棄することには、次のように大きなメリットがある場合があります!
【被害者が不倫した配偶者と離婚せずに婚姻継続を望む場合、慰謝料の減額交渉に応じてもらいやすくなる】
被害者が婚姻関係を継続する場合、配偶者の不倫相手から慰謝料全額を受け取ったとしても、不倫相手から配偶者に対して求償請求がされると、夫婦の家計全体に入るお金はその分減ってしまいます。
そこで、被害者が婚姻関係の継続を望む場合には、後から求償しない代わりに、(本来求償できる分を)最初から慰謝料から差し引いて支払うという形で、慰謝料の減額を交渉できる余地があるのです。
一方で被害者が離婚する場合は、配偶者が求償権の請求を受けようが、被害者の家計には関係ないということになりますので、求償権の放棄は慰謝料減額交渉のカードとして使えないことが多いです。
また今後、婚姻関係を修復するにあたって、不倫相手と配偶者の接触を完全になくしてしまいたいと願う被害者も多くいます。
そのため、離婚せず婚姻継続を望む被害者としては、求償権を放棄するなら、慰謝料を減額してもよいと考えることも多いのです。
求償をする側からしても、慰謝料を全額支払ったあとに支払っていない方に対して求償をするとなると、手間も時間もかかってしまいます。
また、他方の不倫相手が、きちんと求償した分のお金を払ってくれるとも限りません。
そうであれば、求償権を放棄する代わりに慰謝料を減額してもらって、争いを一気に解決した方が合理的であるといえるでしょう。

求償できる金額はいくら?|不倫当事者間の負担割合について
求償できる金額は、不倫当事者間の負担割合によって決まります。
負担割合というのは、不倫当事者間の関係において、負担しなければならない慰謝料の割合をいいます。
私の慰謝料の負担割合はどれくらいになるのでしょうか?
慰謝料の負担割合は、配偶者がいる不倫当事者:他方の不倫当事者で、6:4~7:3程度とされることが多いでしょう。
実務上は、配偶者がいる不倫当事者の負担割合が大きいと判断されることが多く、また積極的に不倫を主導していたのはどちらか、という点も考慮されます。
なお、負担割合は、不倫当事者間で決めることも可能です。
【負担割合についてのまとめ】


求償権行使の流れ
一般的な求償権行使の流れは、次のようにまずは交渉、次に裁判となります。
交渉:自分が適切だと考える負担割合について、相手に支払うよう請求する。
裁判:交渉が決裂した、どうしても条件が合わず合意できないなどの場合は、裁判を提起して
求償請求をすることを検討する。
(1)交渉で求償権を行使する
交渉では、主に、双方の負担割合がどのくらいとなるかという点が主な争点となるでしょう。
負担割合を判断する際には、すでにご説明したように主導性が重要な考慮要素となります。
そのため、相手の方が積極的に不貞行為を主導していたという事情があれば、こちらに有利な負担割合で交渉を進められる可能性が高くなります。
求償について合意がまとまったら、言った言わないのトラブルを防止するため、合意書などの書面を作成しておくようにしましょう。
また、交渉を弁護士に依頼するのもよいでしょう。
弁護士であれば、過去の裁判例なども踏まえた法的な見地から、説得的な主張を行うことが可能です。
(2)裁判で求償権を行使する
求償権の行使で裁判をするかどうかは、慎重に検討するようにしましょう。
なぜなら、あなたが支払った慰謝料の額によっては、裁判を起こして実際に回収できたとしても、弁護士費用など掛かった費用と同程度の額に過ぎなかったり、かかった費用を下回ったりする可能性があるからです。
裁判で決着をつけたいと考えている方は、自分で訴訟手続きを行うこともできますが、通常は弁護士に依頼することと思います。実際に裁判を行う前に、見通しや費用面について、弁護士に相談するとよいでしょう。
【まとめ】『求償権』を正しく理解し、公正な解決を実現しましょう!
本記事をまとめると次のようになります。
- 不倫当事者はいずれも、被害者に対して、基本的に、慰謝料の全額を支払う義務がある。
- 不倫の慰謝料請求における求償権とは、自分の負担部分を超えて慰謝料の支払いをした場合、支払っていない方に対して支払いを求めることができる権利のことをいう。
- 被害者が、離婚せずに婚姻関係継続を望む場合、不倫相手に求償権の放棄を求めてくることがある。不倫当事者としては、求償権を放棄する代わりに、慰謝料の減額に応じてもらうという交渉が可能なこともある。
- 求償権の行使をする際、どちらがどれだけ負担するかという負担割合を決める必要がある。この、負担割合を判断する際、主導的に不貞行為を行った方が負担割合が大きくなりやすい。また、配偶者のいる不倫当事者の方が、負担割合が大きく判断される傾向にある。
- 求償請求は、まずは、交渉から開始。交渉がうまくいかなかった場合には、裁判を提起することも検討。
不倫当事者ともに、被害者との関係では、基本的に慰謝料の全額を支払う義務を負います。
しかし、不倫当事者の間では、その責任割合の負担を求めることができます。
自分の負担部分を超えて慰謝料を支払った場合で、「全額支払うのには納得できない」という方は、支払っていない方に対してしっかりと求償請求をしましょう。
その際は、求償権の行使について取り扱っている弁護士に相談することも考慮にいれておきましょう。
なお、求償請求は求償内容を巡って激しい争いとなることも少なくありません。
あなたが不倫相手で、被害者が婚姻継続を望むならば、被害者との慰謝料交渉の際に、求償権を放棄する代わりに慰謝料の減額をしてもらって、争いを一気に解決する方法もあります。
求償請求の手間や時間を考慮して、求償権を放棄するという方法も選択肢の一つとして考慮しておきましょう。
